156話 なんてことない日常
臨時講師? ナニソレオイシイノ?
「ノーチェ大丈夫?」
はっ! 危ない危ない、唐突すぎて意識飛んでた。
「大丈夫だよ」
「臨時講師って……いや詳しくは何すればいいの?」
正直人になにか教えられるようなタイプじゃないと思うけど。それこそさ俺が教えらるものって……あれ? なくね。
「ノーチェ殿には特別クラスの講師を頼みたいんです」
「特別クラス?」
「はい……そのクラスはとにかく癖が強いというか、実力もあるので我々も手を焼いている状況で」
あ〜……まぁあれだ異世界学園モノでよくある主人公とかがぶち込まれるタイプの教室だ。
「俺魔王だけど大丈夫? 子供の教育を任せていい肩書きじゃないけど」
「この辺は信じております。そしてノーチェ殿の身元はこちらで用意したものがありますので」
そこまで準備済みなんだ……。
「まぁそうだな、返事はもう少し時間を頂けるかな?」
「わかりました。あっ出来れば明後日までにお願いしたいのですが」
あ〜帰っちゃうもんね。
「わかった、ゆっくり話せて良かったよ」
「こちらこそ」
俺とシャネルは去り際にもう一度握手をして別れていった。
「臨時講師かぁ〜」
「やるの?」
自室へ戻っている途中ため息と大きな独り言が混じり軽い口から溢れ出る。
「どうしようかなぁ……最近ゼロに六王と関わりすぎるなって言われたばっかりだし」
いやまぁこんなところに来てる時点でアウトな気はするけど。
「まぁ俺はノーチェの決定に従うだけだよ」
「……そうかぁ」
腕を頭の後ろで組み少し暗くなった廊下をぶらぶらと歩く。特段やることもなく真っ直ぐ部屋に戻ったので割とすぐ着いてしまった。
「着いちゃった」
「着いちゃったね」
部屋の中は静かだ、恐らくエレナ達はまだ帰ってきてない。部屋の中でゆっくりするのもいいんだけど今日はなんだか少しだけ寂しい。
「そういえば俺の部屋お酒あるんだけど少しだけ飲む?」
クイックが何かを察したのか珍しく俺をお酒の席に誘っている。
「俺は酔うと大変らしいから飲まないぞ〜」
と言いつつクイックの背中を押して部屋の中に入っていった。
「広さは俺達の方が上だな」
フフンッ! と自慢げに言うが4人なんで当たり前だなと直ぐに思いそーっとクイックを見る。あっ用意で聞こえてなかったみた――
「こっちは2人だけだからね〜」
バッチリ聞かれてましたわ。
「ノーチェは何飲む?」
「とりあえずオレンジジュース」
「いやごめん聞いといてあれだけどお酒しかなかった」
「ぶーぶー」
「ごめんて」
まぁないなら作るだけだしいいんだけどね。
俺がオレンジジュースを錬成していると準備を終えたクイックが椅子に座り俺に話しかけた。
「便利だよねその能力」
「まぁね」
クイックの持ってるお酒はワインかな? 赤いし。
「乾杯」
「乾杯〜」
んっ……自分で作っておいてこういうのもあれだけどなかなか美味い。イメージ的にはあれだ居酒屋とかに置いてる瓶のオレンジジュースだ。
「いいお酒飲んでるな〜」
クイックも楽しんでるみたいだ。
「うちのとどっちが美味しい?」
「美味しさはうちの方が上だよ、でもこっちのやつは飲みやすいんだ」
軽いってことだろうか? お酒に関しては全く分からないので反応出来ない。
「というか錬成ってご飯とかも出せるの?」
「あ〜複雑なのはキツイかな、これも錬成と同時に水泡魔法使ってるし」
「なるほどねぇ」
こうやってゆっくり飲むのはいつ以来だろうか……いや俺はお酒じゃないけど。まぁそれも些細な問題さ。
「……どう? 気持ちは休まってる?」
「とっても穏やかだよ」
クイックはその一言に安心したのかグラスに残っていたワインをゆっくりと飲み干した。
その日の夜はバールが帰ってくるまで2人でゆっくりとした時間を楽しむことができた。
「楽しかったなぁ〜」
寝巻きに着替えた俺は窓の近くに椅子を持ってきて備え付けてあったお茶を飲んでいた。
エレナ達もそろそろ帰ってくるだろうか……何をしたのか聞くのが楽しみだな。
ここ数日の疲労も取れて無駄に考えすぎていたことも、見えない不安感も解消されている。本当にクイックに感謝だな。
さてと明日は明日でやる事あるしそろそろ寝よ――
「たっだいま〜!!」
「おっぐぅぅ!!」
「あっずるいずるい! 私もやる!!」
「まっ! 2人目はさすがに!」
俺の言葉はシャルの元気な声に希望ごとかき消されてしまった。
「とりゃ〜!」
ドスンッ!!
