144話 誰が敵であろうとも
ペラッペラッ……。
「ミッちゃん?」
「……ん? どうしたの?」
カーティオが窓から入ってきたのかいつの間にか俺の後ろに居た。
「いや、なんか心ここにあらずだけど」
「え? そ、そんなことはないよ」
例の出来事から3日、普通の女の子ならケルロスと顔を合わせることも無理だと思うが俺は普通……では無いので何の変化もなくみんなと接していた。とはいえ俺の心を読めるカーティオとペスラに隠し通せる訳もなく、てかこいつら無理やり俺に触れてくるから抵抗虚しく全てを知られてしまったのだが。
「まぁいきなり男に押し倒されたらびっくりするよね〜」
「あれ? もしかして自殺願望ある感じ?」
俺は刀を抜き魔力を込める。
「まだ生きてたいです」
「なら主人に精神ダメージ与えないの」
カーティオはつまらなそうに返事をして近くの椅子に座り込んだ。
「けどミッちゃんもこれで自分が女だって自覚出来たでしょ?」
「まだやる? 本当に切るけど」
「落ち着いて、けどこれは真面目な話だよ」
……何が目的なのか、こいつは本当に真剣なんだよな。
「とにかく今は別の問題だ、3日経っても動きのない獣王国とルリアの森の対処を本格的に考えないといけない。派遣した護衛からも至って普通って連絡しかないし様子見してる獣王国もそろそろ動き出していい頃だ」
「そうだな……まぁ俺達はミッちゃんの従魔だ、何があっても……ついて行くさ」
なんだか少し悲しそう? ……気の所為かな。最近色々あって人の言葉に敏感だし俺も考えすぎかもしれない。
「少し気分転換も兼ねて街にでも行こうかなぁ」
立ち上がりカーティオを誘って扉の前まで立った時慌てた入ってきたのかノックもせずにクイックがタイミング良く突っ込んできた。
「わっ!」
「えっ!?」
「おぉ〜」
俺とクイックは正面衝突した、その時カーティオを巻き込まないようにクイックの腕を掴み体を横に捻ったのだがそれが間違いで見事に俺がクイックを転ばせてしまい3日前の例の体制と似たような状況になってしまったのだ。
「……」
「……」
いつからラブコメの世界線に転生したんだ俺は!?
心の中で盛大なツッコミをしているとカーティオが茶化すように
「ほらミッちゃん、押し倒されて嬉しいのは分かるけどまだ昼間だよ?」
と言ってきたもんだから俺はクイックをどかしてカーティオに見事な背負い投げを披露した。
「さて……なんでそんなに慌てていたのか理由を聞かせてくれるかな?」
「……あっ、えっと」
何故か正座をするクイック、その視線は俺ではなく隣にいるカーティオに向けられていた。
「あぁ、そこのガラクタは置いといてくれ。後でペスラに実験体として提供しとくから」
「は、ははは」
クイックは顔を引き攣らせながら苦笑いをしたがふぅと深呼吸をして真面目な顔付きになり口を開いた。
「とうとう動きがあったよ」
「……どうなった?」
「そうだね、まぁ簡単に言えばルリアの森は獣王国の申し出を拒否。それに従い獣王国はルリアの森に宣戦布告したよ」
それを聞いた俺は椅子に深く座り込み溜息をついた。
「予測通り……だけどこうなってくると俺たちの対応、そしてルリアの森の立ち位置が危うくなってくるな」
「全くその通りだよ、念の為フィーに戦闘準備を頼んでるけど……」
出来れば動きたくないって感じだな。
「今はバールからの連絡を待とうか」
「そうだね、こっちも色々動いておくよ」
クイックは持ってきた書類を机に置いて小走りで部屋から出ていった。
3日間時間を引き伸ばした理由はなんだ? ルリアの森が提案を拒否するのはなんとなくわかっていたのだが……何故3日も時間を掛けたんだ?
