170話 拮抗するクラス
「九章十九番八列!!」
「ファイア・スピア!」
「斬撃!!」
様々な魔法、攻撃が飛び交う。さすがは特殊クラスと言うべきだろうか? たった11人の戦闘なのに深き切り傷が地面を抉り力を入れて踏み込んだ足元には大きなくぼみができている。
感心して眺めていると俺は謎の違和感に気付いた。
「あれ?」
つい先程まで立っていたガッシュが居ないのだ……いくら他の生徒を見ていたからってあんな目立つところにいる大柄なガッシュを見失うはずはない。
目を凝らしてよく見てみるとガッシュの立っていた場所に大きな穴ができていた。
「なるほど」
原始的な手ではあるがあの乱闘でずっと動かないガッシュを気にかけ続けるのは面倒だ、いつか視線から外れる。その一瞬を狙って穴を掘りチグリジアを叩こうってことだろう。
「誰が気付くかなぁ」
少しワクワクして見ていると地面を掘っていたガッシュがいきなり空中に放り投げられていた。
「ん? ……あれはヴィオレッタか」
しかしどうやったんだ? あのサイズではガッシュを地面から弾き
出すのは無理があるだろ。魔法か? そういえば土石魔法を使ってたな。
「簡単に勝てると思わないでね!」
「ちっ」
前々からそうだけどヴィオレッタは全体が良く見えてるな。指揮官とか向いてるのかも。
「ファイヤー・レイン!!」
火の矢の雨か……いい手だけど仲間にも当たらないかそれ?
いや……上手い具合に避けて打ってるのか。
「チグリジア……左だ」
「えっ」
バコンッ!!
「なっ!?」
チグリジアの左側から土の触手、恐らくあれはウィラーだな。しかしアゼルはどうやってあれを予測したんだ? 魔力探知が桁違いに上手いとか?
アゼルの助言もありチグリジアは体を後ろに逸らし攻撃を避ける。
「あと少しだったのに」
「おらぁ!!」
ドゴンッ!
レオがウィラーに突っ込んで行ったな。
「あの時の借りを返しに来たぜ!」
「そのまま借りてていいけど」
前回の戦闘ではウィラーが勝ってたけど……今回はどうなる事やら。
「あぁ! めんどくさい!!」
シュクラがそう叫ぶと拳を強く握り地面をぶん殴った。
ボコンッ!
「きゃ!」
「足場が!?」
「おい! シュクラお前!」
カガリの静止を聞かず、ナツに真っ直ぐ向かっていく。弓矢で応戦するが足場の悪い地面と舞った土煙のせいで標準が合わないのかシュクラには全く当たっていない。
「これで終わりだ!!」
勢いよくジャンプしたシュクラは太陽の光と一体化して一瞬見えなくなる。上手い戦い方だ……計算か本能か。
「おらぁぁぁぁぁ!!」
シュクラの拳はナツの腹部に深くめり込み遠くに吹き飛ばした。あとは紐を取るだけ……誰もが決まったと思ったその瞬間であった。
「……あれ」
吹き飛ばしたはずのナツが居ないのだ。
「何処に」
勢いよく振り返ったそこにはニコリと微笑むナツが立っていた。
「ファイヤー・ショット」
丁寧に優しく引いた弓を離しシュクラの頬に傷をつける。
「あっ……」
「シュクラは失格! 枠の外に出ろ!」
あの場で頭を撃ち抜かれていれば死んでいたと理解しているのかシュクラは何も言わずに枠の中から出てきた。
まさか最初の脱落がシュクラだとはな……しかしあれは幻魔法。使ったのは多分だけどキャネルだな。そんな魔法まで会得してるとは兎人は魔法に長けた種族ってのは本当なんだな。
「先生〜」
肩を落としたシュクラが悲しそうな顔をしながらこちらに歩み寄る。
「残念だったな」
「うぅ〜」
シュクラ用の椅子を作ってやり水を机に置く。
「ほら、休みな」
「ありがと〜」
力なく椅子に座り込みだらーんとした腕で水を取りこれまた気力を感じられない様子でゆっくりと水を飲んだ。
「そんなに悔しいか?」
「悔しいというかぁ……うーんおかしい」
「おかしい?」
コトッ
水の入っていたコップを机に置くとシュクラは戦っているクラスメイトを見ながらゆっくりと話し出した。
「今までの私は戦いがすごく好きだった。ううん、今だってそれは変わらない。でもナツを殴る時一瞬力が抜けたと言うか……体が勝手にセーブをしたというか?」
首を傾げながら言うシュクラ。
「なんて言うかね、こう……殴ろうとした時心がギュッとなったみたいな? ナツと遊ぶの楽しかったのを思い出した……みたいな?」
……。
「そっか」
俺はシュクラの頭に手を乗せてゆっくり、そして優しく手を左右に動かした。
「先生?」
何故撫でられたのかわかっていない様子だが……今はそれでいい。だって俺の昨日の話は無駄じゃないってわかったから。
「十一章二十一番四十二列!」
「当たらねぇよ!」
レオとウィラーは随分長く戦ってるな。前回のレオは俺との戦いで結構消耗してたし万全の状態のレオはここまで強いのか。
「ファイヤー・スラッシュ!」
「サンド・ブレイク!!」
あっちはナツとヴィオレッタか近くでキャネルが補助してるな、ナツの火炎魔法の威力が上がってる。まぁそれを1人で防いでるヴィオレッタも大したものだが。あと以外なのは。
「エアロ・ショット!」
「当たらねぇ!」
ドコッ!!
