151話 遠慮なく
「ノーチェ〜」
「……」
「おーい……ノーチェ?」
「……」
「ノーチェさーん」
「……」
「聞こえてないのかなこれ」
「近いわお前ら!!」
「うわ! びっくりした」
びっくりしても俺から全く離れようとしない2人。てか距離感バグってんのか? ケルロスは俺を膝に乗せて離さないしクイックは腕組んで隣座ってるし。
「なんだお前ら! あれか!? 俺の秘密も無くなったし特段遠慮も必要ないんで我慢してた分イチャイチャしようってか!?」
「全く持ってその通りだけど」
「耳元で言うんじゃねぇよ!」
無駄にイケメンボイスなのが腹立つ!
「隠し事も無くなってすっきりしたしノーチェ攻略もそろそろ真面目にしないとね」
「人をゲームのヒロインみたいな扱いすんじゃねえよ!」
くっそ! 無駄に顔がいいから真面目に迫られるとドキドキすんのが余計心臓に悪いんだよなぁ。いや……顔だけで落とされそうになってる訳じゃないけどね!
「ほら手止まってるよ」
「誰のせいで!」
「利き手は触ってないでしょ?」
「――!!」(声にならない何か)
ムカつく! でもこの状況を割といいなぁとか思ってる自分がいるのに余計腹立つ! そして俺の中でニマニマしながらこれを見てる従魔は後でぶっ飛ばす!
「……はぁ」
正直素直に落とされた方が身のためなんじゃないのかな……てか俺が抵抗してる理由って特段ないし。男のプライド? ははは、そんなものだいぶ前に捨ててきたわ。
「逆に聞くけどさぁ、君達は今何を考えて俺を攻略してるの? 攻略してどうするつもりなの? てか俺としてはどっちか特定のモノになるつもりは全くないんだけど」
これは昔からの考えでどちらかのモノになるつもりはないし、どちらかを俺のモノにしようって考えもない。3人はこの3人で最高の状態なのだ。ってのが俺の考えなんだよなぁ。恋愛とかそういう? なんて言うの? 結婚? 知らないけどそういうの含めて俺はずっと3人で居たいんだ。
「あっその辺は話してるよ」
「え?」
「最初は嫌だったけどノーチェが嫌がるのはもっと嫌だからな」
「ん?」
「今はなんて言うの? 本夫? はどっちだ〜みたいな」
……それもう俺の関係ないところで競ってくれないかな?
「だからさぁ、優劣とかも付けたくないんだって」
「……それもダメかぁ」
「ノーチェはわがままだなぁ」
まずこのままの関係を続けるって選択肢はないの!? どうしても俺を……ん? 俺をどうしたいんだこの2人は?
「なぁ……少し気になったんだけどさ、今って実質3人で同棲してるじゃん」
「そうだな」
ケルロスが返事をしてクイックも頷いている。
「毎日同じ釜の飯食って部屋は違うけど同じ屋根の下で寝てる訳だろ? 今の生活って十分親密的で仲の良い暮らしをしていると思うんだけど君達はこれ以上何を望んでいるの?」
聞くのは少しだけ怖いけどもし俺が……今の俺が叶えられる程度の願いならもしくは……。
「「……」」
少しの沈黙の後ケルロスが口を開いた。
「子供――」
「よし! それ以上言うのはやめようか!」
ダメだったわ……今の俺、てかこれからの俺でも恐らく実現不可な願いぶち込んできたわ。
「やっぱ好きな人には……ね?」
やめろ〜ケルロス……今抱きつかれてる腕に力入れられるとさすがの魔王でも身の危険を感じる。
「クイック……も同じか」
目が合った瞬間優しく微笑んできやがったよ。もうダメだよ無垢だった頃の2人を俺に返してください。
「逆に嫌なの?」
「もうバラしたから言わせてもらうけど元々男だからね俺?」
「今は?」
……。
「もう嫌いだ!」
「あはははは」
どうしてこんな子達に育ったちゃったのかしら! 親は誰だ! ……はい俺です。
「てか恥ずかしげもなくよくあんなこと言えるよな」
「だってストレートに言わないとノーチェ伝わんないじゃん」
俺のせいだったわ。
「さて……ノーチェとイチャイチャするのもこれくらいにしとこうかな」
その言葉と同時にクイックが立ち上がりケルロスは俺の事を持ち上げて椅子に座らせた。
「イチャイチャというか……少しだけ身の危険を感じたよ」
ケルロスに抱きしめられていた辺りが少し熱い、クイックに掴まれた腕もなんだか熱を帯びてる感じだ。
「その危機感を外で発揮して欲しいな」
「全くだな」
2人とも満足気だね!?
