137話 信じられるかられないか
ん? 強欲が解放された? どういうことだ……今までの能力はまだ成長過程だったのか?
「何かあったか?」
「えっ!? あっいやなんでも」
そこまで言いかけるとカーティオが俺の顎に手を当てて少しだけ上にあげた。
「隠し事はなしって言ったろ」
「……離さんと凍らすぞ」
俺は右手に魔力を流しゆっくりとカーティオに近付ける。
「怖い怖い……それで? 何があったんだ」
「強欲スキルが解放されたらしい」
「ガイツか」
即答かよ……まぁ知ってることがあるなら色々教えてもらおうか。
「それは――」
「ガイツ……正式名称は貪慾王こいつは世界の法則を分解、融合することができる力の事だ」
……?
俺はカーティオの顔を見ながら首を傾げた。
「そうだなぁ……例えば分解なら重力を分解して無重力を作り出したり、空気を分解して真空を作り出したり。融合は酸素と毒素を合わせて致死性の酸素を作り出したり、空間と距離を合わせてその空間ごと移動したりみたいな?」
……チートでは? もうそれはやばいチート能力なのでは?
「……まあ他の七獄スキルも極めれば厄介だ」
「そうだよなぁ〜強欲が覚醒? かどうかは知らないけど新しくなるならほかも新しくなるってことだよなぁ」
「そうだな、まぁミッちゃんが持ってるスキルの覚醒後くらいは教えてもいいかもな」
それを聞いた俺はその場に正座してペンとメモ用紙を取り出した。
「さぁ! どうぞ!」
「露骨だなぁ」
頭を掻きながらカーティオは仕方がなさそうに話し出した。
「まずミッちゃんの持ってる七獄スキルは強欲、嫉妬、傲慢だろ?」
「そうだね」
「普通七獄スキルは2つしか持てないはずなんだけど……まぁミッちゃんは特別なんだろ? 知らないけど」
もう聞く気失せてきんだけど。
「そんな顔すんなよ、まぁほら嫉妬と傲慢の覚醒スキル教えてやるから」
カーティオはどこからかメガネを取り出して掛け始めた。
いや、ドヤ顔されても……。
「まず嫉妬の覚醒スキルは悋気王能力は永遠を操るだ」
チートが止まらない! ここに来て強さのインフレはダメだって!
「永遠と言っても対象を無限ループに嵌めるってだけだ。使用出来るのは1人のみ、それに加えてループさせてる間この能力は使えない。まぁその代わりに1度これに掛かった相手は抜け出す手段ないから勝ち確みたいな所はあるな」
まぁそれなりにって感じか、けど1人でも完全に無効化できるのはいいな。
「あっ……言い忘れてたけど貪慾王にも制限はあって分解できるのは2つまで、何かを融合している間は分解も融合も使えない、研究部屋と混沌監獄も使えないから注意しろ」
ふむふむ、てかこいつ本当に詳しいな。例の3000年前にあったことも知ってるのでは?
「ほら、今は違うこと考えるな」
「ちっ」
顔に出やすいってのはあながち間違いじゃないのかなぁ……今度無表情の練習とかしよう。
「そして傲慢は高慢王選択したモノの質量、運動量……まぁ魔力とか体力色んなもんを最大と最小に変更出来る力だ。自分にも使うことができるけど最大と最小にしか出来ないから使い勝手は悪いな」
これは今持ってる能力と使い方は同じか、相手に影響を与える力が極限漲溢に備わったって理解でいいのかな?
「他の4つも厄介なスキルばっかりだけど……まぁ説明だるいからいいだろ」
「待てよ! 敵に覚醒スキル持ってるやつ居たらどうすんだよ!?」
俺が立ち上がりカーティオに詰め寄ると額に小さな衝撃を受けた。
「馬鹿か? なんの為に俺を呼んだんだ。そん時は俺が守ってやるよ」
……。
「ならいいんだ」
「あれ〜? 少し照れちゃってますぅ〜?」
「よしそこに座れ! 首から下氷漬けにして面白いオブジェにしてやる!」
人が少しだけ見直してやったらすぐこれだ! こいつは調子に乗ってやらかすタイプだな。
「そりゃ勘弁だわ」
カーティオが笑いながら俺の背中を叩く。
「痛い痛い! お前少しは手加減しろよ! 相手は女子だぞ!」
「いやミッちゃん転生前は男でしょ?」
そうでした!
