148話 世界に愛された者
「はぁ!……はぁ、はぁ!」
グチャ! グチャ! グチャ!
血と臓物の香りが俺の鼻を貫いて脳に刺激を与える。不快感と気持ち悪さが全身を駆け巡り口から出そうになるものを必死に押えながら意味もなく走り続ける。その間ですら謎の声達は俺に話しかけるのを辞めてくれない。
逃げて、逃げて、逃げ続けて。どうしようもない俺をどうしようもない世界が殺し続ける。何度繰り返しても何度やり直しても無駄だったのに。
世界は俺が思っているよりも闇を抱えている。最初は全ての闇を取り払えばまた明るい世界が見えてくると期待した。でも世界は光なんて望んでなかった。闇を望むものが多くいて……俺は闇に殺された。
次は闇も受け入れようとした。光と闇を合わせて手を取り合う架け橋になろうとした。でも世界はそれを許さなかった。光と闇が混ざればどちらかに偏ってしまう。俺は差別に殺された。
なら俺は光には光の、闇には闇の世界を与えることにした。これなら憎しみも起こらないし悲しみも起こらない。差別だってきっと起こらないはず。でも世界は満足しなかった。光だけでは闇だけでは回らなかったのだ。俺は独愛に殺された。
光と闇で分けていたのが間違いだったのだ。そんなものは関係なしにすればいい。俺が世界の平等者となり全てに手を差し伸べればいいんだ。でも世界は平等を嫌った。俺は偽善に殺された。
何度も何度も繰り返した。世界を壊した罪滅ぼしなんて言わない。だって俺は美しい世界が好きだったから。でもこの考えだって……この考えすらも
「君の独善的で自己的で勝手な考えだもんね」
グシャン!!
「うっ……うぅ」
「泣くことはないよ、さぁ今度もまたやり直そう」
声が聞こえると周りの血や肉片がゆっくりと地面に沈んでいることに気がついた。
「うぅ……もう、もう……」
頑張ったろ? ここまでよくやったよ……だからもう諦めて楽に……楽になりたいよ。
一滴の涙が零れ落ちた瞬間……俺は謎の空間に飛ばされていた。
「? ここは」
「名前はないよ、君のために急いで作った場所だからね」
聞いた事のある声だ。でも誰かはわからない。
俺は声の持ち主が気になり振り返ろうとした。
「ダメ……そのまま」
優しくも厳しい声は振り返ろとした俺を止めた。
「本来は君に関わってはいけない、いやまぁ君以外であろうと普通は関わっちゃ行けないんだけどさ。助けてもらった恩があるからね」
「……助けた覚えなんてないよ。それにもし助けていたとしてもそれは偽善だ。俺の自己中心的で浅はかな考えの元助け出された可哀想な生き物だよ」
酷い言い方だ。でもこれは今の俺が心から思っていることであり紛れもない事実である。
「今の一瞬で随分とひねくれてしまったんだね」
「一瞬じゃないさ、ずっとだよ今までの全てを合わせて――」
「一瞬さ、たった一瞬。ついさっきあったあれだけのことでもう心が折れてしまっている」
……。
「こっちに来てから何度挫折を繰り返して何度立ち上がったかも忘れて」
「それはたまたまだよ」
力なく答えた俺は今までの挫折を噛み締める。1人で立ち上がることすら出来ない俺が世界を導く? 仲間を守る? そんなふざけたことを偉そうに……。
「はぁじゃあそのまま腐ってれば?」
だからそうするつもりだって言ってるだろ。
「今守れるモノも全部諦めてそのまま泣いてればいいじゃん」
だから……。
「今まで散々壊したんだからこれから幾ら大切な仲間殺しても後悔はしないだろ?」
……。
「ならこれから何度も何度も同じこと繰り返してればいいさ。俺は君に恩があったから今回だけは出てきたけど次はないからね」
「何が言いたいんだよ!」
俺の声が白く広い空間に響き渡る。
「いきなり現れてわかった風な口調で話して! どうせ今俺が頑張っても全部無駄なんだから意味ないだろ!」
全てをいい終わり乱れた呼吸を整える。相手が誰なのかはまだ分からないけどずっとグチグチ言われてたら腹だって立つさ。
「無駄なんて誰が決めたんだい? 今から頑張ってどうして全てが無駄になると決めつけられる?」
「何度も繰り返してきた! 世界をめちゃくちゃにした3000年前から何度も何度も転生してやり直してきた! 美しい世界を取り戻す為に! でも俺のやっていることは全て無駄で! 今回だって何にも出来ないまま全てが終わろうとしてる! 何回頑張っても! 何回苦しんでも! 俺は世界を……みんなを助けることが出来てないんだよ!」
「世界は美しいだろ?」
「……え?」
くしゃくしゃにした髪の隙間から声の主がちらりと見える。
「今の世界も昔の世界もどちらも美しいよ。間違いなんてない、世界に正しいあり方なんて存在しない。3000年前世界は炎に包まれ地獄と化した。でもその地獄を治そうと努力したのは世界を壊した本人だった」
蛇……それも大きな。
「壊れた世界はここまで綺麗になった。崩れた均衡は修復され穏やかさを取り戻した」
白くて綺麗な蛇だ。
「ノーチェ……いやさくら。君の贖罪は果たされている。もう苦しむことも頑張ることもない。焼かれた世界は3000年という長く苦しい時間を持って君への怒りを……今許そう」
蛇は俺に近づき優しく微笑んだ。
「優しく繊細で真面目な君は傷付きながら世界を守っていたんだよ」
しっぽが頬に触れる。それはとても温かくて安心感のあるものだった。
「誰よりも世界を愛して世界を憎んだ君は世界に愛されていたのさ」
「あなたは……」
「さぁ! 残りは君の問題だ! 世界への贖罪は果たされた! あとは好きにやるといい!」
体が軽く……って浮いてる!?
