153話 壊れた世界
世界は回り出した、壊れた歯車を壊れたと認識しないまま。歪な世界は進み出した、壊れた自分を自分と理解できないまま。あぁ……今日も世界が美しい。
魔王会議から数日、俺はずっと違和感を抱いたまま日々を過ごしていた。
何故ゼロは俺には良いかと話をしたのだろうか?
俺はゼロに対して良い印象を抱いていない、それはゼロ自身理解しているはずだ。それにも関わらず何故俺に情報を与える? 何故俺にだけあの話をした?
「クレアシオンと言いゼロと言い俺に肩入れし過ぎだ……あればもう固執というか俺に何かを望んでいるような」
ただの思い違い、自意識過剰とも言うか……他人が見ればそんな考えかもしれないが俺は3000年前世界を燃やした化け物だ。アイツらが長く生きているなら3000年前の俺と会っていて何かを知っている可能性もある。
「で……何か知ってると思いお前達を呼んだんだが」
「知らな〜い」
「俺も知らないな」
カーティオとペスラは俺が作り出したジェンガで遊びながら答える。
「あ!!」
「よっしゃあぁぁぁ!」
「ちょ! 今のなし! もう1回! もう1回だペスラ!!」
「嫌だね〜」
はぁ……役に立たねぇなぁこいつら。
従魔の使えなさにため息をついていると使える仲間がある報告書を持って俺の部屋までやってきた。
コンコン
「どぞー」
ガチャッ
「元気かいノーチェ」
「うーん……ちょっと頭使いすぎて疲れたかな」
へへへと笑いながらそういうと書類を置いたクイックが俺の頭を優しく撫でながら話し出した。
「それなら今回の報告はちょうど良かったかもね」
ん〜……クイックの手が気持ちいい。
「何がぁ〜」
「シャネル・ロートンが学校設立祝いでフィデース信栄帝国を招いてるんだ」
「お〜」
シャンデラ国の学校はフィデース信栄帝国のサポートにより1ヶ月という短期間で作られた。生徒も各国から集めて世界の最先端……まぁ俺の知識のおかげもあるけど深く広い分野を学ぶことが出来ている。あとは冒険者育成機関も学校に組み込むと言う新しい試みが受けたそうで人気もそこそこあるらしい。まぁ学校自体は結構前に出来てたらしいんだけど何せ六王になった直後で忙しかったりとゆっくり祝い事をする時間がなかったみたい。
そういや余談だけどシャンデラ国の国王が六王になったことで人の国は全て併合、シャンデラ国は人の国全てを統治する巨大国家になった訳だ。めでたしめでたしだね。
「ちなみにさ他はどこが来るの?」
頭を撫でる手を止めてクイックがもう一度書類を手に取った。少しだけ聞かなければ良かったと離れた手を見ながら後悔したが自分から言っといてやっぱいいよってのもあれなんで黙ってます。
「フィデース信栄帝国と同じく支援したってのでルリアの森とカーヴェ地下帝国が招かれてるね。あとは学校交流を受け入れてくれたガレオン獣王国と……ん? 初めて見る国だけどハッピー連盟だって」
「なんだその頭悪そうな名前」
「見た時思った」
名前を聞いた時少しだけ笑ってしまったがクイックもちょっと笑ってるので俺は悪くない! 多分。
「というか少し前まで戦争してたルリアの森とガレオン獣王国は顔合わせて気まずくないのかな?」
「まぁその辺は主役のシャンデラ国が上手くやるでしょ」
確かに……今回は招かれた側だしそこまで面倒に考えないで行くとするか。
「メンバー選出はこっちでしようか?」
「そうだね……あっけど最近疲れてそうな子にしてあげて、休暇も兼ねて行ってくるから」
「ふふ、わかったよ」
クイックは書類を取り上げ最後にもう一度だけ俺の頭を撫でてから部屋を後にした。
「あんなに撫でられると子供扱いされてる気も……」
まぁクイックに限ってそんなことはないか。てか……ゼロに六王とあんまり関わるなって言われたばっかりだけど大丈夫かなこれ。
多少の不安はあるものの楽しみって感情が勝っているので特段行くのを辞めようと考えない魔王であった。
1週間後
「わーい! 旅行だ〜!!」
「ダメだよフィーちゃん! 今回は国の代表として行くんだから!」
「その割に随分楽しむ装備してるねシャル」
「あぅ」
今日はシャンデラ国へ向かう日だ。クイックが選んだメンツはフィー、シャル、バール、エレナ、クイック、俺だ。まぁバールはなんとなく連れて行く理由が見えてるとしてエレナは単純に休暇目的だろうな。フィーとシャルは最近よく頑張ってたからご褒美だろう。そういえば昨日ケルロスとクイックが少しだけ声荒らげてたけど何してたんだろう。
ノーチェ以外にも人がいるとはいえ俺とノーチェが一緒に出かけるのをケルロスが許す訳ない……そこで俺は外交官としての立場を最大限利用させてもらった。ふはははは! いつも内政仕事をサボっているツケがここで出たねケルロス!
