212話 親殺し
獣王騒動から1週間……国の混乱も過ぎ去り平和な一日を謳歌していた時事件は起こった。
「獣王暗殺……犯人はベリアル・ビードット」
クイックが慌てた様子で持ってきた新聞の内容がこれだ……朝から全く面倒な事だ。
「動機は自分を認めない父への反抗心か」
認めてくれない反抗心……たしかに認められないことに不満を抱いている様子はあった。でも
「俺は父上に認められないとダメなんだ」
それと同じくらい認めて欲しいって心から思っていたはずだ。その父親を殺すなんて……俺はあの子がそういうことをするようには見えなかった。
「ベリアルはどこに?」
「国を出て逃走中だってさ、ほら指名手配の紙がこっちにも来てるよ」
親殺しの大罪……生死問わずか。
「クイック少し出てくる」
俺がそう言うとクイックは呆れた顔をしながら答えた。
「探索に連れていくならメア・トトがオススメだよ!」
「……ありがとう」
俺はそれだけ伝えて部屋を後にした。
コンコン
メア・トトの家はここだったはずなんだけど。
エルフ達が作った大きな木……からは少し離れたところにあるツリーハウス、そこがメア・トトの家だ。
「はーい」
ガチャ
「あっメア・ト――」
「お嬢!?」
メア・トトは慌てた様子で扉を閉じた。それと同時に部屋の中からは物が倒れる音や割れる音が響いていた。
「メア・トト?」
ガチャ
「は、ははは」
服に着替えたメア・トトが苦笑いをしながら扉を開いた。
「なるほど……その獣王の子供を探すんですね」
「うん」
頷きながらメア・トトが出してくれたお茶を飲む。普段飲んでいるお茶とは違い少し甘い、フルーツティー的な?
「それでお嬢はその子を探してどうするんですか?」
……どうするのか。
「考えてなかった。でもこんなことをする子じゃなかったと思うから話を聞きたいんだ」
「……分かりました、行きましょう」
そう言ってメア・トトは立ち上がり真っ白なマントを羽織った。
「それは?」
「ここには沢山武器が入ってるんですよ」
少し自慢げに言うその姿は子供のようにも見えた。
「それで逃げた先とかわかるんですか?」
「いや全く」
腕を組みながら自信満々に応えるとメア・トトは苦笑いをして俺の隣に並んできた。
「いくら私の探知が優秀でも範囲を絞らないと見つけることは不可です。それにそのベリアル? ってこの情報が少なすぎます」
たしかに言う通りだ……でもどこにいるかなんてわかんないし。
「まぁいいですよ、お嬢に付き合います」
「ありがとう」
根は良い奴みたいだ。
そして1時間が経った頃。
「お嬢……」
「……」
言わなくてもわかる……視線が痛いもん。結構歩いたしなぁそろそろ限界か、まぁ探索メンバーを増やして明日にでも。
ドドドドドド
「ん?」
「なんですかね、また野生の大型獣かな」
メア・トトが弓を構える。しかし奥の土埃から現れたのは大きな亀とその背に乗った獣人の兵士たちだった。
「でかい亀」
「……あれに着いてくぞ」
「え!?」
メア・トトが反応するよりも早く手を取って亀のしっぽに糸をかけた。
「よし」
「いやよし! じゃなくてぇぇぇぇぇ!!」
叫ぶメア・トトの口を塞ぎながら俺達は亀について行った。
「ここは」
廃墟?
「死ぬ……お嬢に殺される」
肩を揺らしながら息を整えて真っ青な顔をしているメア・トトを放置して辺りを確認する。
「こんなところにあんなに人を集めて何するつもりだ」
不思議に思っていると勲章を付けた偉そうな獣人が大きな声で話し出した。
「親殺しベリアル・ビードット! お前がここに潜んでいるのはわかっている! 今現れればダラス王の優しさに免じて極刑は許してやろう!」
ここにいるんかい!
「ここに――」
声がでかいんだよメア!
ガラガラ
上の方の瓦礫が崩れた?
