183話 久しぶりの2人
生徒たちを病院に運び壊れた部分を修復、怪我した先生も帰って行った。俺はロキスク先生らと明日からの学校について少し話し合ったあとシャネルに呼ばれて王城に向かっていた。
「どうしたんだろう……」
何か悪いことをした記憶は……。
「いや、悪いことしてるな」
いくら殺し屋とはいえ裏道で散々人殺してるし生徒に死ぬギリギリを責めて特訓してるし……もしかして解任とか!? いやまぁ国に帰れるのは悪くないけどもう少し、いや生徒達の成長を見届けるまでは居たかったなぁ。
そんなことを考えているともう王城に着いていた。
「お待ちしておりました」
門の前の衛兵が俺を見て頭を下げる。そして丁寧な口調でシャネルの元へ案内してくれた。
コンコン
「失礼します」
「どうぞ」
扉を開くとシャネルだけではなくケルロスとクイックも座っていた。
「あれ? 帰ってなかったの?」
俺がそういうと2人は少し悲しそうな顔をして俺を見た。
「あっ! いやいや! 帰って欲しかったとかじゃなくてね! もう帰っちゃったのかなぁ〜って」
「ふーん」
久しぶりの再開だったのにため息からだったのを根に持ってるなこれは。
「ごめんねって」
「別に」
うぅ、完全に怒ってるよぉ。
「そろそろ……いいでしょうか」
「あっ、どうぞ」
話すタイミングを完全に逃していたシャネルが口を開く。身内でわちゃわちゃしていて申し訳ない。
「今回ノーチェ殿を呼んだ理由は」
「理由は……」
「最近どうですか?」
「……へ?」
多分……さっきまでのものすごい緊張感はこの一言で完全にほぐれてしまった。
いやぁあの後は俺の教師生活についての質問ばっかりだったなぁ。国から出た俺たちはバールが用意している車まで歩いて向かっていた。まぁ俺はまだ国に残るから見送りだけどね。
「……」
「……」
なぜ2人はこんなに黙っているのかと言うと……生徒達の態度とか色々話してたら怒りだしちゃった、あははは。まぁ自分達が慕っている存在が年下のクソガキ共にバカにされてれば少しイラッとするよね。良かったぁ殺し屋の件話しなくて。
「そろそろ着くだろ? 2人とも遠かったろうに、わざわざありがとうね」
「別に」
「問題ないよ」
……気まずい、2人共このままバイバイは少し嫌なんだよなぁ。
「えっと……うーん」
ダメだ! 話すことがない!
俺が悩んでいるとケルロスが口を開いた。
「さっきの件、ため息のやつまだ怒ってるから」
「あっ……はい。ごめんなさい」
俺はしょぼんとなりトボトボと2人の後をついて行く。しかし途中でケルロスが立ち止まり振り返った。反応が遅れた俺はケルロスにそのまま突撃してしまう。
「わっ! ごめ……んぅ!?」
「……これで許したげる」
「お……おぉ」
「変態キス魔」
クイックがボソッと何かを呟いたがよく聞こえなかった。
「じゃ! また会いに来るから!」
いきなり走り出すケルロス、それに驚き後を追うクイック、2人の背中を見つめながら俺はその場でしばらく立ち尽くしていた。
「ただいま〜」
「おかえり〜」
聞こえたのはペスラの声だけ、見た感じリビングにはいないからカーティオは自分の部屋かな?
「今日は大変だったみたいね」
「あれ? 知ってるの?」
「そりゃまぁね、結構な騒ぎだったし」
そうかそこまで広がってるのか。
「ていうかあなたの噂も結構よ、レイバー先生」
「その呼び方やめてよ」
茶化すように俺を呼ぶのでムスッとした顔で対応する。しかし俺の噂ってなんだろうか。
「自分の噂が気になるのね……まぁそれはご飯の時に、今は昂ってグシャッてるそれをどうにかしてきたら?」
「……はい?」
何を言ってるんだペスラは。
「あっ本当にわかってない感じねこれ、ごめんなさいちょっとミルちゃんには難しかったかも」
「どういう意味だよそれ」
俺がペスラに近寄って行くと少し悩んだ様子を見せて俺の耳元でボソボソと話し出した。……少しだけくすぐったい。
「だから……発情すると色々困るでしょ? 特に下の方が」
「……」
こいつもエレナと同類だったか、いやエレナより酷いかもしれない。
「ていっ!」
俺はペスラの頭にチョップをかまして風呂場に向かった。
後ろから「いたぁーい」と情けない声が聞こえたがもちろんスルーした。
ざぁぁぁぁぁぁぁ
「ったく、何が発情だっての」
ぶつぶつと愚痴をこぼしながら白く長い髪を洗う。
「それにしてもすっかり慣れたよなぁ」
最初の頃は女の体なんて知らないから体を洗うどころか鏡で見るのも躊躇ったけど今となれば自分の体だし申し訳ないとも思わない。
