155話 入城
荷台の中俺はウトウトしながら体を揺さぶられているとフィーの大きく元気な声で一気に現実へ引き戻されることとなった。
「着いた〜!!」
「んっ? ん〜……ふぁ」
目を擦りまだ眠たい体を起こして外を見る。目の前には圧倒的な国土を持つシャンデラ国が見えていた。
「割とすんなり入れたな」
今俺たちはシャンデラ国の中、王城へ向かう道をちょっと高そうな馬車で一直線に向かっている。
今まで乗ってきた馬車はちょっとボロいというか車で来る訳にもいかなかったんでとりあえずでかいのにしたんだけどそれだと少し……ダメだったらしい。
「まぁ招待客だし、すんなり入れて貰えないと困るから」
シャンデラ国に来ることになってからも外交はクイックに任せっきりだし俺達はとりあえずクイックの言う通り動いていれば問題は無い……はず。しかし小さい2人が割と静かって言うか落ち着いてるのは何故だろうか?
「今日は何するの?」
「これといってすることは無いね、フィデース信栄帝国は他の国よりも1日早く招かれてるんだ」
ほう……それは何故だろう。
「よくわかってない顔だね……シャネル王が個人的に会って話をしたいらしいから少し早く来てくれないかなって相談されてたんだよ」
なるほど……てかすることないって嘘じゃん。いやまぁ少し話すくらい問題ないけどさ。
「勝手に進めてごめんね、でも相談したいことがあるって聞いたノーチェがそれを断るとも思えなかったから許可しちゃったんだ」
……声のトーンが下がってしまっている。ここに来て申し訳ないって思い始めたんだな。まぁ全然気にしてないからいいんだけど。
「大丈夫、確かに俺なら相談したいことがあるって言われたら断らないし」
クイックの頭を撫でながらブイサインを作り笑みを浮かべる。ホッとした様子のクイックを確認してフィー達に話しかけた。
「2人とも長旅ご苦労さま」
「大丈夫〜! 結構楽しかったぞ〜」
「楽しかった〜」
体力が有り余っているな、後でお小遣いでもあげて好きなところて遊ぶように言っとこうか。
「バールとエレナもありがとうね」
「気にしないで〜」
「問題……ございません」
道中は俺ばっかり休んでたからな……せめてシャンデラ国内ではみんなにゆっくりして欲しい。
そんなことを考えていると馬車が止まり外から声が聞こえた。
「王城に着きました。外で案内人が立っておりますのでその者について行ってください」
「分かりました」
俺が反応するよりも早くクイックが反応した。さすがは外交担当、こういうところにも気が使えるのか。
「てかさ……本当にこの服で外歩くの?」
「え〜真面目に悩んで決めたのよ」
実は俺達の服装は全てエレナが選んだ物になっている。それもシャンデラ国に入る前全員着替えたんだけど。
「私はとっても好きですよこの服」
「私もだ〜!」
フィーとシャルは色違いのワンピース。フィーが桃色でシャルは薄い青、こう見ると姉妹みたいで微笑ましい。バールとクイックは白を基調としたスーツでスマートに決めている。あとその暖かそうなマフラー俺にもくれないかな? クイックさん。そんでエレナはめちゃくちゃ綺麗なドレス、普段は動きやすい服装だからスカート履いてるエレナは結構レアだったりする。
「そんで俺は紺色のシャツに白いスカートそしてこの真っ白なコート……いや勘弁してくんない? 色合いが……てかこの背の高さでコート着るの大人ぶってるみたいですごく嫌なんだけど、てかスカート! 俺できる限りスカートはやめてってお願いしたはずなのに!!」
「はいはーい1人ツッコミは後にしてねノーチェちゃん」
「外だ〜」
「わーい」
「お先に失礼します」
「ほら行くよノーチェ」
あぁ……俺の要望は全く通らないのね。恥ずかしさを噛み殺して馬車の外へ歩みを進めた。
「お待ちしておりました。わたくしフィデース信栄帝国からいらっしゃるお客様をもてなすように仰せ使ったエスと言います」
凄い……まともな人だ! いやまぁ人を案内するような人がまともじゃなかったら恐ろしいことだけどね。
「それではこちらに」
俺達はエスさんの案内で王城の客間? 知らんけど宿泊できる場所まで連れてきてもらった。
「何かあればそのベルを鳴らしてください」
「わかりました」
深くお辞儀をしてエスさんはその場から一瞬で消えてしまった。
スキル? それとも単純に仕事人? そんな疑問を抱きながら高そうなソファに身を沈めた。
「お〜……深い」
「ソファ座った感想がそれ?」
沈みこんでだらしないカッコを晒している俺を見てくすくすと笑いながらエレナが言った。
「おー!この布団跳ねるぞ〜」
