217話 理解不能
「準備は?」
「完璧だよ」
俺たちは獣王国の王が選ばれるタイミング……全ての参加者が集まる場所を高くから見下ろせるところで待機していた。
「あとはベリアルがどこまでやるか」
「映像もタイミングは完璧だし」
クイックが奥にある壁を見て言った。
「もしこれでダメだったらどうする?」
ケルロスが隣に座って尋ねてきた。
「……ダメな時は仕方ないだろ? 諦めるだけだよ」
そうなって欲しくはないけどね。
そんなことを考えていると国中をトランペットの音が響き渡った。
「始まるな」
候補者は2人……てか席は3つしかないけど残りのひとつはフィーなんだろうな。
「あれがダラスだね」
「じゃあその後ろが」
うーん似てる……シュクラのお姉ちゃんかな?
「まぁ特段問題は起こらないかな」
「だといいね」
2人が席につき観衆は静まり返った。なにか偉そうな奴が紙を取りだしこれまた偉そうに文を読み上げているけど正直だるいのでさっさと終わらせてもらいたい。
「こういうのって本当に苦手」
「眠くなるよね」
「同感」
話は終わったらしく紙を懐にしまい込み男が奥に引っ込む、すると奥から女性が現れて小さな紙を胸から引き抜いた。
「……」
なんだろうこの敗北感と苛立ちは。まぁいいやこっから式はめちゃくちゃになる訳だし。
「正当な投票の結果! 次の獣王はダラス・ビードッ――」
「待ったぁ!!」
うっはぁぁぁぁ……正面からかよ! ああいうの恥ずかしくて俺はできないってぇ……。
観衆が声のする方に目を向ける。それはダラスとドレスが座っていた椅子の少し上にある獣王用の椅子がある場所だった。
「その声はベリアルか」
ダラスが落ち着いた様子で呟いた。というか観衆の方はベリアルを見て敵意を剥き出しにしている、それに衛兵も動き出してるな。
「獣王を殺したのは俺じゃない!」
その一言で空気が静まり返る、しかしその空気は衛兵たちの声によって破られた。
「降りろベリアル! 貴様これ以上兄に恥をかかせるつもりか!」
それを聞いたダラスの口角が少し上がった。
「恥? 安心しろ……そんなものこれからたくさん味わうさ」
ベリアルはそう言いながらダラスのことを指さした。
「父上を殺したのはお前だ……ダラス」
衛兵も動きを止めて観衆もダラスを見る。しかし当の本人であるダラスは肩を揺らして笑い始めた。
「はははは! 一体何を言うかと思えば父上を殺したのがこの俺だと!? はぁ〜バカにされたものだな」
ダラスの余裕の表情と様子に観衆は騙されてベリアルを罵倒し始めた。しかしその声は壁に映された映像によって消えることになる。
「これを父上に」
「かしこまりました……それにしてもダラス様、このようなことをしなくても次の王は貴方に決まっていると思いますが」
「確かに……だが獣王の意見は絶対だ、次の王にベリアルを指名する可能性がある以上確実に殺す必要がある」
「了解致しました」
「犯人がベリアルになるよう仕向けるんだ」
「ぬかりなく」
「これは」
「動かぬ証拠ってのはこういうことだな兄貴」
映像石を編集する方法はない……ただ事実をそこに映し出すだけだ。故にこの映像は紛れもない本物だと全員が理解する。
「ダラス様が」
「獣王を殺した?」
観衆が困惑している中ダラスが声を上げた。
「騙されるな! こいつはなにか魔法などを使い俺たちを騙しているんだ!」
その目や仕草には焦りが見える。
「兄貴……親殺しは重罪だ、俺がこの手で始末する」
ベリアルが獣王の席から降りてダラスに近寄る。こう見ればダラスは困っているように見えるがありとあらゆるクズを見てきた俺ならわかる……あれは笑っているな、俺とお前じゃ勝負にならないと確信している。まぁ最終的に強さがものをいうのが獣人だからなベリアルを殺せば他はどうにでもできるって踏んでるんだろう。
