139話 龍の狙い
シャンデラ国 国王シャネル・ロートンが正式に六王として選ばれた。このニュースは瞬く間に世界へ共有されフィデース信栄帝国にも届いていた。
「まぁそろそろとは思ったけどこれで確定……か。」
逆にだいぶ時間が掛かったと言うべきか? ルルが家に来てから2週間。面接とかあるのかは知らないけどそれにしても長いと思うし。
「あんまり乗り気じゃなかったんじゃね?」
「君は俺の肩を揉みながら頭の中読まないの」
「つい」
あれからカーティオは住人からの信頼を得るため様々なことを手伝ったり手助けしたりと頑張ったらしい。まぁ俺も見てたけど子供にも老人にも優しいし外だと青少年なんだよなぁ。まぁ家の中じゃセクハラ発言するし無駄に体触ろうとするからぶん殴ってんだけど。
「外だけじゃないよ〜」
「今も俺の首筋関係ないのに触ってるだろがい!」
俺は持っていた新聞をカーティオに投げつける。しかしさすがは神魔級と言ったところだろうか?その新聞を避けるのではなく軽く受け止めた。
「俺としてはこっちの記事が気になるね」
「? なんだよ」
俺はカーティオに蛇の状態で巻き付き首で人の姿へ変わり肩車の状態で質問した。
「ミッちゃんも俺に色々言うけど距離感は互いにバグってるよね?」
「いや、これくらいはケルロスとクイックにもするよ」
はははと苦笑いするカーティオを横目に気になると言っていた新聞の1部を確認した。
「ふむふむオレオン国がルーグント帝国傀儡国を……辞めたぁ!?」
とんでもない記事じゃん! 完全に見逃してたわ!
「何が起きてんだこれは」
恐らくルーグント帝国とオレオン国が分裂したのはあれが原因だ。だとして何故俺に連絡が来ない? もしかするとオレオン国はもう……。
「ちゃんと見ろって」
「?」
カーティオが指した場所を見るとさらに驚きの内容が書いてあった。
「銀月帝国と合併!? コゼットが銀月帝国に入る形ってことか?」
何が起きてる……ドルと連絡を取るべきか。
「俺は1度確認してくる! カーティオはここで待機しててくれ」
「……」
?
「カーティオ?」
俺が問いかけるとカーティオは窓の外を見ながら答えた。
「いや、その必要はないみたいだ」
タッタッタッタッタッタッ!!
階段を駆け上がる音が聞こえたと思ったらバタンッと大きな音を立てて扉が開いた。
「ノーチェ! 今龍が飛んできて!」
「わかった。その龍には手を出すな」
「え? あっうん! わかった!」
フィデース信栄帝国正門前
「久しぶりだなコゼット」
「ノーチェさん!」
門の前で立派に佇む龍、その背には見慣れたワニが乗っていた。
「ドル〜!」
「ノーチェ様〜!」
「俺は無視!?」
コゼットを見たことあるのはガスとフローリアくらいか。まぁみんなが驚くのも無理ないか。
「それで? 今日はどうしたの?」
「はい! 本日はオリオン国と銀月帝国についてお話する為に参りました」
だよね!
「とりあえず話し合いしましょうか」
俺は笑いながら自宅の方向を指した。
「どうぞ」
テグがドルとコゼットの前にお茶を出す。
「ありがとうございます」
「おっ! これ美味しいぞ!」
ドルはさすがの対応、コゼットはまぁ……思ってた通りな感じはしてたのでいっか。
「それで本日の要件ですが」
「俺の国は銀月帝国と合併してフィデース信栄帝国の助けとなることを誓います!」
……。凄い起立しながら宣誓してるよ。こんなの小学生の体育祭以来だわ。
「お、おうありがとう」
「で? 何があったの?」
「今説明しなかったか俺!?」
ツッコミを入れるコゼットを放置してドルの方を見る。
「まぁ……コゼットさんの説明でほとんど合ってますね」
「ほら!」
「いや適当言ってるかと思って」
「俺の信頼度低くない!?」
だってねぇ、子供だし。
「いきなりのことで驚いたけど、まぁ問題ないならいいんだ。でもルーグント帝国はいい顔してないじゃない?」
「私もそう思っていたのですが……」
ドルは1枚の紙を取り出し俺に差し出した。
「俺がクレアシオンに合併の許可を取りに行った際この条件と引き換えにって渡されたんだ」
ふむ。ノーチェ・ミルキーウェイと1体1で会話させろ?
