232話 天の川
コトッ
「ありがとう」
ホットミルク……クイックの作るやつにはハチミツが多めに入っているので甘い。
「こんな時にまで意地張ってバカみたいだよね」
エリーナには強く言って傷付けて、気を使ってくれたシャルにだってあの反応。フィーも泣かせちゃったし。これじゃあやってること小学生と変わらないや。
「逆に死が確定しているのに普段のノーチェと全く様子が変わらなかったらそっちの方が怖いよ」
ケルロスがホットミルクを飲みながら答えた。
「それも……そうかもね」
エリーナは諦めるなって言ってたけどこれは諦めるとか諦めないの次元じゃないからなぁ。
「……ノーチェ」
「もう仕方ないよ。だから全部話すことにする」
コップを握る手が少し震える。でも多分それが今俺ができる最善の手段だから。
翌日
「……」
いつもの会議室なら俺が来る前に集まった理由とか近況報告とかで盛り上がるのだが……今回は静かだ。まぁ殆どが俺の状態に気付いていたみたいだからな。セナやドルは呼ばなかったけど問題ないよな?
……
俺は深く息を吸って扉を開いた。
ガチャ
開けてしまった。もう後戻りはできない。感覚的にはそうだな……遅れて教室に入るみたいな? いやそんなものの比じゃないや。
みんなは俺を見たまま動かない。俺はそれを見てゆっくり自分の椅子の方へと歩き出した。
大丈夫、大丈夫。
何が大丈夫なのかわからないが自分の中でそう言い聞かせる。心臓を吐き出してしまいそうだ。足を前進させる度に体が逃げようとする。
「……」
何とか椅子までたどり着いた。もうこれだけでヘトヘトだよ。
そんなことを考えながら俺は静かに席に着いた。
「……さてと、まぁ今回集まってもらった理由なんだけど。そうだなぁ……どう説明すればいいか」
ただ死ぬって言えば動揺するだろうし。だからって長々と説明するのも面倒だ。……もう遠回りは飽きたよな。
「次の戦いで俺は間違いなく死ぬ、これは何があってもだ」
動揺がどうとか言ってたけどこれが手っ取り早い。
「まぁ負ければゼロに殺される。そして勝ってもゼロが作り出した体に俺の中のさくらを入れて滅ぼした後俺自身も死ななくちゃならない」
エリーナには呪いがとか色々話したけどそれを話すのは聞かれてからでいい。
「……どうにかならないのでしょうか」
……
「悪いなトロリアット」
「実は詳しい説明はケルロス達から聞いてたの」
エレナが話し出す。
「そうか」
通りでお通夜みたいだったわけだ。
「大将はそれで納得したのか」
イヴィルが絞り出すように聞いてきた。
「納得……はしてないよ。なんで俺なのか、こんなことに巻き込まれてふざけんなとも思ってる。でもやっぱりみんなには生きてて欲しいから」
それが俺の覚悟、それが俺の道……俺は俺自身を滅びに導く。だからその代わりみんなはこっちに来ないで欲しいんだ。
「何も出来ない……のね」
肩を震わせるエレナ。フィーやシャルも下を向いている。
「……ノーチェ殿にはたくさんの技術を教えてもらった。最高の環境を与えられた。この恩は返そうと思っても返しきれない。じゃからその恩はノーチェ殿の国とその友に返し続けよう」
ガンドが強い目で答える。後ろのドワーフ達は目に涙を浮かべながらも頼れる目で俺を見てくれていた。
「今の我々がいるのは主のおかげです」
「俺も全ての鬼を代表して感謝を」
「今まで仕えられて幸せだったよ……大将」
3人が膝を折り頭を下げる。
「……勝ち逃げですね。安心してくださいズルはしないですから」
サクは俺の手を強く握ってから椅子に戻っていった。
「星天守衛六将ソル・ノベリア……全ての者を代表して謝罪と今までの感謝を」
「ごめんお嬢」
「……」
「殿」
「何も出来なくて……うっ……ぐぅ」
「ノーチェ様」
「ありがとうみんな」
俺がみんなに感謝を告げているとテグが最初の5人を連れて部屋に入ってきた。
「途中で居なくなったと思っ……えぇ!?」
俺がテグの方を見ると自動人形たちは全員泣いていた。
「居なくならないで欲しいです」
いつもシャキッとした顔をしているテグが涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして抱きついてくる。
「え? え? ちょ! ガンド!」
「いや……こりゃ驚いた。自動人形が自我を持っている」
それは大問題なのでは!?
