201話 観客席
「寒い」
「ミッちゃん寒いのはダメなの?」
火鉢占領しながらよく言うわ。
「あのねぇ……俺は蛇だよ? 変温動物なんだけど」
「あ〜そうだったね。ということは冬のミッちゃんは弱いの?」
……確かにその辺はどうなんだろう考えたこと無かった。
「よく分からないって顔してるね」
「ペスラ」
温かいココアを3つ作ったペスラが話しながら現れる。
「あんまり意識したことなかったからね」
冬になって変わったことと言えば布団から出られるなくなった事くらいだ。てか氷結魔法使ってる時点で寒い環境にはいる訳だから平気なのかな。
「……いずれ分かるといいな」
ホットココアを飲みながらカーティオが言った。
「自分の力なのに分からないの不甲斐なさすぎる」
それ聞いた2人はクスクスと笑っていた。
「うぅ〜」
「どうしたシュクラ」
「この季節は静電気が多いから毛が逆立つんだって」
キャネルが髪の手入れをしながら話した。
「てかリリュクは随分と雰囲気変わったな」
前までは紫の髪を長く伸ばしていたが今はそれを1つに結び前髪も整えている。
「まぁ元がいいからね」
そしてこいつは少し生意気になった。
「髪で思ったけど先生って長い髪してる割には全然結んだりしないよな」
ウィグがヴィオレッタと共に現れる。最近この2人はよく一緒にいるがダンジョンで何かあったのだろうか。
「確かに……あとはあの特徴的な瞳、深い緑色と綺麗な赤。今まであんな瞳は見たことがないね」
「オッドアイってやつだろ? 瞳じゃないけど髪ならウィラーも似たようなもんじゃね?」
俺の肩に腕を回してカガリが答える。
「確かに、紫と赤なんて見たことないな」
「割と気にしてるんだけどな」
クラス内で笑いが笑い声が響く。そんな時だった。
ガラガラ
「ん?」
「授業には……まだ早いけど」
あれは生徒? いやあの無駄にカッコつけた羽織は……。
「私達は統制会、この学園で生徒をまとめている者だ。まぁ……名前くらいは知っているだろう?」
統制会……学校の優秀な生徒が集まり作られた委員会にも部活にも属さない組織。学校内で問題が起きた際に動くらしいが……今更特殊クラスに何の用だ。
周りが警戒していると真ん中の偉そうな女の隣に立つ優しそうな男が口を開いた。
「警戒しないでくれ……僕達はこの先行われる行事氷魔祭について話をしに来ただけだ」
氷魔祭……生徒対抗のイベントだ。特殊クラスには呼ばれる生徒は居ないと思っていたんだけど。
「このクラスから参加者が4人も居てね。今から名前を読み上げるね」
男がそう言うと隣にいた小さい少女が書類を渡した。
「では……ウィラー・レーベン、シュクラ・サレリア、レオ・エリシュ、チグリジア・クールー」
「え?」
俺の反応は正しかったようで他の生徒も驚いた顔をしていた。
「どうしたのかな? 何か問題でも?」
どう説明したらいいか悩んでいるとアゼルが前に来て統制会に話し出した。
「ウィラー、シュクラ、レオが呼ばれるのは分かる。しかしチグリジアが呼ばれるのは理解出来ない。チグリジアは直接戦闘能力がないサポーターだ。1体1で戦う氷魔祭では勝ち目がないと思えるが」
その通りだ。チグリジアが戦うところなんて。
「そう言われてもこれを決定したのは教師達だからね。僕達にはどうにも出来ないよ」
そう言うと統制会は全員その場から居なくなった。
「どういうことだ」
俺の疑問は消えないまま授業が始まる時間になってしまった。
「チグリジアが氷魔祭に?」
「はい! さすがにおかしいと思ったんですけど本当ですか?」
……生徒たちの話によるとチグリジアを出場させるのは先生たちが決めたってことらしいな。でも俺はそんなこと聞いてない。ロキスクの独断……? いや生徒を大切にしてる理事長がそれをするわけが無い。でもうーんみんなで話し合って決めたと言うなら仕方ないかぁ……後で事情だけでもロキスクに聞いてみるか。
「こっちも色々確認してみるよ」
とりあえず今は授業だ。チグリジアはともかくレオ、ウィラー、シュクラはこのクラスでもトップレベルの実力者。是非いい成績を残してもらいたい。
「……そうだな今回は少し面白いことをしてみよう」
そう言って俺は生徒たちを訓練場に連れてきた。
「また先生と戦うのか?」
「いや……それもいいんだけどね」
黒板に字を書きながらレオの質問に答える。
「……まさか」
さすがはウィラー俺の狙いに気づいたか。
「ん?」
「うわぁ」
「さて、こんな感じで別れてくれる?」
このクラスの人数は12人、4人が推薦されたなら8人残る。というわけで……。
「2対1で戦ってみよう!」
「最悪だ」
