174話 生徒と歩く道
4限開始時間
扉の向こうに気配はない。昨日の出来事は夢ではなかったと心の中で喜びながら扉を開ける。レオはしっかりと椅子に座っていた。まぁちょっと態度が悪いのは見逃してあげよう。
「それじゃあ今日も授業を始める。……とまぁ俺は今まで体を動かす戦闘訓練しかしていなかった訳だが、ここで頭を使う訓練をしようと思う」
「えぇ〜!!」
1部の生徒……いや主にシュクラがものすごく嫌そうな顔をした。
「まだ先だけど学校で行われるイベントがあるだろ?」
「封王祭ね」
読んでいた本を置いてナツが答える。
「そう、まぁ……安全とはいえダンジョンだからな。基礎的な知識は入れといて損は無いだろう」
まぁ俺も最近詰め込んだばっかりの知識だけど。
「ダンジョンのことなら色々知ってるぞ」
ウィラーが面倒くさそうに言う。
「確かに、でもウィラー以外が知ってるとは限らないだろ?」
「……はぁお甘いこった」
ため息をつきながら外を見るウィラー、まぁ知ってるなら無理に聞かせることもないだろう。
「本当に基礎的な事だからな……メモとか取ってくれると嬉しいけど、強制じゃないから」
大半がメモ取らないよねぇ……あっでもチグリジアとレオは撮ってくれてる。チグリジアはともかくレオは嬉しいなぁ。
……話したいこと話したら時間余っちゃった。
どうしよう、本に書いてあったことは全部言ったしなぁ。
「先生」
俺が残りの授業時間をどう消費しようか考えているとレオが手を挙げて質問してきた。
「どうしたの?」
「先生はダンジョンに行ったことあるのか?」
……うーん行ったことはあるけどそしたらなんで? どうして? って聞かれそうだしなぁ。でも嘘つくのもなぁ……。
「まぁ一応」
生徒たちの目が輝く。やはりここのみんなも冒険とかは興味あるんだろうか? あっいや全員じゃないか。
「どこどこ!?」
「レベルは!?」
「どうせ低いだろ」
ウィラーだけ宿題増やしとこ。
「中級ダンジョンだよ」
「お〜!」
良かったこれくらいで問題なかったみたい。
「それで? 何人で攻略したの!?」
「え?」
「仲間は誰!?」
……また答えずらい質問を。
「まぁまぁ俺の話はこれくらいにしてさ、みんなの勉強を」
「そういえば先生の話って滅多に聞かないよね〜」
「言っていたのはフィデース信栄帝国から来たのと蛇の獣人ってことくらいだからな」
ボロが出るから話したくないんだよ。
「教えてよ〜」
「そうだそうだ〜」
この女子特有の絡み……誰か助けて。
俺はこの場を解決してくれそうな人物、アゼルとチグリジア、レオを見る。チグリジアは苦笑いをしながら目を逸らしアゼルはこっちを見ようとしない。レオに関しては聞く気満々と言った感じだ。
逃げ道なし……。
「……人」
「え?」
「3人」
正確には3匹だったけど。
「3人でクリアしたの!?」
教壇を勢いよく叩き興奮状態のシュクラが聞いてきた。
「え、まぁうん」
「それは盛りすぎだろ先生」
ウィラーが呆れた様子でいう。
「え?」
「中級ダンジョンと言えば……そうだな、獣王国の精鋭が100人位で攻略できるダンジョンだぞ? それを3人って」
鼻で笑われてしまった。でも事実だからなぁ。
「まぁ信じるかどうかは好きにしていいよ」
俺がそういうと終了のチャイムが鳴り響いた。
「それじゃあ今日はここまで。バイバイ〜」
手を振りながら扉に向かう。チラッと教室を見たがシュクラが元気よく、ナツとキャネル、ヴィオレッタも手を振ってくれていた。ついでに小さくだけどカガリ、ガッシュ、レオが振っていたのも見えた。最初の状態から考えればありえない光景だが……ふふっ嬉しいな。
ギィッ
書類と睨めっこをしていて固まった体を椅子に擦り付ける。普段使ってる椅子は結構いいのだったけどこれは少し安めだから疲れが溜まるのも早いのかな? あとは単純に俺が効率悪い。
「ふぅ……」
一息つくために冷たいお茶いれていた時、扉をノックする音が聞こえた。
レオかな。
「どうぞ〜」
「……失礼します」
うはぁ〜ボソッとだけど失礼しますって言ったよぉ〜。なんだよ素直になれば可愛いじゃんこの子。
「今日はどうしたの?」
「今日から特訓してくれるって約束したろ!」
あ〜言ったね、でも怪我がなぁ。昨日はああ言わないと帰らないと思ったから言ったんだけど。……でも
こう目を輝かせている所を見ると。
「わかった……やろうか」
何かあれば回復してあげればいいし。
訓練場
