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転生先は蛇さんでした。  作者: 時雨並木
累卵編
179/261

178話 腐った強さ

ダンジョンで起こった緊急事態、一刻も早く中にいる生徒たちを助け出さないと危険な状態だ。それにもかかわらず財政部門のピッド・トラッシュは己の命のために500人以上の生徒を閉じ込めたまま見殺しにしようとしていた。



「これが皆の考えらしい分かったら早く観客の避難を優先させろ」

「そん……な」

今まで生きていてここまで人間に絶望した事はあっただろうか? ここまで悲しいと感じたことはあっただろうか?

「君も利口になれ、この学園が潰れれば未来ある若者500人は困ってしまう。助けられる命があれば助けられない命もある。仕方がないことだろ?」

私の肩に手を乗せる。激しい嫌悪感を感じながらその手を振りほどきたいと心から思う。だが私の心は人の汚さに折れかけていた。

そんな時生き残っているモニターから生徒の声が聞こえた。

「何が起きてるの!?」

「知らねぇよ!」

「いいから早く逃げるよ!!」

襲われている生徒もいる。もう既に死んでいる生徒もいる。こんなのを見せられてただ黙っていろと? ふざけるな……ふざけるな! 私はなんのために教師をやっているんだ!!

拳に力が入る。もうここで何が起きても私は……私は!

「なんだその目は! 私に歯向かうのか! いくらお前でもこの私に何かあれば直ぐにその首」

どうでもいい! ここでこいつを!

「やめろ! お前一体! 止めろ! 警備隊こいつを止めるんだ!」

バコンッ!!

「はぁ……はぁ」

柔らかい感触……しかしこれはあのクズの頬じゃない。もっと痩せてて違う。

「……」

「ノー」

私がそこまで言うとノーチェは口に人差し指を当てて何も喋らないように指示してきた。

「よ、よくやったそこのお前! お前には褒美を」

「勘違いするなよ」

ノーチェの言葉にその場が凍りつく。



「ただ俺は理事長がこんなくだらないことで辞めてしまうのが嫌なだけだ」

「お前何を言って!」

バコンッ!!!!

俺の拳は豚の顔面深くに突き刺さりそのまま遥か後方へと吹き飛ばされた。

「ふぅ……くたばれクソ豚!」

「お、お前何をしている! このお方は財政部門でトップを――」

「黙れよ」

「ひぃ」

三下共が、黙って話を聞いていれば生徒500人を救うために残りを殺すだ? 何寝ぼけたこと言ってるんだ。

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!

俺の周りを警備隊が取り囲む。

「動くな! 今からお前を拘束する!」

ジリジリと警備隊が近づいてくる。

「邪魔だ、そこを退け」

俺の言葉にビクリと反応する警備隊。しかし精鋭とされているだけありその場から動くことは無かった。

「……邪魔だ、退け」

「ひ、ひぃぃぃ!!」

周りを囲っていた警備隊が腰を抜かし武器を手から話して後ろに下がる。人によっては漏らしてるなこれ。

俺が歩く度に警備隊が後ろに下がる。

「……」

俺はあの豚が気に食わない。だがそれ以上に気に食わない奴らがいる。

ザッ!

あのダンジョンに土石魔法を使ったのは……この学園の教師だ。恐らくは保身と自分の命を守るために動いたんだろう。

「待つんだ!」

ほらな? ここまでやっても抵抗してくるのが教師ってのが俺はムカついてムカついて仕方がない。

「お前ら……」

「ここでこの壁になにかすれば俺たちの人生はめちゃくちゃだ! だいたいこの学園だってタダじゃ済まない! 生徒達には申し訳ないがここはみんなの為に!」

「お前らそれでも教師かよ!!」

俺の叫び声が会場全体に響き渡る。避難していた観客達もその声に驚いて歩みを止めた。

「学園がなんだ! 人生がなんだ! それで生徒を見捨てるのかよ!!」

「レイバー先生……」

「中にまだ生徒がいるのに! 助けを求めている子供がいるのに! それを見て見ぬふりして生きいくなんて俺にはできない!」

会場が静寂で包まれる。ただひとつ俺の息だけが妙に大きく聞こえていた。

俺の前に立った教師は俯いたまま道を開けた。

「まで! そこをあげるな!」

醜い声が後方から聞こえる。振り返らなくても分かる……あの豚が起きたんだろう。

「どまれ! おばえ! いばならごろさずにいかじでやる!」

顔面を殴られた影響か上手く言葉がはなせていたいようすだ。

「だべかそいづをどべろぉぉぉぉ!!」

豚の静止を聞かずに俺は壁に手を当てる。

「すぅ……はぁ」

手に力を少しだけ入れる。壁がバラバラと崩れていった。その瞬間中から魔獣が襲いかかってくる。よく見れば生徒達の亡骸が無造作に、無慈悲に転がっている。……苦しかったろうに、悲しかったろうに。助けを求めて来た出口は塞がれて、これから色々な希望と挫折を繰り返しながら生きていく未来があったのに……あんな豚に潰されて。あぁ……本当に本当にふざけてるよこの世界は。

