164話 魔法測定
次の日
昨日は初めて生徒に会ってそこそこに楽しい時間を過ごせた。まぁその後にロキスクとご飯食べて魔王バレしたのはびっくりだけど。
支度を済ませてリビングに足を運ぶとエプロン姿のペスラが料理を作っていた。
「似合うね」
「ありがと〜」
少し忙しいのかキッチンから出てくる訳ではなく奥から声だけが聞こえた。
「カーティオは?」
「あ〜昨日夜更かししたみたいでまだ寝てる」
……まぁ別に俺は親じゃないしゆっくり寝かしといてあげるか。
そんなことを考えていると皿を3枚持ったペスラがキッチンから出てきた。
「おまたせ〜」
コトッコトッ、コトッ
クロワッサンにスープ、あとはスクランブルエッグとベーコンか。量はあるけど朝ごはんらしい朝ごはんだ。
「ありがとう、いただきます」
このスープ、ペスラの手作りだろうか? 甘くて美味しい。
「今日の服は普通だね」
「……昨日はちょっとね」
ショートパンツは足がスースーしてあれなので普通の半ズボンに変更した。上は半袖のシャツと薄めの上着だ。教師らしい格好って言われてもわかんないしこんなもんだろうか?
「今日は何時くらいに帰ってくるの?」
「ん〜夕方くらいかなぁ、夜にはならないと思う」
どうやら昨日俺が帰ってきた時カーティオは昼寝、ペスラは料理本を読み漁っていたらしい。帰宅時間を言っていれば色々していたのにと言われたがそこまでしてもらうつもりはあんまりない。
「じゃあ晩御飯作って待ってるから」
ペスラは良い奥さんになりそうだなと思いつつ出来たてのクロワッサンを齧った。
「行ってくる〜」
「はーい」
家から学校までは歩いて15分ほどだ、遠くはないだろう。ギリギリまで眠れるのは結構ありがたい。
「今日は何をしようかなぁ〜」
生徒達のいじめか……ゲフンゲフン、生徒たちの教育内容を考えると笑みがこぼれる。
ニヤニヤとした笑み浮かべながらで今日も学校に出勤した。
10時45分
今日の授業は3時間目と4時間目の2時間連続。いやぁまじで何するか悩んでしまった。もうひたすらに戦えばいいのかな? 学校の施設を調べたら体育館や訓練場、シャネルと話になったダンジョンもあるらしい。
「という訳で訓練場に来ました」
「いや知らねぇよ!」
「授業が終わって寝てたらいきなり訓練場で動揺を隠せないんだけど」
みんな驚いてるな、まぁ教室に入った途端土やら水やらで作った……触手? なんかうねうねしたもので体を掴まれて強制的に訓練場に連れられたらこんな反応になるか。
「今日は何するの〜!?」
シュクラだけはワクワクしてくれているみたいだ。
「今日はみんなの魔法威力を調べようと思ってね」
露骨に残念そうな顔するね君。
「魔法って、昨日散々撃ち込んだろ?」
「確かに、ウィラーとナツの魔法は確認済みだ。でも他の子を確認していない。今日はまぁ……みんなの実力診断って感じかな?」
不満そうな生徒達それもそのはず、力を測るのは入学試験や時折行われるテストなどでも行われる。今ここでやるのは正直めんどくさいと思われても仕方ない。
「魔法は嫌だなぁ〜」
情報ではシュクラは魔法が苦手、しかし筋力強化などの魔法は得意みたいだな。潜在能力は高い気がするんだけど。
「やるんなら早くやろうぜ」
ウィラーは自信満々みたいだな、昨日も高威力の魔法ぶち込んできたし。
「試験内容はみんな知ってると思うが人の形をしたこの人形に魔法を打ち込んでいってもらう。攻撃方法は自由、ただし直接攻撃は禁止とする」
説明を聞いた生徒たちは面倒くさそうに人形の正面に立った。
「それでは手前の生徒からやっていこうか」
メモ帳を片手に魔法を放つ生徒の後ろに回る。
