192話 欲望と狂気の中
ダンジョン侵入から20分
「全体的に普通ね」
「そうだな」
今まで出会った魔獣は普通、いや正直弱いなと感じるほどだった。まぁ前回のやつがヤバすぎたってだけの話なんだけどさ。
「結構深くまで来たけど先生は何をさせたいんだろうか」
「まぁダンジョンクリアじゃね?」
飽きてきた訳では無いが先生が何故このタイミングでこんなことを言ってきたのかは気になる。わざわざダンジョン攻略を? いやまぁ安全確認の為ってのもあるか……? 生徒を危険に晒すのが嫌な先生がそんなことするかな。
「そろそろかな」
そう呟き俺は指に掛かっていた魔力の糸を切り離した。
ガコンッ!
バコッ!!
「は!?」
「嘘!」
「また落とし穴かよぉぉぉ!!」
生徒達は叫びながら暗闇の中へと消えていった。
「さぁて、どうなるかな」
「ってぇ、ここは?」
辺りを見渡すが暗くてよく見えない……。
「はぁ」
座っていてもどうにもならないと思い立ち上がった時何かが俺の顔にぶつかった。
「きゃっ!」
「うぉ!?」
ってこの声は。
「リリュクか?」
「レオ……?」
指先から炎を出して顔を確認する。
「やっぱり」
「他のみんなは……」
キョロキョロと周りを見るが人の気配は無い。
「はぐれたな、まぁ道は1本しかないしこのまま進もう」
「そうだね」
シュタッ!!
「ふふん! このくらいなんてことない!」
「うわぁぁぁぁ!!」
「おっ? とい!」
「た、助かった」
上から降ってきたのはウィラーかぁ〜……他に匂いは無いしここにいるのは私とウィラーだけかな。
「お易い御用さ! なんだろうねここ」
奥には川がある、前回来た時はこんな所なかったのに……一体どういうことだろう。
「とりあえず進むか」
ウィラーが立ち上がり私の横に立つ。
「……変わったねウィラー」
「あぁ、変わったよ」
私はウィラーの反応に驚く、いつもなら絶対変わってないって答えるのに。それを否定しないどころかそんな穏やかな声で。
「そっか、まぁそれじゃあ前に進んでいこうか!」
ウィラーの手を取り崖を下る、少し騒いでるみたいだけど変わったウィラーなら大丈夫なはず!!
バサッバサッ
「大丈夫かナツ」
「えぇ、ありがとう」
落とし穴が広くて助かった、これなら羽を広げられる。
「私のことを掴めるくらい力があるなんて、凄いのね」
「一応獣人だしな」
スタッ
「暑いわね」
「そうだな」
蒸し暑い、息か詰まりそうだ。
「さっさとクリアして冷たい水でも飲みましょう」
弓を用意してナツが言った。
「さすがだな」
咄嗟の判断力はレオよりナツの方が早いかもしれないと思いながらナツの前を歩くことにした。
「うわぁぁぁぁぁ!」
「落とし穴は飽きたってぇぇぇ!! ……あっ私飛べるじゃん」
「裏切り者ぉぉぉぉぉ!」
バコンッ!!
あれは背中逝ったなぁ。
「ぶはぁ! 死ぬかと思った!」
「おぉ〜よく生きてたね」
「一応鍛えてるしな」
いるのは私とウィグだけか先生が何を考えているのかはわからないけど他の人たちもツーマンセルで動いてるのかな?
「というかここはどこ?」
「寒いな」
奥の方では雪が降っているみたいだけど……こんなギミックがあるなんて知らなかった。
「まぁ……進まないとどうにも出来ないだろうしいきましょ」
「前から思ってたけどヴィオレッタって結構肝座ってるよな」
……。
「そんなんじゃ……ないよ」
「?」
「さぁ! 早く立って! じゃないとその服バラバラにするぞ〜」
手をワキワキと動かしながらウィグに近づく。ウィグは乾いた笑いをしながらゆっくりと立ち上がった。
「3秒後」
「わかった! 1、2、3……! ウィンド・アップ!」
ビュウゥゥゥ!!
