210話 密談
「これはどういう状況かな」
「いや……あの本当にすみません」
俺の目の前に広がる光景はもうなんというか酷いの一言に限るものだった。
「ノーチェ様……これはこちら側の責任でも」
「だからって招かれた側でこれはダメでしょ」
アルも苦笑いをしながらパーティー会場を見ていた。
「壊れた物とかがあれば全て弁償しますのでご連絡をお願いします」
「いえいえ! というかうちのも結構やってるみたいですし」
割れた窓、壁に刺さる矢、真っ二つにされた机、壊れたドア……地面に突き刺さる自動人形達。
「モグラ叩きでもしたのかいケルロス」
「……違います」
何故ケルロスとクイックがここにいてこんな事になっているのか……そして何故こんな事態になっているのかそれは今日の朝まで時間を巻き戻すことになる。
朝
「アルがフィデース信栄帝国を招いてパーティーがしたいって?」
「表向きはそうみたい、裏ではこれからの同盟関係や軍隊連携について話し合いをしたいってさ」
それはいいけど随分と急だね、まぁ俺は忙しくないからいいけどさ。それに今日はプリオル連隊も暇してるだろうし。
「行くのはいいけど全員で行く訳にはいかないだろ? 仕事もそうだけど国を守る役も」
「そこはお任せ下さい!」
トロリアットが元気よく天井から降りてきた。
「バールと同じようなことしないの」
「すみません!」
返事はいいんだけどなぁ。
「私の部隊を使ってこの国を必ず守り抜きます!」
警備は……平気だと思うあとは。
「仕事なら某がやります」
「ガス」
「あとはこいつも」
ガスがドアの後ろに隠れていたフローリアを引っ張り出した。
「やめ! 離せこら!! 仕事なんて私やりたくねぇよ〜」
「ここは任せて殿は休まれるのがよろしいかと」
反論するフローリアを放置してガスが頭を下げる。たしかに最近めちゃくちゃ頑張った気がするしな。
「そういうことならお言葉に甘えよう。
「それがよろしいかと」
俺が顔を上げると嬉しそうに笑う2人がいた。
「早速準備だ。連絡は自動人形を使って、プリオル連隊の隊長、副隊長には全員声を掛けるように」
「「了解!」」
仕事モードが入った2人は早い、俺とは比べ物にならないよ。
「そして1時間も経たないうちに準備が整ったのだが」
「いいことでしょ?」
エレナがニコニコしながら笑っている。理由はこの服だ、最近冷え込むんで長袖の黒いコートを使っているのだが秘密警……いやこれはやめとこう。そしてくるぶしまであるズボン、上はジッパーですぐに開くことが出来るシャツと言った組み合わせだ。
「可愛いわよ」
エレナが俺の周りをグルグルと回りながら服を確認する。めちゃくちゃに気に入ったらしい。
「これでバッチリ! ノーチェも胸張っていくのよ」
「相手はアルだよ? 軽い方があっちも楽だと思うんだけど」
俺の意見を聞いたエレナが呆れた様子で答えた。
「一応王様に会うんだからそれ相応の服装をしなくちゃ」
……ぐうの音も出ねぇ。いつもおかしいエレナにこう言われると少し腹立つ。
「そろそろ行くよ〜」
クイックが馬の用意をしながら声を掛けてくれた。
馬の用意してるけど君が乗るのは車やで。
「今行く〜」
まぁいっか。
「ようこそお越しくださいました」
まさかの王様自らとは……いやアルだしそのくらいやるか。
「こちらこそ招いて頂き感謝しています」
しかし信頼されているのか護衛がめちゃくちゃ少ないな大丈夫かエルフ達よ。
「あぁ皆様を案内してくれ」
後ろにいた女のエルフが前に立ちケルロス達を誘導する。俺とクイックはアルと話し合いがあるので別の方へと案内された。
「お久しぶりですノーチェ様!」
部屋に入った途端満面の笑みで駆け寄ってくるアル。こっちが本来の姿なんだろうな。
「久しぶり、最近はどう?」
俺も堅苦しい敬語をその辺にぶん投げて質問する。
「そうですね〜特段変化はありません。ですが六王の集会は頻繁に行われていますね。そして動こうとしている国もある程度絞れました」
変化があるんじゃないそれは?