「この時間だと結構暗いな」
「そうだね……ほら空いたよ」
理事長に訓練場の鍵を貰いに言ったんだけど何も言わずに渡してくれたな、俺の事を信じてくれているのかレオの特訓に付き合うのを知っていたのか。まぁどっちでもいいけど。
「さて、特訓と言っても何をするかな」
「……先生は魔法が得意なのか?」
「え? いやまぁ苦手じゃないけど」
魔法と体使う戦闘なら魔法の方がいいかな。一応刀使ったりするから基礎訓練はしてるしたまにだけどケルロスとかクイックとかとも戦うしな。……魔法のハンデ無しだと時折ケルロスに負けるんだよなぁ。クイックはまぁ負けはしないけど危ない場面とかは多かったりする。てかあの2人成長速度最近早すぎない? 単純な力でまた追い抜かれてる気がするんだけど。
「先生?」
「あっ! ごめん」
「じゃあその……魔法を教えて欲しい」
魔法……レオは近接戦闘特化の体術タイプだと思ってたんだけど、魔法にも興味があったのか。
「それはいいけど……まず属性を調べてみないとね」
「属性か」
例の石があれば良かったんだけど今は持ってないしな。というか属性じゃない魔法も人によっては使えなくはないけど成長しずらかったり威力が弱まったりするからなんとも言えない。
「どうやって調べるんだ?」
「うーん」
前にエレナが言ってた方法でやるかぁ。と言ってもこれは俺にしかできないやり方だけど。
「手を握ってくれる?」
「えっ!? いや……わかった」
少し照れてる? 可愛いなぁ。昔のクイックみたいだ。
「じゃあ……えっとね、気を強く持ってね」
それを聞いたレオが不思議そうな顔をする。
「いくよ」
まずは俺の得意な水から。
「うっぐ……なんだ……これ」
攻撃とは違うけど水属性の魔法をレオの体に流し込んでる。自分と相性の悪い魔法は他者から無理やり流されると激しい不快感を感じるらしい。ちなみに俺は風属性が唯一苦手らしい、使えるけどね。
「水はダメみたいだね」
じゃあ次は……。
「ちょ! ちょっと待ってくれ! 何をしたんだ」
「あ〜属性事の魔法を体に流し込むんだ。自分に適性が無い魔法は流されると気分が悪くなる。だからまぁ無理はしなくていいよ」
次は火かな、レオは個人的に火ってイメージあるし。てか最初に俺を攻撃した時火使ったしな。
「うっ……うぅ」
「嘘」
火も適正じゃないのか!? 使ってたからてっきりそうとばかり。
「今のは?」
こ、これは言っていいのか。
俺がレオを見つめたまま悩んでいると……。
「火か」
「えっ……あっうん」
「そうか……いやいいんだ何となくわかってたから」
レオ……とっても悲しそうだ。何かあったんだろうか……こんな時はあれだな。
「ちょ! 何すんだよ!!」
「何って頭撫でてるんだよ」
「はぁ!?」
ケルロスとクイックが落ち込んでる時は良く頭撫でたしこれでいいはず……多分。
「……いつまでやってんだよ!」
レオが俺の手を払い後ろに下がる。しかしその時にバランスを崩してしまい倒れそうになる。
「レオ!」
俺はレオの手を掴み思いっきり引っ張る。勢いが良すぎたせいか少し抱きしめるみたいになったけど……まぁ問題ないだろ。てかこんなこと前にもあったような。
「大丈夫か?」
「え……あっ、おう」
「? 顔赤くなっ――」
「うるせぇ!」
あっ後ろ向いちゃった。
「ま、まぁほら手を出して。次は風だから」
「んっ」
レオは俺のことは見ないが手だけを出している。まぁ素直じゃないってのは少し可愛い。
「いくよ」
「ん……ん〜、なんともないな」
レオの属性は風か。
「風だね」
「風か……そういえば先生はなんなんだ?」
「水だね」
何か考え込んでるな……属性的に有利なのか考えてるのかな?まぁ水は火に有利、火は風に有利、風は土に有利、土は水に有利だからな。俺とレオはどこの相性にも属さないし。……いやまぁ魔力量的に俺は有利、不利関係ないけどね。
「相性良くねぇのか」
レオが何かをボソッと言ったが上手く聞こなかったなぁ。
「さて……属性もわかったしやろうか」
「え?」
キョトンとした様子のレオ、属性に集中して本来やるべき事忘れてたな。
「強くなるんだろ?」
それを聞いたレオはハッと何かを思い出したようで戦闘の構えをしだした。
「手加減はなしだぜ!」
「どうかなぁ……俺が本気でやったら、死んじゃうよ?」
レオの方がビクリと跳ねる。
……楽しいのはこれからだな。
この時の俺は薄気味悪い笑みを浮かべていたとレオが言っていた。