158話 事件
今俺は会場の隅っこで椅子に座って死んでます。まぁ何故こんなことになっているのか……時間は数時間前まで遡ります。
俺たちは案内された会場へ入り驚きました。規模が……もう思っていた数倍の規模だったんです。挨拶回りはクイックに任せていたので特段困ることはなかったんですけど……いやもう数が多い。挨拶するのもされるのも数が多い! 100超えたあたりで数えるのだるくなって辞めましたよ。それでね……疲れて疲れて飽きた頃にフィーとシャルの暴走。それを止めるために全体力を使い果たし……。
「あ〜……疲れた」
この有様ってわけです。もうね子供の体力やばいわ。あれといつも一緒にいるエリーナが怖いもん。
俺以外のみんなと言ってもエレナはフィーとシャルの見張り、クイックは国のお偉いさんと話し合い。バールは……まぁちょっとやって欲しいことをやってもらってるんだけど。とまぁはい俺は1人で誰にも声をかけられないように気配消して隅っこの椅子で休んでるんですね。ここに来てわかったことはコミュ障は死ねってことですわ。元が陰キャ高校生だからこういうのは慣れない。本当にクイックいるのが救いだよ。クイックがいなかったら今空いてしてる連中誰が相手するの? いや俺で草……だったもんね。
脳内で1人ノリツッコミをしていると1つ俺に向かって近寄ってくる足音が聞こえた。
誰だろうか足音的に男、バールか? いやだとしたらこんなわかりやすい足音は立てない。クイックは距離的にここまですぐ来れないだろうし。
「誰だ」
俺の知らない誰かってことになる。
「こちらを確認せずにですか」
「当たってるだろ? それで? 君は誰かな」
獣人……虎か。虎の獣人と言えば前にも見たことあるな。あ〜そういえば獣王の息子? だっけその子も虎の獣人だったかな。
「お初にお目にかかります。私はダラス・ビードットと申します」
何が目的だろうか……接触した理由は? って色々考えもわかんないよな。
「さて、ダラス君。君はなぜ俺に声を掛けたのかな」
普通名乗られたらこっちも名乗るのが礼儀だろうけど魔王って知られてない可能性もあるしというか今回のクイックの動きを見て思ったけど俺が来てるのみんな知らなそうなんだよね。知ってるのは本当に1部のお偉いさんがたとシャネル王くらいかな。それでも俺に何も言わないのは気を使ってくれているのか俺を信じているのか。真相は全てが終わって聞くとしよう。
「……単刀直入に申し上げますと繋がりを持っておこうかと」
「なるほど……素直な子は好きだよ」
「それは良かった」
魔王とコネがあるからってそこまでメリットあんのかな?
「しかし君はまだ印象に残ることをしていない。さぁ……どうやって俺の頭にダラスという人物を焼き付けるのかな」
ダラスは一瞬驚いた顔をして話し出した。
「随分お優しい方だ、こうして私にチャンスを与えてくださっている」
「気まぐれだよ、ただ今日は気分がいいだけさ」
普段なら面倒でさっきの挨拶の時点で居なくなっているか話を切っているのだが、まぁたまにはこういう気まぐれもいいだろう。
「それじゃあ1曲如何ですか?」
ダラスが俺の前に手を差し出す。まぁ別に断ることもないしちょうどダンスのタイミングだ。……あぁもしかしてこれを狙って? 頭は回るのかもな。
俺がダラスの手を握ろうとした時……。
パシッ
「……どうしたクイック?」
「最初に踊る約束したでしょ?」
そんな約束してないけど……まぁ乱れた呼吸に少しだけズレたネクタイ、慌ててこっちまで来たんだな。
「すまないねダラス君、約束を忘れてたんだ。まぁまた今度機会があったらね」
握られた手に力を入れて立ち上がる。そのまま俺はクイックに連れられ会場の騒がしい方へ誘導された。
「全く、少し目を離すとこれなんだから」