「っとと……タイミング完璧ね」
「まぁな」
結構長い間落ちてたけどここはどこかしら……。
「他のやつは居ないな、前にあるのは草むら? 森? どうしてこんなところに」
「考えても仕方ないでしょ……とりあえず進むしかないんじゃない?」
「……そうだな、ずっとここにいても未来は変わらないし」
アゼルかぁ……あんまり話したことないのよねぇ。
多少の不安が残る中私たちは緑生い茂る森の中へと入っていった。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
スッ
「大丈夫か?」
「ガッシュくん、ありがとう」
落ちてきていたのはチグリジアだったか、それにしても軽いな。
「ガッシュくん?」
「あっ、いやすまない」
チグリジアを優しく地面へと下ろし周りを確認する。
「道は1本、奥に見えるのは砂漠か? それに太陽があるようにも見える」
ダンジョン内に砂漠? 聞いた事ないぞそんなものは。
「これも先生がやったのかな」
「かもな、あの人は想定外のことばかりするから」
まぁあの先生がやったことだ……命を奪うまでの恐ろしい魔獣や罠はないだろう。
「ここで休むのも程々にして進もう。幸い水の用意はしてある」
「すごいねガッシュくん、私はこれくらいしか」
ぬいぐるみと医療箱……まぁぬいぐるみはとにかく医療箱は助かる。
「それがあれば十分だ、気をつけていこう」
「うん!」
舞台は整った。これから始めるのはみんなの強さをもう一段階上げる授業……出来れば俺と同じ氷結魔法レベルもっと言うなら七獄スキルを身につけて貰いたいんだけど。上手くいくかな。……まぁその辺はトロリアット次第か。
「さぁ! ノーチェ様に頼まれたお仕事をしっかりとこなしますよ!!」
「「「「「「はい!」」」」」」
ノーチェ様が私に直接ご命令を! こんな幸せなことはありません! 絶対にこれを完璧にこなして私の存在を示さなければ!
「いいですか! 今回の侵入者は殺してはいけません! ですが半殺しまでは許可されています。もし死にそうになった際はバレないように回復する、もしくは隙を見てアイテムを渡すんですよ!」
私の部下たちが腕を上げて叫ぶ、久しぶりのお仕事でみんな喜んでいるようだ。
「それじゃあみんな! 出撃!!」
私がそう叫ぶと同時に大量の魔獣が外へと走っていった。
「……ふふっ、ダンジョン内の時間設定は1日がこっちの1分ってことになってる。30日はそちら側で戦うことができる。いやはやそれにしてもこっちのダンジョンをゼーレスクダンジョンに繋げるのは大変だったな、俺の苦労の分もみんなには強くなってもらわないとね」
俺は笑みを浮かべながらジュースを口に含んだ。
「さて……トロリアット様が命じた12人の生徒たち、どこに向かいますか?」
「私はこの子達がいい〜」
胸の大きい女性がシュクラとウィラーのことを指す。見た目だけなら美しいと思えるがよく見れば頭には触覚、腕はカマキリのように見える。
「じゃあ僕はこの子達で」
その場にいる6人の中で最も小柄な男の子はウィグとヴィオレッタを指した。
「わかったけどやりすぎるなよ」
そう言われると小柄な男の子は口元からボタボタとヨダレを垂れ流しながら答えた。
「大丈夫……この任務を達成したら違う美味しいものを食べていいって言われてるから」
「そうか」
「……私は余り物でいい〜」
毛布にくるまりながら適当に答える少女、他の5人は一応椅子に座っているがその少女だけは机の上で横になっていた。
「じゃあ俺はこれだ」
ガッシュとチグリジアを指さしたのは全身が真っ黒な男、この中で最も大柄だ。
「砂漠だしね」
「まぁな」
「じゃあ私はこれ〜」
大柄な男の隣に居た長身の女がカガリとナツを指した。
「どうせなら食べたいんだけどねぇ」
「ノーチェ様と同じ蛇なのにここまで性格が違うのはなんでなんだろうな」
先程から仕切っている男が呆れた様子で言った。
「私の性格が悪いって話〜? 1番性格悪い貴方には言われたくないのだけど〜」
「ははは、それもそうかもね」
細目で優しそうな顔をした男がにっこりと笑う。この笑顔を外でばらまけば女たちは直ぐに堕ちるだろう。
「それじゃあみんな配置に着いてくれ、ニットは森になったから」
「あーい」
細目の男がそういうと5人はその場を後にした。そして残ったその男はレオとリリュクを見ながら呟いた。
「あぁ……ノーチェ様のお気に入り、殺したら……私も殺して頂けるだろうか」
頬を染めてヨダレを流すその姿は先程のイケメン面からは想像できないほどに酷いものであった。