229話 破滅の階段
あの後2人が帰ってきてご飯を食べた。やるべきことを終わらせたのでお布団に入って寝たのだが。
「変な時間に目が覚めちゃった」
時刻は2時……いつもは目が覚めてもめちゃくちゃ眠いのでそのままお布団で寝る体勢を取り続けるのだが今回は全く眠たくない……てなわけで椅子に座ってココアを飲んでいるけど。
「眠くならなそうだなぁ」
仕方ない……運動ってほどじゃないけど軽く散歩しよう。
コツコツコツコツ……コツコツコツコツ
「最初は藁で出来たような家が何軒か立っていただけなのによくここまで大きくなったよな」
街灯までついてさ……今じゃ特産品とか温泉とかで国も栄えてるし。
「よくやったよ俺は」
「あらノーチェって自分のこと褒めたりするのね」
バサバサと黒い羽を散らしながらエレナが降りてくる。さっきの話を聞いて居なければ真っ黒な闇を綺麗な月が照らす中真っ黒な羽が映えて最高に綺麗だったと素直に思えるんだけどな。
「お前テグに隠し撮りさせたんだって?」
「え? 一体なん――」
「とぼけないで言え〜」
エレナを脇に挟んで頭をグリグリする。体格差はあれど今の俺ならエレナくらいは抑え込める。
「いた! 痛い痛い! 知らないってぇ〜!」
「……ふ、ふふふ。はははは!」
「ど、どうしたのよ」
「いやなんでもないよ」
そう言って俺はエレナを解放した。
「全く……なんなのよ」
羽をパタパタさせながら頭を触るエレナ。この仕草は正直可愛いと思った。
「というかこんな時間に何してたの?」
やっとその質問か。
「眠れなくてね……でもエレナの顔見れたしもう寝るよ」
「ふーん」
何かを考えている様子のエレナ……しかし俺は面倒ごとに巻き込まれそうだなぁとか思い家がある方向に体を向けた。
「ねぇノーチェ」
「ん?」
遅かった。
「乗ってく?」
「……は?」
「いやだからほら、背に乗る?」
俺が高所恐怖症なの知らないの? いやでもあの顔は悪意なさげだしなぁ……それならなんで。
「嫌ならいいわよ、ノーチェが高いとこ苦手なのはわかってるし」
……
「じゃあ……乗せてもらおうかな」
それを聞いたエレナはめちゃくちゃ驚いた様子で俺のおでこを触ってきた。
「熱はねぇよ」
「……」
「その開いた口を閉じろ」
「あっ、いや……え? 誰?」
嘘だろこいつ。
「はぁ……やっぱいいや歩いて帰るよ」
「ちょ! ちょっと待って!」
ボブッ!
「……」
昔は胸が! 胸が! ってなってたけど今となると何も思わないしむしろ少しイラッとする。エレナだからかな?
「じゃ、じゃあ飛ぶから……さぁノーチェ」
何を興奮しているのか……まぁ変なことしないなら全然良いんだけどさ。
バサッ!
「……」
悪くない……下を見なければ。
「どう?」
どうって言われてもな。
「……気持ちいいよ風が」
そういうとエレナは嬉しそうにしながら前を向いた。
「重くないのか?」
「ノーチェはとっても軽いから……というかご飯食べてる?」
「2人が作ってくれたのをね、今日はカレーだったな」
異世界に来ても米が食えるのは本当に感謝しないと。
「羨ましい……私は自分で作るようだから大変なのよね」
そっかみんなは普段1人で。
「そういえばシャルってどこにいるんだ? 家は作ったと思うんだけど中々いるのを見ないんだよね」
「あ〜」
エレナはちょっと答えずらそうに話を続けた。
「シャルはエリーナの家にいると思う」
「あ〜なるほど……ていうか気は使わなくていいよあの家は俺が勝手に建てたんだから。それにあの年頃に家で1人は寂しいだろ?」
エリーナもフィーもいい子だからなあの3人が一緒に暮らしているところとか想像したらほのぼのした気分になるよ。
「住んでるで思い出したけど最近エーゼルがドワーフさん達の家で暮らしてるとか」
「狭いだろ」
「言ってた」
真っ暗な夜に俺たち2人の笑い声が響く。しばらく飛び続けたあとエレナは俺を部屋のベランダ部分に降ろしてくれた。
「楽しかったよ……ありがとう」
「こちらこそ、また呼んでね」
ウィンクをしたエレナは美しく大きな羽を広げて闇の中に溶けていった。
「色っぽいなぁほんと」
そこそこ眠くなっていた俺はそのまま布団に入り朝までぐっすり眠ることができた。
カンッ! カンッ! ジュー!!
