215話 効率のせい
結構奥まで来たな。
「住宅街か……でもなんというか」
家はボロボロだし道の隅では獣人が死んでる……異臭も酷いな。
「獣王国の中はこんなことに」
「外は来客用ってことか……ここは裏の世界ってことだろう」
まぁ人の死体なんてもんは見飽きてる……今更なんとも思わないよ。
「それにしても王城は本当にこの先か? 客を招く時はどうやって人入れてるんだろうな」
俺が周りを見ながら聞くとケルロスは左側を指さした。
「ん?」
「あっちが王城の入口だ、こっちには来ないんだろう。それに王城の入口方面は光が多い……貴族街みたいなものだろ?」
貧富の差はどこまでもか。
「俺達が裏から来た理由は人目につかないためか」
「そう……でも人目につかないってことはこういう連中も多いってこと」
盗賊か……囲まれてるな。にしてもいい手際だったないるのは気付いてたけど動きが早かった。
「どうする?」
「大きな騒ぎにはしたくない……殺してくか」
それを聞いたケルロスが懐から短剣を取り出す、俺も腰に着けていた刀に手を置いた。
ガサッ!
建物裏か。
相手の動きは遅い……剣を持っているがこれくらいなら。
「なっ!」
剣を蹴りあげて無防備になった腹に拳を差し込む。
ん? 女か?
他にも襲いかかる獣人を殴り飛ばし戦いは勝利を収めた。
「ケル……平気そうだな」
てかケルロスよりも他の獣人達の方が不安だ。まぁ殺す訳だしあれだけど。
「悪く思わないでくれよ」
刀を引き抜き獣人の首を切り落とそうとした時物陰から誰かが現れた。
「やめて!」
子供?
「……退いてくれない?」
優しく笑ったつもりだけど子供の方が足を震えさせながらビクビクとしている。
「ノーチェ」
あ〜もう……そんな悲しそうな声出さなくてもわかってるって。
「はいはい、子供に手は出せないわな」
刀をしまい込み歩き始める。ケルロスは何も言わずに後ろを着いてきた。
まぁ子供に敵意がないのはわかってるし……いっか。
「ったく……王城に行くだけのつもりが」
「エレナも呼べば良かったんじゃない?」
「高いところは苦手なんだって」
「まだ無理なんだ」
茶化すケルロスの脇腹に肘を入れる。痛そうな素振りを見せているがギリギリで避けたなこいつ。
「王城に行くの!?」
……面倒なイベント始まったぁ。
「……うんそうだよ」
諦めた様子を見せながら後ろを振り返る。そこに居たのはお腹を思いっきり殴った女の子だった。
「わ、私達も連れて行って! あなた達は見たことない獣人だし……それにここを通るってことは何か正面から入れない理由があるんでしょ?」
鋭いな……ここまでバレると放置もできないか。
「俺はある獣人の為に動いてるだけだ。事を大きくするつもりはないし人数だってこれ以上多くなると面倒だ」
そんな悲しそうな顔されても。
「はぁ……なんで君たちは王城に行きたいんだよ」
先頭にいた女の子がゆっくりと口を開いた。
「敵討ち」
少女の目に闘志が宿る。覚悟の決まった良い……ん? あの目どこかで見たような。
「ペンダントの」
「え?」
「いや! なんでもない」
似てる……でもベリアルから聞いていたよりも幼いな……妹か?
「……敵討ちってのは誰の?」
獣人達は少し迷った様子で顔を合わせている。しかしその少女だけは俺の事を見てはっきりと答えた。
「ベリアルさんとお姉ちゃんの」
俺の予想は当たっていたようだ。
「えっと……あなたはベリアルさんを助けてくれて、ベリアルさんは魔王の国にいて、魔王はあなたで、あなたはダラスの記憶から証拠を取り出そうとしていて……」
キャパオーバーしちゃった。
「なんとなく話はわかったよ」
奥の家から声が聞こえる。扉を開いて出てきたのは犬の獣人だった。
「とりあえずベリアルは生きてんだね」
「はい」
気の強そうな女の人。
「それがわかりゃあ十分だ。……そんであんたらはこれから王城に行くのかい?」
「そうですね……まぁすぐ帰ってきますけど」
「そうかい」
フライパンを片手にこちらに近寄ってくる。話し方と威圧で若干怖い。なんて言うのかなどっかのカシラみたいな。
ギュッ
「んぇ!?」
「感謝する」
や、柔らかい……マシュマロやこれ。
「お、おぉ〜……気にしないでください」
「それと私達に協力出来ることがあればなんでも言ってくれ」
なんでも……。
「とりあえず俺達が居たことは誰にも言わないでください」
「そりゃもちろん、ベリアルの恩人だしな」
「あとは……一つだけ頼みが」
「あんなこと頼んでよかったの?」
王城に向かう途中ケルロスが聞いてきた。
「ベリアルだけじゃ上手くいかないだろ? それにベリアルとダラスを戦わせるのは決まっていた。この間ほかの兵士をどう止めるかは俺も悩んでたんだ。何しろこっちの兵士を使う訳には行かないしな。まぁ最悪魔法で作った兵士にでも戦わせようかと思ってたけどこれが1番周りも納得するやり方さ」
納得したのかケルロスは何も言わずに前を向いた。
それにしてもベリアルのやつ結構慕われてるじゃねぇか。
「さてと着いたな」
「着いたね」
デカイな……今までで1番か? いやクレアシオンの所が1番大きかったな
「どうやって侵入する?」
「ん〜窓からかな」
俺はそう言って適当な窓にジャンプした。
中に人が居ないのを確認して下にいたケルロスに合図を送る。
「わぁ」
「ん?」
いきなり飛んでくるからびっくりしたよ。
「少し下がってて」
小さな声で伝えるとケルロスは俺の腰に手を回して後ろ側についた。色々言いたいことはあるけど今はやめとこう。
スッ!
