226話 資格保有者の力
「会議は俺達が退出した後お開きになったんだけど……えっとぉ」
俺は2人に救いを求めるように目を合わせたがケルロスはニコニコとクイックはちょっと困った顔をして俺とは全く目を合わせてくれない。
「……ずっと待ってたのセナ?」
誰もいない会議室に取り残された魔王……いつもの元気ハツラツなセナは何処へやら。
「僕は……ノーチェの敵だ。なんで助けた……いやあの場面ならまだ分かる。僕が居れば僕の兵士達は手を出せないから。でもどうして! どうして逃げた先でも殺さない! 隊長達がいれば手負いの龍くらい倒せるだろ!」
セナが机を叩き声を荒らげる。普段聞いている声からは想像も出来ないくらい低い声で鳴いている。
「理由はないとダメかな」
「……は?」
「俺はあの場で利用されて死んでいくセナを見て助けたいと思ったから助けたんだ。それ以上もそれ以下もないよ」
ガタンッ!
「バカにしてんのか……弱肉強食は世の理、それが魔王なら尚更だ! 弱かったから僕もノーチェも負けたんだ!」
胸ぐらを掴んで居る手が震えてる。あぁ……強さが全ての世界で生きてきたから自分が助けられるっていうのがわからないのか。……いやそんなはずは無い。だってセナには自分の命を投げ打ってでも助けてくれた仲間がいたんだから。
「君の仲間はなんのために死んだ」
「なんのため……に?」
腕の力が抜けたところを狙い素早く、しかし優しく腕を掴む。
「お前を助けるために死んだ! あいつらは弱かったのか!? お前を助けるために散った命は弱肉強食だから仕方ないって言うのかお前は!」
「……」
「そうじゃないだろ……お前の仲間は弱肉強食なんてルールでクレアシオンに立ち向かったわけじゃないだろ……大切な者の為に死ぬとわかっていてあそこで留まったんだろ?」
震えるセナの腕に力が入る。
「……こと」
「え?」
「そんな……と」
よく聞こえないので顔を近づけようとした時セナが勢いよく腕を振り払い叫んだ。
「そんなことわかってるよ! だからこそ悔しいんだ! 僕が! 僕が弱いからみんなを助けられなかった! それがわかってるから……わかってるからこんなに! こんなに!!」
そこまで言うと大粒の涙を静かに零しながらセナは膝から崩れていった。
しかし俺はここで折れることは許さない。なぜならこいつは俺と同じ魔王だから。何度も泣いて膝を折って壊れてきた俺だからこそ言える。ここで止まるなと。
「立て! 立って戦え! それが死んでいった仲間に対しての礼儀だろ! 魔王とかそんなのは関係ない! 仲間のことを思うなら生き延びて耐え抜いて……最後に笑って全てを倒していこうぜ」
セナの前に手を差し出す。セナは顔を拭いて俺の手を取り言った。
「お前は強いよノーチェ……」
「いや俺は弱い。ここまで来るのに後ろの2人に何度も怒られたからな」
「はは、ははは」
「ふ、ふははははは!」
2人の笑い声が会議室に響き渡る。多分もう……セナは大丈夫だ。
温泉・宴会場
「それで……これはどういうことかしら」
温泉から上がったばかりのエレナがまだ少し濡れている髪を乾かしながら質問した。
「さぁね、でもケルロスとクイックが呼んだみたいだし間違いではないんでしょ」
エリーナがジュースを飲みながら答えた。
「ねぇ……なんで真ん中」
「そりゃノーチェは真ん中だよ」
「うん」
嫌だなぁ……こういうの慣れてないんだよな。
「なんの集まりだ〜」
フィーが俺の膝に頭を預けながら聞いてきた。
「そろそろ話すか」
それ聞いた全体がいっせいに静かになる。こういうところ本当にすごいなとか思いつつ話を続けた。
「今回の戦いではみんな疲れたと思うので英気を養ってもらおうとしているのが1つ、そして重要な説明があったのでそれを話すのにみんなを集めたのが1つって感じ」
「それで重要な説明ってのは?」
イヴィルがなれない正座をしてくれている。早めに切り上げてあげないと。
「ゼロの目的をセナから聞いた。まぁあいつの事だから嘘とかの可能性もあるけど一応な……あいつの目的はこの世にハナという存在を蘇らせること。それに俺の体が必要だったらしい。まぁセナの話だと死体じゃなくても体の一部があれば良いみたいだから今ゼロはハナ復活を行っている最中だと考えられる」
「ん? それはまずいのでは」
座らずに扉近くで話を聞いていたテグが質問した。
「大丈夫それも話すから」
そういうとテグは頭を下げて
「失礼しました」
と綺麗な声で言った。