俺の疑問は解消されることはなくそしてバールからの連絡もないまま1日が経過した。
会議室
「どうしたの?」
急に呼び出されたエレナが不思議そうに質問した。緊急時は別だが基本的に俺が会議を開くことは少ない。しかも内容も伝えずにプリオル連隊の隊長を全員集めるようにテグに指示していたから集まった全員が疑問を抱いているのだ。
「珍しいな〜ノーチェが話し合いするなんて〜」
「俺も驚いたよ……しかも」
ケルロスが視線を向けた先には勇者のシャル、星天守衛六将の皆、そして銀月帝国のドルとコゼットも来ていた。
「こんなにメンバー集めてどうしたの?」
クイックもエレナ同様不思議そうに聞いてきた。
「……」
「? 何かあるなら遠慮なく言ってくれよ大将」
「……」
「ノーチェ?」
全員の視線が1点に集まる。何も返答しない俺に不安と疑問を抱いた目で見つめてくる。
俺はその視線を飲み込むように深呼吸をして話し出した。
「フィーを総隊長に牙獣大隊と黒森人大隊、百鬼大隊をルリアの森に派遣する」
ここまではみんな想定していたのか黙ったままだ、しかし俺の放つ次の一言で会議室はざわめきだした。
「黒翼大隊、傀儡大隊、朧夜大隊、夜桜大隊は俺が総隊長になり……コロリアン妖精圏に向かう」
全員が驚きを隠せない中クイックが口を開いた。
「なんで? コロリアン妖精圏は同盟国だし少し前まで連絡を取り合ってたじゃないか」
「……その通りだ」
「じゃあ!」
クイックがさらに問いただそうとするとケルロスが止めに入った。
「何か……あるんだな?」
「……いつも通りなんだ、なんにも変わらない、変化もない。」
「? それはいいことなんじゃ……」
サクが少し怯えた様子で答えた。
「おかしいんだよ変化がないのはあのルルが変わらないなんてことしないはずなんだ」
「でもそれは憶測なんでしょ?」
エリーナは冷静で俺を諭すように言った。
「妖精は何も恐れない、これは嘘だ。妖精だって恐ろしいものはある。それは変化だ」
変化することに慣れている、それが変わるってことは変化しないことに慣れるってことだ。ここ数日コロリアン妖精圏から届いた……いや俺個人に届いた連絡は変化がなかった。正確には謎の違和感だ、ルルは口調を変えたり書き方を変えたり一人称を変えたり『変化』にこだわっていたそれがある日を境にピタリと止まったんだ。それは獣王国がルリアの森に同盟破棄を迫った日と同じタイミングで。
ここからは俺の考えでしかないが……クレアシオンは同時に俺の同盟国を潰そうと考えている。ルリアの森に意識をやっていて裏では妖精圏に手を出しているはずなんだ。転移して確認しても良かったがあちらに俺が動いていることがバレればどうなるか予測つかないからな……しかしフィデース信栄帝国として2つの問題に介入するなら目処は立つ。
……いや違うな。
「俺は覚悟を決めたよ」
その一言にざわめいていた会議室に静寂が訪れる。
「六王を敵に回しても、六魔王を敵に回しても……世界全てが敵に回っても。俺は仲間を見捨てない」
俺の一言を引いた全員が少しだけ笑った気がした。
「……フィー! 準備するわよ!」
エリーナが勢いよく立ち上がり叫んだ。
「おー!」
「テグ! 街にいる黒翼大隊のメンバーを集めて!」
「かしこまりました」
「イヴィル、武器の貯蓄を確認するんだ」
「任せろ!」
「テグさん……朧夜大隊の皆さんにも連絡を……」
「星天守衛六将は俺の指示で動く、トロリアットはノーチェの所だ」
ケルロスも星天守衛六将に指示を出している。
「夜桜大隊の初出撃だぁぁぁ!」
「銀月帝国は偵察と情報封鎖をお手伝いします!」
「私も戦うぞ〜」
「シャルはケルロスのところだね」
「わかったモグラさん!」
「俺はクイックだよ〜」
「ありがとう……みんな」
俺の声が聞こえたのかケルロスとクイックが振り返り笑って答えた。
「「当たり前だろ? 俺達は……仲間なんだから」」
あまりにも息ぴったりな一言に俺はクスッと笑ってしまった。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ【反逆の刃】
天帝月夜蟒蛇Lv9
所持アイテム星紅刀、楼墨扇子
《耐性》
痛覚耐性Lv6、物理攻撃耐性Lv10、精神異常無効Lv8、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv8
《スキル》
貪慾王、支配者、知り尽くす者、信頼する者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、不達領域、完全反転、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv6、火流魔法Lv1、水泡魔法Lv10、水斬魔法Lv9、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、風新魔法Lv7、風斬魔法Lv3、土石魔法Lv10、土斬魔法Lv8、土流魔法Lv9、回復魔法Lv10、破滅魔法Lv1、幻影魔法Lv10、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《七獄》
強欲、嫉妬、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者/呪いに愛された者/病に愛された者
ケルロス・ミルキーウェイ
赫々白狼Lv9
《耐性》
痛覚無効Lv6、物理攻撃無効Lv3、精神異常耐性Lv5、状態異常無効Lv3、魔法攻撃無効Lv9
《スキル》
信頼する者、不達領域、完全反転
《魔法》
水泡魔法Lv5、水斬魔法Lv4、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv8、稲妻魔法Lv9、創造魔法Lv7、光魔法Lv10、神聖魔法Lv9
《七獄》
嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥紅土竜Lv9
《耐性》
物理攻撃無効Lv5、精神異常無効Lv4、状態異常耐性Lv3、魔法攻撃無効Lv5
《スキル》
貪る者、永久保存、欲望破綻
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv8、火流魔法Lv3、風新魔法Lv6、風斬魔法Lv10、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv10、闇魔法Lv3
《七獄》
暴食