143話 意識して欲しくて
「随分と待たせてくれたな!」
うわ……こういうタイプ苦手。
「お待たせしました。それで? 今回はどのようなご要件で?」
俺は猫をかぶり声を少したかくしてニッコニコした笑顔で質問した。
「まぁ今何が起こってるかくらいは理解出来てるだろ?」
上から目線だなぁ。
「そうですね、同盟破棄の件ですよね」
作り笑顔だるいなぁ。
「あぁ、その通りだ」
そのにやけ顔ぶん殴りたい。てかさっきから愚痴しか出ない。
「愚かな者にもわかりやすく伝えてやる。獣王国に服従しろ! いずれ俺の国は世界を手に入れる!」
……なんかスケールこそ違うけど聞いた事あるような話だなぁ〜。
「お断り致します」
この手の話はこう答えると決めてるからな。そうですねと同調したところでこちらにメリットはないし。無駄に褒めたりすれば上げて下げることになる。相手を無駄に怒らせる必要はないからな。まぁ……もう既にキレてるみたいだけど。
俺の考えは的中、獣王の息子とやらは机の上にあった料理を全てひっくり返し俺の首元に爪を突き出した。
「……その命ここで散らすか?」
そこそこ早いな……でもこんなんじゃプリオル連隊の副隊長にも勝てないか。
「なんか言えよ!」
それに短気で冷静さもない、こういうタイプは1回痛い目合わせた方がいいんだけどねぇ。さてどう教育するか。
俺が考え込んでいると首元の爪を1度離して勢いをつけて俺の顔に向けて斬撃を放った。
バシュ!
「なっ!」
斬撃を片手で軽く弾いた事に驚いてるのか? けどまぁ一応俺魔王だしこのくらいの格はね……見せつけとかないと……的な?
というか色々考えるの面倒くさくなってきた、とりあえず戦争中ならない程度で脅しといて帰って頂きますかねぇ。
「俺の返事は変わりません本日はこの辺でお引取りを――」
「ッ! 舐めるな! 俺は! 俺は父上に認めてもらうんだ!」
先程の攻撃よりも威力が上がってる! 俺は防げるが弾くと周りに被害が!!
俺は放たれた斬撃を刀で粉々になるまで切り裂き聞き分けのないガキの首元に刀を当てた。
「さすがにもう容認できない、これ以上暴れるならその腕と足引きちぎるぞ」
獣人の子供は目元に涙を溜めながらも勢いよく反論した
「うるさい! 俺はこの国を治めて父上に認めてもらうんだ!」
「だからって他人の国に無理やり服従しろはないでしょ」
刀を少し引いて落ち着いてきた頭で言葉を選ぶ。
「それにさっきの言い方だと君の独断でここに来たんだね?」
獣人は何も言わずに頷いた。
どうしようか……このまま帰してもいいんだけど、まぁこのこと知ってるのはケルロスとかクイックくらいだろうし上手くまとめるかなぁ。あとは獣人の子が俺の国に来た事とか言わなければいいんだけど。
刀を収めて今後のことを考えていると獣人が口を開いた。
「俺は父上に認められないとダメなんだ」
さっきから妙に父上に認められたいみたいだけどなんかあるのかな?
