176話 封王祭
1週間後
パンッパンッ!!
今日は封王祭が行われる日だ。観客席には生徒の保護者、単純に観戦、興味本位で見に来た客などがいる。中央の大きな椅子には王が座るのだがシャネルは忙しいらしく今回は代わりに財務大臣が来ているらしい。まぁ別に俺には関係ないのでどうでもいい。
そんなことよりも俺は育てた生徒たちの方が気になる。
生徒たちがいるのはダンジョン入口の前、クラスごとに並んでいるようだ。先生達は保護者よりも近い椅子で生徒たちを眺めている。
奥の方では教頭がマイクを持って待機している。教頭がマイクで開始の合図をすると門が開き一斉に生徒たちがダンジョン内へと侵入する訳だ。一応リタイアする生徒を助けるために先生が何名か内部で待機しているらしいが俺はそこには選ばれなかった。まぁ新任も新任だし仕方ないよね。
「随分と顔つきが変わりましたね」
メガネをクイッと上げてエルド先生が言った。
「そうですか?」
「はい、レイバー先生がなにかしたんですよね?」
俺は真っ直ぐとそしてきっちりと立つ生徒たちを見て答える。
「俺は何もしてませんよ。もし生徒達の顔つきが変わっていたなら……それは生徒達自身の頑張りです」
「……そうですね」
エルド先生も何かを察してくれたのかそれ以上は喋らなかった。
「第二回戦封王祭を開始します」
もう少し盛り上がりそうな言い方出来ないのかなパシュト先生。
とかいう俺の思いとは逆に生徒達は声を聞いた瞬間ダンジョンに向けて走っていった。
「始まりましたね」
「えぇ」
封王祭の入口上にはモニターがあり中の様子を見ることが出来る。……ちなみにあのモニター作ったのはうちの国です。カメラもね。
そして封王祭のルールはクラス対抗戦、ボスへの道を見つけ出し最初にボスを倒した人の勝ち。その人のクラスが勝ちとなる。これといったルールはなく騙し合い、協力、略奪となんでもありである。しかし生徒同士の殺人行為は禁止となっている。まぁ前回はこんなモニターなかったから防ぎずらかったからな。けど……今のうちのクラスならそんな酷いことしないだろ。……ん?
「まずどこから行く」
「最初はこのルートだな。前回とルートは変えてるだろうからこっちはなしだ」
「チーム分けは?」
「4、4、3で言った方がいいと思うよ」
「仕方ねぇそれで言ってやる」
なんか特殊クラス……ダンジョン入ってないんですけど。
「おっと!!ここで特殊クラスがダンジョン内に入らないという珍事が奢っているぞ!! やはり特殊クラスは何を考えているのかわかりません!! あっ失礼しました、実況はラインザクセン学園の生徒であるホリーが担当しております」
よく見てみると地図のようなものを出している。なるほど作戦会議か……冷静でいいね。
「よし! 行くぞ」
「えぇ」
「おー」
「はいよ」
「特殊クラスがようやく立ち上がった! しかし先頭のチームは既にダンジョンをどんどん攻略して……え?」
実況が驚くのも無理は無い、先程までいた生徒達が一瞬で消えているのだから。
「あっ……え? 先程までいた特殊クラスが姿を消しました、これはどういうことでしょう」
神速を上手く使いこなしてるなレオ達。
「流石に3人掴んでの神速は速度落ちるな」
「いきなりでびっくりしたわ!」
「こうなることはわかってたよ」
「羽は掴むな馬鹿!」
「ガッシュ……離せ」
「痛えなぁったく」
「なにしてるのよシュクラ!!」
「ごめん」
「早く抜くの手伝いなさい!!」
「はい」
「た、助け」
「あわわわわわ」
モニター越しに映る生徒達、微笑ましい姿で俺は少しだけ笑ってしまった。
それで……チーム分けの方はレオ、アゼル、ナツ、ヴィオレッタ。ウィグ、シュクラ、キャネル、チグリジア。ウィラー、ガッシュ、カガリか。
レオチームは近接戦闘のレオとアゼル、遠距離のナツ、補助と偵察のヴィオレッタって所か。シュクラのところも似たような感じ、ウィラーはガッシュとカガリがウィラーを守りつつ魔法で蹴散らしてくとか? まぁバランスのいいチーム編成だ。
「ここで特殊クラスが現れた! 既にダンジョンの中に入っております!! しかしクラスはバラバラだぁぁぁ!」
あえてだってのなんか腹立ってくるな。
っていかんいかん、あんな安っぽい実況よりみんなのこと見ないと。
「早速出てきたぞ」
「わかってる」
「雑魚は私が」
「防御は任せて」
俺とアゼルが前に立ちその後ろにナツ、さらに後方にはヴィオレッタが居る。準備は完了だ。
「ナツ」
「ファイヤー・アロー」
ドコンッ!!
