216話 枯れる
「何があったの」
「別に!」
俺は例のことがあってから3日間ケルロスと口を聞いていない。……だってあんな声聞かれたから。俺もびっくりしたわ俺ってあんな声出るんだなって!
「ごめんってノーチェ」
「……」
「何したかは聞いたけどそんなに怒ることなのかねぇ」
カーティオがパンを頬張りながら言った。
「確かにキスの方がよっぽどだと思うけど」
ペスラまで。
「……はぁわかったよ。じゃあ許すからあのことは忘れろなケルロス」
「あ〜あの声のこ――」
バコンッ!
「今のはケルロスが悪い」
「ったく! 何考えてんだあいつは」
イライラしながら椅子に座りこみ適当に書類を確認する。しかしふと目に入った指を見て顔が熱くなった。
「うぅ」
こんなに頭にきてるのは俺自身が変な声を出したのと悪くないかもって思っちゃったからなんだよなぁ……はぁ俺は一体どうしちゃったのかな。
頭を抱えていると扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します」
声的に機械人形だとは思ってたけどドロブか、珍しいな。
「どうしたの?」
俺が尋ねるとドロブは麦わら帽子を脱いで答えた。
「最近産業地区の植物が異常な枯れ方をしていまして」
植物が? ドロブから状況を聞いたが実際に見てみる方が早いと思い産業地区に行くことにした……わけなんだけど。
「なんで君達もいるの?」
「暇だから」
「謝罪の為に」
クイックは珍しく休暇、ケルロスは例の件を許すまで着いてきそうだ。
「さっきの件はもういいから……嫌だった訳じゃないし」
「え?」
「いやだからってやっていいってことじゃないからな! クイックは左手を見つめないの!」
一体誰だこいつらにそういうことを教えたの……いや待てよケルロスは国に居なかった時あるからともかくクイックはずっと居たよな? エレナか。
「着きました」
俺がくだらないことを考えていると枯れた植物があるという場所に着いた。
「ふむ……」
同じ作物でも枯れているものと枯れていないものがある。土や水の影響じゃないのか? でも枯れている場所は固まってるしな……何かしらの共通点はありそうだけど。
「国に遠いほど枯れてるね」
クイックが枯れた葉を見ながら呟いた。
「確かに」
俺も落ちていた葉を手に取る。すると葉はパラパラと崩れてしまった。
「ふむ……枯れていない植物はどこに」
「こっちです」
ドロブが向かったのは少しだけ高いところにある畑だった。
「うーん何か違う所があるとしたら高さくらいだけど」
「それだけとは考えずらいな」
2人も色々考えているみたいだが結論は出ないようだ。
「うーん……ここで結論を出すのは難しいかもな。枯れた葉と枯れていない葉について……まぁドワーフなら行けるかなクルルに調べて貰うよう頼んでくれ」
「わかりました」
一応確認した時水と土も調べたけど変な所はなかったし。
「ん? これは何」
俺は畑から少し離れたところに置いてあった粉を見てドロブに聞いた。
「あぁこれは魔力を集める石を細かくしたものです。あくまで試作品なので量はないのですがこれを使って育った作物はとても美味しいんですよ」
「なるほどなぁ」
その後も色々調べてみたがやっぱり分からず、俺たちはドロブに言って1度家に帰ることにした。
「前みたいに川で何かしらされてるとかじゃないんだね」
「うん、そういうのじゃないみたい」
「だとしたら原因はなんだろうか」
2人が真剣に考えても分からない物を俺が分かるわけないか。
「1度この話は置いといて先に獣王国のことを片付けよう。ベリアルの方は上手くいってるかな」
様子が気になった俺は訓練場に向かうことにした。もちろん2人も着いてきた。
ガチャ! ガシャンッ! バキッ!