「それとも……女の子扱いして欲しいならしっかりエスコートしてやるけど?」
少しいやらしい言い方をしながら俺の腰と首に手を回す。
「結構だ! 気持ち悪い、ったく」
「……ちなみに俺はミッちゃんと触れていれば心の声がなんとなく分かるんだけどさぁ〜!」
だんだん声を大きくして何したいんだこいつ。
「ケルロスとクイックとか言うのに抱きしめられたり距離詰められるのは割と満更でもないんだねぇ〜!!」
「はっ!? はぁ!? なっ! なぁに言って! ばっか!! そんなんじゃ!!??」
「うわぁ〜見事なテンパりよう今回のご主人様は面白いわぁ〜」
地面転がりながら腹抱えて笑ってるよこいつ! すげぇムカつく! ガチで殴りたい……てか1発斬らないときがすまねぇ!
スチャ
「覚悟しろ神魔級だかなんだか知らねぇけどここでお前を切り刻んでやる!」
「わっ!! 本気で斬りに来るとは思ってなかったわ」
寝転んでる状態からあの速度で回避を? ……少し興味が湧いてきたな。
俺は刀をしっかりと握り1度鞘に戻した。
「ん? どうした――」
シュッ!
「……ふぅん」
避けられた!? いや頬には当たってる。これなら勝て!
「はいそこまで、俺とご主人が戦ってもメリットないでしょ?」
!?
「それと……神魔級を舐めすぎ。俺じゃなかったらミッちゃん殺されてたかもよ?」
「……それは俺よりお前の方が強いって言いたいのか?」
握られた腕に力を入れてカーティオのことを睨む。
「ははっ。どうだろうね……けどそうだなぁこの国を廃墟にする覚悟があるなら本気で戦ってあげるよ」
先程までふざけていたカーティオが真剣な表情をして俺に問いかける。
「……わかった、俺も熱くなって悪かったよ」
カーティオの手を振りほどき刀を鞘に収めた。
「うんうん。でも俺は……真剣な顔で俺の事殺しにくるミッちゃんの顔好きだったけどなぁ」
なんか顔赤くしてるよ……ちょっと気持ち悪い。
「今失礼なこと考えたでしょ?」
「いや別に」
疑いの目を向けるカーティオの視線を外し俺は気になったことを聞いた。
「もし本当にお前の方が強いとして……なんで俺に仕えるって決めたんだ?」
「……お前が面白そうだからだな」
こいつは今嘘をついた、でもその嘘は俺を騙そうとかそういう嘘じゃなくて……俺を守ろう、俺を傷付けない為についた嘘だ。なんでそんな事をしたのか俺には分からない。嘘をついたことについて問い詰めることもできる。でも俺はそれをしなかった、いや出来なかった。嘘をついた時に見せたこいつの顔がとても、とても悲しそうに見えたから。
「そうかよ、それじゃあまぁお前を信じるとしよう」
俺の嘘もきっとバレている。それでもこいつは優しく笑って頷いた。
「……まぁ帰るか」
「俺はどうする?」
「あっ……うーん」
1度中に入ってて貰おうかなぁ、ケルロスとクイックに事情話さず家に置いたら怒られそうだし。
「悪いんだけど1度中に入っててくれる?」
「はいよ」
随分すんなり入るな、俺の中は居心地いいのかなぁ?
(悪くないぞ〜)
(うわっ! びっくりした。)
(お前の中は暖かくて優しい感じだ)
その言い方少し嫌だなぁ。
(そうだな、今までの主の中で2番目にいいな)
1番じゃねぇのが少しムカつくな。
(そういうなって)
(慰められても反応しずれぇよ!)
俺は頭の中でカーティオと会話しながら転移で自室に戻りそのまま布団の中で睡眠を取った。