「それはどうして?」
「……」
俯いてしまった。まぁ他人の家庭事情に口挟むほど野暮じゃないからこれ以上は何も聞かないけどさ。なんというかフィーを思い出すなぁ。……あの胸糞悪いのも思い出しちゃった、忘れよ。
「とにかく今回は帰りなよ、この国に来たことは秘密にしといてあげるからさ」
俺が優しく言うと獣人は勢いよく顔を上げて声を荒らげながら言った。
「ふざけんな! 秘密にしてもらうことも無ければ俺はこの国が服従するまで絶対に居なくならないからな!」
「でも……父上に認められたいなら勝手な行動は良くないし他の国と戦争にでもなればもっと父上は失望するんじゃない?」
何かを言い返そうとした獣人だがぐっと堪えてその場に座り込んだ。
「わかった。だが! 俺は諦めたわけじゃないからな!」
すげぇ三下っぽいセリフを吐いてドタドタと部屋を出ていった。……あっ今転けたな。
「……何が起きたの?」
襖の前で様子を見ていたのか心配そうにケルロスとクイックが顔を覗かせていた。
「なんか……納得して走り出して転けて、居なくなった」
2人は何言ってるんだこの子みたいな顔をしたけれど俺はマジであったことしか言ってません。
「とりあえず解決はしたからもう寝ようよ」
「それなら家に帰ろうか」
……せっかくだし。
「たまには泊まっていこうか」
「え?」
困惑している2人の肩に腕を乗せて半分無理やり歩いていった。
「いやさ急に泊まることになったのはいいよ別に」
「そこはいいよ確かにね」
温泉から出てきた2人の和服がいいですね。眼福眼福。
「話聞いてる!?」
「あっごめん、それで何の話?」
俺が聞き返すと呆れた様子の2人が口を開いた。
「ご飯は食べ終わったよね?」
「うん」
「お風呂も入ったな?」
「そうだね」
「あとは寝るだけだよね?」
「疲れたからね」
交互に聞くのは何か理由があるのだろうか?
「で? ノーチェはどこで寝るの?」
「え? この部屋だよ?」
「ここ俺たちの部屋なんだけど」
そんなこと知ってるし、というか俺の部屋でもあるんだけどなぁ。
「まぁ細かいこと気にすんなよ」
俺は布団に入りながら言った。
「待て待て」
布団に入ろうとした俺をケルロスが抱きかかえる。
「え〜寝かせてくれよ〜」
「わかった……それじゃあ俺達が出てくから」
手を離して2人が部屋から出ていこうとする。
「待って! じゃあいいよ、家戻るから」
俺が不貞腐れて話すと2人は驚いた様子で質問してきた。
「え? 別の部屋は?」
「? いやここしか取ってないよ」
「え?」
「え?」
「え?」
見事にフリーズしたな3人とも、てか冗談抜きで本当にこの部屋しか取ってないです。
「……」
「……」
「おりゃあ!」
俺は立ったまま動かない2人に飛びついて布団にダイブした。
「なっ! 何してるの!?」
「こら! ノーチェ離れて!」
「離れませ〜ん! 最近2人とも俺の事構ってないし〜! このまま寝ます〜」
2人の抵抗はそこそこだけど進化を繰り返し強くなっている俺に勝てるかな! あはははは!
「さすがに2対1は無理でした」
「全く、お酒でも飲んだの?」
ため息混じりで疲れた様子のケルロスが咎めるように言った。
シラフだわ! と心の中でツッコミを入れながら
「飲んでません〜」
とムスッとした態度で座らされている俺は答えた。
「なんにせよこの部屋で3人で寝るのは色々問題が」
クイックはさっきから目を逸らしている、俺が急に抱きついてびっくりしたのかな?
「……はぁ」
まぁ正直この子達が俺と一緒に寝たくない……というか一緒に寝るのが恥ずかしいとか思う気持ちはわかる。俺のことが好きなら尚更。でも、それでも俺はただ3人で仲良くしたいだけだし。それなら俺がここにいても問題は無い訳だしやっぱり何とか2人を説得して。
「……ノーチェは自分が女の子の自覚あるの?」
「……ん?」
女の子?
