191話 狂っている先生
準備も終わり教室に向かう途中、エルド先生に声を掛けられた。
「レイバー先生」
「エルド先生、どうしましたか?」
声のトーン的に少し喜んでいる感じだ。
「リリュクが学校に来てくれたんです」
「あ〜、それは良かったです」
あくまで知らない体で話を続ける。
「そうですね。でもこれでようやくみんなが揃ってくれたから」
そっか……エルド先生は嬉しいのか。
「……エルド先生はどこまでも先生なんですね」
俺の言葉の意味を理解出来たか出来なかったかはわからないけど俺は振り返らずに教室へと向かった。
教室を開ければいつもの風景。でもそこにはリリュクが追加されていた。
「はーい今日も授業やってくぞ〜」
俺がそう言って教壇に立つとリリュクが嬉しそうに俺の事を呼んだ。
「先生〜!!」
元気よく手をブンブン振ってるなぁ。
何も反応しないのはさすがにあれだと思い軽く手を振り返す。それに対抗したようにレオまで手を振り出した。
「あ、あははは」
苦笑いをしながら対応する。これで他の子達まで何かやりだしたら大変だ。
「はいはい、とりあえず授業始めるからみんな落ち着いてね」
若干まだ騒がしいが少し静かになった。これでようやく始められる。
「とりあえず外に行こうか」
「さぁて、何から始めようか」
生徒たちがグラウンドに集まったのを確認して体を伸ばす。個人的に俺も久しぶりに戦いたいんだよなあ。
「そうだなぁ……最初の授業でやった俺と戦うやつやろうか」
嬉しそうな顔をする生徒、露骨に嫌そうな顔をする生徒。反応が様々だが……目の奥には強い闘志を感じる。
「今回は俺に一撃与えられたら俺がなんでも言うことを聞くってことで行こうか」
今の一言で生徒みんなのやる気がグッと上がった気がする。……まぁ負ける気はないけどね。
「それじゃあスタート」
俺がそう言った瞬間にシュクラとカガリが突っ込んできた。
「うりゃ!」
「うん!」
獣人だからかこの2人だからかは知らないけどスタートと同時に突っ込んでくるのはフィーに似てるな。懐かしさを感じながら攻撃を避ける。しかし俺は2人の攻撃を完全に甘く見ていた……いや正確にはただの攻撃だと思い他の可能性を見落としていたのだ。
「ここ!」
「あいよ!」
シュクラとカガリが俺の後ろを通り過ぎたと同時に手を引っ張る。その時初めて……俺は自分が縄で拘束されたことに気がついた。
「あらら」
「サンド・クラッシュ!」
「二章七番五列!」
動けなくなったところに遠慮ない魔法攻撃、しかも避けた先には弓を構える2人……。逃げ場なしか。
「やられたね」
この時の俺は……きっと少し嬉しそうだったと思う。
「ダーク・ホール」
紐を暗黒に流す。それと同時に魔法も暗黒へとぶち込んだ。急に消えた魔法に驚いている2人は放置して矢を放とうとしている2人の背後に周り矢を全て奪い取る。
「いい連携だったよ」
奪った矢を地面にばら撒き元の場所に戻ろうとした時……。
「ファイヤー・スラッシュ!」
キャネルか……でもこの程度。
放たれた炎を手で軽く消すと中からガッシュが現れた。
「今よガッシュ!」
「ふぅん!!」
力を込めて放った一撃を腕でいなして地面に投げる。ボコンッという大きな音が周りを震わせた。そして……。
「なっ!」
空高くから踵落としをかまそうとするアゼルを避けてガッシュにぶつける。
「さてと……あと残ってるのはチグリジアとレオ……そしてリリュクだけだな」
奥でチグリジアは両手を上げて降参をしている。正確に残っているのは2人だけか。
「どうする? ここでやめてもいいよ」
意地悪な言い方で質問する。もちろん……いやこんな言い方をしなくても2人が負けを認めるはずはないか。
「「やめない!!」」
