205話 怪物
戦場に鳴り響く金属音、時折風を切り裂く雷の音が大地を揺らし風が砂を舞い上げる。しかしゼロは全てを軽く避け、受け止めてその場に立っている。
「さすが魔王といったところね」
「あぁ」
エレナが俺の隣に降りて言った。
「時間稼ぎはできそうか?」
「……ギリギリね」
ギリギリだろうとなんだろうと間に合えばいいさ。そんなことを思いながらゼロの方を見た時先程までいたはずのチグリジアが消えていることに気が付いた。
「チグリジアが居ない……?」
ドォンッ!!
俺とエレナは後ろから鳴り響く爆音に驚いて慌てて振り返る。そこには大量の死体と大声で笑うチグリジアが居た。
「エアロ・ショット!」
チグリジアの後ろから!? 一体誰が。
「ノーチェ! チグリジアは気にしないでいいから! 前を向くんだ!!」
ロキスク……。
「あれは」
「エレナ……俺達はゼロを倒すことだけ考えるぞ」
「え? でも」
「行くぞ」
俺はエレナの翼を掴む。エレナはまだ少し戸惑っている様子だがそれでもしっかりと前を見ている。
すまないロキスク……本当にすまない。
「理事長先生」
燃える観客席、足元には生徒達の死体がバラバラになって転がっている。
「もう何も言わないでくれ……」
こんな光景を見ても私はチグリジアが操られているだけで本当はいつもの優しい女の子だと幻想を抱いている。でもそうだ……生徒に裏切られるのは慣れている。
「ハリケーン・ストライク!」
「ブラット・レイン!」
「毒刃!」
トロリアットとシュティアの攻撃も効いてない……それにフィーとエリーナは体力的にも限界だ。
「フローズン・ダウン!」
ガチャン!!
「ッ!?」
ゼロの剣が凍らない!?
「うっ!」
「ノーチェ様!!」
「前を見なさいトロリアット!」
ブシュッ!
「くっ」
「牙――」
「炎」
「フィー!!」
くそ……体制が崩れた、何とかして立て直さないと。
「獄炎槍」
「ッ! 凍結世界!!」
ギリギリ……本当にギリギリだったけどみんなは何とか。
ガバッ!!
「うっ! お……まえ」
首を……前も同じことを。
「今回は見逃さない……このまま」
「ノーチェ!!」
「雷帝の憤激!!」
エリーナの攻撃は間に合わない……どうにかしてこの場を。
酸素が……足りない……まじでやばい。
「腐り落ちろ……ブラック・ディシーズ」
ゼロの腕が崩れて――
「わっ!」
「無事かいミッちゃん」
「……遅せぇよ!!」
お姫様抱っこで俺の事を助けたカーティオの髪を軽く引っ張り怒りを表現する。
「ごめんごめんって! でももう安心していいよ、俺がミッちゃんを護るから」
「ペスさんも居るぞ〜」
腹立つけどまぁ安心感はあるな。
「神魔級が2人か」
ゼロがそう言うと同時にペスラが蹴りを入れる。ゼロは何とか防ぐが防いだ手を器用に足で外されがら空きになった顔に強烈な一撃を喰らった。
「ッ!」
「ここで少し待っててねミッちゃん」
面だけはいいんだけどなぁ。
「助けてもらった時に失礼なこと考えないの!」
「ちっ」
まぁホッとしたのは本当だし後で抱きしめてやるか……いや調子乗るからやめとこ。
「フィーとトロリアットは大丈夫か!?」
「生きてるぞ〜」
フィーは倒れながら手を振っている。トロリアットはシュティアが確認してくれているな。
「……エレナここは任せた」
俺はエレナのことを見ずにチグリジアを見ながら言った。エレナは俺の事を見て肩に触り
「無理しないで」
と優しく言ってくれた。
ロキスクとチグリジアの間に入り攻撃を止める。両者共に驚いた様子はなく落ち着いて距離を取った。
「ノーチェ」
ロキスクは不安そうに声を掛けてくれたがチラリと目線を合わせて直ぐにチグリジアのことを見た。
「先生」
「……帰ってくる気はないかい?」
俺の言葉を聞いたチグリジアは優しく笑いながら答えた。
「私を愛してくれるなら」
「それはこの惨状を認めてくれってことかな」
「はい、そうです」
全く悪意のない返事……あぁもう既にこの子も。
「わかった、そしてごめん」
刀を抜いてチグリジアの首に刃を振るう、髪が切られ首に刃が入った瞬間に大きな手が俺の刀を止めに来た。
「……君まで俺の邪魔をするのかい?」
「いいや、お前だけじゃない」
ゼロの方を見るとレリアとセナが戦いを止めていた。
「そう、ならやめよう」
ゆっくりと刀を離し鞘にしまう、チグリジアは切られた髪と首を確認して嬉しそうな顔をしながらハレンの元へ歩いていった。
「けど魔王のみんなが止めに来るとは思わなかったよ」
「……まぁなそれにハレンはともかくゼロとお前が戦うってんなら黙って見ている訳にもいかない」
どういう意味かは分からないけどこれで戦いが終わるなら俺は構わないんだが。
「さて……2人ともずるいぞ! 僕に黙ってこんな楽しそうなことするなんて!」
俺とゼロは3人の魔王に怒られていた。
「セナの言い分は置いといて……こんな所で魔王同士戦ってどうする」
「……」
ハクゼツの言うことは最もだ。でも俺は悪くないもん。
「確かに考え無しの行動だった……すまない」
ゼロが頭を下げる。これに関しては結構意外だったが他の魔王が驚いている様子がないので特段ツッコミを入れることはしなかった。
「そしてノーチェ……お前に関しては六王を殺そうとしたハレンを止めた側になる訳だが、これはこれで問題だ。元々六魔王と六王は敵対している。それを庇うってことは六魔王に敵意ありと考えられてもおかしくないぞ」
他の魔王たちの圧が変わる。ずっと黙っているレリアでさえ目付きが変化していた。
「敵意も何も俺の仲間に六王が居たってだけの話だ。それを殺そうとするなら戦うのが道理だろ?」
「それは相手が俺たちでもか?」
ゼロが前を向いたまま質問する。そして俺もゼロのことを見ずにそのまま返した。
「誰でもだ」
「ノーチェ……俺達は世界の――」
