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転生先は蛇さんでした。  作者: 時雨並木
暗然編
229/261

228話 なにかの準備

「はぁ……片方の目が使えないってのは不便だな。あと腕も」


魔力で腕は作れる、眼帯で目は見える。でもそれはあくまで魔力に頼るもの。魔力がなくなり力だけで戦うことになったら腕も目も使えない。だからこそ俺はそれらがない今の状態で戦わなければならない。


「ッ! あぁ! くっそ……」


片腕だと刀に上手く力が入らないいつもなら切れる訓練用の標的が切りずらい。これじゃあダメだ……あいつらに勝てない。みんなのことを守れない。


「1人で特訓なんて釣れないなぁ〜」

「フィー」


訓練場を借りている以上プリオル連隊の誰かが来るとは思ってたけど総隊長自らとはね。


「……手伝うよ」


フィーが俺に向かって木刀を投げる。


「フィーは短剣?」

「しっかり木で作ってあるよ……それにノーチェ相手で違うスタイルでの戦闘はキツイからね」

「ははは」


よく言うよ。十分強いっての。


「……無理に戦わなくてもいいんじゃない?」


短剣を構えながらフィーが言った。


「ううん、戦わないとダメなんだ」


木刀を左手で強く握り答える。


「それは世界の為? 国の為? ……それとも私達の為?」


握っている短剣に力が入ったのを確認した。俺は構えた刀を1度下ろして空を仰いで口を開く。


「自分の為だよ」


世界を壊したくない、国を守りたい、仲間と一緒に居たい。全部俺のわがままだ。


「そっか……わかったよ。それじゃあノーチェの為に頑張るとしよう」


覚悟を決めた目で俺を見る。あぁそうか……もうみんなは俺が居なくても。


「……」

「ノーチェ?」

「なんでもないよ、じゃあよろしくねフィー」


今は考えるのをやめよう。だってもう俺の未来は決まってるんだから。



「はぁ〜」

「疲れた〜」


俺達は今訓練場の隅にあるベンチで座って休んでいた。


「強くなったねフィー」

「いやいやていうか片手と片目がない状態で一撃も与えられない私は自信をなくしそうだよ」


あはは〜と元気よく笑っているが自分の不甲斐なさに打ちのめされているのは見ていてわかる。だってフィーはこんな笑い方はしないから。


「……ねぇフィー」

「ん? なんだぁ〜」


ニッコニコの笑顔でこちらを勢いよく向くフィーこういうところ俺は本当に好きだ。


「フィデース信栄帝国の2代目はフィーにしようと思ってるんだよね」


どんな反応するかなケルロスとクイックじゃないことに驚くかな?

