188話 魔力調整
リリュクにみんなのことを説明している時目を輝かせるまでは行かずとも興味を示すことは多くあった。恐らくだけど魔力暴走の件さえ大丈夫なら普通の学生生活を送りたいと思っているのだろう。でもあの魔力回路を治すのには負担が掛かるし俺でも完全に治し切るのは難しいあとはあの子自身であれを治してもらうしか……。
「先生?」
「あ! ごめんね。それじゃあそろそろ今日の授業でやったことを教えるよ」
みんなの話を聞いたからか少し元気に返事をするリリュク。
「今日授業でやったのは魔力の効率化だ」
魔力効率の向上、少ない魔力で大きな魔法を使えるようにすることだ。まぁ簡単に言えば魔法の使い方、レオと戦ってる時にピンと来たんだよね。
「効率化?」
「そう、効率化。無駄な魔法消費を抑えるんだよ」
「なるほど」
ただこれはリリュクには難しいかもしれない。元々これは魔力の流れを良くするってのが最も単純で簡単な方法なんだ。複雑な流れをしてるリリュクにそれは……。
「どうすればいいんでしょうか?」
手を握っては開いてを繰り返し目を輝かせるリリュク、自分でも魔法をしっかり使えると考えて期待しているのだろう。
「そうだねまずは適当に魔法を使ってくれるかな? あっ出来れば魔力消費が少ないやつで」
「はい!」
リリュクが魔法を発動させようとすると同時に方に触れる。少し不思議そうな顔をしたが何も言わずに続けてくれた。
「フロウ・ウォーター」
「……うんありがとう」
流れは読めた、でもすごいなただの流れる水を作り出すだけでこれだけの魔力を溜められるのか。素の魔力量がとんでもないんだろうな。
「先生?」
不安そうに声をかけてくるリリュクに優しくほほ笑みかける。
「大丈夫、安心してね」
今日だけじゃ魔力の効率化は難しいかな、やっぱりこのぐちゃぐちゃになった回路を治すしか……。
「リリュクの魔力効率に関してはこういう方法がいいと思うんだ」
黒板を錬成してチョークを手に取る。
「魔力が溜まってしまうからまず取り出す魔力を少量にするんだ。そうだな……感覚としては入口かな?」
「入口?」
「そう、魔力を使う時に魔力の入るスペースを想像するんだ」
黒板に少し大きめの枠を作る。
「魔法を使う時にリリュクはこのくらい魔力を出してるんだよ」
「……はい」
あんまりピンと来てないかな。
「えっと……あっ」
俺は右手と左手を下に向けて水を流す。
「リリュクの魔法の出方は右手」
勢いよく右手から水を出す。
「そしてこっちが俺」
俺は普通に水を流す。
「右手の方みたいに勢いよく出しちゃうと体に溜まる魔力量も増えちゃうけど左手の方なら減るでしょ?」
「なるほど……だんだんわかってきました」
「ちなみに俺はこの方法にプラスして魔力の流れを早くしたりして効率を上げてる。みんなに教えたのとこっちなんだ」
「? どうしてですか?」
「難易度の差かな」
難しい話の連続で変な顔をし始めたリリュク、分かりにくい授業は宜しくないのでもう少し簡単に。
「そうだなぁ魔力の流れを早くするのは誰でもできる。まぁ少しコツとか制御の方法は考えなきゃだけどそれだけ、でも魔力を出す時に放出量を操作するのは針に糸を通すのと同じくらい難しいんだ」
「なんとなくわかりました」
良かったわかってくれて。
「まぁとりあえず魔力の放出量を抑えるところから頑張ろう」
「はい!」
それから2時間近く魔力放出について頑張ったが成果は今ひとつ、日も落ちてきたので明日改めてやることになった。
自室
バフッ!