声を上げたと同時に2人が突っ込んでくる。レオに関してはさすがだ……ずっと訓練をしているだけはあって一撃一撃が重たい。リリュクは攻撃こそ軽いが手数が多い、生徒の中で1番見てる数が長い2人だからな……俺も教師として嬉しいよ。とはいえ、まだまだ負けるつもりはなくてね。
リリュクの手を掴みレオに投げる。しかしそこはさすがと言うべきか、投げられたリリュクを優しく抱きしめるだけでなく足で俺に攻撃まで仕掛けてきた。
「いいねレオ!」
「そりゃあ先生に教わってるからな!」
抱きしめられたリリュクも直ぐに降りて戦闘態勢に戻る。2人はいいコンビになるかもしれないなと将来の希望を抱きながら俺は2人と戦った。
「はぁ〜、やっぱり強えわ」
水を飲みながらレオが言った。周りにいるみんなもそれに頷いている。
「いやぁ、でも俺はみんなの成長に驚いているよ」
作り出した椅子に座りぐったりとしている生徒たちに伝える。あと少し驚いたのはリリュクの魔力の流れが良くなっていること。今まで沢山魔法を使ったり魔力について勉強したのに……今回は何かトリガーがあったとか?
「そういえばこの後は何するんだ?」
「あ〜いや例のダンジョンに向かおうかなって」
俺は満面の笑みで答えた。
「理事長から許可は取ってるし。あ〜あと異常があれば報告して欲しいってさ」
「それってまだやばいかもってことですよね」
キャネルが引きつった顔をして聞いてきた。俺は何も答えずキャネルの肩を優しく叩いた。
「殺す気かよ」
ウィラーも後ろでブツブツと文句を言っている。……仕方ないここはみんなを安心させてやるか。
「まぁ、そんな深く考えんなよ意識さえあれば四肢がもがれようと体半分持ってかれようと治してあげるから」
「「「「「「「全然安心できないんですけど!!」」」」」」」
「よし行こ〜」
「今のどこに行く要素があった!?」
カガリのツッコミに反応することなくシュクラがダンジョンに入っていく。みんなも嫌そうな顔はしつつもゆっくりと中に入っていった。
「さて……ゆっくり鑑賞でもしましょうか」
新しく国から持ってきた画面を開きジュースを取り出す。気分的にはスポーツ観戦だ。
「一応授業前に氷狼でヤバそうな魔獣は狩り尽くしてるし大丈夫だとは思うんだけど」
って言っても4、5体しか居なかったけど。
「やっぱり先生って頭おかしいのかな」
ヴィオレッタが腕をだらーんとさせて呟いた。
「私達の為にやってくれてるのはわかるけどさ強くなる為なら腕の1本や2本潰れても良いって考え方してるし」
「俺の時は腕の骨が折れるまで殴り合いしたぞ」
確かに……先生のやり方はめちゃくちゃだ。でも毎日戦ってる俺だから1つわかることがある。レイバー先生は戦いそのものが割と好きだ。それも圧倒的な勝利というよりギリギリ、限界バトルで勝つのが好きなんだ。一体今までどんな戦いをしたらあんなことになるのか不思議だよ。あとあの人は強さを得る為ならなんでもする。それはただ自分が強くなりたいからじゃない……何かを守るためならなんでも、それこそ自分の命すら投げ打って守るっていう覚悟が見える。その覚悟が強くなる為の行為にも繋がっているんだ。だからあの人は自分の為に命は使えないけど他人の為には命を使えるっていう狂った人なんだ。
「レオ?」
「……あっ! 何?」
「ううん、悩んでいる風だったから」
リリュクは気付いているのだろうか。
俺は声を掛けてくれたリリュクの顔を見つめるしかしまぁそれで相手の心が分かるはずもなく諦めて前に進むことにした。
仲間の為なら命すら捨てられる……きっとそんな人だからあの人に惹かれる奴が多いんだろうな。俺も多分あの人に……。
俺は今日も狂った思いを胸に秘めてただただ進み続けるのだった。