197話 ダンジョン内の暴走
流石に強いなあの二人は。
ウィラーの怪我を治して教室に戻した俺は再び画面を見る、そしてひとつの違和感に気がついた。
「レオとリリュクの画面が固まった?」
「どう? 傷は痛む?」
「いやだいぶ良くなってきた。痛み止めが効いたみたいだ」
雪はまだ少し降ってるけどさっきほどじゃない。
「この後どうする?」
「どうするって……うーん」
どの道あの洞窟にいたら逃げることも敵を倒すことも出来ないからなぁ……だからってこのまま歩き続けても。
「治ったの?」
知らない男の人の声?
「ウィグ!!」
私が叫ぶより早くウィグは私のことを掴み後ろへと隠してくれた。
「お前は誰だ」
「君、なかなかいい動きするね。エルフと言うよりも獣人みたいだったよ」
ゼロ距離で声をかけられるまで分からなかったなんて……反応できたのはウィグだけだったし。
「褒めてくれるのは嬉しいんだけど……質問に答えてくれないかな」
弓を構えたウィグが低い声で聞く。
「……僕は六大獣蟲の1人ウォルト・シャープ。よろしく」
小さい男の子、7歳とか8歳位に見える。でもあの本能に訴えてくるような恐怖は子供が出せる威圧じゃない。
「ここのボスだな」
「ボス……とは少し違うかなぁ。でもまぁ僕のことを倒せればここから出られるよ」
シュッ!
「……」
ウォルトは矢によって傷つけられた頬から出た血を舐め取り薄気味悪い笑みを浮かべた。
「いいね、その容赦ない感じ」
「戦えるか?」
ウィグが優しい声で聞いてきた。そして私はウィグの指を強く握り答える。
「当たり前でしょ」
私はウィグの肩あたりに移動して魔法を込めた。
「怪我は本当に大丈夫?」
チグリジアが不安そうに怪我した辺りを見つめる。
「大丈夫だ、痛みもない」
俺は腕をぐるぐると回してチグリジアを安心させてやる。
「それにしても真っ黒な人だったね」
「そうだな、それにあれは」
外骨格? 人体の硬さじゃなかったぞ。
「とりあえず……進む?」
「あぁそうしよう」
あの男はいずれ倒す。今は他の仲間と合流することを1番に考えよう。
……。暑い、ここはどこ? 身体中が重くて痛い、私は何をして。
「はっ!」
意識がはっきりした私は慌てて起き上がる。しかし周りは暗くなっておりカガリもあの蛇も居なかった。
「ここは」
そうだ、私はカガリに突き飛ばされてどこかに落とされたんだ。
「早くカガリの所に戻らないと」
幸い怪我はないし体力も魔力もある程度回復してる。今なら戦える。
タッタッタッタッタッタッ!
どこまで落ちたの? それに落ちたにしては上に出口がある感じもない。平坦な道が続いてる。あとは燃えてない……この辺りはさっきの場所とは違って炎が発生していない。ここだけ特別な場所ってこと?
色々気になることはあるけれど今は仲間と合流するのか先決。そしてまだ戦ってると思われるカガリの救出を最優先に考えて。
グチャ!
「きゃっ!」
何? 何か柔らかいものに足が。
「痛ぁ……ってこれは」
暗くてよく見えないが何かの棒?
私は引っかかった物を手に取り確認した。
「これ……は」
人の腕、それにこの獣人特有の獣臭。カガリなの?
「は、ははは……あははははは」
大丈夫、まだ生きてる。生きてるはず。大丈夫大丈夫……きっとまだ。
ビチャッ
「なに……これ」
腕を持っていた手の甲に何かヌメヌメした液体が落ちてきた。あぁ……確認しなくてもわかるよ。
「血……か」
全てを察したゆっくりと上を見た。
「……はは」
そこには誰かわからないレベルで肉塊に変えられたカガリが居た。
あの娘には申し訳ないけどこのくらいはダンジョンじゃ当たり前だからね。それにカガリって男の子はちゃんと生きてるし今は安全な所で眠ってるから――ッ!?
「見つけた」
いつの間に!? さっきまであそこにいたじゃない! どんな速度でここまで!
バシュン!!
「きゃっ!」
私は自分の後ろにあった木を確認して血の気が引いた。
「嘘」
たった一本の矢で木がバラバラに。
「あはははははは!」
こいつはやばい!
手加減をするように指示されていたけどそんな余裕もう!
バリバリバリ!
