145話 勇気ある者
「各部隊準備終わったよ!」
門の前に揃った総勢37300名の兵士たち、こう見ると凄さがよく分かるよ」
「ノーチェ様〜私のところの部隊は2万で良かったんですか〜?」
トロリアットが手を振りながら叫んでいる。
「あぁ! 戦力的には十分だ! それに国の警備は万全だけどいざってことがある! シュティアを隊長に3万で守らせてるか大丈夫だと思う!」
「わっかりました〜!」
テンション高いねぇあの子。
「さぁノーチェ、号令を」
今までそんなのやってたっけ!?
「ほら早く」
2人ともなんか憂さ晴らしというかなにかのやり返ししてない今!?
「……今回は我が友であるルリアの森とコロリアン妖精圏が危機的な状況であると判断しそれを救いに行く! この戦いで俺達は六王からそして六魔王からも怪しみの目を向けられるだろう! しかし……仲間を救わずして生き残りその手に何が残る! 俺は何もない未来よりまだ手に届く今を取る! 導く者! ノーチェ・ミルキーウェイが宣言する! 同盟国であるルリアの森……コロリアン妖精圏に仇なす敵を殲滅せよ!」
「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」」」
兵士たちの叫び声が伝播するゾクゾクとした何かが背中を駆け巡る。しかしそれは嫌な感覚などではなく謎のワクワク感と高揚感を俺に与えた。
コロリアン妖精圏移動中
馬がいると思えば空には人の姿をした鳥、で俺が乗ってるのは車……世界観がなんなのか全くわかんないね。
「ノーチェ?」
「ん? どうしたの?」
俺の隣で座るシャルがそれはもう可愛らしく話しかけてくれた。
「なんで転移を使わないの?」
剣を持ちながらでも可愛いなぁ……なぜこの子はここまで。
「聞いてる?」
「あっごめん、転移だよね。あれは人が多いと魔力消費が激しいからね。この先誰と戦うか分からない今、できる限り魔力の消耗は抑えときたいんだよ」
「なるほど〜」
納得してくれたのか畳んだ膝を伸ばしてバタバタとさせている。
こういうところはまだまだ子供……あれ? シャルの実際の年齢っていくつだったけ?
俺はふと気になりシャルのことを見つめたがシャルはそれに光り輝くような笑顔で返してくれ。
うん! 何歳とかどうでも良くね? 可愛いなら問題なし!
「だいぶ飛ばしてるけどもう少し時間が掛かりそうだね」
運転をしながらクイックが言った。
「そればっかりは仕方ないさ、今のうちに武器の点検とかを済ませておくように伝えといて」
「わかった!」
てか俺はいつの間にか運転できるようになってるクイックさんに驚いてるよ。
あとはでこぼこした道なのに全く振動を伝えないドワーフさん達の技術力にも驚いてるよ!
「黒翼部隊から連絡! コロリアン妖精圏から謎の煙が出ているとのことです!」
俺の後ろにいる情報伝達班が叫ぶ。
「全員戦闘準備! 黒翼大隊と夜桜大隊は偵察部隊を編成して確認を急がせろ!」
「はっ!」
何が起きてるんだ……。
俺達は1度黒翼大隊と夜桜大隊の偵察部隊の情報をまとめるためコロリアン妖精圏から数キロ離れた場所で待機することとなった。
「どうやらコロリアン妖精圏の周りに大量の龍が居るようです」
「中の状況は?」
「それが……あれ以上進むと謎の結界があってね……探知されると怖いから帰ってきたの」
「私のところにいた蜘蛛や地底生物達もその結界に拒まれました」
……中の様子は不明か。考えても仕方ない、か。
「全軍に通達! 周辺の龍を蹴散らしてコロリアン妖精圏の状況確認を急ぐ! 数の多い夜桜大隊……特に大型生物をぶつけて道をひらく。黒翼大隊は上空から援護、傀儡大隊はコロリアン妖精圏の裏に回りこみ他の龍を撃退しつつ朧夜大隊が中に入る隙を作れ! 星天守衛六将はトロリアット以外ケルロスの指示を聞いて立ち回ってくれ! クイックは情報整理と戦力分析を頼む! 全員出撃だ!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
全員の返事とともに車が動き出す、待機していた黒翼達はいっせいに飛び立ち夜桜大隊の魔獣達が地面に潜る。自動人形達も車を運転して左翼と右翼に回り込んでいる。
「まずは結界を壊す!」
そう叫び俺は車の天井の窓を開けて上に立った。
「ノーチェ!?」
「安心しろ!」
リーベさんの力……お借りします。
俺は懐にしまっていたリーベさんの扇子……楼墨扇子を取り出し魔力を込める。
この扇子は魔力増強と負荷軽減の効果がある……要するに最低限の魔力で最大威力の魔法が放てるって訳だ!