「一撃かよ」
「……」
「わざわざ戦闘態勢に入ることもなかったね」
それにしてもナツのやつ威力が1週間前の倍以上に跳ね上がってやがるな。
「すごいね、どうしたの?」
「うーん……まぁそうだな。先生のおかげかな」
その時見せたナツの笑顔はとても爽やかで綺麗だった。
よくやったぞナツ。3日間の短期間だったけどあれだけ威力と精度が上がってるなら上出来だ。
「ウィグ!」
「わかってるさ」
パシュパシュパシュ!!
「できたよシュクラ」
「ありがとう!」
キャネルの補助のおかげでいつもの半分くらい体が軽い。そして後は……。
「バーン・アクセラレーション!」
私の適性は火……そのエネルギーを貯めて足元で爆発させるみたいに使うと。
「早!?」
こうやって昔とは全然違う速度で移動できる!
「バーン・ファング!」
「ナイスよシュクラ!」
「ふぅ」
口が煙っぽくなるのがこれの欠点なんだよなぁ。私は口から煙を吐きつつ前に進んで行った。
うんうん、シュクラもしっかり魔法を使えてるな。問題なさそうだ。
「きぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「よくやったカガリ」
足止めはよし、後はウィラーの魔法まで時間稼ぎだ。
グシャッ! バキッ!! メリメリ!
「できた」
「よし!」
「十四章二十番六十七列!」
ドコンッという大きな音の後はパラパラと何かが崩れ落ちるような音だけがダンジョン内に響き渡った。
「おいおい、跡形もねぇじゃん」
「十四章と十五章は威力や効果が高い代わりに発動まで時間がかかるからな。まぁこんなもんだ」
当たり前のように言っているが態度が明らかに自慢げなんだよなぁ。
「ここまで順調に攻略を進めている生徒達! しかしやはり1番注目されているのは特殊クラスの生徒達! ダンジョン内のモンスターをバッタバッタと倒していく!」
うんうん、そういう実況でいいんだよ。やれば出来るじゃないか。
「しかし……これだけ連携が取れているとは。自分の担当しているクラスなのに、私は皆さんの力を最大限に引き出すことは出来なかったみたいです」
肩を落とすエルド、この人はこの人なりにしっかり生徒を見ているのか。
「そう悲しい顔をしないでください。俺は戦うすべを教えているだけです。エルド先生の教えている数学や国語などは結果が出るのに時間が掛かりますし得意、不得意もあります。ですからきっと生徒達はエルド先生の心にも気付いているはずです」
「……ありがとうございます」
生徒の事を誰よりも考えている教師はこんな顔をするのか……ふふっ俺なんてまだまだだな。
1時間後
「リタイアが増えてきましたね」
「そうですね、しかし前回よりも少ないです」
「……そうでしたか」
現在のリタイアは54人、ダンジョンに入った生徒が1182人だからまだまだ残ってるな。
「それにしても今回はなかなかボスに当たりませんねぇ」
エルドが不思議そうに言った。
「確かに、前回は40分程でボスの部屋にたどり着き50分には全てが終わっていましたからね」
ただ運が悪いだけか、モンスターの隠し場所がとても難しいのか。まぁどちらにせよ固定カメラはボス部屋に置いてないらしいからな。ボスの戦闘は魔力を込めた小型カメラで行ってるし。
「あともうひとつ違和感があります」
メガネを上げてエルドが画面を見つめる。
「違和感とは?」
「多いんです。モンスターの量が明らかに多い。それに本来では現れない場所に強いモンスターが生成されています」
なるほど……。
俺は後ろにいる教師の反応を見る。どうやらエルドの言っていることは本当らしいな。
ダンジョンでモンスターが大量に生成される理由は色々あるけどここは1度攻略されたのにモンスターが湧き続ける特殊なダンジョン。常識的なことを考えていても結論は出ないだろう。
「まだ大きな問題はありませんし、何かあればダンジョン内にいる先生が対処するので平気だとは思いますが」
ダンジョン内にいる教師がどのくらい強いかが問題なんだけどね。
「今は生徒たちを見守りましょう」
何事も起こらないことを祈りながら俺が育てた生徒たちの勇姿を目に焼き付けよう。そう思った俺はもう一度モニターに目を向けた。