150話 歯車
「さて……そうだな、どこから話していくべきか」
転生者ってことも話した方がいいよな……あとは3000年前世界を焼き尽くしたのは俺だったっていうのも。どんな反応されるかな。怖がられるかな? それとも怒られるかな? あれ? どうしよう話そうって決めてたのに口が上手く開かない。声ってどうやって出すんだっけ……あっどうしよう受け入れられなかった時のことを考えると。
「話したくないことは話さなくていい。何も言いたくないなら言わなくてもいい。ただ信じろって……その一言だけで俺たちは十分だ」
ケルロスの一言を聞いて頭の中がすっきりした。そしてみんなのことを見つめる。全員が不安そうに、そして安心して欲しいと訴えかけるように俺のことを見守ってくれている。
「俺は3000年前に世界を燃やした化け物……なんだ」
一瞬だけ後悔した……でもここまで言ったなら全て。
「そしてその後3000年間何度もこの世界に転生して自分の壊した世界を治すってのを繰り返してきた。今回が何回目かは知らないけど俺はノーチェ・ミルキーウェイとして生を受ける前は17歳の男の子でただの人間だったんだ。今まで黙っててすまない。で、でも! 3000年前のことは俺もあの光を見て思い出したというか理解したというか……けど元々人間でこっちに転生して来たっていうのは前から知ってたしいつでもみんなに伝えることができたし」
怖くてみんなの顔が見れない。みんなの反応が怖くて黙りたくない。
「伝えられなかったのは今の生活が楽しくて、もし本当のこと言ったらみんなに失望されるとか考えて言えなくて。ここまで騙してきた奴が一体何をって話なんだけどさ……でも俺は全部を隠してでもみんなと一緒に……居たかっただけ……なんだ」
止まってしまった。1度止まってしまえばまた話し出すのは不自然だ。そして何よりこの沈黙の中俺が話し出す勇気と気力はもうない。怖い、否定されるのが怖い。失望されるのが怖い。全てを失うのが怖い。
俺が恐怖に固まっているとフィーが不思議そうに言った。
「? なんか問題あったか?」
「……え?」
「だってあれだろ? 3000年前に世界燃やしたのがノーチェだとしてもそれをやったノーチェはノーチェじゃないんだろ?」
「あっ……えっとまぁ多分そういう事かな」
フィーの言いたいことは3000年前に世界燃やしたのは俺の意思じゃないんだろ? ってことだよね?
「それになんかノーチェの前は人間の男の子だった〜とか難しい話されてもよくわかんないぞ〜」
「それは……えっと」
「まぁほら! 私は今のノーチェが好きなんだ! 昔に何があろうとなかろうと関係ないからな!」
青空のように綺麗な笑顔を浮かべたフィーがグッドマークを作る。
「フィー」
「フィーの言う通りだわ。私達は今のノーチェに着いてくって決めたのよ? 過去の話なんてされても困っちゃうわ〜」
「そうそう」
エレナとエリーナが顔を合わせてニコリと笑う。
「大将は何時でも大将だしな〜」
「イヴィルの言う通りですな!」
いつもは仲の悪い2人も息ぴったりだ。
「ご主人様が誰であろうと忠誠を誓うと決めております」
テグは深く頭を下げている。
「私も……大丈夫です!」
「問題……ございません」
普段余り喋らないサクとバールも大丈夫だと安心させてくれている。
あとは……。
「2人……とも」
俺といる時間が最も長い2人。最も長いってことは1番騙していたってことだ。どんな反応をされるか怖くて想像したくない。
「はぁ」
ビクッ
ケルロスのため息に体が跳ねる。どうしようと少しだけパニックになりながら一生懸命に言葉を探していると。
「通りで落ちない訳だわ」
「え?」
「あれ? 諦めるの?」
2人は怒った様子もなく呆れた様子もなく俺には分からない会話を初めてしまった。
「いや、逆に決心着いたわ」
「今までは着いてなかったの〜?」
「茶化すな! だいたいお前はいいのか?」
「俺は最初から本気ですし」
仲良さそうに話してますけど……俺の件は一体。
「あの……2人とも」
2人は俺の事を……まぁその? 好きみたいでしたし。元男とわかって結構傷付いてたりしてるんじゃないかと思うんですよね。
「大丈夫だよノーチェ」
「今の話で特段接し方が変わるとかはないから」
ホッ……俺が心の底から安心して油断していると。
「ん? ケルロスさん……? なんで抱きかかえて!? んん!? んむむ!?」
ッ!? 何されて!? あれ!? あれぇぇぇぇぇぇ!!??
