196話 魔力的暴力
「いやぁ……やりすぎやりすぎ」
俺は残った5つの画面を眺めながら呟いた。
思ったよりも威力の高い攻撃でびっくりしたのかイラついて力加減をミスったのか……呪い返しがあと数秒発動されなければ転移で助けに行くところだったわ。
さてと……気を取り直して続きを見るとするかぁ。
「傷は大丈夫?」
「あぁてかかすり傷だ」
やっと暗闇に目が慣れてきた。そしてさっきまでは気付かなかったけどここの岩は少しだけど明かりを発している。これなら何とか足元を見ることはできるな。
「それにしても他のやつに会わないなぁ」
「確かに……大丈夫かな」
まぁみんな強いしそうそうやられることはないと思うが。
カチカチカチカチ
「ん?」
「なんの音?」
気味の悪い音が俺達の周りを囲んでいる。これは……油断したな。
「結構な数だ、俺が魔法を放って退路を作る」
「2人で脱出ね」
リリュクの表情は暗くてよく分からないがニヤリと笑っている気がした。
「ウィンド――!」
「下がれ」
奥から聞こえる男の声、しかしその声はとてつもなく気味の悪い声だった。
「いやぁ、この子達はなかなか言うことを聞いてくれなくてねぇ私は君達を誘導するように頼んだんですけど、まぁここで殺す気満々なんですねぇこの子達」
こいつはやばい……なんでこう俺は本能に訴えかけるタイプの強者によく出会うんだろうか。
「そいつは大変だな……それで? 俺達はどうすればいいんだろうか」
冷や汗が止まらないここから走って逃げだしたい。いや逃げ道なんてないか。
「合図したら攻撃する。手加減はするな今出せる全力を出すんだ」
「わかった」
位置は何となくわかる。さっきまでの化け物達と違い足音がするし匂いもわかる。これなら攻撃を当てられる!
「エアロ・バースト!」
「ウォーター・ドラゴン!」
魔法を放ったその瞬間……暗闇に光が産まれた。
「フラッシュ」
「きゃ!」
「うっ!」
「暗かった……ですよね?これで明るくなりましたよ」
目が急な光を受けてチカチカする。しかしそれで敵に目を逸らすのは……。
「って何してんだお前!」
「いや、君たちの目が慣れるまでお茶でもと」
真っ白な服を身にまとい細目で優しそうな顔をした男は椅子と机を用意して優雅にお茶を飲んでいた。
「どうですか? 君たちも?」
男は指を鳴らし椅子をふたつ用意した、いつの間にかお茶まで用意されてるし。
「敵のお茶なんで飲めるかぁ!」
「あっこれ美味しいです!」
リリュクぅ!?
「こっちもいりますか? 私が作ったお菓子なんですけど」
「もふいひゃひゃいてまふ……うっ!」
「どうしたリリュク! やはりお前!」
「これ美味しいです!」
ぶっ飛ばすぞお前!
「君もどうだい?」
「怪しすぎるわ!」
「あっははははは」
細目の男は盛大に笑っている。
「お前本当に敵か!?」
俺がそう言うと男は紅茶を置いてニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「敵だよ」
ガチャン!
「……お〜怖い怖い」
リリュクが隠し持っていたナイフを男の首筋に当てる。男は両手を上にあげて目をつぶった。
「リリュク」
「わひゃひが本当にふぁんの考えもふぁくお茶飲んだり……んんっ! ふぅ、お菓子食べたりしてると思ってたの?」
はい、その通りです。
「酷いなぁ、私のお菓子は美味しくなかったですか?」
「お菓子は美味しかったです。ご馳走様、でも敵である以上はこの刃は下ろせません」
「はぁ……残念」
男が呟いたと思った瞬間バキッと嫌な音が鳴り響いた。
「なっ!」
「こんなものはおもちゃと同じです」
指先2本でナイフを粉々に……。
「ッ! ウォーター――」
「遅い」
リリュクの腕を掴み自分の所に引き寄せ、そのまま首元に手を。
「あぶねぇ!」
「レオ!?」
ギリギリのところでリリュクを捕まえられた。本当にやばかったけどな。
「速いな、でもうーんまだ戦うつもりはなかったのですが」
さっきからやる気がねぇのかあるのかわからねぇやつだ。
「恐らくだがこいつは相当強い、ダンジョンクリアするにも他の仲間を待つしか」
「わかった、時間稼ぎか逃げる道を探しましょう」
「よし……行くぞ」
合図とともに俺達は左右に別れた。リリュクは足止め、攻撃は俺だ。
「スプラッシュ・キャンディ!」
よくやったリリュク! ざまぁみろ! ドロドロした足場のせいで動きずらいだろ! そして!!
「先生直伝! 風鴉!」
カラスに見立てた刃が不規則に入り乱れて攻撃する技だ……先生に教わった技の中で最も攻撃範囲の広いこの技なら!
「……粘糸」
!? 空に!
「ッ! メルト・ウォーター!」
「エアロ・ボム!」
体を上手くひねりながら攻撃を躱しやがる! なんなんだアイツ!
「いやぁいい連携です、さすがはあの人のお気に入り」
「あぁ!? 何の話だ!」
「おっと……これはダメなんでした」
意味のわからねぇことばかり言いやがって!
