166話 差し向けられた暗殺者
戦闘開始から30分、チーム1はアゼル、チーム2は脱落チーム3はウィラーとシュクラ、チーム4はガッシュを残すのみとなった。
チーム3が有利だな。アゼルは未知数、ガッシュはシュクラに勝てるかどうかだろうな。
「こう負けると暇だねチグリジア」
「……はい」
今のうちに仲を深める作戦を実行したのだが……まだまだ壁を感じるな。やっぱりみんなの先生になったんだしクラスの生徒全員と仲良くなりたいよね。
「チグリジアは好きな……色とかあるの?」
……いやどういう質問!? 片思いの相手と話してるんじゃねぇそ俺!! いやケルロスとクイックにもこんなこと聞いたことないけど! 待て待て! それだと俺が2人のこと好きみたいな言い方じゃん! えっ? いや嫌いって訳じゃないけど! ライクの方でラブじゃないというか異性として意識してるわけじゃないというか!? ……はぁ頭の中で言い訳してどうすんだよ恥ずかしい。
「色……ですか」
答えてくれるのかあんな下手っカスな質問に。
「あ……緑です」
「緑か、いい色だよね。リラックス効果があって落ち着く色だ」
「はい」
「……」
「……」
気まずい恋人か! いやさっき似たようなツッコミ入れたな。
バコンッ!!
なんだ?
「お前……」
「……」
ウィラーとアゼルがほぼ同時に倒れる。何が起こったのか見ていなかったが状況から見るにアゼルの放った一撃の魔法とウィラーの連続攻撃が同時に当たったって感じだろう。
「残るは……」
「はぁ……はぁ」
「お前……相変わらず、しぶといなぁ」
愚痴を言えるだけまだガッシュの方が余裕か? いや傷を見る限りシュクラも頑張っている。
「どう転ぶかな」
呼吸が整った2人はお互いの拳をぶつけ合う。ガッシュはシュクラの攻撃を避けることなく全て受けつつ攻撃の隙をつきしっかりと拳を当てている。シュクラもなるべく攻撃を避けながら的確なパンチ放つ。
「獣人同士の戦い、それも高レベルだな」
とはいえ勝負とは長く続くものじゃない。一瞬、たった一瞬の変化で大きく傾くことがある。
ズルッ!
「なっ!?」
ガッシュはシュクラの攻撃を受け続けている。口から、切れた傷口から大量の血が溢れ出ている。それは地面に溜まり続け水溜まりのようになっていた。そこにシュクラが足を置いてしまったのだ。
「ッ!!」
そのチャンスを見逃すほど獣人の勘は緩くない。
「今!」
「負けて……負けてたまるかぁ!!」
シュクラの顔面に向けて放たれた重い一撃……しかしガッシュは動かずシュクラも倒れる訳でもない。
「……なんだ」
よく見るとシュクラの口から血が流れている。
「お前」
「私は……負けない!!」
バランスを崩した体を横に逸らすとかならまだ分かる。だがそのまま拳に向かっていくとはな……。顔だけを右に反らせてガッシュの腕に噛みつきやがった。
シュクラの噛みつきは見ている俺からは想像もつかないほど強いらしくガッシュが一生懸命引き離そうとしているが全く動いていない。
「離せ! おい! シュクラ!!」
「ぐぅ!! うぅ!!」
拳を天高くあげたシュクラはそのままガッシュの脳天に目掛けて全身全霊でその拳を振り下ろした。
「ぐっ……うぅ」
ガッシュはその攻撃を受けて膝から崩れ落ちゆっくりと地面に倒れ込む。それを確認した俺は戦闘終了を伝えた。
「ここまで! 勝者はチーム3! ウィラー、シュクラ、ヴィオレッタとする!」
時間ギリギリ、あと2分で休み時間だ。というか……ガッシュとシュクラはさすがに保健室に連れてくようだな。血塗れのガッシュとシュクラを見て苦笑いをしながら授業終了を皆に伝えた。
「大丈夫か?」
「うん! いっぱい体動かせて最高だった!」
血塗れだけど大丈夫? 体は動かせたけど体は血にまみれてるよ?
「ま、まぁ楽しかったなら良かった」
廊下にポタポタと垂れる血液……これみたら生徒、いや先生も卒倒しそう。後で拭かないとな。
その後2人を保健室に運び俺は教師用の部屋まで戻った。保健室の先生の驚いた顔は見ていてとても面白かった。
カリカリカリ……カリカリ
「ふぅ」
生徒たちに関しての資料を書き終えた俺は時計に目をやる。時計の針は15時を指していた。
「こんな時間か……ペスラにあんまり遅くならないうちに帰るって言ったしそろそろ帰るかぁ」
書類をバックにぶち込み部屋を出る。特段することもないので直帰するか。あっけどいい感じのお土産とかあったら買って帰ろうかな。そんな妄想をしながら学校を出て帰路に着く。
「あとは帰るだけ……帰るだけだったんだけどなぁ」
カーティオとペスラの為に串焼きを買ってあとは帰るだけだったんですよ。いやまぁ寄り道したのが悪かったのかな? でもそれでこれは少しあれじゃないっすか?