観客席から悲鳴が聞こえる。助けろと泣きつく大人たち、己の命を優先させて逃げる警備隊。……生徒を見捨てて出口に急ぐ馬鹿ども。俺の怒りと悲しみはもう限界だった。

「デス・……スピア」

津波のように押し寄せる魔獣たちに無数の死の槍を放つ。数秒で魔獣の群れは肉塊と化した。

「レイバー……先生」

俺は深呼吸をして会場を見て叫ぶ。

「子供を見捨てて生き延びようとしてるクズ共! 地獄に落ちろ!!」

三下みたいな捨て台詞だけど……どうしても、どうしても言いたかったから仕方ない。

そんなことよりも今は生徒の救出だ。……神速。



ダンジョンに入って2分ほどで分かれ道に当たった。ここを1人で調べるのは骨が折れそうだな。まぁ……魔法を使いすぎるのは嫌だけど生徒の為だ、仕方ない。

「氷狼」

20匹位でいいだろう。それにこいつらは上級ダンジョンの化け物くらいなら凍らせて倒すこともできる。戦闘力に関しても問題ないな。

「生徒を探せ! もし襲われていたら助けるんだ!」

氷狼がワォンワォンと言いながらそれぞれの穴に入って行った。

「俺も行くか」

目の前にある1番大きな穴に向かって俺はまた走って行った。



「はぁ……はぁ」

「大丈夫?」

「あ、あぁ」

特殊クラスが集まったのは運が良かったな。これで索敵の幅や戦闘力も上がる。

「状況は?」

「ナツを庇ったアゼルが重症、キャネルが敵の攻撃を受けて軽傷、ガッシュとカガリはずっと戦い続けてるから体力的に休ませた方がいい」

シュクラの言う通りだな。とりあえず今は敵が来ていない。ここで休んでおこう。

「……待機の先生はどうしたんだ?」

ウィラーが本を読みながら聞いてきた。

「さぁな……まぁここは結構深いしまだ助けられないんだろ」

「……見捨てられたとか」

ヴィオレッタの一言に場が凍りつく。なぜ凍りつくのか……そんなことは俺でもわかる。先生が俺達を見捨てる理由はいくらでもあるからだ。

「だ、大丈夫だって! ほかの先生はあれでもレイバー先生なら」

「来ない」

みんなの希望が見えた途端にそれを打ち砕いたのはウィラーだった。

「そんなこと言わなくても」

ナツが場を収めるようにウィラーをなだめる。しかしウィラーは本を雑にたたみ声を荒らげた。

「あの先生が自分の命を投げてまで俺達を助ける訳が無いんだよ!」

暗闇にウィラーの声が消えていく。

「……何かあるのか?」

少し落ち着いた様子のガッシュがウィラーに聞いた。

「……」

「一体何をしたんだ」

「あの先生を殺すために暗殺集団を雇った」

……は?

どうやら俺と似たようなことを思ったのは全員同じようでポカンとした顔でウィラーを見ていた。

「なんて言った」

ウィグが聞き直す。聞こえなかったのでは無い理解できない、訳が分からなかったのだ。

「だから! 俺はあいつを何度も何度も殺そうとしたんだよ!」

その言葉を聞いた俺はウィラーの胸ぐらを掴んでいた。

「お前ふざけんな! じゃなんだ! あの人に1週間以上いや、約2週間くらいずっと殺し屋を差し向けてたってのか!!」

「ちょ! レオ!」

「……」

何も言わないウィラーに腹が立った俺は拳を強く握る。

「何とか言えよこの野郎!!」

「やめなさい! ここで揉めてもどうにもならないでしょ!」

「そうだよ、俺がやったんだ。こんな面倒で大変なクラスを見捨てずに……一生懸命頑張ってくれた先生を! 一人一人に自分の時間を削ってまで教えてくれていた先生に! 殺す為に、この学園から去らせる為に殺し屋を送ったんだよ!!」

「この!」

拳をウィラーに向けて放つ。しかしその時俺はある言葉を思い出した。


「……弱者は物じゃない。強い者でありたいなら弱者を守る力を付けろ。いくら強くてもその考えが変わらなければ本当の強者にはなれない」


ッ!

「くそ!」

手を離しウィラーを後ろに突き飛ばす。

これが強さなのか! こんなのが……こんなのが!

「すぅ……はぁ」

いや落ち着け、今はいい。ウィラーに関しては後で考える。今はこの場を切り抜けて……生きて外に出るんだ。

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