「ッ!!」
ウィグとカガリが戦ってるってことだ。あいつらは戦わないと思っていたのだが……まぁ人間関係は複雑って言うし何かあるんだろ。
そして残ったのはアゼル、チグリジア、ガッシュだ。あの3人……いやまぁチグリジアは後ろの方で立ってるだけだが、ガッシュとアゼルは肉弾戦をしている。獣人相手にあそこまで攻撃を避けつつカウンターを当てられるのは正直凄いとしか言えない。
「アゼルの動き……あそこまで攻撃を避けているのを見ると気味の悪さも感じるね」
シュクラも見ていて気付いたか、やっぱりあの動きは普通の人間の動きじゃないよな。
「でもレオとウィラーの戦いも面白いね!」
指をさしながら期待にまみれた目で2人の戦いを見るシュクラ。まぁ確かに……いい勝負だ。
「七章十四番五列!」
氷の槍、あの本に載ってる魔法は相当な量と力だな。でも根本的な氷結魔法とは少し違う。まず本に載っていることからアレンジなどが効きにくい。さらに俺の氷結魔法よりも消費魔力が多いなあれは。補助効果があるから使う魔力も多くなってことだろうか?
そんなこと考えているとレオがその槍に突っ込んで行った。
「なっ!」
それを見たシュクラが立ち上がり驚いた顔をして固まってしまった。
まぁ普通あの状況に追い込まれたら距離を取るか防御系のスキルを発動する……もしくは魔法で相殺するを選ぶが、そこであえて突っ込んでいくとは。面白い子だ。
「死にたいのか!」
「そんな訳ないだろ!」
放たれた氷の槍はレオに向かっていく。レオはその氷の槍の上に乗ったり下をくぐったりして攻撃を見事に躱していく。そして……。
「やっと……拳が届く距離に入ったぜ!」
最後の槍に足を乗せ勢いよくウィラーに突撃する。
「お前! 二章ッ!?」
「遅い!!」
レオのパンチはウィラーの腹深くに突き刺さりそのまま場外へと吹き飛ばした。
「……しゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
拳を空高くあげて雄叫びをあげるレオ、その姿は百獣の王であるライオンを思わせた。
「シュクラ、ウィラーを回収してやってくれ」
「はーい」
壁にめり込んだウィラーをシュクラが助けてくれている間に俺はベッドを作る。さすがに地面にそのままは可哀想なので寝かしてあげるけど……ははは、命狙われてる子にここまでするとか俺もお人好しすぎるよな。ってこんなの言っても誰も笑えないか。
「連れてきたよ」
そう言ってシュクラは優しくウィラーをベッドの上に置いてやった。
「はぁ〜あそこから取るの大変だったよぉ」
肩をぐるぐると回しながら椅子に座るシュクラ。
言うてそんなに疲れてない癖にとかいう失礼なツッコミは置いといてウィラーの様子を確認する。
ふむ……大丈夫そうだな。
呼吸と心臓がしっかりしているのを確認した俺はウィラーによって……いやレオによって? 壊された壁を修復してからもう一度椅子に着いた。
「あれを一瞬で治すなんてすごいね先生」
「そうか? まぁみんなあれくらいはできるようになるさ」
治した壁の強度点検をしてから座っていた椅子に戻る。生徒達の戦いに変化という変化は見られず互いに拮抗した状況で時間だけが過ぎていった。