「それは前々から思ってたよ、なんて言うかさもう少し危機感を持って」
女の子……。
「だいたいこの部屋には男が2人もいるんだよ? そこで寝るってさ……まぁその? なんて言うかな」
ケルロスが照れてるのはなかなか新鮮だけど……そんなことより、女の子……誰が? 俺が? そうか、今の俺は女の子なのか。
「……言葉で伝えても分かりそうもないな」
クイックがそう言うとケルロスが俺の腕を掴み布団に優しく押し倒した。
「少しは理解できそう?」
「あっ……あ〜」
やばい俺、2人が好意をぶつけてるとかそういうの以前に自分が女で2人が男であることを忘れてた……てか意識してなかった。そうだ……俺は女の子で今は。
「なぁ! あっ! バカ! そうじゃん! ちょっと待って! あっ! あぁぁぁぁ!」
俺は恥ずかしさと2人が何をしようとしていたのか……てか何を不安に思っていたのかを理解して赤くなる顔と馬鹿な自分を一生懸命に隠して話し出した。
「そ、そうだよね! 今俺女だもんね! ごめん! 気が回らなくて! あっ……そっかぁうんそうだよね! あっははは!」
苦笑いをしながらケルロスの手をどかそうとするがテンパってるのか俺が冷静じゃなくて力が入らないのか動かない。
「あっあれ!? ちょっと!? 待っ!」
ケルロスが少しずつだが俺に近寄ってくる。そうすると触れ合う肌の面積が増えていき自分自身の女性特有の体の柔らかさも無駄に感じ取ってしまい余計に意識してしまう。
「はっ……あっ! じっば! あっま! 」
もはや自分でも何を言っているのかわからない言葉を出しながら顔を逸らそうとする。
「で? どうするの?」
ケルロスが俺の耳元で囁く、俺はそれを聞いて少しゾクッとした甘い感覚に陥るが慌てて自我を取り戻し魔力を全身に込めて。
「て! 転移!」
と叫び自分の部屋へ戻って行った。
「残念、逃げられちゃったね」
後ろでクイックが椅子に座り残っていたお茶を飲みながら言った。
「……本気だったら止めてた癖に」
俺はさっきまで感じていたノーチェの温もりを抱えながら布団にうつ伏せで倒れ込んだ。
「けどまぁ、これでノーチェもようやくわかったんじゃない?」
「あの反応は初めてだったしな」
正直やりすぎたと思うがあれくらいしないとノーチェも意識してくれないだろうし……てか少しだけ俺もやばかったな。
「……ノーチェで変な妄想してないで早く寝るよ」
「してねぇよ」
クイックのやつあの余裕な態度はなんだろうか? あと最近外交ばかりやるからか読心術にも長けてきてるんだよなノーチェ攻略での最大の難所は恐らくクイックだろうな。
俺はそんなことを考えながら布団の中へ沈んでいった。
「……はっははは」
俺は今布団にうつ伏せで寝てます。
「まじかぁ……まじかぁ」
2人が意識してたのはそういう……いや俺が自分のことを女ってしっかり自覚してなかったのも悪いか。
「てか……まじかぁ」
この後俺は色んなことを考えてしまい一睡も出来ないのだが、それはまた別のお話。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ【反逆の刃】
天帝月夜蟒蛇Lv9
所持アイテム星紅刀、楼墨扇子
《耐性》
痛覚耐性Lv6、物理攻撃耐性Lv10、精神異常無効Lv8、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv8
《スキル》
貪慾王、支配者、知り尽くす者、信頼する者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、不達領域、完全反転、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv6、火流魔法Lv1、水泡魔法Lv10、水斬魔法Lv9、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、風新魔法Lv7、風斬魔法Lv3、土石魔法Lv10、土斬魔法Lv8、土流魔法Lv9、回復魔法Lv10、破滅魔法Lv1、幻影魔法Lv10、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《七獄》
強欲、嫉妬、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者/呪いに愛された者/病に愛された者
ケルロス・ミルキーウェイ
赫々白狼Lv9
《耐性》
痛覚無効Lv6、物理攻撃無効Lv3、精神異常耐性Lv5、状態異常無効Lv1、魔法攻撃無効Lv9
《スキル》
信頼する者、不達領域、完全反転
《魔法》
水泡魔法Lv5、水斬魔法Lv4、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv8、稲妻魔法Lv9、創造魔法Lv7、光魔法Lv10、神聖魔法Lv9
《七獄》
嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥紅土竜Lv9
《耐性》
物理攻撃無効Lv5、精神異常無効Lv4、状態異常耐性Lv3、魔法攻撃無効Lv2
《スキル》
貪る者、永久保存、欲望破綻
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv8、火流魔法Lv3、風新魔法Lv6、風斬魔法Lv10、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv10、闇魔法Lv3
《七獄》
暴食