140話 さくら
「自分の奴隷国家を手放してまで俺とお話したいなんて……随分と俺に夢中だな」
「ははっ、まぁ好きに考えればいい」
相変わらず読めないじじぃだ。
「冗談は置いといて俺を呼んだ理由を聞いても良いか?」
「そうじゃな、私も遠回しってのは苦手でなぁ」
クレアシオンが少し笑うと龍の姿から人の姿へと変化した。
「!? お前その姿」
「似ているだろ?」
人化って誰かに姿を変えられたか? 少なくとも俺は出来ない。もし仮にできたとしてわざわざ似せる必要性がないはずだ。
「何が狙いだ」
「……狙い、か。まぁそんな大層なものは無いよ」
クレアシオンがゆっくりと俺に近付いてくる。
「老けた龍から随分綺麗になって……話し方も変わってるぞ」
「あれは作ってるんだよ、普段はこんなもんさ」
近付いて来てわかったが似ているは似ている、しかし違いはある。まず髪の毛がほとんど白い、そして背丈も違う。顔に関しても少しだけ違う所があるな。
「さてと、どこから話していくべきか。 いやどこを話すべきか? まずはどこまで知っているかを確認するべきなんだろうか」
「独り言が大きいぞ、それと話すことがあるなら早くしてくれ晩飯食いそびれる」
俺が大きな声で言うとクレアシオンはふふっと笑い立ち止まった。
「ハナ・カエサキを覚えているか?」
「知らないな」
聞いた気はする、何かで見たこともある気がする。だがわからないんだ。その子は一体誰なんだ。
「ふむ、そろそろだと思ったんだがまだまだ思い出せてないのか」
「何を知ってる……お前は俺の何を知ってるんだ」
転生前の記憶? だが転生前にもハナ・カエサキなんて奴は居なかった。この龍は俺に何を思い出させたいんだ。いや待てよ……仮に俺が覚えていない記憶があったとして何故それを思い出させようとしている? 正確には少し悩んでいるのか? 俺が思い出すことを望んでいるのか望んでいないのかよく分からない。ただ思い出して欲しいなら全てを話すはずだ。だがこいつはハナという人物についてだけ話している、ハナっていう人についてだけ思い出して欲しいのか?
「悪いが何もピンと来ないな。話がここまでなら俺は帰らせて貰うぞ」
まぁここで考えても意味無いか。1度国に戻って情報を集め治す事に……
「……皮肉な話だ。世界を滅ぼし、仲間を殺したお前が今では世界を導き、仲間を守る為に動いている」
クレアシオンが吐き捨てるように言った。
「どういう意味だ」
転移をキャンセルしてクレアシオンの方を向き直した。
「そのままの意味さ」
世界を滅ぼした? 仲間を殺した? 俺が……俺、が?
「魔王! よくも勇者を!」
「世界を滅亡へと導いた罪!その首で償って貰うぞ!」
「うっ……あぁ! くっそ!」
何だこれは……俺の知らない記憶。いや、夢で見たことが……。
「なにか思い出したか?」
「うるさい!」
頭が痛い……知らない記憶が流れ込んで来てる感じだ。
「さく……ら?」
「全てを思い出したお前が何をするのか楽しみだよ」
クレアシオンが嫌な笑い声をあげる。その声が俺の頭に響きさらに頭痛を引き起こした。
「さくら〜!」
誰かが私を呼んでいる。
「今日はみんなでお話しないの?」
そうか、今日は12柱で話し合いだったな。
「ほら〜早く来ないと置いてっちゃうよ〜」
私の手を取り微笑む少女……その名前は。
「はぁ……はぁ」
「どうやら思い出したようだな。……さて、それで最初はいかが致しますか? さくら様」
ニヤニヤと気味の悪い笑みをしながら近づくクレアシオン。
俺はそいつの腹部に向けて刀を振った。
「!?」
クレアシオンは一瞬驚いたが直ぐに冷静を装い両手を上げて話し出した。
「私はあなたと敵対するものではありません。あなたの無念、あなたの悲願を叶えるためにお力を」
「黙れバカ……俺はさくらなんて奴じゃねぇよ」
抜いた刀を鞘に収めて崩れた髪を直しクレアシオンを真っ直ぐと見つめる。
「分からないことだらけだが……一つだけわかったことがある。俺に知らない過去があるとしても。俺は! 世界を! 仲間を! 心から愛していた!」
それを聞いたクレアシオンは苦虫を噛み潰したような顔を見せて苛立ちを隠せない様子で言った。
「ふざけたことを……世界を燃やした張本人が世界を愛していた? 笑い話にもならないな」
「……お前が何を考えているのかは分からないが。俺はノーチェ・ミルキーウェイだ! それ以下でもそれ以上でもない! たとえ俺が……過去の俺が世界を憎んでいたとしても! 俺は今の仲間を守る! その為なら……この命を捨てる覚悟がある!」
命を捨てるなんて安い言葉は好きじゃない。でも俺は命を使っても、持っている全てを使って愛する者を守ろうとした1人の獣を見た。やり方が間違っていてもそれは間違いじゃないんだ。ただ守りたいと思っていた、それだけなんだ。それを受け入れなかった俺は獣の意志を継ぐ義務がある! 生命を掛けて! 守ろうとしたものを俺のやり方で守らなくてはならないんだ!
