211話 獣王の息子再来
翌日になりアルにはもう一度頭を下げてから国へと戻ってきた。それぞれ罰は与えたが結構みんな答えていたな、特にエレナとフィーはこの世の終わりみたいな顔してたけど。
「ミッちゃんはよく仲間を見てるね」
「いきなりどうした?」
カーティオがケーキを食べながら続けた。
「いやさ、みんなが嫌な罰をしっかりと考えるってことはその人がされて嫌なことを知ってるってことでしょ?」
「まぁそういうことだな」
そのケーキどこにあったのかな。
バタンッ!!
「カーティオ!! あんた私のケーキ……今食ってるし!」
めちゃくちゃキレてるペスラが部屋に突撃……カーティオは驚いた顔をしながら逃げる体制を取っている。
「逃がすか!」
「ぐぇ!」
あれは首入ってるなぁ。
「カーティオはペスラのやって欲しくないことを知っていた訳だ」
書類に目を通しながら他人事のように呟いた。
「そ、そんなことより……だずげぇぇ!」
カーティオはそのまま引きずられて部屋を去っていった。
「墓は立ててやるよ」
ペラッ……ペラッ
特段問題は無さそうだな。国内はだけど……国外で気になるニュースは獣王暗殺未遂とゾンビの大量発生くらい?
獣王は今回のことを受けて後継者を決めることにした……候補は4人か。まぁ関係ない話なんで勝手にやっといてくれ。……いやまぁ隙があれば欲しい物はあるけど王様か変わったからって手に入るものでもないか。そしてゾンビの方は場所も時間もバラバラだし何かを狙ってやったと言うより普通にそういうあれなんだろうなって感想しか出てこない。
「世界は平和……では無いけどとりあえず安定してるね」
雲ひとつない空を見ながらウトウトしていると誰かの足音がバタバタと聞こえてきた。
「エリーナだな」
バタンッ!
「ノーチェ!!」
当たり
「どうしたの?」
エリーナに問いかけるとある紙を握りしめて俺の机の前で立ち止まった。
「ん?」
「新聞見た?」
「一応目は通したけど」
「じゃあこれは」
エリーナが指さした場所は俺がつい先程まで見ていた獣王暗殺未遂についてだった。
「これがどうしたの?」
「ここ! ここ見て!」
獣王の候補者が載ってる1人は見たことあるなあの〜前国に乗り込んで来た子だ。
「そっちじゃない!」
……!!??
「フィー!?」
見覚えあるとか乗り込んできたとかそういうレベルのやつ通り越していつも会うやつの顔が載ってるんですけど!!
「なんで!? え!? なんで!!」
「知らないって! ノーチェがなにかしたのかと思ったんだけどそれも違うのね」
……なんで? いや……なんで!?
「国でも新聞が出回ってて軽いパニック状態だけど」
「対応は?」
「エレナとケルロスが動いてくれてる。でも説明はしないと」
プリオル連隊も何が起きてるかわかってないはずだ。
「バール」
「はっ」
「この記事について情報を集めてくれ」
「かしこまりました」
とりあえずフィーに会おう。
「それでフィーはこれに関しては全く知らないんだね」
「知らないぞ〜」
さくらんぼ食べながらダラダラしてますけど貴女が問題の中心なんやで。
「フィーは隠し事できないし私もいつも一緒に居るから変なことはしてないはずだよ」
エリーナがそういうなら……だけどそれならどうしてこんな事になってるんだ? フィーに牙の王としての資格があるのはケルロスとクイック、エレナとエリーナ……あとは自動人形とエーゼル、イヴィルくらいかいやぁバラすやつがいるとは考えずらい。
「獣王酷に乗り込むのが1番早いか?」
「それはそうだけどそれをしたら」
だよなぁ。
「主殿……情報が……整いました」
「バールかよくやった」
これで少し話が見えてくるといいんだけど。
「フィー・サレリアル嬢は……サレリアル家の……当主として……獣王国に……記載されておりました。そのため……素性はあらかた……知られており……魔王の国の……軍隊で隊長を……するくらいなら……獣王も任せられる……との判断らしいです」
「「「「「……」」」」」
「何それ」
獣王の頭沸いてんのか?