「よし」
「何したの今」
「刀で切ったんだよ」
音は出てないはずだ。あとはこれを……よし!
切った窓を外して中に入る。取れた窓ははめ直して魔法で直せば元通りさ。
「行くよ」
「はいはい」
隠密と隠蔽を使いながら薄暗い王城を探索する。しかしあれだな昔を思い出すな。人を見つけた時隠密と隠蔽使って逃げてたよなぁ……懐かしい。
「楽しそうだねノーチェ」
「ケルロスも嬉しそうだよ」
多分2人とも同じこと思い出してるんだろうな。
「あった」
ベリアルの話によるとここがダラスの寝室だ。
ガチャ
「侵入成功」
こういう時って扉の音でもビビるよなぁ。
「寝てますねぇ」
「そうだね」
ダラスの枕元まで来たが起きる様子は全くない。
「周りを警戒しといて」
「わかった」
ケルロスは扉の近くに立って外の様子を確認している。
「やるか」
記憶を確認して映像に残す、特殊な石をドワーフに作ってもらったけどこんなことできるのは俺しかいないだろうな。
「貪慾王」
手のひらをダラスのおでこに当てて魔力を流し込む。目的の記憶を分解してこの石に融合する。全部を取ると違和感があるので少しだけ取ってあとは俺が見たこいつの記憶を映像に保管する。ダラスの記憶とダラスの記憶を見た俺の記憶を融合するのはだいぶ疲れるけど何とかするしかない。とりあえずダラスの記憶の欠片だけはこの石に入れないと。俺の記憶は国に戻ってからでも出来るわけだし。
「……」
しかし多いな……どこにある、証拠となる記憶は一体どこに。あんまりゆっくりはしてられないんだ。これをやってる間は魔法も何も使えない。いくらケルロスでもこの状態の俺たちを完璧に隠すのは無理がある。もちろん幻影魔法も解けてるから見つかれば終了のお知らせだ。
「あった」
ワインに毒を入れたのかよしよし近くにいた兵士と話して名前も出てるな。あとはこいつを少し分解してこの石に融合すれば。
「ノーチェ! 誰か来る!」
ッ!?
このタイミングかよ!? くっそ! あと数十秒は掛かるってのに!
「後どのくらいで来そうだ」
「……多分10秒とか」
ダメだ間に合わない! どうする明日にするか? いやダメだ既に記憶は分解してる、この状態で石に入れないで居なくなれば記憶の欠片がどこに行ったか俺でも分からなくなる。
「どうするノーチェ!」
「何人いる?」
「3人」
1人だったらぶん殴って記憶無くしたあと放置すればいいけど3人同時は怪しすぎるな……くそ! あとちょっとなんだ! あと少しだけあと少しだけ。
「ノーチェ!」
「あぁもう!」
グチュ!
うぅ! めちゃくちゃやりたくなかったけど仕方ない。
「いくよ!!」
俺はケルロスに声を掛けて窓から飛び降りた。どうやら本当にギリギリだったらしくケルロスが飛び降りたと同時に兵士が扉を開いたようだ。
「はぁ……はぁ」
「危なかった」
何とか記憶はゲットした……これで俺達のやることは終わりだ。
「それにしても最後何したの?」
「あ、まぁうん」
適当に返事をしながら右手で出した水を左手の指にかける。
「……もしかしてだけどノーチェ」
「し、仕方ないだろ! あんな状況だったんだから」
おでこより……口の中の方が効率いいんだよ、俺だって指入れたくなかったけど!
「お前の時だってキスしたろうが」
ある程度洗い流して後ろを振り向くとケルロスが俺の左手を掴んだ。
「何して……何しんっ!? おま! ちょ! やめ!」
指! 指舐めてるし!!
「ちょ! やめ……ほんとにばか!」
前から意識しないようにしてたけどケルロスもクイックも舌使いが上手いんだよなぁ。
「やめ……やめろって言ってんだろ!!」
バコンッ!
その夜獣王国に鈍い打撃音が響き渡った。