「待って! あなたは俺が助けた!」
「言ったろ? これは恩返しだと」
白く大きな蛇がそう言ってにこりと笑うと俺の意識はまた途切れてしまった。
「贖罪……か」
世界は最初から君のことを怒ってなんか居ないさ。それは君が誰よりも世界を愛していたと僕自身が知っているから。だからこそ本当にごめんね。あんな言い方をしてしまって……でも君はああやって言わないと納得しないだろ?
「行きましたか?」
「うん」
「会わなくて良かったの?」
僕は後ろから現れた黒く美しい髪をなびかせている少女に聞いた。
「だってあの子が私に会えば泣きながら謝罪するでしょう?」
「確かに」
「そんなの見たくないですもん、それにそうしたいのは私の方なんだから」
少女は顔を下に向けたまま黙ってしまう。
「今回で全てが終わるといいんだけど」
僕がボソッとつぶやくと目元を拭いて少女が自信ありげに答える。
「大丈夫! さくらはいざって時はやる子よ! それにダメそうなら手助けくらいはしてあげるから」
「それはしちゃダメなんですけど」
「なぁに言ってるの! そんなの私には関係ないわ!」
全く、昔から2人はめちゃくちゃなんだから。
そんなことを考えながら僕達は元いた空間へと帰っていった。
ガチャン!!
「ッ!?」
「動きが止まった!?」
「……」
ノーチェの動きが止まった……でも髪も瞳も元には戻ってない。
「今のうちに拘束するぞ!」
「わかった!」
クイックの地面操作で何重にも縛りあげれば魔王とはいえ身動き取れなくなると思うんだけど。
「随分……迷惑かけたみたいだね2人とも」
「ノーチェ!?」
「もう大丈夫、意識はあるよ」
ノーチェは刀をしまい両手をあげた。
「これで証明できたかな?」
申し訳なさそうに微笑むノーチェ、俺達はそれを見て心の底から安堵した。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ【反逆の刃】
天帝月夜蟒蛇Lv9
所持アイテム星紅刀、楼墨扇子
《耐性》
痛覚耐性Lv6、物理攻撃耐性Lv10、精神異常無効Lv8、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv8
《スキル》
貪慾王、高慢王、支配者、知り尽くす者、信頼する者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、不達領域、完全反転、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv6、火流魔法Lv1、水泡魔法Lv10、水斬魔法Lv9、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、風新魔法Lv7、風斬魔法Lv3、土石魔法Lv10、土斬魔法Lv8、土流魔法Lv9、回復魔法Lv10、破滅魔法Lv1、幻影魔法Lv10、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《七獄》
強欲、嫉妬、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者/呪いに愛された者/病に愛された者
ケルロス・ミルキーウェイ
赫々白狼Lv9
《耐性》
痛覚無効Lv6、物理攻撃無効Lv3、精神異常耐性Lv5、状態異常無効Lv3、魔法攻撃無効Lv9
《スキル》
信頼する者、不達領域、完全反転
《魔法》
水泡魔法Lv5、水斬魔法Lv6、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv8、稲妻魔法Lv9、創造魔法Lv7、光魔法Lv10、神聖魔法Lv9
《七獄》
嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥紅土竜Lv9
《耐性》
物理攻撃無効Lv5、精神異常無効Lv4、状態異常耐性Lv3、魔法攻撃無効Lv5
《スキル》
貪る者、永久保存、欲望破綻
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv8、火流魔法Lv3、風新魔法Lv6、風斬魔法Lv10、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv10、闇魔法Lv3
《七獄》
暴食