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転生先は蛇さんでした。  作者: 時雨並木
暗然編
225/261

224話 天闇戦争・敗北

「……部隊の状況は」


俺達は今輸送機で国に戻っていた。みんなの顔は言うまでもなく……。


「27万」


最初にいたのが63万だから……そうか36万も。


「ノーチェ……その腕は?」


クイックが不安そうに尋ねる。そして俺は腕を軽く触り答えた。


「治らない……多分ただの魔法じゃない。何かしてた、あとは左目も見えなくなってる。これは刀の代償かな」


作り笑いをしようとしたがもうそんな気力も残っていなかった。


「……」


この時の輸送機内の空気はもう一生味わいたくないと思わせるほど最悪なものだった。



フィデース信栄帝国

会議室


今この場には一緒に戦ってくれた各国の王と隊長、そしてセナがいる。だが集まって数十分誰も何も発言しなかった。……しかし話さなければ始まらない。俺はそう思い口を開いた。


「ここにみんなが集まったことを嬉しく思うよ。そしてこの地に戻って来れなかった兵士には力になってくれたことへの感謝を捧げたい」


……だんまり、いや仕方ないさ。


「そして死んでいった者の為にも」


そこまで言いかけるとゼロに言われた言葉が記憶に蘇った。



「お前だけ死ねば良かったと」



死んだ者の為?



「そうすれば大切な仲間は誰1人死ななかったというのに」



この戦いは誰の為に戦ってるんだ。

この戦いを始めることになって最初からずっと……ずっと心の底で気になっていたことがあった。この戦争は一体なんのために起きているのか。そう……この戦争は全て、全て俺中心に動いている。今までは国が襲われて報復をする、仲間を助けるって大義があった。でも今回の戦いはどうだ? みんなが俺の為に命を散らしている。勝ったところで俺の命に安定が訪れるだけでみんなにメリットはない。……俺1人であいつらの相手をすればこれ以上怪我人も死者も出ないんじゃないのか?


「……いや今日はみんな疲れただろう。話は後日にしよう。各国の王達はどうしようか国に戻りたければテグたちに運ばせるよ」

「銀月帝国は遠いので戻るのはいいです」

「私は1度補給するため妖精圏に戻ります」

「俺も軍隊を再構成してきますので」


他の国の王たちがそれぞれの考えで部屋を出ていった後エレナが口を開いた。


「私達はどうするの?」

「どう……しようか」


今回の戦いでフィデース信栄帝国は15万の兵士が9万まで減少した。まぁ戦えないこともないけど初めての負け戦で気分は最悪だ。


「とりあえず傀儡大隊の数を増やして黒森人大隊も新規の兵士を募集すれば――」


クイックが紙を取り出して話していたが俺は持っていたペンを握りそれを止めさせた。


「ノーチェ?」

「……クイックアイツらの狙いは?」


この一言で全てを察したのかクイックは俺の事を見て直ぐに俯いた。

エレナ、エリーナと目を合わそうとしたが2人とも直ぐに顔を逸らしてしまう。そこで俺は……ケルロスの方を見た。ケルロスだけは真っ直ぐ俺を見て答えてくれた。


「ノーチェだ」

「……ありがとう」


ケルロスに優しく微笑みかけてから椅子にかけていたコートを手に取る。そしてそのまま扉を開こうとした時目の前で扉がバラバラに吹き飛んだ。


「……ノーチェ、今お前がしようとしているのは今までの経験でわかる。でもそれを俺達が許すと思うか?」


ケルロスにお前って言われたよ……初めてかな。


「何言ってるのさ俺は部屋で寝るだけだよ」


壊れた扉の先を見て答える。


「じゃあその刀は要らないな……後扇子と銃も置いてけ」


カチャ


腰にかけた刀を握りその場に立ち尽くす。しばらくそこで時間を浪費しているとケルロスが俺の前に立った。


「退いてよケルロス」


乱れた髪の間から怒っていて悲しんでもいるケルロスの顔がしっかりと確認できた。でも……でもねケルロス、俺は俺の為に仲間に死んでくれなんて言えないよ。


「……そんな、今にも死にそうな顔で戦いに行くのか? それとも死ぬ気か?」


違うと否定しようとするが声が出ない。疲れてるとかそういうのじゃない。自分でも答えが出ていないからだ。俺は……俺は今からゼロと戦いに行くのかゼロに殺されに行くのかわかっていないから直ぐに返事ができないんだ。


