163話 理事長
「はい、という訳で俺に一撃与えられた子は居ないのでさっきの話はなしです」
「えぇ〜!」
「まぁ本読んでればいい」
「ちっ」
反応は色々、まぁみんなの戦い方はある程度わかったし成果はあったかな。でもアゼルとあの子は戦ってくれなかったなぁ。
そんなことを考えていると学校から鐘の音が響いていた。
「もう終わりか、じゃあ今日の授業はここまで。みんな次の授業の準備をするんだよ」
「はーい!」
なんだろう……フィーに似てる。
シュクラ以外は返事をしなかったのは悲しいけどみんな教室に戻ったし。掴みは悪くないと見た。
生徒達の背中を眺めながら学校教師になったのは悪くない選択だったかもなとしみじみ思ったのであった。
「はぁ〜」
俺は用意された教員室に戻り机に足を乗せて座り込んでいた。
もうこれ帰っていいのかな? 俺の授業ってあれだけだったよね? 直接理事長に聞いた方がいいのかもしれない……。
そう思い理事長室へ行こうと扉を開いた時だった。
「おっ」
「え? ロキスク理事長?」
扉の前には俺と同じ背丈の女の子、ロキスクが立っていた。
「いやな、今日の授業はここまでだと思い立ち寄ったのだが」
「あ〜いや俺も今からこの後どうすればいいのか理事長に聞きに行こうと」
なんだろう……今の発言を聞いたロキスクがニヤッと笑ったんだけど。
「そうかそうかぁ〜、ならこの後は暇だな」
「まぁ……はい」
そして連れてこられたのはお高そうなレストランだった。
「ここは?」
「私の行きつけだ。個室を取ってあるから安心しろ」
全く安心出来る要素ないんだけど。不安と緊張しかしてないんだけど。
「さぁ入るぞ〜」
この自由奔放さに勝手な感じ、あの人を思い出すな。いや……こっちの方がまだマシか。
「ふふっ」
「はよ来い〜」
「今行きます」
ロキスクに連れられ俺はレストランの中へと足を運んだ。
「雰囲気が好きなんだ。レイバー先生も気に入ったかな?」
「そうですね、落ち着いた感じでいいと思います」
「普通の感想だな」
「あははは」
さっきは懐かしさを感じて思考を放棄していたが明らかにこれはおかしい。ただの教師にここまでするか? しかも理事長自ら。特別講師だから、シャネルの紹介だからというのを付け加えても2人でこんな高そうなところにご飯なんて。
「まぁ話は食事の後にしよう。そろそろ来るしな」
ロキスクの言う通り最初の料理が運ばれてきた。
「個室だから作法などは気にしなくていい。好きに食べてくれ」
「ありがとうございます」
頭を下げた俺はフォークを手に取り前菜に手を付けた。
「どうだ? 口には合ったか?」
「はい、とても美味しかったです」
食事を終えた俺たちはドリンクを飲みながらまったりとした空気を味わっていた。
ちなみに俺はリンゴジュース、ロキスクはコーヒーだ。子供っぽいとかそういう意見は受け付けません。
「さて……聞きたいことは何個かあるんだけど、まずはどうだった? 初めての授業は」
なんだか俺の答えをワクワクして待ってるなこのひと。普通のことしか言わないけども。
「そうですね、みんなの戦闘スタイルはある程度把握出来ました。しかし戦えていない子が2人、そして1人は学校にも来ていないようですし」
「まぁいずれ会えるだろう、生徒とも仲良くできてそうで良かったよ」
仲良くかどうかは疑問が残るところだけどここは黙ってよう。
「あっ壊した校舎はこっちで直しとくけど次からは直してくれると嬉しいなぁ」
すっごいニコニコだけど目が笑ってないです。
「次回からは必ず」
てかあの戦い見てたのかなそれとも壊れた所を確認して言ったのかな? いやてか校舎壊したの俺じゃないけどね!