「……どゆこと?」
「そのままの意味です。私達はこの話を聞き1度保留にしたのですがクレアシオンは合併の情報を流し確定した事として処理したのです」
先手を打たれたってことか。
「まぁ、俺が話すだけなら問題ないし大丈夫――」
「ダメだ」
以外にも俺の話を遮り止めに入ったのはケルロスとクイックではなくカーティオだった。
「なんでだ?」
「クレアシオンと言ったな。あいつとお前を1体1で合わせる訳にはいかない」
いつものふざけた雰囲気はどこへやらものすごく真剣な表情と声で話す。
「前にも話したことあるぞ?」
「1人でか?」
「いや部下連れてったけどさ」
なんだろう、ケルロスとクイックが俺の事を止めに入るのはなんとなく分かる。でも今回のカーティオが俺を止める理由は心配だけじゃない気がする。
「とにかくクレアシオンと1体1で話をさせる事に関して許可は出せない」
カーティオが言い切ると後ろにいたケルロスとクイックが口を開いた。
「こういうのもなんだがカーティオ、お前は従魔だろ? それにノーチェは弱い訳じゃない」
「心配する気持ちは分かるがノーチェだって」
「力の話をしてるんじゃない!」
カーティオが机を強く叩く。テグの用意したカップが一瞬だけ宙を舞った。
「何か……あるんだな」
俺はカーティオの方を向いて質問する。
一瞬目を逸らしたカーティオだったが直ぐに目を合わせて話し出した。
「理由は話せない、だがノーチェとクレアシオンの2人きりで話をさせるのは絶対にダメだ」
「従魔として俺の中に隠れてカーティオが来るのは?」
「それもダメだ」
ふむ、やっぱり強さが問題って訳じゃ無さそうだ。だとしたら何をそんなに危惧している? 俺の秘密を知ってるとか? でも生まれてからずっとケルロスかクイックがいるし秘密なんて大層なものないけどなぁ。
「頼む……今回は俺の言うことを聞いてくれ」
部屋が静寂に包まれる重たい空気、それはいつもふざけているカーティオが真面目な発言をしたからというだけの理由では無いみるからに切羽詰まった様子のカーティオを見てただ事ではないと誰もが考えているからだ。
俺はドルとコゼットに視線を向けた。
「仕方ありませんね」
「まぁノーチェさんに迷惑掛ける訳にはいかないから今回の件は」
コゼットがそこまで言うと会議室の窓がバタンッと開いた。
「誰だ!」
ケルロスとクイックが俺の前に立ちカーティオが鎌のような物を取り出した。テグはドルとコゼットを守るように銃を抜いた。
「そんなに怖いものを取り出さないで欲しいですね」
男……いやただの男じゃない。こいつはコゼットと同じ龍人だ。
「クレアシオンの手下がなんの用だ」
立ち上がり刀を触りながら無礼な訪問者に質問する。
「……さすがはノーチェ様私を見ただけでそこまで理解なさるとは」
「正式な手続きをしないで国に入るのはダメだって習わなかったか?」
クイックが魔力を込めながら聞いた。
「魔王の国にも法律はあるんだな」
随分と嫌な言い方するじゃんか。とはいえ、クレアシオンと全面戦争はめんどくさいな。
戦闘態勢に入りつつあるケルロスとクイック、そしてカーティオを止めて俺は口を開いた。
「まぁいいさ、文句は君の主に言おう」
「ミッちゃん!」
カーティオは俺が何をしようとしているのかがわかった用だ。
「こうなっては仕方ない。今ここでこの龍人さんを殺してもいいけどそうすりゃどうなるかは想像に難くない」
国を巻き込むのは好きじゃないんだ。それに銀月帝国が近くにあることから最初はこったじゃなくて銀月帝国の方を攻撃する可能性だってある。
「そんな顔すんなよお前ら、信じて待ってろ。すぐ帰ってくるから」
俺がそう言うと同時に龍人の手が肩に触れて転移を開始した。
「……久しぶりだな、クレアシオン」
「あぁ、本当に久しぶりだよ」
ん?
俺は謎の違和感を覚えたままクレアシオンとの対話を開始するのであった。