141話 性別問題
「どうも皆さん! ノーチェ様に呼び出された新たな従魔! 病神のペスラ・トロレリアです! よろしく!」
「いや! よろしくじゃないわ! なんでお前がここにいるんだよ!」
カーティオの盛大なツッコミは無視して俺は質問した。
「色々気になることがあるんだけどさっきのでクレアシオンは殺したのか?」
一瞬会議室に緊張が走る。六王の1人、更には最強種族と言われる龍を殺したのかどうか……そんなことを聞かれれば嫌でも緊張すると思うのだが……。
「いやぁ〜あれじゃ死んでないかな。思ってたよりも強くてびっくりだよ」
えぇ……。
さっきまでの緊張感返してよ。なんか殺しちゃお☆! みたいなノリだったしやったのかと思ったわ!
「そんなことはいい! なんでお前が! ここにいるんだって!」
「うるさいよカーティオ」
ちょっと機嫌悪くなったな今。
「てかノーチェの仲間がどんどん増えてくんですけど」
あれ!? ケルロスとクイックも機嫌悪くないっすか!?
「わ、悪いことじゃないだろ?」
「……そうですねぇ〜」
そっぽ向いちゃったよ。何がそんなに不満なのか。
「けどまぁ色々積もる話もあるだろう? 俺は1度ドルとコゼットを案内するからその間は4人で色々話しといてよ」
「「「「え?」」」」
指名された4人が全員驚いた顔で俺を見る。まぁそんなこと気にせずドルとコゼットを温泉旅行に案内する訳なんだけどね。
「ちょっ!」
止めようとしたケルロスを華麗に躱して俺は扉を閉じた。
「いいんですか?」
ドルが心配そうに聞いた。
「平気平気、みんな優しい子たちだから」
「そういう意味じゃないと思うぞ」
何故かドルではなくコゼットが反応したが……まぁ些細な問題だな。
「まぁけど良かったよ。これでオレオン国が銀月帝国に合併できるし」
「……そうですね。またノーチェ様に借りを作ってしまいました」
ドルがくすくすと笑いながら言った。俺もそれにつられて少しだけ笑ってしまった。
そんな2人を見てコゼットだけは不思議そうに首を傾げていた。
「はぁ〜案内だけのつもりがご飯まで食べて来ちゃった」
まぁ休みに来てたドワーフ達がどうしてもっていうから付き合っただけなんだけど。
眠気も結構なので自室へ直行して寝ようと思っていたその時だった。
「? 会議室の光がまだ着いてる? まだ話してるのか? もうあれから4時間は経ってるぞ」
このまま無視して寝てもいいんだけど、なんの話をしているのか気になった俺は隠密を使って4人の話を盗み聞きすることにした。
「どれどれ」
まず覗いて驚いたのは凄く酒の匂いがすることだった。
「随分と盛り上がったのかな? お酒まで出して」
4人の声は聞こえるから起きてはいるはず。さて、どんな話をして……。
「ノーチェは無防備過ぎる!」
もう既にとんでもない話してませんかぁぁぁぁ!?
飲んでるお酒をドンッと置いたクイックがケルロスの意見に同調する形で話し出した。
「全くだよ! いやね前から無自覚、無警戒のお人好しでさちょっと危ないなぁ〜とか思ってたけどもう度を越してるよ!」
俺の事そんな風に思って……たね! いつも言われてたわ俺。でもでも〜俺ももう強いしさぁ。いつまでもみんなに守ってもらうってのも〜ダサいとかじゃないけど少し恥ずかしいじゃん〜。
俺のこの考えはカーティオの一言で全く違う物だったと分からさせられた。
「だからミッちゃんは天然のタラシなんだよなぁ」
……ん?
「確かに、ありゃタラシね。帰って来た瞬間にわかったわよ。あっ……この子全く気付いてないわって」
ん? んん??
「ほんとだよも〜……最近じゃライバルばっかり増えてさぁ〜」
不貞腐れた様子で机に頬をつけて口を尖らせるクイック。
「てかあの龍でしょ? ノーチェのこと番にしたいとか言ったの」
「あ〜! 前話してたやつか!」
カーティオも知ってんのかい!
「ノーチェはいつになったら家族愛じゃなくて俺たちが異性として意識してるって気付くのかなぁ」
……。
いやぁ……確かに前々から家族愛にしては重いなぁとか過保護度上がってるなぁとか思ってたし、いやまぁクイック俺にキスまでしてたからなぁ。……信じたくなかったのか信じられなかったのか。けどだからって! どうすりゃええねん! 俺は男なんだよ!
2人の思い……別に知らなかった訳じゃない。多分薄々気付いては居たはずなんだ。でも俺が怖くて臆病だからこんな風に拗れちゃったんだ。まぁわかった所でどうしようもない。俺は2人に異性としては好いてない……この言い方は少し語弊があるか? 多分好きなんだ、依存してると言ってもいい。けれどそれは俺が男であったことが大前提で女としての好意がどうとか考えると……ってこんなのただの言い訳か。
「……ねぇねぇ、少し思ったんだけどあの子が2人から寄せられる好意に気付いてないっていうのはどこで確信持ってるの?」
え? 一瞬ペスラと目が……。
「いや、それは」
「……全く意識されてないから無自覚なんだろうなぁと」
いやぁ好きなんだよ、2人とも好きなんだけどさ世間一般で言うそういう感情があるかどうかと聞かれると……ん? でもドキッとする時はあるし。あ〜もう! 自分でもどうなのかわかんねぇ!
「まぁけどミッちゃんは2人のことを特別視してるのは間違いないと思うわ、ツッコミのレベルとか話し方からわかるよ」
「お前は距離が近すぎんだよ」
ケルロスがカーティオの頭をコツンと軽く叩いた。
「俺は従魔だからいいんだよ〜」
「従魔は主人と常に一緒にいるものだからね」
「待て! お前は新しく来たんだから先輩の俺が近くにいる!」
「器の狭い先輩ね」
やっぱりあの2人は知り合い同士なんだな。
「でも昔みたいに辛い顔することは少なくなったよな」
……ケルロス。
「そうだね。今はよく笑ってくれるよ」
クイックも……2人とも俺が笑えるようになったのはお前達の。
「じゃあこれからもあの子の笑顔を見るために」
「ミッちゃんの笑顔を見るために」
「頑張ろうか」
「そうだな」
4人はもう一度乾杯をしてくすくすと笑いだした。
「……ったく、散々悩ませといてなんだかな」
機嫌悪そうに言ったが……多分俺の顔は少しだけ笑っていたと思う。
その後は盗み聞きも程々にして自室へ戻って行った。
「異性として……か」
転生前も転生しても恋愛に関してはど素人だし何せあの2人の事だからなぁ。てかあれか? こっちの世界でも結婚とかの価値観は同じなのか? 複数人とできるみたいな異世界あるあるは存在するのか?
ベッドに入った俺は恋愛や結婚、そして今後の2人への対応など様々なことを考え睡眠時間を大幅に削ることとなった。さらにそれでも結論は出なかったので後日書類仕事の合間を使ってこっちの世界でのそういったものを調べまくることとなる。
ちなみに遊んでると勘違いされてケルロスとクイックに怒られることもあったりなかったり。
……てか待てよこのこともカーティオとペスラはわかってるんだよな? あの人たち心読めるもんな? うっわ! 馬鹿みたいに恥ずかしいんですけど! あっそうか! だからペスラは俺の気持ち云々とか色々わかってたのか!?
と思い出し従魔に心を読まれない方法もついでに探し出すのだがそれはまた別のお話。