ものすごく呆れた様子のクイックがため息混じり言った。
「はは」
ズレたネクタイを直しながらクイックの耳元に口を近づける。
「じゃあしっかり守ってもらおうかな」
それを聞いたクイックの顔が赤くなったのを確認して俺は面白い反応するなぁ全くと心の底で思っていた。
しかしクイックは踊れるんだな、俺も踊りはあるって聞いてたからエレナとかエリーナとかに教わってたけど単純なステップしか習得出来なかったし。
……まぁクイックの照れ顔と今の守らなきゃって感じのかっこいい顔がいい絵なのでこれ見れただけ来た甲斐があったよ。
「それはそうとノーチェ、なんであんな所にいたの?」
「え? 座って休みたかったからだけど」
クイックがまた呆れた様子を見せる。
「来賓用の休憩室あるしこの会場内にも俺達が座れる専用の場所あるよ」
「えっ……」
そういえばそんなことを入場直後エレナに言われたような。
「あっ……あはははは、忘れてたよ」
「全く、そこにいれば変なのにも絡まれないから」
あ〜これは少し怒ってらっしゃる。
「ごめんごめん、次からは気をつけるよ」
機嫌が悪くなったクイックを一生懸命なだめていると曲は終わっており俺はクイックに連れられて来賓用の席でポツンと座らされていた。
「結局暇なのに変わりは無いのね」
いや無駄に話しかけられても困るんだけどね。そういう意味ではこのお面が役立ってるかな……だって完全にヤバいやつだもん。
そして時間は過ぎて。
「あと少しで終わりだね〜」
「楽しめた?」
「ケーキ沢山食べた!」
最後の締めにシャネル王が終了の挨拶をして今日は終わりだ。途中知らない獣人に絡まれたこと以外特段何もなかったな。っとそろそろ閉会かな。
会場が暗くなり全員の視線がシャネル王へと向く。その瞬間だった。
パシュ
「ん?」
「? どうしたのノーチェ?」
「……いやなんでもない」
気のせいだろうか? 上の方から火薬が破裂するような音が聞こえた気が……。
俺の抱いた些細な違和感はシャネル王の言葉で掻き消されてしまう。
「本日はラインザクセン学園の設立という――」
ドゴンッ!!
シャネル王の言葉をかき消す爆発音。
やはりさっきの音は火薬が破裂する音だったんだ!
気の所為かもしれないと思っていたが念の為魔力を込めておいて正解だった。
辺りは暗くよく見えないがシャンデリアの上で爆発したのは見えた。恐らくあのシャンデリアを落とすつもりなんだ。とまぁ位置さえ分かればあとはどうってことない!
「アイス・ロック!」
よし! 何がが引っかかった。それと同時に会場の照明が光を放つ。
俺の予測は的中、落とされたシャンデリアは俺の氷により空中で止まっていた。
あの距離感あと数秒遅れてたら下にいた奴はぺしゃんこだったな。
その後、シャンデラ国の衛兵が現場検証や魔法痕を調べたが犯人は分からないままパーティーはお開きとなった。
ちなみに氷の魔法は誰がやったかバレないように足元から出てたんだけどフィデース信栄帝国のみんなには気付かれてました。
「……」
気になって来てみたが……。
シャンデリアは回収されてるな。魔法痕も衛兵が詳しく調べてたし反応はないだろう。
はぁ、わざわざ睡眠時間削ってまで来ること無かったかなぁ。
軽い後悔に苛まれていると扉の外から話し声が聞こえた。
やべ! いくら来賓でもこのタイミングでここにいたら怪しまれる。
慌てた俺は天井にある板の上に登り隠れることにした。
……中には入ってこないみたいだ。今のうちに部屋に戻ろう。
ゴソッ
「ん?」
隠密を使い離れようとした時手に柔らかい何かが触れた。
? これは……布? なんでこんなところに。
「……」
とりあえず回収するか。落ちていた布をポケットに入れて夜の闇の中俺は足音を消してその場から去っていった。