「ハナの復活になんで俺の死体が必要なのかとかハナが誰なのかとか気になることは色々あると思うけどそこは個人で聞きに来てくれ。今重要なのはハナを復活させるのに使う時間だ」
「時間?」
「そう」
サクを指さしてから話に戻る。
「ハナ復活に使う時間はだいたい240時間……10日だ。それまで俺達には結構な猶予がある」
「なるほど……それまで敵は攻めてこないって考えた訳ね」
エレナにしては結構トゲのある言い方だ。しかしその考えにはしっかりとした根拠がある。
「ありえないと思うかもしれないが今のゼロたちは俺たちに手を出せない」
「これは俺もさくらの記憶を見て驚いたんだけど資格、つまり俺の導く者とかリーベさんの愛す者には能力と別にもう1つできることがあったんだ」
みんなが不思議そうに俺の事を見つめる。
「それはこの資格が持つ特権のようなもので裁く者は資格を持っている者に対してそれが本当に相応しいかどうかを調べる力がある。まぁ要するにこいつは資格もってて良いかわからないので殺しますってのもできるわけだ。調べてないじゃんって思うかもしれないけど俺も調べてなくね? って思ったからそこは聞かないでくれ」
宴会場に少しだけ笑いが生まれる。
「そしてこの特権には使うと制約が課せられる。裁く者に課せられたのは特権を使用したあと裁く者の力を一時的に失う。期間的には10日程……ハナ復活の時間と同じだ。これを狙ってやったのかたまたまなのかは知らないがあいつはそのせいで俺達に戦いを挑むことは出来ない」
俺が言い切るとエーゼルが手を挙げた。
「どうした」
「いえ……魔王の資格の話は理解出来たのですが制約で力が使えなくても戦わない理由にはならないのではないかと思いまして」
周りのみんなもエーゼルの質問に頷いている様子だ。
「あ〜まぁこれは全てを愛していたさくららしい設計なんだけどね、この資格保有者は本来戦えないように設定されてるんだよ」
「と言うと?」
「さくらの記憶で見た話だと資格保有者同士が戦ってどちらかを殺すと勝った奴の力や権限を全て無くすらしいんだよ。魔力もスキルも何もかも」
それはやりすぎじゃない? と俺も思ったけど。
「でもそれだと資格を持つものから裏切り者が出た時困っちゃう……ということで裁く者にだけ資格保有者と戦える権利を渡した訳だ。……いや正確には裁く者が戦うと決定した瞬間全ての資格保有者の戦闘が可能になるって感じだな。まぁそれは最悪な奴の手に行ったわけだけど」
……笑って欲しかったんだけど、いやうん続けよう。
「話を戻してゼロやレリア、ハレンが自分の力を全て失ってでも俺たちのことを倒そうとしているなら別だけどそれは多分ないからあと10日は俺たちに手は出してこないだろうってこと。まぁクレアシオンは関係ないけどあいつも1人で魔王に喧嘩売ろうとはしないでしょ」
リーベさんの決闘が魔王会議で行われたりしたのはその力のせいだ。そしてハレンと戦っていた時ゼロが来たのもそれを止めるため……あの時なんだかんだ言ってゼロは俺の事を殺すつもりはなかったってことだろうか? いやまぁそれはいい。とにかくこの話で重要なのは10日の間余裕が出来ているってことだ。
「……でもそれってゼロがもう一度戦おうとしなければ私たちはリベンジも出来ないってことだよね」
エリーナがジュースを置いて聞く。
「そうなんだけどそこはさくらの記憶を見たからわかることがあってねゼロは間違いなく俺達と戦うよ」
みんなが不思議そうな顔をする中ペスラたち従魔は少し悲しそうな顔をしていた。
「ゼロはハナを復活させるために俺の死体が必要だと言った。それに間違いは無いでもそれはあればいいってだけで全てが必要なわけじゃない。まぁあいつが意地でも俺の腕を切り落としたのは体の一部は必要だったからだろうな」
「えっとそれじゃあ戦いには来ないんじゃ」
「いや……あいつはさくらという存在を生かしておくはずがない。俺という存在を認めたくないはずなんだ」
あいつが俺を生かしていたのはハナ復活に必要だったから……ハナ復活に要らなくなった俺はあいつにとってただ憎い存在でしかない。
「とまぁ色々難しい話はしたけど端的に言えば10日間余裕あるので今日はゆっくりしよってことだよ」
少しだけ下を向いてコップを手に取る。
「みんな今回はよく戦ってくれた……まだ全てが終わったわけではないけど今だけはしっかりと休んでくれ。それじゃあ乾杯」
「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」