「俺はやっていないが……まぁいいだろう、ここで死んだ奴が真の親殺しだ」
「何言ってんだアイツ」
俺が言うよりも早くケルロスがツッコミを入れてしまった。でもうん……何言ってんだアイツ。
2人が戦い始めたまぁ俺たちからしてみれば子供の喧嘩だけど強さはそこそこ獣王の息子ってだけはあるな。
「こんなもんかよベリアル!」
押されてるのはベリアルか……まぁ体格差もあるしな、仕方ないと言えば仕方ないか。
「ッ!」
でもよく対応している、今もギリギリで攻撃を避けて綺麗なカウンターを刺してるしな。
「牙折り!」
フィーの技か……まぁ本人と比べれば威力は全然だけど相手があの程度なら。
「ッ!?」
問題ないな。
「お前……一体何があった」
ダラスもさすがに強さに驚いてるな……うちの総隊長が指導したんだ、舐めてもらったら困るね。
「余裕だな」
クイックがいつの間にかお酒を取り出している……てかケルロスも飲んでるし。
「優雅に楽しんでる場合かよ」
「ついつい」
「飲む?」
「飲まない!」
酒に弱いの知ってるだろ……ったく。
「はぁ……はぁ」
この程度か……ダラスっていうのも期待を大きく下回ってたな。これで終わりなら本当に一瞬でつまんなかったけど。
「動くな!」
ん?
「こいつを殺されたくなければそこに跪くんだ」
あればペンダントに写ってた……でもそれより気になるのはあの兵士。あいつらは龍人だ。
「そこまでだベリアル・ビードット」
ちっ……さすがに婚約者まで引っ張られたらどうにもできないか。でもこうならないためにあいつらに頼み事をしておいたんだけど。まさか……。捕まってるし……どうするかなぁこれ。国宝はまぁ無理に取る必要も無いし、ここで俺たちが出ていって他の魔王に勘づかれる可能性を考えると……まぁちょっとリターンが少ないよな。
「これは想定内?」
「いや想定外」
それを聞いた2人は撤退の準備を始めだした。
「ルーグント帝国が関わってるとはね」
「少し甘く見すぎてたようだ」
全くもってその通りだ。考えが甘かったな。
仕方ない……今回は運が悪かったってことで引くか。
「国に帰るよノーチェ」
「……あぁ」
「お姉ちゃんを返せぇ!」
広場から声が聞こえる……俺を襲ってきた少女の声だ。
……恐らく姉の状態を見た感じ結構ボロボロにやられてる。龍人には引きずられるみたいに連れ回されてたし顔は腫れ上がって足も裂けたような怪我ばかり……そして何よりあの顔は絶望した時にする顔だ。
「お前たちがこんなことをするからお姉ちゃんは……お姉ちゃんは!」
涙を目にためながら叫び続ける少女、後ろの獣人達もそれを見て怒りや悲しみを露わにしていた。
「はは、ははは! 見ろ国民よ! この姿を泣いて喚く愚かな姿をこんなものの姉が王の妻など笑えんだろ!」
何を狂ったことを言っているのかと思ったがそう思っていたのは俺達だけだったようでその国民たちは納得した様子で笑っていた……。
確かに獣人の根本的な考え方は強さ……強い者が全てを決める。弱いものは友人であろうと恋人であろうと家族であろうと見下される存在。弱肉強食って観点……生きるという目的の中では正しいのかもしれない。だけど……
「強さが全ての獣王国……気に入らないな」
「え?」
「その姉と婚姻を結んでいたこいつも弱者だ! 獣王は強いものが継がなければならない! さぁ! 今ここで弱き者を打ち倒すのだ!」
歓声が聞こえる……何をそんなに興奮しているのだろうか。獣に理性はないのだろうか? いや……そんなことは無い。責任があるのは王か。
「……しかし弟を殺す前にこのうるさいゴミを片ずけるか」
ダラスがそういうと龍人は泣いている獣人達に槍を振り下ろした。
パラ……パラパラパラパラ
「ッ!? お前!」
ブシュッ! グチャグチャ!!
