209話 発情期
「あるんだ」
「あるわよ……てかノーチェって産まれてからどのくらい経ってるの?」
「えっ」
発情期について聞いてみたところ獣人は誰しもあるらしい、ただ本来の動物と違うのは発情期でしか交尾が出来ないのではなく発情期中は妊娠の確率が上がったり……体がその……ちょっとあのあれになったり?
「何顔赤くしてんのよ」
「あっごめん」
産まれてからかぁ3年? 4年は経ってるか? 時間の感覚があんまりないからよくわかんないや。
「多分……4年くらいかな」
それを聞いたエレナが真剣な顔をしながら話してきた。
「ねぇノーチェ……さっきの質問的に発情期って来たことないのよね」
「え? まぁそうだね」
頭を抱えちゃった……どうしようこれ。
「多分だけどノーチェは発情期来たらすごく重いわよ」
「……なるほど?」
「わかってないわねぇ」
エレナは発情期とか来たことあるのかな?
「エレナは――」
「あるけどその辺は上手くやってるわ」
さすがですね。
「ちなみに何かいい方法とかあるの?」
「いい方法というか私は発情期が軽い部類だからね……ノーチェも軽かったら問題ないと思うけど」
うーん……わかんね!
「まぁいいやあることがわかっただけありがたいよ」
机にお金を置いて立ち上がる。
「少し多いわよ」
「お礼」
それだけ言って俺は店を後にした。
「そっかぁ獣人って大変なんだなぁ」
でも俺は転生者だしそういうのがあるとは限らないからな。ケルロスがどんな状況なのか聞いとかないと。……ってどうやって聞くんだよ俺。ケルロスに「え? お前発情期なん?」って? アホか! そんな聞き方出来るかぁ!
「あ〜……まぁクイックいるし変なことはしないと思うし、念の為寝る前に扉にロックの魔法使っとくか」
「そこまでしなくてもケルロスは平気だよ」
「おわ!」
クイックがいつの間にか横に並んでた。
「それに多分発情期じゃないよあれ」
「え? そうなの」
やっぱり俺よりも男のクイックの方が分かるもんなのかなぁ。
「一応対応してるからそういうのも」
「対応出来るものなんだ」
「逆にノーチェがなんにも知らないのが驚きだよ」
こういうのは本能的に分かるもんなのか?
「……」
「まぁそうだな……ノーチェは睡眠欲で発散してるとか?」
クイックが笑いながら言った。
「性欲と睡眠欲は違うでしょ」
いつも寝てるからってからかって。
「とにかくあ〜そうだなぁ……来たらわかると思うでも来たら相談してね」
変なことされそう。
「そんな目で見ないでよ」
「ケダモノだからなぁうちの2人は」
「それはケルロスだけだよ!」
クイックの顔が赤い……これは怒ってるのか図星つかれて慌ててるのか。
「でもキス魔だからな2人とも」
「なっ!」
図星の方だな、発情期来たらフィーとかエレナに相談しよ。……あともう少しだけからかってやろう。
「それにぃ〜最初のキスはクイックだしなぁ〜」
赤くなった赤くなった。
「……ってことはファーストキスはクイックか」
「ちょ! なんでノーチェまで顔赤くしてんの!!」
「ばっ! うるさい! 夕日のせいじゃい!」
無駄に意識しちまった。何考えてんだ俺は!