「随分動きが良くなったね」
「そうなのか?」
あぁ2人は知らないか。
「俺の事を脅した時よりも動きは早いよ」
「あの時か……てかそんなことされてたのね」
やべ……言ったら不味かったかも。
「まぁ何かあったのは知ってたしノーチェがいいならいいけど」
「そうだな」
2人とも怒るというか呆れてるし。
「それにしてもベリアルの成長はもちろんフィーもめちゃくちゃ強くなってない?」
「あ〜最近はシャルと特訓もしてるって話だしね」
「邪魔しちゃ悪いしこの辺にしとこうか」
小さな声でそういうと2人は頷いて俺の後を着いてきた。
「最近じゃあ俺も力不足を痛感させられるよ……ゼロにもまだ勝てそうにないし」
「大丈夫だよ、ノーチェは俺達が守るさ」
「任せて」
2人の気持ちは嬉しいけどこのままじゃダメなんだ……もっと強くならないとみんなを守れないから。
「無理はすんなよ」
ケルロスか俺の頭を撫でながら言った。
「……安心しろよ、昔みたいな馬鹿はしないから」
撫でる手は止めずに返事をした。クイックが羨ましそうに俺たちを見ていたのが印象的だったな。
家に帰ったが特段何も変わりはなくひたすら書類を確認していた。朝よりも倍近く積まれた書類を見てちょっと萎えたけど2人も協力してくれたのであんまり苦ではなかった。しかしせっかくの休日なのに申し訳ないな……2人で遊んできたりすればいいのに。
「そういえば2人も七獄スキル持ってるんだよね」
書類に目を通しながらボソッと呟いた。
「そうだね」
「俺は蜘蛛の時に貰ったやつが」
さすがと言うべきか2人は書類に何かを書き込みながら普通に受け答えしてくれている。
「ケルロスが強欲と嫉妬だっけ」
「そうだね」
「ケルロスらしいな」
クイックの一言にケルロスが反応した2人は顔を合わせてなんとも言えない表情を見せたが直ぐに書類を見始めた。
「クイックは暴食だよね」
「うん」
「確かによく食べるもんな」
この子達はいつもこうなんだろうか。
「そういうノーチェは?」
「確かにあんまり聞いたことないしな」
2人は手を止めてこちらを見る。先程までずっと書類見てたのに何故俺の時だけとか思いつつ質問に答えた。
「強欲と嫉妬、あと傲慢だな」
「3つか」
「相変わらず規格外だね」
俺から言わせれば2人だって規格外の強さだけどなぁ。
「しかも覚醒? してるとか」
「あ〜でも結構使いずらいよあれ」
魔力は食うしなぁ……てか思ったんだけど俺って基礎魔力の量少ないのかな? 魔力切れでやばいことって結構あるんだけど。
「まぁ...お主は魔力の流れに鍵がかかっておるのじゃ」
「要するにじゃ...欲しい時に貰える魔力が一定の量だけって訳じゃ」
魔力が一定……鍵? リーベさんがそんなこと言ってたけど結局なんのことかは全く分からなかったな。
俺の過去に関係しているのかと思ったけど特にそんな記憶はないし……でもまだ思い出せてない記憶があるとしたらそこにヒントがある……かもしれない。
「どうしたのノーチェ」
「ん? いやちょっと考え事」
今じゃわかんないか……でもいつか全てがわかる日が来ると信じて今は進むしかないそれが俺の為であり仲間のためであり……今まで殺してきた人達への礼儀だから。
外はまだ少し明るく太陽は沈んでいなかった。今まではこの時間になると暗くなっていたが日が伸びたのだろう、全てが眠る冬はすぎた……もうすぐ春が来る。眠っていた者たちが起き上がり行動に移す季節が来たのだ。
「こんなに早く動いて良かったのか〜? バレたら面倒だぞ〜」
腕を後ろに回したセナがソファに寝転びながら聞いた。
「いやこれでいい……あとはしばらく魔力を蓄える。そうすれば体が完成するんだ」
笑みを浮かべる男、その男の瞳は既に何かが壊れているようだった。