「私たちと一緒にいてください」
「私もまたお話したいよ」
「僕も……」
「いつまでもお仕えさせてください」
子供達が泣き叫ぶようにうわんうわんと声を上げている。俺は自動人形達をそっと抱きしめた。
「ごめんね」
「帰ってくるってお約束ください」
小さい手を一生懸命に使いながら俺を抱きしめるテグ……温かくて優しい手をそっと離して答える。
「国を頼んだよ」
いくら自我があるとはいえ自動人形、俺の一言が何を示しているのかは直ぐにわかったらしい。
「……かしこまり……ました」
涙も拭かずにテグは頭を下げる。後ろにいる4人もそっと頭を下げた。
「……」
「ペスラも大丈夫だよ」
「ごめんなさいノーチェ」
ペスラや他の従魔が頭を下げる。
「大丈夫だよ……だからそんなに謝らないで、むしろ感謝するよ……みんなのおかげで俺は大切なものを失わずにすむ」
それを聞いたペスラは顔を手で隠した。その隙間からは涙がこぼれていた。
心残りがないと言えば嘘になる。レオやリリュクの成長を見たかったしセナともっと戦ってみたかった。だけどそんなにも心残りがあったとしても今の俺はとっても満足してるんだ。今まで……ここまで生きていられたことを心から感謝するよ。
「ノーチェ」
ケルロスが心配そうに俺の顔を見る。……触らなくても頬の感触でわかる。俺は泣いている。
「ここまで着いてきてくれたありがとう。ここまで一緒に居てくれてありがとう」
……もういいじゃないか、格好なんて付けなくて。無様に泣いたって叫んだっていいじゃないか。最後の最後くらい後悔残したくないよ。
「あり……がと……ほんとにみんなと……会えて良かった。……だから、だから俺の分も……俺が居なくても! ずっと生きてて欲しいよ……」
ワガママ言ったって、無理言ったっていいじゃんか!
「みんなに……一つだけお願いが……あるんだ」
絶対……ずっと、ずっと……俺の事を
「忘れないでくれ」
俺っていう存在をみんなの中で……残してて欲しい。消えたくない。この世界でノーチェ・ミルキーウェイって生命が居たってことを……いつまでも。
「あぁ、忘れないよ」
ケルロスが優しく俺を抱きしめる。多分だけど……ケルロスも少し泣いていた。
「……ありがとう」
リーベさん、ハナさん、いるかどうかは知らないけど神様、俺はとても幸せでした。そしてあともう少しだけ生きることを許してください。俺の幸せを守る時間を、あとほんの少しでいいんです……ほんの少しだけわがままを通させてください。
「何があっても、みんなのことを守るから」
ケルロスの手を優しく握りみんなを見る。
「絶対、みんなのこと守ってみせるから!」
涙てぐしゃぐしゃになった顔でこんなこと言っても……いやもういいや。決めたんだもんね、俺は真っ直ぐに歩き続けるって。
「いよいよ明日だね」
真っ暗な夜、何故か月も見えない。暗い暗い夜。これが多分俺が見る最後の夜空だ。
「……思い出したんだ」
「え?」
ミルキーウェイの意味
「天の川」
たくさんの星が集まってできた銀河系。ノーチェは夜、ミルキーウェイは天の川……1人寂しい夜空にたくさんの光が集まった。これが俺の選んだ道か。
「星空が綺麗だよ」
「……そうだね」
「綺麗だ」
俺たちは星ひとつない真っ暗な空を見ながら言った。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ【星喰らい】
天月姫Lv10
所持アイテム星紅刀、楼墨扇子
《耐性》
痛覚耐性Lv6、物理攻撃耐性Lv10、精神異常無効Lv10、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv10
《スキル》
導く者、貪慾王、高慢王、支配者、知り尽くす者、信頼する者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、不達領域、完全反転、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv10、火流魔法Lv5、水泡魔法Lv10、水斬魔法Lv10、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、風新魔法Lv7、風斬魔法Lv3、土石魔法Lv10、土斬魔法Lv9、土流魔法Lv9、回復魔法Lv10、破滅魔法Lv4、幻影魔法Lv10、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《七獄》
強欲、嫉妬、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
信頼される者/信頼する者/導かれし者
ケルロス・ミルキーウェイ
星帝白狼Lv9
《耐性》
痛覚無効Lv6、物理攻撃無効Lv5、精神異常耐性Lv5、状態異常無効Lv4、魔法攻撃無効Lv9
《スキル》
悋気王、傍観者、知り尽くす者、信頼する者、混沌監獄、研究部屋、不達領域、完全反転
《魔法》
水泡魔法Lv5、水斬魔法Lv8、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv10、稲妻魔法Lv9、創造魔法Lv7、光魔法Lv10、神聖魔法Lv9
《七獄》
強欲、嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥帝土竜Lv9
《耐性》
物理攻撃無効Lv7、精神異常無効Lv4、状態異常耐性Lv6、魔法攻撃無効Lv6
《スキル》
貪る者、永久保存、欲望破綻
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv8、火流魔法Lv3、風新魔法Lv9、風斬魔法Lv10、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv10、闇魔法Lv7
《七獄》
暴食