フィーの反応を楽しみにしながら視線を向けると……。


「なんで……そんなこと言うの」


いつ以来だろうフィーの泣き顔を見たのは。


「フィー」

「ノーチェはいつまでも私達のリーダーでしょ? ずっとずっと……リーダーでしょ!!」


タオルを叩きつけるように椅子に置き勢いよく立ち上がる強く握られた拳からは血が滲み出ていた。


「……もしもの話だよ。俺はまだ死ぬ気ないし。だから忘れて……ね?」


優しくフィーの頭を撫でながら氷で作った腕で涙を拭き取る。


「手を見せてごらん……ほら」


血が流れている手に優しく触れた時フィーが勢いよく抱きついてきた。


「居なくならないで……もう私をこれ以上1人にしないで。父様も母様も居ないのにノーチェまで居なくなったら私はもう……生きていけないよ」


フィーの発言を目を瞑って噛み締めるように聞く。そして耳元で呟いた。


「それでも生きないとダメなんだ。俺がもしいなくなってもフィーは生きていかなくちゃならない」

「でも」


ギュッ


「でもじゃない……フィーはフィーの道を進むんだ。それは父様でも母様でも俺ですらも関係ない。フィーが決めないといけないんだよ」

「……ノーチェは絶対に死なない、ううん死なせないから」


1度強く抱きしめられてからフィーは離れていった。


「特訓に付き合ってくれてありがとう! じゃあまたね!」


訓練場の奥へと走り去っていくフィーを見届けてから俺はもう一度刀を取り出した。


「さて頑張るか」


フィーの為にもね。



訓練場倉庫


「ノーチェの嘘つき」



「……」


いいんだろうかこんな時に温泉に入っていて。


「大将、最近無茶しすぎだろ」

「それで誘ってくれたんでしょ?」


腕を大きく開いて座っているイヴィルはよく銭湯にいる中年のおっさんのようだ。


「ノーチェ様は疲れてるの〜?」

「ん〜? そんなことないよ〜」


10歳なのに大人しく温泉に浸かってるとはなかなかにお利口さん。温泉から出たら牛乳を買ってあげよう。


「……なぁ大将、昔から大将はよく私達のことを助けてくれたけど大将は私達にそのチャンスをくれねぇのか?」


顔の上にかけたタオルを少しずらしたイヴィルが聞いてきた。


「それはどういうこと?」

「助けたくてもそいつが求めていないなら助けられない。だから大将も昔の私達みたいに助けを求めてくれないか?」


……ちょっとテレシアには難しい話だったかな。


「大将……答えてくれ」

「……何かあった時は頼らせてもらうよ」


一生懸命な作り笑いを見せたがイヴィルはすこし不服そうだった。


「……まぁいいさでも大将、私たちは何があっても味方だからな」



イヴィルの言葉を聞いて俺は温泉を後にした。……牛乳はテレシアとイヴィルの着替えの隣に置いておいた。



「ただいま」

「お帰りなさいませ」


扉を開けるとメイド姿の可愛い少女が立っていた。


「テグ……2人は?」

「まだ帰っておられません」


そっか2人ともまだ帰ってきてないのか。


「そう残念そうな顔をなさらず、直ぐに帰ってきますよ」

「えっ……あぁ顔に出てた? ごめんね」

「謝らず……さぁお風呂のご用意はできております」


普段ケルロスとクイックが帰っていない時俺はお風呂に入る……何故か、俺がキッチンに入らない為。めちゃくちゃ失礼だけど俺の飯食ったエレナやフィーがぶっ倒れたのを見てから俺もキッチンに立つのは辞めようと決めた。


「それではごゆるりと」


よくできたメイドさんや……いや機械だからミスとかないんだろうけど。


「あっ……俺温泉入ったじゃん」


馬鹿すぎ今日はとりあえず出よう。そう思い扉を開けようとした時だった。


ガラッ!


「ん?」

「お湯の温度を間違えたかもしれませんので私も入ります」


……ん〜。


「いや俺もう既に」

「もしもがございます。それでは了承も得たので失礼します」


いや得てないのだが。しかも話聞かないのだが!


「どうした? もしかしてどっか不調が」

「このままでは風邪を引いてしまうので早く行きましょう」


俺はテグに無理やり押されてシャワーの所まで連れてこられてしまった。

いやはやどうしたものか。


「それでは失礼――」

「ちょ! な、何!? 何する気!?」

「髪を洗って差し上げようかと」


首を傾げながら泡立った手を見せるテグ、いやそれ自体に疑問を抱いてるんじゃなくて。


「自分で洗えるよ」

「いえご主人様は今片腕がありません。ここは自動人形である私が」

「いやいや、こうやって魔法を使えば」


俺は水で作った腕をテグにみせた。


「これなら普段届かない所でも届く――」

「魔力を無駄に使ってはいけません。やはり私が洗います」


俺の反論より早くテグは頭を洗い出してしまった。


「……強引〜」

「なんとでも言ってください。私はご主人様の為にいる自動人形です。文句を言われようとご主人様に快適に過ごして頂けるのが使命なので」

「とか言って俺の裸見たいだけとか」

「……」


反応がない……いやいや、テグは自動人形だよ! そんなことある訳ないじゃん。


「そんなことは……ありません」

「今の間は!! 今の間は何!?」

「冗談です」


嘘だ冗談にしては手に力が入りすぎてる。


「……はぁ、まぁエレナら辺が頼んだんだろ」

「……そうです」


やっぱりな……今度あったらぶん殴ったろう。ついでにエレナの裸写真を国中にばらまこう。


「あまり酷いことをしないであげてくださいね」

「わかってるよ……ていうかテグも言うこと聞かなくていいんだよ?」

「……かしこまりました」


しかしまぁ……人に頭洗ってもらうなんて久しぶりだなぁていうか俺さっき温泉入ったしそんな汚いところないと思うのだが。


「汚い〜?」

「いえとても美しいです。それに私は今汚れを落としているのではなく髪をケアしているのです」

「なるほど」


女の体になってもう何年も経つが……本当に髪の手入れだけはわからん。シャンプーでわしゃわしゃ! ってやるだけじゃダメなのかな?


「ご主人様はただでさえ洗い方が雑ですから……これからは時々私が洗って差し上げます」

「いやそれは悪いよ」

「洗って差し上げます」

「……はい」


怖いよ……テグが怖いよ。


「……」

「……」

会話が無くなってしまった。洗っているテグはあれだろうけど洗われている俺の方は暇だ。いやこんなこと言ったら失礼だけどさ。


「ご主人様は自動人形をどう思いますか」

「え? ……うーん可愛い?」

「そうではなく……内面的な方です」


内面的? 性格ってこと? いやでも自動人形に感情は無いし性格だってプログラムされたものでしか。


「ご主人様」

「俺はみんなのことが大好きだよ。それは見た目だけじゃなくてその声、その挙動、その優しさ。全てがね」

「……」


テグは何も言わない。それからもずっと何も話さなかった。でもお風呂を出る時に深く頭を下げてありがとうございますとだけ言って自分の部屋に戻って行った。多分だけど……テグは。


「いや、それは知らなくてもいい話だよな」


機械は人を超える……かもしれない。だからきっと機械にだって人間の愛情は伝わると思うんだ。

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