135話 貴女の愛した
「先程は失礼しました」
即席で作ったけどいいよね……サイズ感ミスって彼シャツみたいになってるけど平気だよね? ……あれこの絵面本当に大丈夫か?
「シュティアもとうとう人型かぁ」
「はい、これでトロリアット様とノーチェ様をお守りできます」
この子の忠誠が本当なのは心理掌握でわかってるけど……どうしても気になることはある。
「シュティア……君は俺の事が憎くないのかい?」
トロリアットが驚いたような慌てたような顔をしたが俺はそれを気にしないで話し続ける。
「俺は君の母親を殺した張本人だ。それでも俺に力を貸してくれると……そういうのかい?」
シュティアはカチカチと何かを鳴らして答えた。
「私は蜘蛛の中でも落ちこぼれでして……最悪餌になる予定の蜘蛛でした。それを助けてくださったノーチェ様とトロリアット様には感謝しています。このシュティア! お2人の為なら命を投げ打つ覚悟がございます!」
シュティアの叫びと連動するように奥の方に居た蜘蛛たちがカチカチと歯を鳴らして頭を下げた。
「……わかった。ありがとう」
頭を下げるシュティアの肩を叩いてトロリアットを見た。
「ゼーレスクダンジョン、タラレントダンジョンを合併したことによりここは新たなダンジョンへと生まれ変わった! 名前はエルドークダンジョン、ダンジョン管理はトロリアットに一任する!」
俺の声が玉座に響き渡る。トロリアットとシュティアは喜びを噛み締めて強く
「「はい!!」」
と返事をした。
エルドークダンジョン玉座奥
「まさかこんな部屋があるとは知らなかった」
エルドークダンジョンと命名してあとはダンジョンの階層管理をしている人達に挨拶してと色々終わらせたんで地上に帰ろうとしたんだけど。
「是非! ノーチェ様に見て欲しい所がございまして!」
ってトロリアットが言うもんだから着いてきたんだけど。
「広……」
「はい! ここはノーチェ様がのんびりとお過ごしできるように作ったお部屋になります」
なんだろう……どこかに似ている。広い草原に大きな湖。そして……
「龍の骨」
「えっ?」
「あっ! いやなんでもないよ」
タラレントダンジョンにあったあの空間に似てるんだ。けどこっちの方が広いかな。
「少しいいかな?」
俺がそう言うとトロリアットは不思議そうな顔をしたが頭を下げてどうぞ、と言ってくれている様子だった。
……人化解除。
「はぁ……空気がいいな、とても地下とは思えないよ」
「はい」
懐かしいな、昔もこうやってよく話したっけ。
「今日も世界は綺麗だよ!」
「はいはい、その口癖ばっかりなんだか」
沈みそうな太陽を眺めて笑い合う少女達
「---は好き?」
「……好きだよ――」
「ハナ」
「? ノーチェ様?」
「……ん? あっごめんボーッとしてた」
トロリアットが覗き込んでたのに全く気付かなかった。
「お気に召されたようで良かったです」
「うん、ここいいね。今度は他のみんなも連れてくるよ」
「その時は美味しい料理を作っておきます」
新しい楽しみが増えたなぁ〜と思いながら俺はエルドークダンジョンを後にした。
「結構長い時間居たんだな」
ダンジョンの外はもう既に暗く街の方では街灯が輝いていた。
「また2人に怒られちゃうかなぁ」
あははは〜と笑いながら歩いていると後ろから何かが突撃してきた。
「ほいっ!」
「わっ!!」
やっぱりフィーだ。まぁこんなことするのはフィーくらいしか……
「隙あり!」
フィーに気を取られていて上を気にしていなかった俺はもう1人の美人さんに気付かなかった。
「久しぶり〜」
「お〜、シャルか」
シャルは最近フィーの元で合宿中だったからな。俺の家には帰ってなかったし。まぁ……シャルが学ぶってよりフィー達の方が学ぶこと多いってメドランガが言ってたなぁ。
「それで? 2人ともどうしたんだい?」
フィーと手を繋ぎシャルを肩車した状態で俺は質問した。
「最近ノーチェが構ってくれないから遊びに来た!」
「私も〜」
そうかなぁ……シャルはともかくフィーとは結構会うしそこそこに遊んでると思うんだけど。
俺の考えを見透かすようにフィーが話し出した。
「難しく考えるな〜、私は遊びたい! なら遊ぶ! これでいいんだ!」
なんだその理論……けどまぁ、今日くらいはいいか。
「遊びか……何かしたいこととかあるの?」
2人はそれを聞いて同じポーズをとり悩み出すが結論が出るのも全く一緒だった。
「「ない!」」
「ははは〜」
シャルがだんだんフィーに似てきたかな。
「することないなら……みんなでご飯食べようか」
「お〜さんせ〜!!」
「私もお腹空いてきた〜」
繋いでいる手をブンブン回して上機嫌なフィー、俺の上で体を上下に揺らすシャル。嬉しいのは分かるけど俺の体バラバラになりそう。
「ノーチェとご飯〜」
「ご飯〜!」
けどまぁ……2人とも上機嫌だからいっか。
「あ〜……随分と食べたなぁあの2人」
フィーはともかくシャルも結構食べるんだな。まぁお金に関しては貯めてたしいいんだけど……あの体のどこに入るのやら。
「ただいま〜」
って2人とも寝てるよな、そんなことを考えて扉を閉めていると後ろから声が聞こえた。
「随分と遅かったね」
「ひゃっしゅ!?」
あんまりにもびっくりして変な声出たわ!