「エレナの話を聞いて気になってきてみたけど……エーゼルの奴本当に物作りしてるよ」
今俺は商業地区の工場にいる。アゼルに話を聞いたところここで武器を作ってるって言ってたから来てみたが教えてるのはガンドか……なんだかいい組み合わせかも。
「こうでしょうか」
「違う! もっと鉄を叩く時は優しくだな」
プリオル連隊百鬼大隊隊長にあれだけ言えればガンドもすごいや、まぁ職人としてのプライドとかあるだろうし何より真面目に教わってるなら立場なんて関係ないよな。
「どうです? ノーチェ殿もやってみますか?」
「クルルか」
「はい、それで……どうします?」
「俺は力があんまりないからな……遠慮しとくよ」
「魔王が何を言っているのだか、それではこっちはどうでしょう」
ん?
俺はクルルに連れられて薄暗い地下室に向かった。
「ランタンとは随分前時代的だな」
「それは松明では? ランタンは結構最新式ですよ」
あっ……そうだった。
「面白いですね……あっもう着きます」
俺の目の前に現れたのは現代の軍隊でよく見るものだった。
……
「燃やそう」
「ちょ! それは困ります!!」
誰だこいつに戦車の設計図渡したやつ。
「え? いや……どうやって作ったのこれ」
「いえ車、というものを解析して戦闘用攻撃機を作った結果このような物が」
……忘れてたこの子達ヤバいやつだった。
「ちなみにこれは試作戦闘用攻撃車両1号です!」
……戦車だな。
「これをどうするつもり?」
「ノーチェ殿の許可が降りれば次の戦いに量産しようかと」
……
「いや、これはなしだ」
「……そうですか」
残念そうな顔……でもそれ以上に疑問を抱いているようにも見える。
「何か言いたいことがあるなら言うといい」
「いえ……ノーチェ殿なら味方の被害が減るこの車両を使うと思っていたので」
たしかに、これを使えばきっとこちら側の死傷者は減らすことが出来る。でもこれを使えばこの世界に破壊兵器を生み出すことになる。俺はこの世界に銃という兵器を渡してしまった。もうこれ以上俺の手で世界を汚す訳にはいかないんだ……あの血と狂気に溺れた大戦をこっちの世界で起こさせる訳にはいかない。
「……技術の進歩は素晴らしいことだ。人々の生活は良くなり国は安定して可能性が広がる。しかしそれと同じく人々は殺しをして国は戦いを望み考え方を狭める。ただ発展させるのではなく発展させた先に何があるかを見据えるのも開発者としての責務なんじゃないかな……俺はよくわかんないけどさ」
偉そうに……何を言っているんだ俺は。
「……そうですね」
カチッ
「それは」
「この兵器の設計図です。ですがもう不要になったので……この兵器も使われることがなくて幸せだったと思います。生物を殺す為の兵器はその作られた兵器が一番かわいそうですから」
……
「そうだな」
「本日はありがとうございました」
「いやいや、俺の方こそ案内助かったよ」
地上にあがりクルルに礼を言う。ガンドとエーゼルはまだやってるみたいなので集中力を切らせるのも悪いということでクルルによろしく言っておくよう頼んでおいた。
「……」
血と狂気に溺れた……か。これから何人も殺すつもりなのに何を考えているんだろうな。
「……」
戦いを終わらせる為に戦うなんて矛盾を孕んでいるけれど戦争なんてそんなもんだろ? 守りたいものがいるから守る、救いたいものがいるから救う……それをする為になら他人がどうなっても問題ない。その延長線上にあるのが戦争だ。……ゼロはハナを蘇らせたい、俺は仲間を守りたいこの思いにどれだけの差があると言うんだろうか。
俺は考える、いつまでも考える。それが唯一俺に許された道だから。