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転生先は蛇さんでした。  作者: 時雨並木
累卵編
185/261

184話 休日

「そうだ、俺の噂ってなんだったんだ?」

ペスラ特性のパスタを食べていると俺はふと思い出した。

「あ〜あれね」

口元に着いたソースを拭いてペスラが答える。

「財政大臣をぶん殴った先生がいるって言うのでね話が出てたの、あれミルちゃんのことでしょ?」

「えっ……いやまぁそうだけど」

それも噂になってるのか。

「まぁあとは観客席にいた人達が白い髪の先生がやばいくらい強かったって噂してたからね、分かりやすかったよ」

まぁ……魔王ってバレてないならいっか。

「……少し楽しそうだね」

黙々とパスタを食べていたカーティオが笑いながら答えた。

「そう見える?」

「うん」

ペスラも横で頷いていた。

「……確かに少し楽しくなってきたかもな」

俺はそう言ってフォークを手に取りパスタを口に入れた。



今日のお仕事は休み! なぜなら昨日大変なことがあったから。

「って休みなんて言われても困っちゃうよなぁ」

この辺の地理とか全然知らないし、カーティオとペスラは行くところがあるとか言っていなくなっちゃったし。

布団に体を沈めて今日やることを考える。しかし全く何も思いつかない。

「仕方ない……とりあえず外に出るか」

勢いよく体を起こしリビングへと向かう。やはり2人はもう居ない。部屋が静かでちょっと悲しいと思いつつ俺は扉を開けた。



「眩し」

時刻は12時半くらい、太陽が登りきっていて目に入れると眩しい。

「さぁて……どこに行こうかな」

普段行ってる学校方面はある程度道知ってるし……今回は反対側に向かおうかな。単純な思考だが……まぁ人生冒険も必要だろ? 知らんけど。

俺は新たな出会いと別れを探し未知の世界へと足を踏み入れたのだった! ……いやこれはないな。



「……疲れた」

今日は平日だと言うのに街の道は人で埋め尽くされていた。元々体の小さい俺は人混みに紛れると脱出がとんでもなく大変だ。フィデース信栄帝国ならケルロスやクイックが俺の事を助けてくれるが今は誰もいないので全部一人で切り抜ける必要がある。

「……しかしこう見ると人が豆粒みたいだよな」

街を一望できる所から俺が歩いてきた場所を確認する。距離的にはそこまでないが人の多さにはここから見ても驚かされる。

ここでボーッと景色を見続けても意味無いか。

適当に屋台にでも寄ってお土産を買ってから帰ろうと決めて家に向かおうした時、俺は草むらで何かを書いている少女に目がいった。

なんかよくさ絵を描く時に持ってる白いヤツを膝の上に乗せてる。なんだっけあれ……あっ! キャンバスだ! って違う着目するのはそこじゃない! 俺がその少女を見たのはおかしな魔力の流れを感じ取ったからだ。

本来魔力は人によって流れ方が違う。右回転の人左回転の人、基本的な速さや長さ、流れている場所なども違う時がある。しかし1人の魔力はある程度の決まりがあるというか、あの少女みたいに何人もの特性が集まったような魔力循環は基本ありえないはずなんだ。

「……どうか、しましたか?」

やば……気付かれちゃった。

「えっと」

やばいやばい、とにかく何か言い訳を考えないと。

「何を描いてるのかなって」

いや怪しさが全く誤魔化せてない!

「……何も描いてないです」

「え?」

少女がキャンバスを俺に向ける。そのキャンバスは何も書かれていない、真っ白だった。

「……いつもここでキャンバスを広げているだけ、ただ座ってるだけ。書くものなんて何も無いから」

「……そっか」

……なんか闇深そうな子に話しかけちゃったなぁ。でもこの流れで居なくなるのもあれだし。

「ねぇお姉さん」

「ん? 何?」

以外にも声を掛けてきたのは少女の方だった。

「何か描いてよ」

「えっ」

絵かぁ……あんまり得意じゃないんだよなぁ。

「やっぱりダメ……?」

俺は悲しそうな顔をする少女を放っておくことが出来ず隣に座り込んだ。

「何描けばいい?」

「好きなの」

うーん難しいなぁ。

「じゃあ描くよ」

少女から筆を貰いキャンバスに色を付ける。



数分後

「こんなものかな」

「これは?」

「桜っていう木だよ、見た事ない?」

「ない」

こっちの世界には無いものなのかな?