でもまぁクイックは元気そうだし出かける前ケルロスと話した時もそこまで沈んでなかったから大丈夫だろ。
「そろそろ行くわよ〜」
「「「はーい」」」
なんかこうしてると俺も含めてフィーとシャルは子供みたいだよな。
そんなことを考えながら少しだけ長い旅が始まった。
「……すぅ……すぅ」
「ノーチェ寝てる」
「寝てるね」
フィーとシャルがノーチェの頬を優しくつつく。それを小さな声でエレナが注意した。
「やめてあげなさい、最近ノーチェも疲れてるのよ」
「「はーい」」
確かにそうだ……最近のノーチェは妙に息が詰まってるというか休もうとしないというか。……まぁあれのせいだけど。
「俺は3000年前に世界を燃やした化け物……なんだ」
いくら隠していてもわかる……わかってしまう。3000年前に世界を燃やしてしまった話、ノーチェは生まれ変わっている話。まぁ色々驚くことは他にもあったけどこの話をしてからノーチェが謎に焦ったりテンパったりしてることを。まぁ受け入れられない恐怖や俺達がいつ見放すかを考えて怖くなってるんだろう。そんなことしないのに……ノーチェは人のことを考えるが故に自分のことを客観的に考えすぎる悪癖を持ってる。そして自分という存在に否定的だから常に悪い方向でしか自分を見れないんだ。
「でもそんな性格だからたった一言優しい一言で救うこともできる」
今だってノーチェ……本当は起きてる癖に。
俺は寝たフリをしているノーチェの隣に座り周りに聞こえないように……そして誰にも気づかれないようにノーチェへ話しかけた。
「ノーチェは俺かケルロスが世界を燃やした化け物だと聞いたら軽蔑する? 距離を取って逃げようとする?」
俺の声に大きく反応はしないが被っている毛布の下で握った手がぴくりと動いた。
「しないでしょ? 受け入れるでしょ? 俺達だってそうだよ。ノーチェのことを受け入れてるし認めてる。だからそろそろいいんじゃない? 俺達のことを受け入れてくれてもさ」
「……」
返事は無い、握った手も動かない。だけど少しだけ震えている肩と隠している顔からちょっと見えた水滴が俺の質問への答えだった。
「安心しておやすみなさい」
手を強く握り頭を軽く撫でてノーチェから離れていった。
「バカね」
「あぁ……本当に」
揺れる荷台の後ろで地面を眺めているとエレナが話し掛けてきた。
「バカでまっすぐで純粋で何よりもまっさらで……そんな彼女だからこそここまで着いてこれた、いえついて行きたいと思えたのかしらね」
「……あの純粋さ、まっさらな笑顔を守りたい。そんな独占的で独善的な気持ちが俺たちを動かすんだよ」
「それってわがままじゃない?」
エレナの一言を聞いて俺は雲ひとつない空を見つめ言い返す。
「バカなんだよ、俺たちも……」
あの洞窟で出会った時から俺達はノーチェに魅入ってるんだ……あの笑顔をみたい一心で全てをノーチェに捧げられる。全てが始まったのは洞窟の中、外の食事や空気、生活だって気になったけど何よりもノーチェ・ミルキーウェイという物語を最後まで見てみたいっていう欲望が俺を動かしたんだ。
「俺達に取ってノーチェ・ミルキーウェイっていうのは生きる道標なんだ」
それを聞いたエレナはクスリと笑い荷台の奥へ戻って行った。
エレナが奥へ戻る際何かに引っかかったのかエレナの黒い翼が真っ青な空に高く……高く飛んで、消えていった。