「どこかな」
「まだ大きく動くつもりは無いと思うんですけどドワーフの国が魔王ハクゼツ打倒をよく言っていたり、獣王国が龍の国と魔王ゼロに利用されていた件でキレていたり」
ははは、ざまぁみろゼロの奴。
「国の繋がりとしてはクレアシオンとジャズですかね牙の王は孤立してます。ルルとシャネルとはそこそこ友好的にやっています」
それは良かった。そして六王もぐちゃぐちゃってことか。
「六魔王に関しては何か情報は入って来てない?」
ナイスクイック
「これといって特には」
「そうか」
まぁ六魔王の情報なんてそうそう流れてこないよな。
「ありがとうアル」
「いえ! お役に立てて光栄です、あとここからが本題なのですがノーチェ様はこの後どうするおつもりですか」
アルが真剣そうに、そして不安そうに聞いてきた。
「……大きく事を構えるつもりは無いんだ。でもまぁ相手がそれを許すかどうか、クレアシオンは俺の力がどうとか前に言ってたしこのまま引き下がりはしないだろうな。それにハレンは人に何かされたんだろう復讐でもう一度シャンデラ国を攻撃する可能性がある」
会議室に沈黙が流れる。まぁアルが悩むのも無理は無い……龍の国と魔王の国を相手にするなんて聞かされれば自国の事を考えるだろうし。
「ゼロとクレアシオンは手を組んでいるとよく噂になっています。理由として六魔王最古参がゼロ、六王最古参がクレアシオンだからです」
老人どもめ。
「どちらかがノーチェ様に牙を向ければ魔王と六王を1人ずつ相手することになります。さらに魔王セナとレリアはゼロに着く可能性が高いです」
だろうな2人と接点はほとんど無いからな俺……あとはハクゼツ次第か。
「魔王が3人、六王が1人。こちらは魔王が1人に六王が3人です。数は同じですが国の戦力を考えると……」
「負けるか」
俺がそう言うと2人は申し訳なさそうにこっちを見た。
「そんな顔すんなよ……それに戦うって決まったわけじゃない。それまでにできるだけのことをやろう」
「おう」
「はい!」
ゼロと少しだけ刃を交わして感じたが今の俺じゃあまだゼロには勝てない……もっと強くなる必要があるな。
「それではこの武器から説明を」
なにか始まってる。
そして夜の8時くらいまで話し合いは進みクイックが1度パーティー会場を確認してくると言ってから10分ほど、少し遅いなと思いつつも待っていると。
「ちょ! ちょっと来てくれる!?」
普段冷静なクイックとは思えないほどに慌てた様子で部屋に入ってきた。
緊急事態かと思い付いていくと。
「この有様だよ」
「「「すみません」」」
「なんで君達が居てこうなるの? 俺頼んだよねフィーの暴走を止めるようにさ……エリーナ」
「本当に反省してます」
申し訳なさそうに頭を下げるエリーナ。
「でさ頼んだよねみんなのまとめ役をさ……エレナさん?」
「……はい」
顔を逸らしながら汗をかきまくるエレナ。
「そして俺が1番怒ってるのは君だよケルロス……なんで君がいてこれが止まらないの?」
「ちょっと俺も遊んでて」
あまりに申し訳ないから犬の姿になっているのかそれなら俺が許してくれると思っているのかは知らないけどさぁ……はぁ、まぁやっちゃったものは仕方ないか。
「君達全員国に戻ったら覚悟しておくように!」
それを聞いたみんなは死にそうな顔をしながら返事をした。
「ごめんねアル、今日は帰るけど後日必ず弁償は」
「え? 泊まっていかれないのですか?」
「え?」
「え?」
俺はゆっくりとケルロスとクイックを見た。すると2人はハッとした顔をして俺から目を逸らした。
「クイックも追加ね」
「えぇ!」
「で君たち申し開きはあるかい?」
食事を終えてお風呂に入った俺は用意されていた自分の部屋……ではなくケルロスとクイックの部屋に向かいベッドの上に腰掛けながら聞いた。
「騒いですみません」
「言い忘れてましたごめんなさい」
2人は床に正座しながら謝罪している。
「よろしい……まぁクイックに関してはただの言い忘れだし今回は許そう」
「ありがとう」
椅子を作りそこに座るようクイックに指示をした。
「さて……ケルロス君」
ビクリと体がはねたな……そんなに怖いのか。
「何があったのかはエレナ達から聞いたからいいんだけどさ……どうして君は止めなかったの?」
「いや俺もちょっと楽しくなって」
「それでフィーと戦ったのね」
俯くケルロスを見ながらため息をつく。
「あのねぇ……君達はプリオル連隊で見てもめちゃくちゃ強い方なんだからさ招かれた席で戦ったりしたらどうなるか分かるよね」
「はい」
怪我人いなくて本当に良かったよ。
「ケルロスはしばらく俺に触れるの禁止」
「え!?」
「当たり前だろ……てか毎日毎日ベタベタくっついてくるんだから少しくらいは我慢しなさい」
ガチ凹みじゃん……そんなに嫌なの?
「じゃあ俺は自分の部屋に戻るから2人も早く寝るんだよ」
「はーい」
「はい」
ケルロスの沈んだ顔が少し可哀想だと思ったけどさすがにあれを許すのはまずいので無視して自室へと向かうことにした。