ここの学校は人形の破壊度合いで点数をつける。だから人形に当たらなかった生徒は問答無用で0点扱いだ。そのためかシュクラやガッシュなどは魔法についての記述がないし点数も0点になっている。まぁ魔法が当たるか当たらないかなんてのは後々練習すればいいしとりあえずどれくらい魔法が使えるのかを調べるなら目で見た方が早いしな。
最初の生徒はキャネル、昨日は途中でリタイアを申し出た兎人だ。
「エアロ・ショット」
風斬魔法か精度も良いし威力もそこそこだな。
「じゃあ次」
次はカガリだコウモリの獣人でレオとつるんでいた男子生徒だな。
「ロック・クラック」
地割れ攻撃か? いや人形にも亀裂が入っているから相手ごと切り裂く技か。
30分後
「はい、みんなおつかれ。少し休んでていいからね」
全員……いや1人来てないから11人分のデータが揃った。魔法で一番攻撃力が高かったのはウィラー、次にナツそしてアゼルだったな。あとは精度こそ酷かったけどシュクラの魔法もそこそこだった。あと気になったのは……。
俺はある生徒のことを見つめる。
名前はチグリジア、昨日正体が分からなかった女の子だ。順番になっても魔法を放たずただ立ち尽くしていた。どうしたのかと声を掛けてもすみませんとしか言ってくれないし。まぁ無理やりさせることもないから飛ばしたんだけど。まだ信頼されてないのかなぁ……って考えても仕方ないよねまだ出会ってから2日だし。これからきっと仲良くなるさ! 多分!!
「で? 先生、この後は何すんだ?」
ウィラーが座ったまま聞いてきた。昨日よりも態度がだいぶ良くなってるけど何かあったのだろうか?
「そうだね、次は体術を調べようか」
もうわかっていたけれどめちゃくちゃに喜ぶシュクラとガッシュ、だるそうにするウィラーやナツ。
「体術って言ってもどうやって測るんだよ」
レオが面倒くさそうに質問する。いや俺的には昨日あんなことして授業に出てくれる君は偉い子だと思うよ。ってそんなこと言ってる場合じゃない。
「人形に攻撃加えるでも良いんだけどさ、それじゃあつまらないでしょ?」
それを聞いた生徒の数名が何かを察したのか笑みを浮かべた。
「それは先生が相手してくれるってこと?」
野生の本能だろうか? シュクラが鋭い。
「そういうことだな。まぁ順番はさっきと同じだ」
「よし終わったな」
メモ帳に全員の戦闘スタイルや体力などを書きつつダウンしている生徒たちを見下ろす。
「体力、バケモンかよ」
「先生強すぎ〜」
「攻撃躱すか受けるだけだからね〜、そりゃみんなよりは楽だよ」
目線はメモ帳のまま答える。
「1時間目は終わりだね、2時間目はチームを組んで戦ってもらうから」
俺の一言に生徒たちが少しだけ騒ぎ出す。まぁそれも仕方ないだろうな、この学園ではチーム戦とかしないし。
「チームは3人チーム、でも11人で1人いないからそこには俺が入ります。でもまぁ力に差がありすぎるので俺は直接攻撃はしません」
「相変わらず嫌な言い方しますね」
ヴィオレッタが腕をブラーんとさせながら疲れきった様子で言った。
「君たちがもう少し従順なら優しくするんだけどねぇ」
書き終えたメモをしまい訓練場の扉に向かっていく。
「しっかり水分補給とかしろよ〜」
それだけ言って扉を開き外に出ていった。
「驚いたな」
俺は腕に出来た切り傷を治しながらボソリと言った。
この傷を付けたのはチグリジアだ。攻撃を仕掛けてこないのでこっちから近寄ったのだが体に触れようとした途端ものすごい速さで攻撃してきた。油断していたってのはあるけど生徒の中で1番早かったなあれは。魔法を頑なに使わない、それなのにあの攻撃力と速度……力を隠している? ここはチーム戦で見極めたいけどいい案ないかなぁ。
俺が悩んでいる間に10分の休み時間は終わってしまい特段何も思いつかないまま生徒達の元へ向かうのであった。
先生側も休み時間って少ないなぁって思うものなんだな。てか……先生って本当に大変なんだな。