「これでいいですかぁダラス様」
俺は龍人の首を踏みながら聞く。
一応仮面はつけてるし幻影魔法も使ってるけどバレるだろうなぁ……だけどさ、泣いてる女の子を見殺しにできるかっての。
「お前は一体!」
「馬鹿野郎……まだ戦いは終わってねぇよ」
俺の声に驚いたダラスは慌てて後ろを振り返る。しかしもう遅い……ベリアルの全てをかけた拳はダラスの顔面を壊しながら地面に大きな凹みを作り上げた。
「弱いものを助け……強いものを打倒する。それが本当の強者だ!」
ベリアルは血だらけの拳を空高くあげて宣言する、獣人達はその姿を見て大きな歓声をあげた。
「……あれは魔王ノーチェ・ミルキーウェイだ! 急いでクレアシオン様にお伝えするぞ!」
「わかっている……ん? お前どうし」
ブシャァァァァァ!!
「ひっ!」
「こんなところにまで来てるとはね」
「ごめんね仕事増やしちゃって」
白い髪を赤く染めたケルロスに謝罪する。しかしケルロスは怒るどころか必要とされて少し嬉しそうだ。
「お前たち! 俺にこんなことをしたらどうなるかわかっているのか!」
「どうなるんだよ」
「このことを知ったクレアシオン様がお前たちの国を滅ぼしに!」
そこまで言うとケルロスが龍人の足を踏み折って吐き捨てるように言った。
「この国にいる龍人は全員死ぬってのにどうやって国に伝えるんだよ」
グチャ!
「お〜」
いい迫力だった〜。
「次行くぞ〜」
「はいよ」
その日俺とケルロス、クイックは獣王国にいるトカゲを全て狩り尽くした。
……それにしても獣人は強い者に従う、ついさっきまでダラスのことを支持してたのに今はベリアル、ちょっと俺には理解できないな。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ【星喰らい】
天月姫Lv7
所持アイテム星紅刀、楼墨扇子
《耐性》
痛覚耐性Lv6、物理攻撃耐性Lv10、精神異常無効Lv10、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv10
《スキル》
導く者、貪慾王、高慢王、支配者、知り尽くす者、信頼する者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、不達領域、完全反転、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv7、火流魔法Lv5、水泡魔法Lv10、水斬魔法Lv10、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、風新魔法Lv7、風斬魔法Lv3、土石魔法Lv10、土斬魔法Lv9、土流魔法Lv9、回復魔法Lv10、破滅魔法Lv4、幻影魔法Lv10、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《七獄》
強欲、嫉妬、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者/呪いに愛された者/病に愛された者
ケルロス・ミルキーウェイ
星帝白狼Lv9
《耐性》
痛覚無効Lv6、物理攻撃無効Lv5、精神異常耐性Lv5、状態異常無効Lv4、魔法攻撃無効Lv9
《スキル》
傍観者、知り尽くす者、信頼する者、混沌監獄、研究部屋、不達領域、完全反転
《魔法》
水泡魔法Lv5、水斬魔法Lv6、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv10、稲妻魔法Lv9、創造魔法Lv7、光魔法Lv10、神聖魔法Lv9
《七獄》
強欲、嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥帝土竜Lv8
《耐性》
物理攻撃無効Lv7、精神異常無効Lv4、状態異常耐性Lv6、魔法攻撃無効Lv6
《スキル》
貪る者、永久保存、欲望破綻
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv8、火流魔法Lv3、風新魔法Lv6、風斬魔法Lv10、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv10、闇魔法Lv3
《七獄》
暴食