「人化も完全にマスターしたしどこからどう見てもただの女の子だな」
怒ると目が蛇のそれになるとみんなに言われるけど起こってる時にわざわざ確認とかしないからどんな感じかわかんないや。
あとは黒い髪がもうほとんど白くなってる。黒と白の比率が最初の頃と完全に逆だ。
「おばあちゃんみたいで好きじゃないんだよなぁこの色」
まぁ髪質は悪くないし顔も整ってるから外国の美少女みたいだけどね。
シャンプーを流した俺は顔を洗い体に手をつける。
「あとはなぁ……」
元男だからそこまで気にしてないけどこう……もう少し、もう少しあればなぁ。最近じゃシャルの成長に驚きっぱなしだよ。
自分で揉むより人に揉んでもらった方がいいのかなぁ。
とくだらないことを考えるとケルロスとクイックの顔が浮かぶ。
「……いや! いや違う!! 馬鹿野郎俺!! そんなこと頼んだら2人ともびっくりしちゃうだろ! ってそうじゃない! なんで真っ先に出てくるのがあの2人なんだよ!」
「どうしたの〜?」
「あっ! ごめん!! なんでもないよ!」
はぁ……ペスラが変な事言うからだよ。あとは2人の……。うぅ、思い出すと顔が熱くなる。
「そういう事の知識はあるさ、俺だって健全な男子高校生だったからね……でもそれは男の時の知識であって女がどうするとかわかんないしなぁ」
なぜする時のことを既に考えているのか……そんなことに疑問を抱くことなく俺はゆっくりとお風呂を堪能した。
「はぁ〜、出たよ」
「長かったわね、やっぱり……あっ嘘! ごめんなさい!! だからその無駄に太くて長い棒持って近寄ってくるのやめて!!」
「普通に刀って言えよ、てか太くないし」
取り出した刀を部屋の隅に起きソファに座り込む、やっていることが風呂上がりの親父みたいだけどまぁカーティオも普段こんな感じだしいいだろ。
「はい、牛乳」
「ありがと」
やっぱ風呂の後はこれだよな。
「……というかその格好もう少しどうにかならないの?」
ペスラが俺の事をじっくりと見て言った。
「別に裸じゃないんだしいいだろ?」
「そうだけど」
俺は元々服に関してそこまで興味が無い。だから外出時もてかいつも適当だがさすがに一国の王ということもありそこそこの服を着せてもらっている……いや無理やり着せられる。だが部屋着に関しては口出しして欲しくないとの要望を3時間に渡る交渉の末何とかゲットし今は完全に自由な服装で過ごしている。でもあれだよ、執務中とかは人が来てもいいようにエレナの選んだ服来てるし! 俺が自由なのは執務が終わりお風呂に入った後のこと、要するに寝巻きだけ。これくらいの自由はいいでしょ。
「風邪ひきそうだけどねその服」
「寝る時は布団着るから」
元々首をきつく締められたり腕や足がキュッとなる服は好きじゃない。だからワンサイズくらい大きい服を常に寝巻きとして使っている。今来てるのは黒い半袖のモコモコしたやつ……半袖だけど大きいから肘先くらいまでサイズあるけど、下は風通しのいい短パンだ。まぁ上のサイズ感のせいで履いてないように見えるけど。
「まぁいいわ、まだましな部類だから」
聞こえてるぞ〜。
「大きな服にこだわるのはいいけどあんまりそれ繰り返してるとまたあんなことになるよ」
「うっ」
ペスラの言うあんなこととは俺が寝ぼけたまま普段の寝巻きで会議室に向かってしまったことだ。前日ギリギリまで書類とにらめっこしていた俺は布団に入った途端眠ってしまった。途中ケルロスやクイックが俺の事を起こしてくれたらしいが起きることはなく結局俺無しで話し合いをすることになったらしい。そして時間を大幅に過ぎていた俺は慌てて会議室に直行、その時履いていたズボンは緩いやつで走ってる時に取れちゃったのだろう……あとはその上に来てたのがケルロスのシャツでして、いや! あれはそのなんか安心するというか!? クイックのやつもたまに来てるし!! ……はぁ思い出したら恥ずかしくなってきた。
「さっきから変な顔してるけど平気?」
「過去のことを思い出して恥ずかしがってるんだよ」
「面白かったな〜あれ、ケルロスのシャツで突撃してきただけで面白いのに慌てたミルちゃんの言い訳が」
「この匂いが落ち着くの!!」
「くっくふ……あははははは」
「なっ!! 言わなくてもいいだろ!」
腹を抱えながら床に倒れ込み笑うペスラ、その笑い声に反応したのか部屋にいたカーティオもリビングに現れた。
「どういう状況?」
「いや、ミルちゃんが寝巻きのまま会議室に来た時のこと思い出してねぇ」
「あ〜……あれかぁ。……ふふ」
「笑うなぁ!」
俺はしばらくその話でいじられ続けるのだった。