「ふぅ……ね? これからも変わらないから」
さ、爽やかな笑顔〜……。
「なんで隠すんだ〜?」
「フィーには早い!」
「そういうのは外でやりなさいあんた達!」
「俺!? 俺はこれ悪くないでしょ!!」
「はいノーチェ次こっち〜」
次!?
「あらら……大将大人気だ」
「うむ! イヴィルは混ざらなくていいのか?」
「……私はこうやって眺めてるのが好きなんだよ」
大将……あんたは私達の道なんだ。だからその……なんだ? 大将が誰であろうとなんであろうと私達は着いてくぜ。
「全くお前ら!! 少しは落ち着けぇぇぇ!!」
化け物だって……笑っていいんだ。
「いやぁ凄かったね」
「本当本当」
何が満足気に夕日を眺める2人、俺はその後ろで椅子に座りお茶を飲んでいる。
「凄かった原因作ったの君たちだけどね!!」
あの後クイックにも無理やり……されたし。そんで調子に乗ったエレナとかが俺の体が大きくなったのに気付いてスリーサイズ測るとか言い出してさ。そんで? 着せ替え大会の始まりですよ! 俺少し前に凄く重要な? 大切な? 秘密暴露したばっかなのに! いや逆にしんみりとかされても困っちゃってたけどさ。
「でもあれくらい騒がしかった方が良かったでしょ?」
「……なんだよ、俺の心でも読んだのかよ」
「顔に出てた。ね? ケルロス」
「ノーチェはわかりやすいからな」
へいへいそうですか
「あっ今はそうですか〜みたいな顔してるよ」
「本当だな」
「いちいち言わんでよろしい!」
全く。……2人には敵わないな。
……。
「2人は本当にいいのか?」
俺の一言に2人がゆっくりと振り返る。
「見方を変えれば俺がずっと騙してたとも見えるだろ?」
誰よりも長く、誰よりも親しく、誰よりも濃い時間を過ごした。そんな2人だからこそ今まで黙っていたことが申し訳なくて仕方ない。本心から俺の事を認めてくれていて許してくれているのはわかってる。さっきキスまでされたし。でもそれは2人の甘さに俺が甘えてるだけなんじゃないかなって思うんだ。
「ノーチェってそんな器用か?」
「……ん?」
「俺達のことを騙そうと思って騙し続けられるほど器用かなって」
「……はい?」
この2人は何を言って。
「そう思うと絶対途中でボロ出すよなぁって思う訳。だからさ、ノーチェはずっと悩んでたんだろうなって俺たちに言うタイミング逃してどうしようどうしようって」
「なっ!」
「そう考えると可愛くてさ」
顔を合わせて笑う2人、俺はそれを見て顔を赤くしながら言った。
「お前ら2人は底なしの馬鹿なのかな……全く」
「……俺達は底抜けに甘くて優しいノーチェだから信じられたんだよ」
「俺達をずっと信じてくれたノーチェを信じないで誰を信じるんだよ」
こいつらは本当に……。
「仕方ねぇな! ほら! これからもずっと3人だからな!!」
俺はそう言ってケルロスとクイックを思いっきり抱きしめた。
「これで壊れると思ったんだけど、いらない横槍が入ったようだな」
転がる死体を横目に冷酷な目をしたクレアシオンがつぶやく。
「今までにないパターン、予測不能な未来へ足を踏み込んだか」
世界の歯車は大きく狂いながら回り続ける。壊れる予定だった部品は交換の必要なく狂った時計を回している。狂った部品に狂った時計。どちらのせいで狂っているのかもはや分からない世界はいつか針が止まるその日まで狂い続けたまま回るのだ。