142話 獣王の子供
クレアシオンとの話し合いから3日後勝手ではあるが約束は果たしたので銀月帝国にオレオン国を合併することとなった。
ドルとコゼットは3時間程前までここに居たのだが国でやることがあるって言うので帰ってしまった。まぁでもお土産は渡したし問題は無いだろう。
「そんなことよりもだ」
「どうした?」
「何か問題でも?」
「おっ前らだよ!」
俺は頭の上で腕を乗せている2人を払い除けて叫んだ。
「俺の背が低いことを利用して腕置きにしやがって!」
こいつら本当に従魔か!? 主人の頭にガッツリ腕置いてますけど! 全く従ってる様には見えないんだけど!
「てかさミッちゃんはいいの?」
「ん?」
カーティオの質問を適当に流しながらお茶をすする。
「いやさ2人の好意に気付いてるんだろ? どっち選ぶの?」
「ぶふっ!」
この呪いの神様は何を考えてるんですかね!?
「確かにまぁ興味はあるね、あっけどミルちゃんは2人の男の子で遊びたいとか考えてる〜?」
「そんな性悪じゃないわ! てかそのあだ名は何とかならない?」
「ならな〜い」
呪いの神も病の神もどうしようもねぇなぁおい!
ため息をついて椅子に座りこんだ時……少しだけ気になったことがあった。
「そういえば神魔級って5人いるんだよね?」
「……えぇ」
「ほかの3人はどんななの?」
まぁこの2人を見てると他3人もやばそうだけど。
「一言で表すのは難しいな。まぁ呪神、病神って付いてるからほかにも異名的なのはあるけど」
えっ……それ凄く気になる。
「心を読まなくてもわかりやすいなぁ〜。まぁ教えたげる」
ペスラがにこりと笑い俺の肩に手を載せる。
いや、乗せる必要はないだろ。
「まぁまぁそう言わずに」
心読めるんだったわ。
「他3名の名前は爆神、毒神、影神だな」
カーティオが腕を組みながら言った。
「あっ! 全く、私が言うつもりだったのに」
肩から手を離してカーティオに迫るペスラ。
「ん〜、聞いた事ないなぁ」
「……そうか」
? 少しだけカーティオのトーンが低かったような。
そんなことを考えていると勢いよく扉が開かれた。
バタンッ!!
「ん? ってクイックじゃん。どうしたの?」
息を切らしながら机の上に1枚の紙を置いたクイック。俺はそれを手に取り内容を確認する。
ガレオン獣王国がルリアの森にフィデース信栄帝国との同盟破棄を申し出た!? その書状には原初の王クレアシオン・アレスの印も含まれていると。
……まぁクレアシオンがなにかしたんだろうな。最近活発だった獣王国の動きはこれだったのか。
「他の国は?」
「コロリアン妖精圏とカーヴェ地下帝国は何も、シャンデラ国は理の王となった期間が短く国の立て直しと拡張を行ってるから不介入を掲げてる」
いつか動くだろうとは予測していたがあまりにも早い。俺を孤立させるのが目的か?
「どうするノーチェ」
「正直な所今は動けない。せいぜいできることはルリアの森へ行ってアルにどうするのか聞くくらいだ」
とにかく事が起きてからじゃないと助けることすら出来ない。これは六王間での問題だ、と言っても同盟を結んで居るのは俺でもあるしそれを盾に無理やり入り込むこともできる。けど獣王国はルーグント帝国の次に情報が少ないしなぁ。
「そうだな、アルの周りに護衛を置こうか。目立たないようにアルと接触して護衛の許可を貰ってくれ。許可が降り次第護衛部隊をルリアの森に派遣するんだ。悟られるなよ」
「わかった!」
タッタッタッタッタッタッ
頼もしくなっちゃって。
俺は走りながら去っていく背中を見てクイックの成長を噛み締めるのだった。
「アルの反応は……恐らく拒否だろうな」
となれば戦争の可能性も出てくる。俺が助けてもいいけど六王の1人と協力して戦うってのは魔王側の視点からも宜しくないか。
てか待てよなんで六王と六魔王は対立してるんだ? いやまぁ本で読んだら3000年前に世界を燃やし尽くした魔王から今の世界を守る為に六王が作られた。でだ、魔王側は世界の管理者で裁いたり、愛したり、憎んだり、壊したり、治したりする訳だろ? これ戦う意味……まて、どうして世界を管理してるんだ? 誰に言われた? 誰が決めた?