「リリュク!」
「わかった!」
俺はリリュクに向かって走り出した。
「何するつもりでしょう?」
男は不思議そうに俺達のことを見ているが、そんな余裕もここまでだ!
「キャンディ・ショット!」
リリュクの放った攻撃の上に俺が乗る。そして……。
「エアロ・スラッシュ! ファイヤー・タッチ!」
バラバラにした溶ける物体に火をつける。ただでさえも当たればベタベタになるのにそれが燃えた状態で無数に突っ込んでいく、普通なら避けられない!
「当たれぇ!」
俺はリリュクの魔法から降りて落ちながら叫んだ。
「まだやれるか?」
「さぁね……爪も牙も通じないならもう無理かも」
横に立つシュクラは限界が近い、さっき飯を食ったとはいえかれこれ3時間は戦っているだろう。それて何より水っていう足場の悪い環境が最悪だ。
「なかなか耐えるわね」
水を使った魔法でもあっちは全然効いてる感じないし水系の魔物なのか?
「ウィラー、後魔力はどのくらい残ってる?」
「……普通が3発、禁忌だと1発だ」
「どっちかで勝負を決めるしかなさそうだね」
シュクラはそう言って胸元から小さな剣を取り出した。
「それは?」
「……1日1回だけ相手の攻撃を吸収できる剣さ、魔剣? って言うのか?」
それは知らん。
「とにかくあいつの攻撃を吸収して隙を作る。その時に……1番強い技をぶち込むんだ。もし失敗したら吸収した攻撃をそのまま放つからそれはそれで任せろ」
「わかった。全力でやろう」
禁忌魔法は威力は絶大だが暴走の恐れがあるし消費魔力も多くなる。だからって今ここで使わなければ2人とも死ぬか。
「行くよ」
シュクラがそうつぶやくと今まででも見たことの無い速度でリップに突っ込んで行った。
早すぎて姿が見えない、分かるのはシュクラが走った後にできる水しぶきだけだ。
「牙狂い!」
「花切り!」
鎌と牙がとんでもない音をさせながらぶつかっている。
シュクラが時間を稼いでいる間に……。
「十九章二十四番六十八列!」
バシャバシャバシャバシャ
俺の魔法にはそれぞれコンセプトがある十九章は魔力操作、単純なように見えるがこいつは周囲の魔力を自分のものとして扱い全ての物質を操る力。使い方を間違えれば俺が周辺の魔力に全部を持ってかれちまう。
「シュクラ!」
「! よし」
シュクラはリップの横を通り抜け後ろに回り込んだ。
「何を」
「切り刻め! 爪鳴き!」
「千変刺突!」
互いの攻撃が交わるその瞬間……シュクラは攻撃を解除してニヤリと笑った。
「なっ!」
「吸い付くせ!」
リップの攻撃は短剣に全て吸収されてしまった。
「今!」
「いっけぇ!!」
ウィラーの叫びとともに足元の水が槍や剣、様々な武器に姿を変えてリップを攻撃する。
「こんなもの!」
反撃しようとするリップにシュクラは短剣を投げつけた。
「解除!」
先程リップが使用した千変刺突がそのまま本人に跳ね返る。
「これは!」
「押し切れ!」
「このまま!!」
魔力が足りない……でもまだ、まだ倒れられない!
「くっ」
「ッ! これ以上ウィラーに負担は掛けさせない! 爆陣風!」
押し切る! 魔力全部使ってでもこいつを倒す!!
「言うこと聞け魔力共!」
大きな水しぶきが辺りを覆う、リップの姿は水しぶきと共に分からなくなってしまった。
「どうだ」
「魔力探知には掛かってないよ」
倒した? いや油断は出来ない。
「周辺を確認するんだ」
「わかった!」
水音1つも聞き逃すな、気配を感じるんだ。
ピチャン……
「後――」
石……だって?
「残念」
「しまっ……?」
「……ギリギリセーフ」
俺に振り下ろされた鎌はシュクラの爪によって防がれていた。
「シュクラ」
「獣人を舐めるなぁ!!」
爪を思いっきり前に出して鎌を弾くバランスを崩したリップは後ろに倒れそうになる。その隙を見逃さずシュクラは最後の攻撃を……。
「ッ! シュクラ!」
後ろに倒れながら鎌で攻撃を!? このままじゃシュクラの攻撃が当たってもそのまま。……魔力はない、残ってるのは。
ダッ!
「ウィラー!?」
グチャ!
「そのまま……やれ!」
致命傷は避けた、あとはこの腕を離さない。
「お前!!」
「届けぇぇぇ!! 破風斬!」
……。
グチャ……ベチャベチャ
俺の腹を貫通していた腕はリップから切り離されて地面にドンッと落とされる。リップの方は胴体が真っ二つになった状態で立ち尽くしていた。
「勝った?」
「やった! やったぁ!!」
シュクラが俺に抱きつく、しかしその衝撃で俺の腹に刺さった腕がメリィと嫌な音を立てながら押し込まれた。
「痛い痛い! てか死ぬ死ぬ!!」
「あ、あぁごめん」
でもこれで終わりか。安心した俺は口元が緩みふふっと笑ってしまった。