「まぁ別になるつもり無いんだから放置でいいんだろ?」
「おそらくは」
はぁ〜人騒がせな奴だわ、とりあえずみんなに連絡を。
コンコン
「どうぞ〜」
「失礼致します……ご主人様、獣王国からお客様です」
……全ての元凶が登場した件。
応接室
「初めまして……では無いですよね獣王の息子、ダラス・ビードットです」
初めましてじゃない?まぁいいや。……しかしこいつも獣王の息子、ってことはあいつの兄か弟か……いやこれは兄だな。
「それで獣王の子供がなんの御用でしょうか」
護衛はなし……また一人で来たのか自信があるのか勇気があるのか。
「……? あれ、もしかして覚えてないですか?」
「え?」
……ん?
「あ〜、ダンス誘ってきた」
「はい! それです」
色々あって忘れてたわ。
「それで? 話ってのはなんですか?」
個人的には好きじゃないタイプだな。敬語はそのままにしちゃお。それにあの時は疲れてたし素直だしいっかとか思ってたな。
少しの沈黙の後ダラスが口を開いた。
「単刀直入に申し上げたい……私の支援をして頂けませんか?」
あれ? 思っていた話とは随分違うな。
「支援ねぇ……こっちにメリットがあるようには思えないんだけど」
「たしかに今はありません。しかし私が獣王になればフィデース信栄帝国の同盟国が3つから4つに増えます。それも強力な獣人の」
なるほど……ただのバカじゃないらしい。
「けどねぇそれだと六王の同盟国が4つに増えて六魔王から良くない目で見られちゃうんだよねぇ」
膝を組んで椅子に背を付ける。
「それはわかっています。そこで支援の方法なのですが」
……?
ガチャ
「どうだった」
自室に戻ると紅茶を飲みながらいつもの2人が待ってくれていた。
「あれはめんどいわ」
「と言うと?」
話の内容は俺が表に立つのはまずいので裏で情報操作と邪魔者の始末をして欲しいとの事だった。
「結構な提案だね」
クイックが苦笑いしながら言った。
「そうだろ? だから適当に返しといたよ」
「それがいい」
……ああいうタイプは好きじゃない、それに俺の勘があいつは辞めといた方が良いって言ってたからな。
「ダラス様……いかがでしたか」
「さすが魔王と言うべきか、上手く利用するのは無理だな」
利用はできない……別の方法を考えるか? いや外から崩していくか。
「まぁ魔王は後でどうにかするとして先に国のグダグダを片付けるぞ」
「はい」
ダラスとその側近は暗くなる荒野にその身を消した。
「これで問題は無くなったね」
「無くなってはないけど……まぁいっか」
獣王が誰になろうと俺には関係の無い話だしフィーも関わるつもりは無いみたいだし。
「そういえば他の立候補者ってどんな感じなの?」
俺が聞くとケルロスが新聞を持ってきて説明を始めた。
「こいつが今来たダラスとかいうのだね獣王の息子で長男だ」
やっぱりか。
「そしてこれが次男の方、前にさ乗り込んできた子供いたでしょ?」
「覚えてる覚えてる」
「それでフィーが載ってて……最後がこの女だね」
立候補者唯一の女の子か見た目的にはクマっぽいけどシュクラの知り合いかな?
「名前はドレス・サレリア、サレリア一族当主だってさ」
シュクラの知り合いだったわ。
「フィーの家と名前が似てるけど関係あるの?」
「サレリアル家とサレリア家は元々同じでサレリア家がサレリアル家から分裂したみたいだよ」
クイックが紅茶を渡しながら説明してくれた。
「ありがと……じゃあこれはビードット家とサレリアル家の戦いと言っても過言じゃないね」
「まぁ……確かに?」
2人とも微妙な顔をしているからそういう訳では無いらしい。
「勝ちそうなのは誰なの?」
「ダラスかな……現獣王の息子って言うのが強いし頭もいい、国民からの信頼も厚いみたいだ」
ふーん……腹黒そうだけどなぁ。
「次がドレス・サレリア、元々サレリア家は名家だしねダラスとドレスの一騎打ちかな」
シュクラの親族かぁ……1度会ってみたいな。
「そして次に人気なのが何故かフィー……いや本当にどうしてだろう。まぁ聞いた話だと魔王軍の総隊長だしその強さに惚れてる人が多いんだって。獣人って結局のところは強い奴に付いてくから」
は、ははは。
「最後は」
ケルロスもクイックも同情してるよ……俺も少し可哀想だなって思ってるけど。
「ベリアル・ビードット……候補には出てるけどわがままで自分勝手、強さも今ひとつだから人気はほぼ」
う、うーん
「どうしようもないな」
言っちゃったよケルロス。
「まぁ確かに失礼な子ではあったね」
クイックまで。
「てか2人はどうなんだ? 獣人だし獣王が誰になるとか興味は」
「「全くないけど」」
あっ……はい。