「これはリーベさんにも言っていたことだけど俺は仲間がいるから世界を守るだけだ……世界の為に仲間を犠牲にさせるくらいなら俺は持っている全てを使い世界を救う。お前たちが世界を守るだとか世界の均衡だとか言っているのはわかってるけど守るために俺の仲間に手を出すならその全てを潰して回る……そして最後に俺が世界を救ってやる」
ハクゼツは黙り込み、レリアはゼロを見る、セナは薄気味悪く口角をあげて、ゼロは何も反応せず空を見上げていた。
「……やっぱりお前は化け物だよノーチェ」
ゼロがボソリと呟いた。
「それはお前たちも――」
「いや違う……お前は自分のことを愛せない化け物だ」
……。
「……は?」
「他者から愛してもらうことでしか自分を認められない化け物だよ……昔からお前はずっとな」
ゼロの発言に困惑しているのは俺だけじゃない、他の魔王もゼロを見て不思議そうな顔をしている。
「何を言って」
「ノーチェ……お前の真の怖さは認めてもらう為なら何でもするっていう所にある。努力するにあたり自分で認められなければ疲れても、倒れても、腕が折れても、体が壊れても永遠と続けることができる」
永遠……と。
「そしてお前は今仲間に認められ共に愛されて止まることができている」
「それなら問題ないんじゃないのか?」
ハクゼツが口を開く。
「あぁ仲間がいる間はな。でももしその仲間が居なくなればどうなるか……暴走するんだよ」
「え……」
「過去の仲間に認めてもらいたい、愛して貰いたいと願い仲間を奪った相手、その家族、その国、その世界全てを破壊し続ける。もちろんそれを認めてくれる友も仲間もその場にはいない。そうなれば止める手段はその化け物を殺すことだけだ」
ゼロの発言は周りからすれば妄想の中の話だろう。しかし俺は……3000年前に起こした事件のことを聞かされているようでとても恐ろしかった。でも……。
「仲間を失わなければいいんだろ?」
「……お前」
「俺は仲間を見捨てない。失うなんてことは認めない」
ここでようやくゼロが俺の目を見た。……その時のゼロの目はどことなく悲しそうだった。
その後ゼロは転移で帰還、ほかの魔王たちも帰って行った。ハレンはいつの間にか居なくなっておりチグリジアも姿を消していた。会場の生徒、先生、各国のお偉いさん方は避難が終わっておりそこには助けに来てくれた7人と俺が会場の中央に集まっていた。
「……みんなありがとう」
「ノーチェが困ってたんだ! 助けるのは当たり前だぞ!」
「まぁ……私の服を1週間でいいわよ」
「友達だから」
「ノーチェ様のお役に立てて光栄です!」
「や、やった〜」
「ミルちゃん怪我は?」
「俺は膝枕で」
カーティオのおでこに氷の塊をぶつけて笑いを取りその場を和ませる。さっきの話を聞いていたはずなのに何も言わないのはみんなの優しさだろう……。
「……本当に、ありが……と」
ぼふっ
「あっ!」
「それはちょっとずるいんじゃない?」
……みんなが文句言ってる。
「転移使えるやつの特権だよ。それにようやく片付け終わってここまで来れたんだ……この位は許してもらわないと」
眠い、あとなんだろうこの安心する香りは。
「クイックに怒られるぞ〜」
「許可は貰ったよ。それにあっちも結構好き勝手してるから」
柔ら……かい。
俺は温かさと優しい香りのおかげでそのまま眠りについてしまった。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ【星喰らい】
天月姫Lv7
所持アイテム星紅刀、楼墨扇子
《耐性》
痛覚耐性Lv6、物理攻撃耐性Lv10、精神異常無効Lv10、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv8
《スキル》
導く者、貪慾王、高慢王、支配者、知り尽くす者、信頼する者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、不達領域、完全反転、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv7、火流魔法Lv5、水泡魔法Lv10、水斬魔法Lv10、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、風新魔法Lv7、風斬魔法Lv3、土石魔法Lv10、土斬魔法Lv9、土流魔法Lv9、回復魔法Lv10、破滅魔法Lv4、幻影魔法Lv10、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《七獄》
強欲、嫉妬、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者/呪いに愛された者/病に愛された者
ケルロス・ミルキーウェイ
星帝白狼Lv8
《耐性》
痛覚無効Lv6、物理攻撃無効Lv3、精神異常耐性Lv5、状態異常無効Lv3、魔法攻撃無効Lv9
《スキル》
知り尽くす者、信頼する者、混沌監獄、研究部屋、不達領域、完全反転
《魔法》
水泡魔法Lv5、水斬魔法Lv6、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv8、稲妻魔法Lv9、創造魔法Lv7、光魔法Lv10、神聖魔法Lv9
《七獄》
強欲、嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥帝土竜Lv7
《耐性》
物理攻撃無効Lv5、精神異常無効Lv4、状態異常耐性Lv5、魔法攻撃無効Lv5
《スキル》
貪る者、永久保存、欲望破綻
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv8、火流魔法Lv3、風新魔法Lv6、風斬魔法Lv10、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv10、闇魔法Lv3
《七獄》
暴食