「さくらは死んだ! ハナも死んだ……理由がどうであろうともお前の望む人物は出てこない! まだ話があるのならこの俺が聞こう!」
声を上げて力を込め目一杯に叫ぶ。過去との決別なんてかっこいいことは言わないけれど、俺はもう悲しまない。救えなかった彼女のことを、仲間のことで……俺はもう涙を流さない!
「今を生きるか……どうやら俺が知っているさくらとは随分間違った認識だったらしい」
先程までの不機嫌さは無くなっており今はある種の諦めすら感じる。
「仕方あるまい、こうなればお前を殺して力だけでも得るとするか」
謎の空間から刀を取り出す、鞘はなく刀身が青く輝いている。
「結局戦いかよ」
「安心しろ、お前の力を得た後に七獄スキルを得て世界を導いてやる」
クレアシオンが臨戦態勢になったのを確認して刀を触る。
圧が……こりゃリーベさんよりも強いかもな。
呼吸を整え最初の一撃に備える……大丈夫、大丈夫。俺は負けない!
「ッ!!」
「――ッ!!」
俺とクレアシオンの刀身が交わりそうになった時その間で謎の光が輝いて互いの刀を軽く止めた。
「!?」
「なんだ!?」
クレアシオンも驚いている。敵による妨害って訳じゃないのか? それにこの光は前にも。
「あ〜久しぶりな感じ」
光は段々と収まり中から人の形をした何かが現れる。
「お前は!?」
俺よりも先にクレアシオンが反応する。
「どうも……呼ばれて来ました。病神! ペスラ・トロレリアです!」
召喚!? しかも呪神と同じ階級か!?
「さて……今回はこっちに呼ばれたということでよろしくねノーチェさん」
「え? あっはい」
満面の笑みで挨拶をしてくれる病神、その後ろでは焦った様子のクレアシオンが立っている。
「まさか、病神を召喚するとはな」
「いやぁ〜正しく最悪って感じの顔してますね」
軽い、なんて言うかあの子を思い出す。
「まぁペスさん的には面倒事は避けたいんですけど……久しぶりに懐かしい方と会えましたし。お仕事頑張っちゃおうかな」
一瞬俺の方を見た気がしたけど気のせいかな?
「さて、ペスさんの主人に手を出す愚かな龍は……死という癒しで許してあげましょう」
ペスラがそういうと手のひらに謎の白い結晶が生成された。その結晶にふぅ〜と息を掛けると辺り一面が白い粉で覆われてしまった。
「じゃあご主人様! 帰りますよ!」
ペスラはそう言って俺の事を抱きかかえた。
「え!? さっきから状況全く飲み込めてないんだけど!」
「説明は後です! 早く転移の方をお願いします!」
そんな元気よく言われても困っちゃうんだけど! クレアシオンはどうすんの!? ってまぁ帰ったら説明してくれるとか言ってるしなぁ……しゃない! またこっちに転移すりゃクレアシオンとも話せるしいっか!
色々と疑問が残るままだったがこの場所から立ち去ることを最優先として俺はペスラに抱えられたまま転移を開始した。
ノーチェ宅 会議室
「はぁ〜……疲れた」
「ノーチェ様!」
「ノーチェ!」
「心配し……て?」
みんなが俺を心配して近寄ってくると同時に首を傾げる。……ただ1人を覗いて。
「お前!?」
「? あっ! カーティオじゃん!」
どうやら色々話が長くなそうだな。
俺はそんな予想を立てながらため息混じりでふふっと笑った。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ【反逆の刃】
天帝月夜蟒蛇Lv9
所持アイテム星紅刀、楼墨扇子
《耐性》
痛覚耐性Lv6、物理攻撃耐性Lv10、精神異常無効Lv8、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv8
《スキル》
貪慾王、支配者、知り尽くす者、信頼する者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、不達領域、完全反転、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv6、火流魔法Lv1、水泡魔法Lv10、水斬魔法Lv9、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、風新魔法Lv7、風斬魔法Lv3、土石魔法Lv10、土斬魔法Lv8、土流魔法Lv9、回復魔法Lv10、破滅魔法Lv1、幻影魔法Lv10、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《七獄》
強欲、嫉妬、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者/呪いに愛された者/病に愛された者
ケルロス・ミルキーウェイ
赫々白狼Lv9
《耐性》
痛覚無効Lv6、物理攻撃無効Lv3、精神異常耐性Lv2、状態異常無効Lv1、魔法攻撃無効Lv9
《スキル》
信頼する者、不達領域、完全反転
《魔法》
水泡魔法Lv5、水斬魔法Lv4、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv8、稲妻魔法Lv9、創造魔法Lv7、光魔法Lv10、神聖魔法Lv9
《七獄》
嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥紅土竜Lv9
《耐性》
物理攻撃無効Lv5、精神異常無効Lv4、状態異常耐性Lv3、魔法攻撃無効Lv2
《スキル》
貪る者、永久保存、欲望破綻
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv8、火流魔法Lv3、風新魔法Lv6、風斬魔法Lv10、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv10、闇魔法Lv3
《七獄》
暴食