「跳ねる〜!」
いいなぁ、ああいうの見てるとほのぼのするよね。
クイックとバールは別部屋です。
「こうやってゆっくりしてるのもいいんだけどシャネルが俺と話したいって言ってからな……ちょっと行ってくるか」
俺は途中エスから貰った紙を開きシャネルのいる場所を確認する。
割と近い……いや階段あるから行くのは面倒だな。
「じゃあ俺はお仕事してくるからさ……あっそうだ」
懐の中に……あったあった。
「これで遊んできなよ、エレナもたまにはゆっくりすれば?」
「そうね……それじゃあ2人ともお姉さんと一緒に街へ遊びに行きましょう!」
「お〜!」
「お姉さ……」
「フィー?」
「はい! お姉さん!!」
凄いフィーに圧で勝ってる。
途中の廊下で3人と別れ、シャネルの元へ向かおうとしていると。
「ノーチェ」
「? どうしたのクイック」
「いや、外交系の話だったら俺も聞かないとだから」
それもそうか、てか詳しい情勢とか知らないし俺1人で話しに行ってもボロ出しそうだからクイックと出会えて良かった。
「じゃあ一緒に行こうか」
「うん」
……そういや話する前に服着替えようと思ってたの忘れてたわ。
玉座とかに呼ばれたと思ったけど普通の会議室っぽいな。扉の大きさも装飾も普通だ。
「フィデース信栄帝国! ノーチェ・ミルキーウェイとクイック・ミルキーウェイだ」
クイックが少し大きな声で叫ぶと扉がゆっくりと開き奥にはシャネルが立って俺たちのことを待っていた。
「ようこそおいでくださいました」
「いやいや、こちらこそ招いてくれて感謝するよ」
シャネルの元へ近付き握手を交わす。その後はクイックも握手を交わし他愛もない世間話を挟んでお互い席に着いた。
「学校設立おめでとう……って言ってもできたのはだいぶ前だけど」
「あははは、本来ならもっと早くご連絡するべきだったのですが」
シャネルは頭をかきながら申し訳なさそうに言った。
「大丈夫大丈夫、お互い立場があるし。というかこの短期間で人間の国をまとめたのはすごいことだと思うよ」
最初聞いた時は驚いたよシャンデラ国が人間の国を全て併合、巨大国家を作り上げたなんて。まぁそのおかげでケルロスとクイックの驚いた顔を堪能できたしシャネルには感謝しないと。
「それで……相談したいことがあるんだろ?」
俺の一言で会議室の空気感が変わった。先程までの穏やかな雰囲気は消え去り緊張感漂うビシッとした空気に変化した。
「実は学校交流で問題が起こっていまして」
「問題?」
シャネルの話を一通り聞いてまとめた結果はこんな感じだ。
世界各国から冒険者になりたい者、強くなりたい者を集めているから癖が強いのも集まってる。そして獣人や人間、エルフなどで派閥が出来てしまい教育にも支障が出ている。教師たちも注意したいけど国のお偉いさんや他国の王族もいる影響で強気に出られない……と。
まぁ異世界あるあるですな。
「3日前なんていよいよ生徒が教師に暴力を振るい怪我人が出てます」
「うわぁ……自由だなぁ」
「そういえばうちから行ってる子達はどうなの?」
隣にいるクイックを見ながら質問する。
「フィデース信栄帝国からは5人の子供がシャンデラ国の学校……ラインザクセン学園に来てるね。一応問題は無さそうだけど」
「まさかと思うけど俺達の国の子が迷惑掛けてるとかはないよね!?」
念の為学校交流前にやったらいけないことを教えたりしたけどみんなが俺の言うことを聞いてくれる良い子とは限らない……もし教師に怪我させたのが、あわわわわ! 考えるだけで恐ろしい。
「大丈夫です、むしろフィデース信栄帝国様から来た子供たちは争いごとを納めたり、先生と協力して問題児を捕まえたりと色々助かっています」
はぁ〜良かった。今度帰ってきたらしっかり褒めてあげよう。
「ん? というか相談されるのは構わないけどそれを話して俺にどうして欲しいの?」
相談だからまぁただ話を聞いて欲しいってんでも納得はするけどわざわざこうやって話すくらいだ、なにか俺に助けて欲しいことがあるんじゃないのかな。
「……ノーチェ殿にですね」
なんだか歯切れが悪いな、言い難いことなんだろうか? まぁダメなら無理です……って断るし失礼なことでも怒りはしない……と思う。
「まぁ言ってみなよ、言わないで諦めるのは後で後悔するよ」
俺の言葉で決心を決めたのか深呼吸をしたシャネルが頭を下げて口を開いた。
「ノーチェ殿にラインザクセン学園の臨時講師をして頂きたいのです」
「ふむ……なるほ……ど?」
シャネルの予想外の発言に俺とクイックは10秒程度完全にフリーズしてしまった。