「って……クイックか驚かすなよ」
「いやいや、そんなことよりこんな時間まで何してたか教えてくれるかな」
あっこれ怒ってるわ。
「いやその、トロリアットに誘われてダンジョン行って帰りにフィーとシャルにあってご飯食べて帰ってきました」
「……嘘ついてる感じじゃないね、まぁそうだな。次からはしっかり連絡してね」
クイックの笑顔が怖い。
「あれ? ケルロスは?」
「あ〜……今日はやること遅くなるから帰って来れないってさ」
大変だなぁ〜……てか俺が仕事して無さすぎなのか? それに2人が俺の分を負担してる時もあるって聞いたことあるし
「どうしたの?」
「……2人とも無理しないでくれよ。後俺にもできることあれば頼んでくれよな」
俺はそう言ってクイックの頭を撫でて部屋に戻って行った。
「? まぁいっか」
嬉しそうに頭を触るクイック……その姿は俺には見えなかった。
「はぁ〜今日は色んな意味で大変だった。けどまぁフィーに出会えたのはラッキーだったな」
フィーに会えたおかげでプリオル連隊がどうなっているかを把握することが出来た。
「トロリアットの部隊名が夜桜大隊、総勢50000人……あれ? 魔物だから匹なのかな? まぁいっか」
これにより総勢67300人か。部隊役割もまとまってきたし……トロリアットの部隊は最終手段かもな。時間稼ぎや圧倒的な物量を必要とした時に出撃してもらう感じだと思う。それにあれだけの魔物を普通の戦いに出したら俺がいよいよ悪い魔王みたいになっちゃうし。
「変なヘマしないように気を付けないと」
体を伸ばしずっと気になっていたことを考える。
魔物召喚……これはどうするべきかなぁダンジョンで出てくるような奴らが召喚されるってこと? カオス・スパイダーとか召喚されると家壊れちゃうし。こんなことならエルドークダンジョンの奥にある広いエリアで魔物召喚しとけばよかった。今まで読んだ本にも魔物召喚なんて記述ひとつもなかったしなぁ。
「当たって砕けろ……特典みたいなもんだしそこまで深く考えなくてもいっか」
俺はそう思い家の窓から少しだけ広い場所へ転移をした。
「ここなら誰もいないしそこそこに広いよな」
俺が選んだのは商業地区の実験広場。この時間にドワーフ達は居ないし防音結界を貼ってるので外に音が漏れる心配もない。何故商業地区にこんな場所があるのかは……まぁ魔弾砲とか40mm砲台とかある時点でお察しだけどね。
「さぁ! やるか……魔物召喚!」
そう叫ぶと俺の周りに見たこともない魔法陣が開かれた。
魔法陣!? 今までこんなこと無かったぞ! てか魔法陣なんてあったんだこの世界!? それに魔力が結構持ってかれてる。大型転移でもここまで取られないぞ! やばいと思い召喚を中止しようとした時だった。俺の周りを明るいというよりもはや眩しくて目を開けていられないほどの光が溢れ出した。
「何……が」