「やっぱり難しいよなぁ〜俺もこれを真剣にやり始めたのは魔王になってからだし」
極限漲溢を使う時に魔力放出が結構大切になってくるからなこれを身に付けたおかげで数分は使い続けられるようになったし。
天井を見て今後リリュクをどうするか考える。
「あの複雑に絡み合ったり向きが全然合わない魔力の流れ……調べてみても少し流れがおかしい位のはあるけどあそこまで酷いのは載ってなかった」
そうなると……誰かがあれをやったってことになるか。
貴族の令嬢だ、恨みを持っている人がその娘になにかするってのも考えられるが……娘に対して愛情を持っていない両親のことを考えると特段復讐にもなってないけどな。
「肩に触れた時他の人の魔力が混ざっているかも確認したけどその様子もなかった。でもそうか、あんまりにも昔のものだと消えてるか」
だけど人の魔力の流れを弄るなんてそう簡単なものじゃない、強力な魔法はそれほど長い時間魔力が残る。
ベッドに寝転び悩んでいると扉をノックする音が聞こえた。
珍しいな。
「どした〜」
「おうミッちゃん」
まじで珍しいな。
「なんだよ、最近話しかけてこなかった癖に」
「お〜? なんだなんだいじけてんのか?」
ニヤニヤしながら近寄ってくるカーティオ。
「別にそんなんじゃねぇよ、てかナチュラルにベッドに座んなし」
「へいへい」
と返事はするものの退くつもりはないようだ。もうご飯は食べたしお風呂も入った。一体なんの用だろう。
「……」
「……」
しばらくの沈黙、そしてその沈黙を破ったのはカーティオだった。
「ノーチェはさ……昔の事とか覚えてる?」
「……え?」
いつもミッちゃんって呼ぶから単純に驚いたのと質問の内容にも驚き間抜けな声をあげてしまう。
「いや……ほらさくらだった時の」
……そうか俺の中にいる時の2人は頭で考えてること分かるからバレバレだったわ。
「思い出してるよ、世界を焼いたことも親友を……殺したことも」
でもそれは過去の俺がやったこと、今の俺と無関係……とはいかないけどその過去のせいで今の仲間を失うくらいなら過去だってなんだって捨ててやる。
「そっか……いやなんて言うか。……なんでもないや」
ベッドからゆっくりと立ち上がる。カーティオの背中はなんだか悲しそうで見ているこっちの胸が締め付けられた。
パシッ!
「……」
「……」
今ここでカーティオの手を取らないとダメな気がした……でも、この後どうすれば。
「掛ける言葉がないなら何もするなよ」
「え?」
カーティオが何かをボソッと言ったがあまりにも小さい声だったので聞こえなかった。でも表情は期待と悲しみ、そして。
「ミッちゃん?」
「あっ! いや、ごめん」
慌てて手を離す。カーティオは掴まれた手を確認した後何も言わずに少し笑って階段を降りていった。
「なんで……なんで怒ってたんだろう」
あれから1ヶ月特段何も起きる事なく普通の日常が繰り返された。裏を返せばリリュクの魔力量の制限は上手くいかないままということだ。授業中でもウトウトしているところを見る限り寝る間も惜しんで勉強しているのだろう。でもこの授業は俺の完全オリジナル、教科書に載ってるとは思えない。とはいえ……最初と比べれば魔力の制限は上手くなっているあと少しと言えばあと少しなのだが。その少し……それがあまりにも難しく厳しい課題となっている。
「はぁ……はぁ」
「お疲れ様」
膝に手を付き呼吸を整えるリリュクに冷たい水を渡す。返事はしない……というか多分今はそれすらきついのだろう。静かに頷いて水をゆっくりと飲み込んだ。
「やっぱり難しいですね」
「そうだね」
3時間ずっと魔法を使っていればこうなるか。
「今日はここまでにしようか」
「……はい」
納得いってない……というか焦りも見えるな。
「そんなに焦るこもないさ、ゆっくりやっていこう」
「……わかってます」
リリュクの返事は全くわかっているようには聞こえなかった。
そろそろ魔力が溜まって暴走する可能性も出てくる……近いうちに溜まった魔力をどうにかするか。
色々考えることはあったが今日はここまでということにして授業は終わりになった。