「でも……綺麗。ありがとう」

少女はキャンバスを抱きしめながら駆け足でその場を後にした。

「……納得してくれたならいっか」

少し疲れた俺は体を後ろに倒して草むらに背中を預ける。時折吹く風が草を揺らし俺を通っていく。

「はぁ……悪くないな」

その後1時間ほどそこで寝転び家に帰ることにした。途中良さげなカフェがあったのでアップルパイだけ買って帰った。



「ただいま〜」

ってまだ居ないか。時刻は3時半くらい、アップルパイを机の上に置いて部屋に戻ろうとした時。

ゴンゴン

玄関からノック音が聞こえた。

「誰だ?」

俺は階段を降りて玄関のドアを開ける。そこには紫と赤が入り交じった特徴的な髪をしているウィラーが立っていた。

「……どうしたの? というかよくわかったね」

誰から聞いたのだろうか? 俺の家を知ってるのはシャネルとロキスク、あとはレオも知ってるか。

「レオに……聞いた」

あっやっぱり。

「えっと、立ち話もあれだから入る?」

俺がそういうとウィラーは丁寧に靴を揃えてから家に上がった。



「……」

「……」

沈黙……いや前もこんなことあったな。

俺はそんなことを考えながら家にあったココアを取り出しアップルパイを切り分けた。

コトッ

「どうぞ」

「……」

これはレオ以上に強敵かもな。

まぁけどこの落ち込み具合……恐らく殺し屋の件だろう。まだ怪我も治ってないだろうに。

ココアを飲みながらウィラーのことを見つめる。ココアに手をつけることも無くアップルパイを食べる様子もない。

「何か、言いたいことがあるんでしょ?」

一瞬だが目が合った。その目はとても悲しそうで印象に残る目だった。

「……俺が何をしたかはわかってるよな」

少し震える声でウィラーが尋ねる。俺は優しい声で答えた。

「もちろん」

それを聞いたウィラーは肩をビクリと震わせてさらに下を向いてしまった。

「だけど、怒ってないよ」

アップルパイを頬張りながら答える。

「嘘……だ」

嘘じゃないんだけど……それに本当に怒ってたら助けたりしないでしょ?

「……先生は馬鹿なのか? あんなことを散々しておいて俺の事を怒ってないだって?」

悲しみ、恐怖、苛立ち。様々な感情がウィラーの中で回っているのがわかる。多分ウィラー的には怒られた方が気が楽になるんだろう。でも俺は怒っていないしまず怒るつもりもない。だってウィラーの先生嫌いはウィラーが悪い訳じゃないんだから。

「……俺は信用に足りるかい?」

俯いていてウィラーが顔を上げる。その目には涙が溜まっていた。

「ごめん……なさい」

謝罪と同時にウィラーの目から涙がこぼれる。

「俺はウィラーを見捨てないよ」

「うっ……うぅ。あぁ……ひっう」

俺はウィラーが泣き止むまで背中をさすり続けていた。



「悪かった……ありがとう」

まだ少し泣いてるけどいつもの雰囲気に戻ってきたな。

「ほら、これ食べなよ。美味しいよ」

アップルパイを指さしながら言う。しかしウィラーはフォークに触ろうともしないし動きもしない。

「これ……」

何かを懐から取り出した。机の上に置かれた封筒には札束が入っていた。

「……そうだなぁ」

渡された札束を手に取る。しかし俺はそれを直ぐに机の上に戻した。

「貰わないや」

「えっ」

「そんなことよりも怪我は大丈夫なの?」

俺が話を切り替えようとするとウィラーはそれを遮るように話し出した。

「そんなことって……俺は先生に危ない奴らを送り込んでたんだぞ」

「そうだね」

「あいつらに先生のこと好きにしていいって伝えたんだよ!」

「うん」

俺の返事に納得出来ないのかウィラーは立ち上がり声を荒らげながら言った。

「俺の事を責めてくれよ! なんであんなことしたんだって! ふざけんなって!!」

「あれくらい受け止めてあげないとね」

「ッ!!」

ウィラーはフォークを手に取り自分の首に向ける。

「俺は今まで先生にしたことを償わないといけない! 先生の命を狙ったんだ! 俺だって自分の命くらい!」

震える手でフォークを握り目を瞑る。そのままウィラーは勢いに任せて自分の首めがけてフォークを突き刺した。

パシッ!

「なっ!」

「俺は生徒が傷付く所は見たくないんだ。こんなことしないで欲しい」

ウィラーの手から力が抜ける。それと同時に膝にも力が入らないらしく体がガクリと下に崩れた。

「おっと」

ウィラーの腹に腕を回し崩れないように手を貸す。そのままゆっくりと丁寧に椅子に座らせた。

「大丈夫?」

「……」

何も言わないがコクリと頷いてくれた。

「もしさ、本気で申し訳ないと思ってるなら……これから俺の授業真剣に受けてくれる?」

「あ、当たり前だろ!」

さっきまで力なく座り込んでいたのに結構な勢いで立ち上がるウィラー。

「じゃあ話は終わり、このお金で美味しいものでも買って今日は帰りな」

「……ありがとう、あとごめんなさい。……このことは一生償うから」

最後にボソッと何かを言ったが走りながらなので聞き取れなかった。でも……うん、元気になったみたいで良かったよ。

扉を勢いよく開けて夕日に包まれる街を走り抜けるウィラーの背中を眺めて俺の長い一日は幕を下ろすのだった。

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