「あはははは〜」
「ただいまノーチェ!」
「お、おかえり」
勇者とプリオル連隊総隊長を抱きしめた俺は凄いと思う。
「2人ともノーチェが潰れてるから離れてあげて」
救世主が現れた。
「え〜」
「ほら買ってきたこれ食べるんでしょ?」
「あっ! 食べる食べる!」
普段はプリオル連隊で全体の指揮を取ってるとは思えない無邪気さと幼さ。いや体の方は結構成長してるけど。……俺とは違って。まぁ! こっちにはシャルが……いや最近シャルも成長期に入ってどんどん大きくなってるんだよなぁ。というか背丈だけなら俺が1番この中で。
「エレナ……背を伸ばす方法を教えてくれ」
「? ノーチェはそのままでいいと思うけど」
これが持っている者の余裕か。
謎の敗北感を味わいながら俺達の夜は過ぎていった。
「ん〜……何時だ」
昨日はエレナがお酒飲んで無限着せ替え大会始まって……ダメだこれ以上は思い出せない、というか思い出したくない。
「今は8時よ」
「……エレナか昨日の記憶は?」
「ノーチェを裸にして思いっきりぶん殴られた所までよ」
「聞くんじゃなかった」
深い後悔を感じつつフィーとシャルのことを確認する。
うん、2人とも気持ちよさそうに寝てるな。
「朝ごはんってどうなってるの?」
「あ〜クイックの話だとそれぞれの部屋に運んでくれるらしいわ。このベルを鳴らすと持ってきてくれるみたい」
いたせり尽くせりですなぁ。
「まぁもう少し2人を寝かせてあげてからにしようか」
エレナは体を伸ばしながら頷いた。
「美味しかった〜」
「食べやすかったね」
あの後2人は直ぐに起きて寝起きの状態で朝食を平らげた。量が多かったので俺とエレナはフィーとシャルにあげたりしたんだけどそれも含めて軽く平らげた。
「若いってすごいわね」
「いや俺もまだまだ若いはずなんだけど」
エレナのツッコミに少しだけダメージを受けていると扉をノックする音が聞こえた。
コンコン
「私が出るわ」
扉から1番近いというのもありエレナが対応してくれるらしい、まぁここで俺を動かすのはとか色々考えてくれたんだろうか? なんだかんだ言ってエレナも気を使えるいい子だからな。
「ノーチェ〜パーティーは今日の夕方17時からだって〜」
「ん〜、わかった〜」
てことはまた暇な時間か。
「どうするノーチェ?」
エレナも暇を持て余しているらしく17時までどうするか聞いてきた。
「俺はまだシャンデラ国の街並みをゆっくり見てないからな、夕方まで外で時間を潰そうか」
「えっ!? 本当に!?」
「やった〜! ノーチェとお出かけだ〜」
「こら! 布団の上でジャンプしないの!」
凄い、エレナがお母さんみたいだ。
その後俺達は布団を直し外出用の服(エレナ選出)を着て夕方まで時間を潰すために街へと向かっていった。