「じゃあ俺達はやること終わらせてくるから」
「ノーチェも頑張ってね〜」
「は、ははは」
バタンッ
2人が居なくなって静かになった部屋の中で俺は自分の机に突っ伏して真っ赤になった顔を隠していた。
これが? 毎日!? これからずっと!? 無理無理無理無理! 俺の頭と心臓が壊れるって!! なんでイケメン2人に迫られてるの!? しかも2人とも俺の貞操狙ってるし! おかしいよね!? どっちかって言うと異世界バトル系じゃん転生先!! なんで異世界ラブコメ始まってるの!? こんなこと前にも言ったな!!
「頭の中が忙しいな」
「やっと自覚したのね」
「お前たちも俺の中で爆笑してんじゃねぇよ!」
外に出てきたカーティオとペスラがそれはもう楽しそうな素振りで話し出す。
「にしても良かったノーチェ、子供欲しいってよ」
「マジで窓から捨てるぞお前!」
「お世話なら任せて! これでも色々勉強してるのよ!」
「そりゃどうも! そうならないことを祈ってるよ!!」
ただでさえも疲れてるのに追い討ちかけてくんなよ……お前たち俺の従魔だよね? なんか従う気全くなくない? むしろ主を精神的にぶっ殺すき満々じゃない!?
「そんなことないわよ〜」
「ね〜」
腹立つなぁ。
「まぁいい、とりあえずやることあるから中で大人しくしてるか適当なところでくつろいでてくれ」
「はーい」
「わかった〜」
2人とも中に入ることはせず扉を開けてどこかへ行ってしまった。
まぁ中にいても話しかけてくる時あるし、外で遊んでくれてる方が何かと助かる。
「ルリアの森と獣王国の関係もゆっくりではあるけど改善されてる。六王で話し合いもあったらしいけどルルとアルの話によれば問題なく終わったらしい」
ルリアの森に対する圧も解消されたとか。
「これで少しは世界がいい方向に向かえばいいんだけどなぁ」
何を持っていい方向とするのかが問題なんだけどね。ルーグント帝国からすれば思惑通りに行かないことばかりで苛立ってるだろうな。まぁいい気味だわって少しだけ考えちゃうけど。とまぁそれより今気になることがあるとすればクレアシオンが連れ去った勇者だ。勇者の仲間は知らないけどあの勇者は見た目と名前的に俺と同じ転生者の可能性が高い。もう死んでるけど……。しかし重要なのは何故俺以外の転生者がいるのか、そして勇者と名乗っていたのは何故か? 最後にあの死体を持って帰りクレアシオンは何をするつもりなのかだ。ルーグント帝国に送っているスパイは問題なく情報を送り続けているが勇者や転生者に関する記述は1つもなかった。例の件で勇者というワードには目を光らせるようクイックにも頼んだけど成果はなし。もう少しだけ様子見するにしても他に転生者がいるなら保護したいとも考えている。
「って色々考えても机上の空論、ことが起きるまでは何も出来ないか」
ハンコを押し終わった書類を雑に投げて空を見上げていると見た事のある鳥が知らないうちに机の上で止まっていた。
「こいつは」
ゼクス・ハーレスを報せる鳥か……最後の魔王会議はリーベさんが俺を呼び出した時か。
「間違ってゼロのこと切り伏せちゃいそうだなぁ。あっはははは」
……武器の点検しとくか。
「てかゼクス・ハーレスを開く以外何も書いてないな」
内容書いてる時と書いてない時の差はなんなんだろうか……まぁ俺としてはリーベさんがいない時点で特段興味が無いのでサクッと行ってサクッと帰るつもりしかないんだけど。
「日時は明日の夜!?」
夜かよ……昼間ならケルロスとクイックに心配かけず黙って行けたのに、夜となれば2人にも話しとかないとなぁ。
「まぁ……今更隠し事しても意味無いか」
その後俺はゼクス・ハーレスのことを2人に話した。まぁ案の定着いてくるとうるさかったので護衛として2人を同伴することになった。
翌日 夜
「準備は大丈夫?」
「うん」
「いつでも」
自分で開くのも久しぶりだな。
「じゃあ行くぞ」
少しだけ重たい足を前に進ませながら俺は魔王会議へと向かっていった。