俺が深く難しい思考に陥っているとペスラが声をかけた。
「そんなに考えても無駄だと思うよ」
「そう……かなぁ」
真剣な顔をほぐして体を伸ばす。
「まぁいつかわかる日が来るといいな」
カーティオが俺の背中をバシバシ叩いて笑う。
痛いっつうねん!
「とにかくこれは後回し! 今は獣王国の対処とクレアシオンが何をどこまで関わっているのかを調べないと」
俺は2人にそう伝えケルロスやバールが持ってきた書類に目を通した。
俺の真面目な雰囲気を感じ取ったのは2人はそれぞれの部屋に戻って行った。
「……」
ペラッ……ペラッ。
「……ん? もうこんな時間か」
調べ物を始めたのは昼なのにもう夜になってる。
「結局わからないか」
まぁ最高機密事項だよなぁこう簡単に書かれてるわけも無いか。
「今はクイックの情報待ちか」
俺はどうするべきなのかこうなりゃルーグント帝国潰すか?
……。
いやあかん! 考え方が完全に魔王!!
「こうやって待つ時間が一番困るんだよなぁ」
獣王国へ乗り込むってのは? 話し合いするってことでさ。いくらルーグント帝国がバックにいるって言ってもルリアの森へ向けて書状を出したのは獣王国だ。獣王国が書状を無かったことにすれば丸く収まる……か。
問題があるとすれば敵対している魔王と話してくれるか。話してくれたとしてどんな納得する理由を考えるか。
俺が獣王国対策に考えを巡らせていると扉をノックする音が聞こえた。
コンコン
「? どうぞ〜」
「あぁ……ってその書類全部読んだの?」
扉開けて第一声がそれかいケルロスくん?
「なんだよ〜、俺は真面目に仕事してないって思ってたの〜?」
「いや、そんなんじゃないけど」
その困った顔は少しだけ辛い。
「まぁいいや。それで? どうしたの?」
さっきの悲しみを無理やり流してケルロスに聞いた。
「あぁ、ルリアの森が護衛を許可したのと……」
そこまで言うとケルロスが視線を逸らした。
「なんかあった?」
「獣王国の使者が来てる」
……え? 今? この時間に!? アポなしで!?
「……」
「言葉を失う気持ちはわかる。というか俺達も驚いてる」
多分怒りとか通り越して呆れてんだろうなぁこれ。
「うーん……今日は温泉にでもぶち込んで明日の朝対応しようか」
「俺もそう思ってクイックと対応したんだけどね」
「俺は獣王の息子だ! その俺がわざわざ来てやってるんだから早くここの王を出せ!」
「とまぁこんな感じで」
なるほど、何故ケルロスとクイックがブチ切れて国の外に放らないのか気になってたけどそういう事か。まぁ獣王の子供ってなれば下手に手出しは出来ないよなぁ。それにこっちからなんかすれば国際問題とかになりかねんし。俺に迷惑掛けないよう立ち回ってくれたのか。
「わかった。俺が対応するよ」
ケルロスはそれを聞いて申し訳なさそうな顔をしてしまった。
「ここに来たってことはどの道そうして欲しいって思ってたんだろ? 任せろ、俺は魔王だぜ」
落ち込んでいるケルロスの肩を優しく叩き獣王の子供がいる旅館へと向かって行った。
転移を使わなかったのは抵抗感というか? なんかわざわざこんな時間に来る無礼なお客さんに魔力使いたくなかったとかそんな子供じみた理由はないよ……本当に。
「って……誰に言い訳してんだよ俺」
自分自身にツッコミを入れて襖の前に立ち深呼吸をする。
「さぁて、獣王の息子さんとご対面だ」
ニヤリと笑いながら襖を開き俺は自分の名前を告げた。
「フィデース信栄帝国の王、ノーチェ・ミルキーウェイだ」
どんな話が出来るのか……そんな不安とワクワクを抱えながら中へ入っていった。