165話 チームワーク
ガラッ
「よーし、チーム分けしたから名前を呼ばれたら立ってくれ」
「はーい!」
まじで返事してくれる子がシュクラしか居ないんだけど。
「第1チームはレオ、アゼル、ナツだ」
呼ばれた3人が立ち上がり俺の後ろ側に回る。その時ボソッとレオが
「いつものメンバーじゃねぇのかよ」
と俺にだけ聞こえる声で言ったがそんなものは完全に無視した。
「第2チームはカガリ、ウィグ、キャネルだ」
「なんで俺たち2人は一緒なのにレオはダメなんだよ!」
レオの取り巻きであるエルフのウィグがギャーギャーと喚き散らかしているが気にせず次のグールのメンバーを伝える。
「第3チームはウィラー、シュクラ、ヴィオレッタだ」
「はーい!」
シュクラが元気よく立ち上がるとウィラーとヴィオレッタの手を取り勢いよく俺の後ろ側に回り込んだ。
2人ともその勢いに驚き全く反応できてなかったがまぁ怪我してないしいいか。
「最後に第4チームた。メンバーはガッシュ、チグリジア、そして俺だ」
残った2人は何も言わずに俺の後ろに行った。
「さてと、チーム分けは出来たけど。こうやって戦うなら勝ったチームはどうするとか特別な報酬とか欲しいよね」
生徒達の目が一瞬だけ輝く。
「そうだなぁ……じゃあこの戦いで勝ち残ったチームは俺のできる範囲でなんでも言うこと聞いてやろう」
「「乗った!」」
真っ先にこの提案を受け入れたのはレオとウィラーだった。
「今の一言で随分とやる気が出たみたいだな。やれやれ俺は何をさせられるのか」
煽り口調でそんなことを言いつつルール説明を始める。
「戦闘可能領域はこの訓練場内、施設の破損に関しては俺が結界を貼ってるので気にしなくていい。場外に逃げる、または戦闘不能になったら失格だ。チームの誰か一人だけでも生き残っていればそのチームの勝ちとする。また俺はこの紐を腕に巻くのでこれを取ればリタイア判定になったことにする。何か質問は?」
「遠慮なくやっちゃって良いのか〜?」
「殺さない程度に手加減は頼みたい、まぁ本当にやばそうなら俺が止めに入るから安心してくれ」
他に質問者は居ないようなのでそろそろ開始しよう。
「それじゃあ開始!!」
俺の掛け声と共に訓練場の四隅にいたそれぞれが動き出す。まず目立った動きを見せたのは俺と同じチームのガッシュ、そしてシュクラだった。
「お前に勝つのは俺だ!!」
「またボコボコにして泣かせてやる!」
どうやら2人は因縁の相手らしい。
奥の方ではウィラーとナツが魔法戦をしている。
「一章七番十二列!」
「エアロ・ショット!」
魔法の威力はウィラーだけど速度はナツだな。エルフ特有の身のこなしで全ての攻撃を避けている。
他の生徒たちもいい戦いを繰り広げてるな。
「それで? チグリジアは何もしないの?」
「私は……えっと」
俺がなんでも言うことを聞くって話でも乗らないか、てか乗らないよな戦いが好きな感じじゃないし。
「おら! 死ねぇぇ!!」
俺の脳天目掛けて放たれた一撃を躱し腕を掴みそのまま前にぶん投げる。
「攻撃しねぇんじゃねぇのかよ!」
「今のは受けただけだ」
不満を撒き散らすレオ、しかし教師に向かって死ねぇ! はさすがに酷いのでは?
