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転生先は蛇さんでした。  作者: 時雨並木
瓦解編
201/261

200話 切れた糸

ダンジョン攻略から数日……リリュクの様子がおかしい。普通に過ごしているみたいだけど時折沈んだ顔してるし授業でもボーッとしている時がある。トラウマとか負っちゃったかな……あいつ今度殴っとこうかな? あっご褒美になっちゃうんだった。


「というわけで観光に来ました!」

「どういう訳ですか?」


俺は今リリュクと2人きりでフィデース信栄帝国に来ています。まぁリリュクのリラックスを兼ねてるのは本当だけど俺もそろそろみんなに会いたくなってきた。要するにホームシックだ。


「てか観光で魔王の国ってどうなんですか?」

「まぁそんなこといわないでよ」


やっぱり少し機嫌悪いなあ。どうやって元気にするか……。


「よし! とりあえず遊びに行こう!」

「え?」



「……先生本当に大丈夫なんですか?」

「な、何が!?」

「いや……すごい汗ですけど」

「全然! こんなの全く平気だよ!」


どんだけ登るんだよこのジェットコースター!! ただでさえも高さで死にそうなのにこのまま落下? え? 落下って何!? なんで人類はこんなものな好きな……。


「あっ」

「ぴゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


……俺はその後の記憶が……ない。



「えっと、大丈夫……ではないですね」

「ごめん……まさかあんなに速度出るとは思ってなくて」


魔王と戦った時よりも怖かったかもしれない。


「……少し面白かったです」


リリュクはそう言って口元を隠しながら笑っていた。


「良かった」


少しは楽しめるようになってきたかな。

俺たちはその後も遊園地を遊び回った。……子供の体力ってすごいんだなって思った。



「いやぁ疲れた!」


現在俺たちは遊園地から離れて人の少ない椅子で座っている。……てか誰もいないな!


「そういうのは誘った人が居ない時に言うんですよ」

「ごめんごめん」


リリュクは呆れた様子で言った。でもその時の声は柔らかく硬かった表情もだいぶ緩んでいた。


「……それで? 悩み事の方は解決しそう?」

「……」


先程までの表情は消え去り真剣な顔付きになる。そして夕陽を見つめながらリリュクは答えた。


「いいえ、でも1つ言えることは……今私は死んでもいいって思ってます」

「そっか」


リリュクの魔力の狂いが父親であることはもうバレてると考えていいはずだ。あとはそれを塞ぎ込む大きな理由が他にも存在すると。沈む太陽を見ながら考えているとリリュクが立ち上がり俺の方を向いた。太陽のせいでリリュクの顔が影になり表情は見えないが何が決めたことがあるみたいだ。


「産まれてこなかった方がいい人っていると思いますか?」

「いるね」


俺は即答する。嘘をついても良かったが……嘘をついた所で何が言える。心の籠った言葉が言えると? それなら俺は本心で話をする。それに……今リリュクが求めてるのはそんな安い答えじゃないと思ったから。


「多分……先生ならそう答えるって思ってた。先生はとっても優しくて、丁寧で、教えるのが上手くて最高の大人だけど……残酷で、冷静で、最低な大人だよね」

「そう、見えるかい?」

「えぇ……とっても」


この子はそこまでわかってたのか。少し長く居すぎたかな。


「多分先生の居るべきば所はあそこじゃない。そうでしょ?」


リリュクの質問に答えることも否定することも無くただ黙っている。


「私は産まれた時から最低だった。いつもいつも両親に死ねばいいのにって思ってたし初めて先生に会った時……絵を描いて貰った時でさえウザイって思った。描いていいって言ったのは私なのにね」


自分のことを嘲笑うように吐き捨てる。そしてその言葉には他人を嫌うと言うよりも己自身を……。


「そう……私は産まれた時から」

「血の繋がりを恨んだんだろ?」


俺の一言にリリュクは黙る。


「父親に何をされたか、自分の過去に何があったか……そんなことよりもリリュクはそういう行動をした父親に対して酷く軽蔑した。そしてその父親と同じ血を持っている自分自身を醜い存在として作り上げた」


草木が揺れる。風の音が大きく響く。眩しかった太陽がキラキラと輝く。消える直前の火が最後に輝こうとするように。


「1度醜いと思ったことで自分自身のことが嫌いになり過去の出来事に新たな自分を当てはめた。思っていなかったこと……本当は考えてもいなかったことを――」

「違う! 私は本当にそう思ってたの! だから……だからそれが」


強く握られた拳……俺はどうするべきだろうか。


「それで? 俺に嫌われたくてあんな言い方したの?」

「それも違う! あれは私が本当に思っていたことで!」


パシッ


「先生」


太陽が沈みリリュクの顔が見えてくる。


「嫌いな奴のことを話す時に泣くなよ」


拳を解くように手を優しく握る。耐えきれなくなったのかリリュクは目から涙を溢れさせた。


「私はお父様と知らない女の人の子供だった。お母様はそのことを知らない……いいえ、産んだ記憶があるってことは恐らくお父様に記憶をいじられてる。そんな……そんな恐ろしいことをする自分の父親が怖くて怖くて仕方ない! 自分のためなら妻も娘も何もかもを使う自分の親が!」