何この音……というかその色と魔力性質は。
「ライトニング・ショット!」
「ッ! 土岩壁!」
何あれ! 本当に子供のエルフなの!? あれじゃあ私と同じ位――
「エレクトロ・ダンス」
複数に別れた矢が! これじゃあ対応しきれない!
「手加減はなしよ! マグマ・チェーン!」
矢は全部弾いた、こうなったら仕方ない矢を打ち尽くすまでどうにか持ちこたえるしか。
「サンダー・ショック!」
地面を伝って衝撃を……。
「ライトニング・デス・スナイプ」
「メルト・ボム!」
目が正気じゃないそれにあの腕、今まで使ったことの無い稲妻魔法を連発したせいで負担がかかりすぎてる。あのままじゃ先にあの子の体が壊れちゃう。……仕方ない主に頼るのは嫌だったけどこれは非常事態だしね。
「トロリアット様、シャーネス様からご連絡です」
「本当に私が呼ばれるとはね……まぁ殺しちゃいけないって難易度高いし仕方ないか」
場所は炎熱の間、いるのはコウモリの獣人とエルフだったっけ? まぁ平気でしょ。
気持ちいい、このまま全部壊れてしまえばいい。私の親を奪ったあの王様も、私のことをいじめたあの友達も、私のことを殺そうとするあの敵も……そして私が1番嫌いな私自身も。壊れちゃえばいいんだ。
「あは、あははは、あはははははは!!」
「トロリアット様!」
「ん〜……あれね。シャーネスは下がってて」
「はっ!」
新しい……敵が来た。
「さぁおいで、私が全部受け止めてあげるよ」
「ライトニング・アロー!!」
「……ブラッド・ティプシー」
「……ツ! ナツ!」
誰かが私を。
「……! 早……治……!!」
「わかっ……。1度……」
私を呼んでる?
「ナツ! 起きろナツ!」
「……カ、カガリ?」
「ナツ!? 先生! ナツが目を覚ました!」
「良かった。大丈夫かいナツ?」
先生? ここは一体。
ガバッ!
「敵は!? というかカガリ生きてたの!?」
「え? あっうん! 何とかね」
安心した私は胸を撫で下ろした。
「ふぅ」
生き残った……また生き残ってしまった。
ガッ
「……え? ちょ! えっ!? なっ! 何してるのよカガリ!」
急に抱きしめられた私は腕をバタバタさせながらカガリのことを呼んだ。
「良かった……本当に生きててくれて良かった」
カガリは強く私を抱きしめながら言った。
生きててくれて……良かった。
「……ふふ、当たり前でしょ! 私は強いんだから!」
半泣き状態のカガリの頭を撫でる。
「ありがとう」
「え? 今なにか」
「なんも言ってないわよ」
私の顔を見ようとするカガリの頭を強めに押して元あった場所に戻してやる。しばらく抱きしめさせたあとカガリは名残惜しそうに離れていった。
「戻ろう」
「……そうね」
カガリはフラフラな私の肩を持って教室までゆっくりと運んでくれた。……後ろで先生がニヤニヤしていのがなんだかものすごくイラッとした。
稲妻魔法を習得したか……でもまだ操りきれてはいないらしい。
「いやぁ、あの暴走一時はどうなるかと思ったよ〜」
腕を伸ばしながら言った。そして直ぐに真剣な顔付きに戻り。
「トロリアット」
「は、はい」
少し焦った様子のトロリアットがビクリと体を震わせながら口を開く。
「モニターやダンジョン自体に異常は見られませんでした」
「そうか」
俺はトロリアットに暗黒の間の異常について調べてもらっていたのだが……この怯えようは。
「やられたか?」
「……おそらくは」
ダンジョンに侵入者があればすぐに分かる。ということは外部からの犯行じゃない……裏切り者が出たか。
「転移は出来ないのか?」
「はい……どうやらキャンセルされてるみたいで」
いつも元気なトロリアットがものすごく沈んでる。まぁ部下がやらかせばそうなるよな。
「わかった。転移できないなら歩いて向かうしかないだろ」
跪くトロリアットに手を差し出す。
「ノーチェ様」
「ほら行くよ」
トロリアットは目元を拭くような仕草を見せてから俺の手を強く握ってくれた。
……なぜ裏切ったのか、事情をしっかりと聞かないとな。生徒たちの無事を祈りつつ俺はダンジョンの中へと進んでいった。
シリーズ
転生先は蛇さんでした。