「クソが!」
雑な攻撃、てか怒りに任せて攻撃してるからものすごい大ぶりだな。
レオの攻撃を避けたり受けながら他の生徒の状況を確認する。
カガリとウィグは協力して戦ってるな。しかしあの二人の攻撃を全て避けるアゼルは一体何者なんだ。ん? 避けてるかあれ? 避けてると言うよりも攻撃が来る前に……。
「せめてこっち見ろや!!」
「あっごめん」
適当に攻撃を避けてたから怒られてしまった。しかしみんな粘るなぁリタイアする生徒も倒れている生徒もいない。
「チグリジアはこのままでいいのかい?」
「えっ……」
いきなり声をかけられたのに驚いたのか体をビクリと震わせる。
「いいや、無理はしなくていいや」
無理やり戦わせて何になる、理由なら今度いくらでも聞けばいい。戦いたくないなら戦わなくたっていい。
「ありがとう……ございます」
「ウィンド・スラッシュ!!」
後ろからの不意打ち!? あれはキャネルかレオの班は他の生徒と戦ってるから共闘はないと思っていたが……そうか、キャネルがこの戦いの1番の理由に気付いたか。
「キャネル! 邪魔すんじゃねぇ!」
「何馬鹿言ってるの!? この怪物をとっとと倒さないと戦いにならないでしょ!」
怪物って……本人の前でそういうこと言わないでよ。
「こいつは俺が倒すんだよ!」
俺は先生として尊敬される日が来るんだろうか……もうなんか涙出てきそうだよ。とはいえ、たった2人で俺を倒せると思っているのだろうか。
「ああ! 避けんなよ!」
「そういう訳にはいかないでしょ」
でもなぁ、このまま戦わせても意味無いというかもっと協力して欲しいというか。
「あぅ……」
ん? ナツが負けたかウィラーとの力関係は結構拮抗していたと思うんだけど。いや待て、よく見るとヴィオレッタが近くにいるな。共闘したのか。
「ちっ助けなんか要らなかったってのに」
「よく言うわよ、全く当たってなかったじゃない」
しかしこれでチーム1は不利になったな。
「はぁ……はぁ」
「こんなに……当たらねぇのかよ」
いつの間にか2人が膝に手をつけて呼吸を整えている。躱しているだけだったんだけど疲れちゃったみたいだ。
「四章十一番三十五列!」
「きゃあ!」
休んでいたキャネルに風の攻撃が飛んできた。
今の特殊な攻撃に詠唱……ウィラーか。
「1人頂き!」
「お前!」
レオがウィラーに殴り掛かる。それを躱して後ろに控えていたヴィオレッタが魔法を放った。
「ウォーター・スタンプ!」
空中で体を捻った!? あの身のこなしは中々。
ヴィオレッタの攻撃を躱し思いっきり蹴りを入れる。小さな妖精であるヴィオレッタはレオの蹴りを防ぐことが出来ずそのまま地面に直撃した。
「あわ〜」
ナツ、キャネル、ヴィオレッタが脱落か……いやいつの間にかウィグとアゼルが一騎打ちしてる。カガリもやられたのか。
「こいつを倒すのは俺だ!」
「いや俺が倒す」
いやぁ先生人気者〜嬉しいなぁ……はぁ、もっと違う慕われ方したかったよ。
俺を倒すのはどっちかと言うので喧嘩を始めたレオとウィラーのことは放ってほいて、そろそろシュクラとガッシュの方も気になる。
「うしうしうしうしうし!」
「くまくまくまくまくま!」
お前らのラッシュ音はそれでいいのか? 人前でそれを言えるのか? と冷静なツッコミをするのもいいが癖を見とかないとな。力だけはガッシュの方が上っぽいな。でも手数や技術はシュクラの方が。
「余所見は良くない」
「勝ったのはウィラーか」
既に放たれた魔法を避けるために地面を蹴る。そう……俺は地面を蹴ったはずだった。
ボンッ!
「ん?」
足に地面を踏んでいる感覚がない。というか……穴!? なんだ? 何が起きた!?
予想外の出来事、一応他の生徒の動きや罠もしっかり確認していたのに完全にやられた!?
「当たれぇ!」
一瞬思考が止まった俺は動きが少し鈍くなりウィラーの攻撃が直撃する。いや正直当たったところでなんてことないんだけど……まぁここは頑張った賞ということで。
俺は腕に巻かれていた紐を解き地面に落とす。あくまでウィラーの攻撃で外れたように一瞬で。
「……」
煙が晴れるのを待つウィラー。緊張か期待か喉をゴクリと鳴らし紐の着いていた腕を凝視する。
全くあんなに見つめられたら照れるな。
両手を上げて煙の中から現れる。紐は地面に落ちたままで。それを見たウィラーは体を縮こませた後思いっきりジャンプして
「よっしゃぁぁぁ!!」
と訓練場に響き渡る声で叫んだ。
「負けたよ。それにしても地面にあんな罠まで作ってるとは気付かなかった」
「ん? 罠?」
……? ウィラーじゃない? じゃあ誰だ? いやまぁ今はいいか。
「いや、なんでもない」
落ちた紐を拾い訓練場の隅に移動する。数名の生徒は驚いている様子だかすぐに自分の戦いに集中した。
「リタイア……します」
俺が負けてすぐにチグリジアもリタイア、俺のチームはガッシュだけになってしまった。
「相変わらずいやらしい奴だ」
「女の子にそんなこと言っちゃダメだよ!」
ドゴン!
あそこの2人は仲が良いのか悪いのか……まぁその辺はどうでもいい。あの2人はクラスの中でも近接特化、しかも相当強いってことはわかったから。
俺を倒したウィラーはどうするのか。
「獣人は獲物に執着するからな、とりあえずあいつら2人は放っておこう」
どうやらガッシュに攻撃を加えるつもりは無いらしい。と言ういことは。
「お前……はぁ、はぁ。一体いつまで……避けてんだよ」
「……」
アゼルとウィグの方だよな。
「2人ともここでリタイアさせてやる!」
元気よくウィラーが魔法を放ちながら突っ込んでいく。満身創痍のウィグは攻撃が当たり戦闘不能に、アゼルは攻撃を余裕で避けている。
「やっぱりアゼルは何かあるな」
アゼルの違和感を感じながらも生徒対抗戦は続くのであった。