「……」

「ノーチ――」

「無理だよケルロス……俺はみんなの為にならなんでも出来るけど自分の為には動けないんだ。それに負けちゃったけど自分のために戦ったんだよ。……もう十分じゃないか。多分昔の俺ならみんなに相談することなく1人で立ち向かってた。だけど今の俺は自分を助けてもらうために色んな人に頼ることが出来た。……それで十分だろ?」


自分でもわかるくらい死にそうな声でケルロスに訴える。でもそうだよね……俺はもうみんなに頼ることができた。俺は少しだけ……少しだけ自分のことが好きになれたよ。


「だか――」


ケルロス……なんで泣いて。


「俺は……ノーチェに死んで欲しくない。ずっと一緒に居て欲しいしそんなことも言って欲しくない。昔から自分のことを呪い続けて来たノーチェだからこそこれからたくさん生きて欲しい」


なんで……なんで。


「俺がいたら……みんなが」

「確かにいっぱい死んだ、でもそれでもルルもアルもドルもまだ諦めてない。俺達だって諦めてない」


ケルロスが俺の手を掴み顔を近付ける。


「だから! だからノーチェ! 俺達の手を握り返してくれ! ただ死にたくないって当たり前の感情に身を任せて……俺達に助けを求めてくれよ!」


俺は……俺は。


「……っう、ぐっ……は、はぁ……あぁ。死に……たくないよ。みんなど……みんなとまだ……いっじょにいだい」


やっと好きになれたんだよこんなくだらない自分のこと。やっと前を向けたんだよ。こんなところでまだ……死にたくないよ!


「任せろ。絶対助けてやる」


ケルロスが俺の頭を優しく撫でる。その優しさに俺は体を預けた。

気持ちが溢れる。やっと……やっと自分を認められたよ。



涙も引いて席につき軍隊の話をしようとした時ペスラが勢いよく立ち上がった。


「……ごめんなさいミルちゃん、ううんノーチェ」


一瞬周りが攻撃態勢に入ったがペスラの震える声と机に落ちた水滴を見ると大人しく席に着いた。


「ペスさんは……いえ私は今の生活に満足してたの。だからノーチェに話さないといけないことを黙り続けてカーティオの異変に気付かない振りをした。それが今の世界を壊さない方法だと思ったから。でもそれは違った。仮初の世界に……くだらない快楽に浸かっていたのは私だった! だからもう逃げない……ノーチェが逃げなかったみたいにもう逃げない!」


ペスラはそう言って涙を拭き取り座っているみんな。見てから俺の事を真っ直ぐに見つめた。


「見せたい場所があるの……そして私の信頼がないのはわかってる。ここにいる全員が着いてきても私は文句を言わない。だからお願い……私に着いてきて」


ペスラのあんな顔は初めて見た。そして俺が仲間の提案を断ると思ったのか?


「もちろん行かせてもらうよ」

「……ありがとう」



「ここに?」

「えぇ」


今俺たちはゼーレスクダンジョンの最深部の更に置くへ歩いている。後ろにはケルロスとクイック、トロリアットがいるけどトロリアットですらこんなところは知らないようだ。


「この先に……全てがある」

「全て」

「……私はここでお待ちしています。4人で言ってきてください」


トロリアットは空気を察したのか入口手前の岩で立ち止まり今まで来た道を眺めている。


「ノーチェ、ここにあるのは全て……貴女の全てがここにある。それと同時にこれは今までで1番辛くて悲しい思いをさせることになるかもしれない。それを」

「ペスラ……大丈夫。もう俺は折れないよ」


後ろにいる2人の顔をチラリと確認する。もちろんふたりは優しく笑ってくれている。そう……いつも迷った俺を、逃げたくなった俺を見捨てないでくれる優しい2人。俺はこの2人のために、そしてこの2人と一緒にいたいっていう自分のワガママのために生きてくって決めたんだ。


「行こうペスラ」


もう覚悟はできた。……今まで待たせてごめんね。これからはしっかり真っ直ぐ前を向いて歩いて行けるから。だから……だからもう君ともしっかり話すよさくら。

胸にその名を刻み俺達は桃色の光へと向かっていった。

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