「アイス・スピア!!」
無数の槍の形をした氷、中心には俺の乗っている車よりも大きい氷の塊が出来上がりそれらが目にも止まらぬ速さで結界を貫いた。
中にいる龍たちが大きな音と結界が崩れていくのを見て驚いているがそんなことはお構い無しに俺達はさらに進軍速度をあげる。
「さぁ! トカゲ狩りだ!」
車の上を蹴りあげ高く飛ぶ、黒翼やケルロス達をも置き去りにして結界の先へと足を運んだ。
「お前は何者だ!」
1人の幼い少女がとんでもない速度で突っ込んできて警戒しているが少しだけ慢心しているように見える。
「龍という圧倒的な種族に産まれた……産まれてしまった故の慢心。だがそれももう終わりだ」
俺は薄気味悪い笑みを浮かべながら刀を引き抜く。
「俺はノーチェ・ミルキーウェイ! 龍達に! いやクレアシオンに伝えろ! 俺の仲間を奪うなら龍という種族そのものを無くしてやると!」
名前を聞いて龍達の顔は恐怖に歪んでいく、俺はそんなことお構い無しに刀を振り回した。
グシャリ……グシャリと生命が終わっていく音が響く。
「やっと追いついた!」
血にまみれた俺の背後でケルロスが息を切らしながら声をかけた。
「……ははは」
仲間を救うために手を汚す……助けるために殺す、そんな矛盾を抱えても生きると決めたのにこんな姿を見られると後悔を――
「ほら……こんなに汚して、顔にも着いてるよ」
ケルロスは自分のハンカチが汚れてしまうことなんてどうでもいいと言うように俺の顔に着いた血を優しく拭き取ってくれた。
「……ありがとう」
ボソリとそれだけ呟いて残りの龍を全戦力を使い殲滅した。
「殲滅完了」
クイックが龍の死体の上で座りながら呟いた。
「龍と言ってもこの程度なのね〜」
「これじゃあ魔獣のご飯程度にしかなりませんね」
龍が餌とか凄く豪華だね!
「ノーチェ! ノーチェ! 私トカゲさんいっぱい倒したよ!」
なんだか既視感。
「まぁこれくらいで良かったよ、今は朧夜大隊が中を確認中だから」
ケルロスがそういうとタイミングを見計らったかのように門が音を立てながら開いていった。
「……ノーチェ」
「ルル」
「すまなかった」
ルルはいつも見せるお天馬姫のような口調と態度は全くなく小さな声で頭を下げながら申し訳なさそうに俺を見た。
「仲間を助けるのは当たり前だろ?」
「違う……そうじゃないんだ」
「? あっもしかしてこっちの損害とか考えてる? それなら――」
「違う!」
ルルは大粒の涙を大量に流しながら俺の胸元へ飛び込んできた。
「ルル?」
「私は……ノーチェに助けてもらう価値なんてなかった! 助けて貰う権利なんて……なかったんだ!」
ルルが声を上げながら泣く……その後ろにいた妖精達を見たが全員が申し訳なさそうな顔をしながら俺を見つめていた。
「ノーチェ?」
心配になったのかケルロスがそっと囁いた。
「大丈夫……とりあえず今は状況の確認――ッ!?」
ガシャン!!
「誰だ!」
今の攻撃は俺じゃなくてルルを狙っていた。ギリギリで防いだがこの距離、そしてこれだけの仲間がいるのにどうやってここまで接近したんだ。
「……さすがは魔王と言ったところか」
白いマントを羽織った男……まるで勇者だな。
「俺は龍王により送られた勇者! ハヤタだ! 世界に害をもたらそうとする魔王! ノーチェ・ミルキーウェイ! お前をこの剣で裁いてやる!」
勇者だったんかい! てか新たな勇者……それにその名前。転生者か!?
「そして邪悪な魔王と協力をしていた悪しき妖精。ルル・メリル! 貴様もここで処刑する!」
言いたいことだけを叫び散らかすとこちらの話は一切聞かず勇者が剣を握り突っ込んできた。
くそっ! 体勢が悪い! 1度ルルを離して――ッ!!
俺がルルを離そうとすると勇者の切っ先が俺の首元に向けられていた。
ガチャン!
「お前は……」
「ノーチェを傷つける奴は許さない!」
「シャル!?」
聖剣グロウ・セレナを勇者とやらの剣にぶつけて俺を庇うシャルがとても……いやそうだったな。シャルが勇者そのものに見えた。