後は他愛のない会話が続き1時間ほどが過ぎ去っていった。しかし退屈とかはなくロキスクの話は面白いのでそこそこに楽しい時間が過ごせたと思う。
「いやぁ、長々と話してしまったなぁ」
「そうですね」
2人のドリンクは既に空でぼちぼち帰ろうかなって雰囲気になりつつあった。
「今日はお開きにするつもりなんだが、最後に聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
今更改まってどうしたんだろうか?
「なんでしょう」
「学校は慣れたかな? ノーチェ先生」
「ん? まぁそうですね。てか似たような質問して……」
ん? いまなんて言った?
「どうした?」
ロキスクの口角があがる。これは……確信犯だ。
「いつから」
「会った時からだな、聞いていた見た目と似ているしフィデース信栄帝国から来た教師だったし」
だからもう少し違う設定にだなぁ。
「まぁ魔王の容姿なんて1部しか知らないしな、今更見た目を偽った所で意味もないだろ」
「あ、あはははは」
シャネルぅぅぅぅぅ!! 早速バレてんぞこの野郎!
「まぁバラすつもりも学園から追い出すつもりもない。それにシャネルからの頼みだしな」
「それを聞いて安心しましたよ」
「それにしても、魔王と言う割には小さいし覇気がないなぁ」
そう本当のことを言われると心に刺さるんだけど。
「ストレートに来ますね」
「今更取り繕っても意味ないしな、首を撥ねられても文句は言わんよ」
自分の首に手を当ててニヤニヤと笑う、腹の底が読めない人だ。
「さすがにしませんよ」
「だろうな、魔王の中でも1番の穏健化と聞いている。しかしクレアシオンとは仲が悪いみたいだが」
「色々ありまして」
思ったよりも情報を持っている、この人何者だ? まず普通の人間か?
「……私のことが気になるんだろ?」
「え? あっはい」
つい間抜けな声を出してしまった。こういうところは昔から治らないなぁ。
「私は一応人間だ。しかしもう既に1000年は生きている」
それは人間じゃないですね。
「カラクリを話すと長くなるが、まぁ簡単に言えば魂の保存と再生を繰り返している……って所だな」
「いや全然わかんないです」
それを聞いたロキスクはクスクスと面白そうに笑いだした。
「あれだ、私は自分の魂を他者に移すことができるんだ。この体も借り物だな」
なるほど……バージェスの使っていた技と似ている力か。
「にしてもわかりやすいなぁノーチェは」
「あんまり名前を連呼するのはやめて欲しいのですが」
「安心しろここは防音だし、信頼ある私の行きつけだ」
自信満々に言ってるけど俺は不安しかないのですが。
「魔王と話が出来て楽しかったぞ。これからもよろしく」
出された手を握りニコリと笑う。
めちゃくちゃ営業スマイルだけどバレてないかなこれ?
俺の不安は特段バレることもなく今日の食事会はお開きとなった。
「不思議な人だった」
帰宅途中ロキスクさんのことを思い返し口から言葉が漏れる。
1000年以上生きている人間、魂の保管と再生。難しい言葉ばっかりで何言ってるかほとんど理解出来なかったけどシャネルと仲がいい? というか呼び捨てに出来る理由はわかった。あとは俺相手にあの対応、大胆というかなんというか。念の為裏があるか探りたいけど……バール居ないしなぁ。
とそんなことを考えていると家に着いてしまった。カーティオとペスラは大人しく家で待ってるだろうか? ペスラはともかくカーティオは家とかぐちゃぐちゃにしてそう。勝手な妄想で不安を膨らませながら扉を開く。リビングは静かでキッチンから音も聞こえない。
「ただいまー」
大きめの声で言ったが返事がない。2人とも自室に居るのだろうか? まぁ俺がそこまで干渉することもないだろう。靴も2つあるし。
ということで俺は2人のことを確認せず二階にある自室へと向かっていった。