「現れたなベリアル」
あれがベリアル? 前会った時とは別人のように痩せ細ってるぞ。
「お嬢」
「わかってる」
今は様子見だ……何が起こるかを確認してから動く。
「何度も言うが俺は父上を殺していない!」
枯れた喉で精一杯話すベリアル……しかし兵士達はそれを聞いてクスクスと笑っていた。
「何を言うか! お前は自分を認めて下さらない元獣王に毒を盛り殺したのだろう?」
「違う! ゴホッゴホッ! あの酒は俺が渡したんじゃないあれは兄が」
ベリアルがそこまで言うと遮るように隊長獣人が話し出した。
「寝言は寝て言え! ダラス王がそのようなことをするはずがないだろう!」
あの言い方、あの表情……知ってやがるな全部。
「うるせぇ! 俺は父上を殺していない! 本当の反逆者はお前たちだろうが!」
ベリアルの声が暗い廃墟に響き渡る。先程までニヤニヤとしていた獣人兵は怒った様子を見せながら武器を持った。
「そうか……残念だよ。まぁどの道お前はここで殺すよう命令されていたしな」
隊長獣人も剣を引き抜く。
「兄に利用され父を失い反逆者として後世まで憎まれ笑われるといい……あぁそれとお前の婚約者はダラスが愛人として使うらしい、良かったなあんな田舎者でも使ってもらえて」
「てめぇ!」
ベリアルが隊長に向かい走り出す。しかしもう体が言うことを聞かないのか途中で転んでしまった。
「はっ! お前如きが我らに敵う訳が無いだろう」
転んだベリアルの首に剣が振るわれる。しかしその剣は首に届く寸前でバラバラに砕け散った。
「なっ! 一体……なに……が」
隊長獣人は後ろを見て言葉を失った。まぁそれもそのはずだ先程まで一緒に笑っていた兵士たちが全員肉塊に変わっているのだから。
パラパラ
物が崩れる音を聞いた隊長はこちらを見る。そして隊長獣人はさらに絶望することになった。
「その真っ白な髪、色違いの瞳……まさかお前は」
「こんばんは」
「星喰らい……ノーチェ・ミルキーウェイ」
随分と胸糞悪い話してくれてたなこのボケは。
「さて……色々聞きたいことはあるけど情報は脳みそだけ残してくれれば上手く引き抜くから気にしないで」
「へ?」
あまりの恐怖に腰を抜かして崩れ落ちたか……魔王ってそんなに怖いもんかね。
「ま、待て! 俺を殺せば獣王国が黙って――」
「どうやって俺が殺したって調べんだよ」
「は?」
訳の分からない様子で無様な声を上げる獣人に話し続ける。
「だから……これから跡形もなくなるのにどうやって俺がやったって調べんの?」
「跡形……も?」
俺は獣人に近づき口を開く。
「言ったよな? 脳みそ以外いらないって」
それを聞いた獣人は立ち上がり必死に逃げようとしたがその頃にはもう首から下は無くなっていた。
「さて……帰ろうか」
落ちた首を拾い上げてメアとベリアルに声をかける。メアは少し引いた様子でベリアルは固まって動いてくれなかった。……廃墟はしっかり爆散させておいた。
その後は首をクイックに渡して情報を引き抜くように頼んでおいた……あの首渡した時の顔は少し面白かったな。メアは家に帰ってもらって俺は応接室でベリアルと話をすることになった。
「久しぶりだねベリアル」
「……」
この国に来てから何も話さない……お腹が空いているとか? 喉も枯れてたからな飲み物欲しいとかかな?
「テグ、適当にご飯作ってあげてあと飲み物も」
「いや……俺は」
「かしこまりました」
ベリアルが言うより早くテグは部屋を出ていってしまった。
「話せはするみたいだね……とりあえず君の話を聞かせてくれないか?」
俺がそう言うとベリアルは目を瞑って深呼吸をして俺の事を真っ直ぐに見つめた。
「わかっ……た」