「……」
俺の周りを囲う真っ黒な服を着た明らかカタギじゃない人達。The殺し屋って感じだね。
「……これはあれ? 雇い主は? とか聞いた方がいいやつ?」
俺の面白い質問にも全く答えない生徒にも殺し屋にも無視されるとか最近辛いよ、ケルロス達が懐かしいよ。あぁもうホームシックになりそう。
とまぁゆっくりそんなことを考えていると痺れを切らした人達がナイフや剣を取り出し始めた。
「有無を言わさずってやつ?」
「……」
もういいや話しかけるのやめよう。
ガシャン!! 背の高い男が俺目掛けて剣を振り下ろす。華麗にその剣を避けた俺はなんとなく小腹が空いたので1本多く買った串焼きを取り出す。
「んっ……美味しい」
タレが染み込んでる。てか硬いもんかと思ったけど結構柔らかいんだな。これは冷めないうちに2人に持って行ってあげないと。……てか串焼き食べてる途中は手を出さないで欲しいなぁ。最後の晩餐とかあるやん? やっぱり食事は大切だからさ、殺される直前なら尚のことゆっくり食べたいし。
ガシャン! ガチャ!!
串焼きを食べながら四方八方から放たれる斬撃を避け続ける。
「ふぅ……ご馳走様」
食材や作ってくれた人に感謝をした後俺に放たれた剣を左手で抑える。
「ッ!?」
驚いた様子を隠しきれない黒服達のことを無視して剣を握っている奴の耳に串の棒をねじ込む。男は呻き声を上げながらゆっくりと絶命した。
「あと……5人」
血まみれになった棒を左手に持ち変えて近くにいた男の足に突き刺す。バランスを崩した男は地面に尻もちを付き座り込む。そのまま引き抜いた棒を目玉の部分に沈ませていく。棒はそのまま脳にダメージを与えて男の命を終わらせた。
「4人」
圧倒的な強さを目の当たりにした残りの4人は体制を立て直す為か撤退することにしたらしい。しかしまぁそんなことを俺が許す訳もなく。
パシュッ!
串を1人の足に刺す。1番前に居たやつだったので転んだ衝撃で後ろにいた3人も転んでしまう。
「さて……雇い主を教えてくれないかな?」
転んだ3人の前に立ち逃げ道を塞ぐ。圧も掛けながら話しているのだがさすがプロ? 簡単には言わないか。
「まぁ……1人残せばいいか」
そう言ったのと同時に後ろ3人の首をはねる。1番前に居た男は後ろの男3人の血飛沫がかかり頭から真っ赤になってしまった。
「こんな裏道で襲ってきたんだ。ここは人通りが少なくて声も聞こえずらいんだろ? まぁほら……雇い主言ってくれたらこのまま帰してあげるからさ」
笑みを浮かべて足に刺さった棒を抜く。うぅ! と呻き声をあげる男を無視して話を続ける。
「こんな所で死にたくないでしょ? 教えてくれよ〜」
丁寧にそして優しく聞いているのだが全く答えてくれる様子がない。
「はぁ」
大きなため息と同時に男の足首を切断する。しかし男は何をされたか全く理解出来ていないようだ。それもそのはず分解でばらしただけなので痛みは出ないようにした。
「ほら、これ君の足首。これは左かな? 10秒経つ事にこうやって体の部位バラバラにしてくから」
「お前……一体」
「はい10秒」
次は男の手首を分解した。
「俺の質問には答えてくれないの?」
「化け……物」
「はい10秒」
右足首
「このままだと君手足無くなっちゃうよ?」
「……」
「10秒」
左手首
「あらら〜お人形さんみたいだ。もし全部バラバラに出来たら組み立て式の人形としておもちゃにしてあげるよ」
左目
「……あんまり俺もこういうのしたくないんだよね。早く雇い主教えてくれない? 教えてくれたら外したパーツ全部戻してあげるからさ」
右足
「……」
「……」
左腕
「はぁ、くだらない」
自分でもあまりに冷酷が出たので少しだけ驚く。しかしそんなことは置いておきそのまま話を続ける。
「もういいよ。本当のこと話してくれたら真面目に帰らせてあげるつもりだったけど、ここまで言わないなら手っ取り早い方法で行くから」
「何……を」
立ち上がり男の目を見つめる。
「心理掌握」
男の心の声、聞いた情報を頭に流し込み理解する。
「なるほど」
「一体何をした!」
「君は知らなくていいよ、それに……もう死ぬんだから気にしないで」
ニヤリと浮かべた笑みを見た男が顔を引き攣らせる。絶望に染まった男をしっかりと見つめてバックから取り出したサプレッサー付きの拳銃の引き金を引いた。
「……」
転がる死体を冷たい目でもう一度確認して暗く寒い裏道を後にした。