泣き崩れそうなリリュクを抱きしめて背中をさする。落ち着くまで……いつまでも。



「ごめん……先生」

「問題ない。それに生徒の悩みを解消するのも先生の役目だ」


俺が魔王ってことはバレてないみたいだ……セーフ! いやぁここに居るべきじゃないみたいなこと言われた時は焦ったよ。あれが本心なのかどうかは置いといてね。


「それでリリュクはどうするんだい?」

「私は……」


俺とリリュクは少し寒い星空の下で今後のことについて話をした。



バタンッ!

タッタッタッタッタッタッ!


「なんの騒ぎ?」

「さぁな……まぁ何かあれば敷地内にいる警備が」


バタンッ!


「ザレス・ポーレンだな! お前には違法魔法の使用や記憶改変違反などの容疑が掛けられている!」

「な、何を言って!」

「これは……一体」

「バレス・ポーレン! お前も魔法とは違うが横領や殺人の容疑がかけられている!」


2人は兵士に囲まれ抵抗虚しく捕まってしまった。その様子を部屋の外で見ていた俺達の前に2人が通りかかる。


「お前……」

「リリュク! 私の無罪を証明して! 私はこんな」


母親の言葉は無視して父親のそばに歩み寄る。父はリリュクに何か期待した様子で立っていた。


「リリュク! やはりお前なら助けてくれると思っていたぞ!」


笑みを浮かべながら娘を見る……しかしその笑みは娘に向けられ物にしては自分勝手で欲望にまみれた笑みだった。


「魔力の狂いはお父様がやっていたのですね」


それを聞いた父の顔から血の気が引いていく。今頃になって気が付いたのか……自分が子供に裏切られたことを。


「お前……お前が」

「母様のことも全て……昔の家の庭を掘れば骨が出るでしょうから」


真っ青な顔をした父親が振り絞るように話し出した。


「お前は……娘で、お前は俺の為に」


リリュクの顔に怒りが見える。しかしここで手を出せばリリュクにも刑罰が下る可能性がある。そこで俺はリリュクにひとつの提案をした。それは……。


「お父様……」


リリュクが父の頬を両手で掴み顔を近ずける。既に恐怖で顔が引きつっている父だがこれだけでは終わらない……いや終わらせない。


「ざまぁみろ」


そう言ってリリュクは歪んだ笑顔を父親の心に刻み込んだ。



その後は兵士が2人を連行、屋敷はリリュクの物として管理されるが年齢的に厳しいので国が預かることになった。しかし権利はリリュクにありこれから大人になるまではそこでリリュクが過ごすことは許可されることになった。リリュクの魔力は時間と共に正常に近ずいていき本格的な冬を迎える少し前にはぐちゃぐちゃだった魔力は綺麗な姿になっていた。……そして。



「わざわざ呼び出しって……なんなんですか」

「まぁまぁそう言わずにさ」


休日に学校呼び出しされればそうなるよね。多分俺なら来ない。


「今日は美味しいパイでも作ろうかなって思ってたのに」


ブツブツと文句を言いながらも俺より早足で教室に向かっている。こういうところは可愛い。


「ここですね……っていつもの教室じゃないですか」


何か期待していたのか少し残念そうにリリュクは扉を開く。そこには大きくて真っ白なキャンバスが置かれていた。


「……これは?」

「好きな絵を描いてくれないかな?」

「こんな大きなキャンバスに?」


苦笑いをしながら絵の具を使い真っ白な世界に色を付ける。青や赤、緑に黄色……様々な色が白い世界に増えていく、そしてそれは。


「先生?」

「俺も描こうと思ってな」


1人……2人……3人と増えていく。


「面白そうなことしてんじゃん」

「はいはいそういうのいいからずっとスタンバってたでしょ?」

「そういうナツは一番乗りだったな」

「ウィラー?」

「すみません」


色々な色が混ざりあう。ただ適当に描いているだけなら汚くなるだろう。しかしこのクラスはもうみんながみんなのことを思える優しいクラスだぐちゃぐちゃになることなんてもうない。


「……うっ……うぅ」


涙を零しながらもリリュクは手は止めずに絵を描き続ける。他の生徒も何も言わずにただただ絵を描き続ける。


「ありがとう……あり……がとう」


声を上げながら、涙を拭こうともせずリリュクはずっと色を塗り続けた。……それは多分キャンバスだけじゃなくて色のなかった自分の世界にも。

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