今回の組み合わせはこうだ。レオには魔法が得意なヴィオレッタと回避に長けるアゼル、シュクラは遠距離からの攻撃が得意なナツとカガリ、ウィラーは近接戦闘が上手いガッシュと足止めや妨害が使えるリリュク、最後にチグリジアは……ウィグとキャネルなんだけど余った感はあるてかチグリジアの得意が分からないし戦い方も不明だからもうどうすればいいのかすら分からない。
「本当に性格悪いわあの先生」
「全くだな……俺たちの苦手を当てたってことなんだろう」
「ん? どういうことだ〜」
「……」
「まぁそう言うな、とにかく始めるぞ」
俺が合図するとそれぞれが戦いを始めた。
「はいお疲れ様〜」
「お、お〜」
レオ以外は意気消沈か……まぁあんだけ戦えば疲れるよな。
結論から言えばチグリジア以外のメンバーは全員勝ち残っている。しかしダメージも大きく直ぐに走り回ったりはできそうにないな。
「それで……チグリジアは」
「すみません、でも私今は戦えなくて」
「そうか、まぁ氷魔祭も無理はしなくていいから」
「……はい」
今は……か。何か隠しているんだろうけどここまで分からないってのも怖いな。
俺はチグリジアの得体の知れない何かを感じながら放置するしかなかった。忙しいというのもあったけれどチグリジアのことを調べても昔盗賊に襲われた村の生き残りとしか書かれていないのだ。それ以上……本当にそれ以上の情報は全く手に入らない。バールを使っても……クイックに頼んでも。
「まるでいない人間のように」
「先生?」
「あっ……ごめん。みんなの怪我は治したからとりあえず教室に戻ろう」
全員を教室に戻し戦い方のアドバイスや弱点の改善を勧めて今日の授業は終了となった。氷魔祭まで1週間、できる限りみんなの強さアップに付き合ってあげないと。
俺は日課のレオとの特訓を終わらせて荷物をまとめていた。すると扉の外からガタンッと音がした……不思議に思い外を見たがそこには何も無かった。気のせい……もしくはロキスクのイタズラだろうと扉を閉めた時風が吹いたのか室内に冷たい空気が流れ込んできた。それに乗って俺の足元に落ちたのは何かの切れ端だった。
「布……?」
どこかで見たような……。
しかしいくら考えても思いつかなかったのでとりあえずそれをポケットに入れて学校を後にした。
1週間後
パンッ! パンッパン!!
「高々生徒同士の戦いにここまでするものなのか?」
トランペットが鳴り響く中ボソリとつぶやく。俺の声は隣に居たリリュクには聞こえていたようで耳元で反論された。
「この戦いは国のお偉いさんだけでなく他の国からの使者なども訪れます。盛大に祝わなければ質が悪いと思われますから。それにこの戦いで優勝した生徒は国のいい地位に座れますから」
なるほど……戦力調査か。
「詳しいなリリュクは」
「は、はい! 勉強をいっぱいしましたので」
なんか撫でて欲しそうだったので優しく頭を撫でる。リリュクは少し恥ずかしそうな様子を見せたが直ぐに下を向いて黙り込んだ。
「開始時間30分前ってのに王様はもう登場か……いい王様だねぇ」
キャネルがホットドッグを片手に言った。それどこで手に入れたのかものすごく聞きたいんだけど……ってそれは置いといてシャネルは相変わらず真面目だなと感心するのだった。
「てかこれ何回戦あるんだ?」
「先生の癖になんも調べてないんだな」
呆れ様子でウィラーが言った。そして持っていた紙を俺の前に差し出す。
「トーナメント形式、参加者は48人か」
「そう、レオが3回戦で俺が7回戦、チグリジアは……10だな。そして最後にシュクラだ」
結構あるけど一日で終わるのか? あっそうだこのお祭り3日間続くの忘れてた。
「楽しみだね〜」
「……それにしては早く終わって欲しそうだな」
うっ。レオの視線が痛い。
「もしかしてだけど……先生って寒いの苦手?」
「いや苦手ではない!」
「その割には着込んでるけど」
ヴィオレッタが俺のコートを引っ張り言った。
「いやだって今にも雪降りそうじゃん」
「寒いんだ」
まぁ寒いと言われても仕方ないか……俺の装備はめちゃくちゃ長いコート、その中には羽織る上着、一応ちゃんとした席らしいので黒いシャツ。下は普通のズボン……腰にベルト巻いてるけど今回のは普通のやつだ。
「ま、まぁとにかくみんな座ってなさい」
「はいはい」
みんなは楽しそうに自分の席に戻り試合が始まるのを待っていた。
「皆さんお待たせ致しました!!」
ようやく始まる。無駄に長い待ち時間が過ぎ去り司会がようやく動き出す。まぁこのあとも無駄に長い話を聞かされた訳だが……それもここまで。1回戦がついに始まるのだった。