「そういうところが……」
「ん? なんか言った」
「……別に」
なんだよ機嫌悪くなってるし……昔からクイックは繊細だよな。仕方ないここは俺が一肌脱いでやるか。
「え!?」
俺はクイックの手を握って軽く走り出した。
「ほら! 早く行くぞ! そして俺に飯を作れ!」
そう言うとクイックは笑いながら
「はいはい」
と返事をしてくれた。
「……ねぇなんか近くない」
「そう?」
いや近いねクイックさん。
「もう腕とか当たってるし」
「離れなさい」
ケルロスが間に入り俺とクイックを引き離す。
「嫉妬〜? 昨日ノーチェを襲いそうになったのに〜?」
クイックが煽るように言う。
「あれは違う!」
そんなガチ否定されると信憑性ないなぁ……あと少しショック。
「まぁまぁその話はこのくらいにしてご飯冷めちゃうよ」
「「はーい」」
なんだかんだいい子達なんだけどなぁ。
ペラ……ペラ……ペラ
うーん発情期についての本を借りてみたんだけどよくわかんないなぁ……まず獣人は種類によって発情の重さとか期間が違うみたいだし。同じ蛇の獣人……あ〜トロリアットの部下にいたなぁ……確か名前はシャーネスだったな。今度聞いてみるか。あと気になるのは狼の獣人と土竜の獣人の発情期を。
ガチャ
「ひゃ!」
「あれ? なんかしてた?」
紅茶を入れてくれたのかクイックがコップを2つ持って部屋に入ってきた、俺は本を慌てて自分の机にしまいこんだ。
「ク、クイックかノックしてよ」
「あ〜ごめんごめん両手塞がってたからさ」
悪意はないみたいだ、それに普段はノックするけどオフの時は2人ともしないもんな。
「というか、クイックかってなんだよ……やっぱりノーチェはケルロスの方が良かった?」
子供のように不貞腐れた態度でクイックが聞いてきた。
「そんなことないよ、どっちも大切な……家族さ」
それを聞いたクイックは嬉しそうに、そして少し寂しそうに微笑んだ。
「ていうかノーチェそのメガネに似合ってないよ」
「うるさいなぁ〜これは魔道具なんだよ本を読んでて分からない言葉が出た時に調べられるんだ」
丸くて小さいメガネを外し机の端に置く、そしてクイックが座っているソファの隣に腰掛けた。
「このソファとテーブルはノーチェが作ったの?」
「あ〜テーブルは俺、ソファはテグが持ってきたの」
「テグか……最近よく笑うけど機械って感情無いはずだよな」
表情追加機能について聞いていないのかな?
「ドワーフがテグたちに表情追加っていうのをしたらしいよ」
「ふーん、なんでもありだな」
それは思う。
「ケルロスは?」
「お風呂だね、ケルロスは長風呂だからなぁ。というかお風呂好きすぎて目が覚めたりしたら入ってるし朝も入ってる」
綺麗好きなのかな。
「ノーチェは割と早く出るよね髪とか洗うの大変じゃない?」
「あ〜面倒な時は魔法使って洗ってるからね」
我ながら面倒くさがりすぎると思うよ。
「想像すると笑える」
「クイックもやってみたら?」
「俺は水系の魔法使えないからなぁ」
そういえばそうだった。
「ノーチェは苦手なものあるの?」
「俺は風だね使えはするけど威力がいまひとつなんだ」
「苦手があるんだねぇノーチェにも」
クイックが意外そうに言う。
「あのなぁ俺はただの獣人だからね」
「転生者のでしょ」
うっ。
「本当に……悪かったよ騙してて」
俺は紅茶を置いて頭を下げた。
「いやそんなまじ謝りしなくても、それに俺たち気にしてないから」
クイックの笑顔が眩しい!
「てかこれの素性知ってるのって」
「プリオル連隊の上の人たちだけかな」
上の人たち……まぁそうか。
「というかさこことは違う世界から来たんでしょ? 何か面白い話とかこっちとの違いとかないの?」
「えっ」
クイックが紅茶を置いて俺の近くに寄ってくる。
「いや、そんな面白いことはないと思うけど」
「でも気になるじゃん」
こうなるとクイックは止まらない……知識欲は結構あるからな。仕方ない、適当に話してやるか。
「そうだなぁ……まずあっちの世界には獣人とかエルフっていうのは居ないんだ」
「そうなの!?」
驚いてる驚いてる、でも俺も驚いたからこっち来た時に。
他にも機械や国、歴史なんかもクイックに話したけど納得したりおかしくない? と意見してきたり結構楽しい時間が過ごせたと思う。
そして3時間くらいが経過した時に俺の眠気が限界を迎えたので話はまた今度と言うことでお開きになった。