128話 愛の形
「私達……銀月帝国の民はノーチェ様に忠誠を誓います!」
泣き止んだドルはそう叫び後ろにいた獣人達も俺に向かって膝を折った。
俺は叫んだ獣人達に感謝を述べてその場を後にした。
「いやぁせっかく治したのにまた穴空いちゃった」
「そんな冗談で俺達のこと誤魔化せると思ってるの?」
あっガチギレですねこれは。
俺は今会議室で話し合いをしています。主に俺が居なかった時の説明とかをするって聞いてたんですけど。
どうやら俺が怒られる方の話し合いみたいです!
「それで? もしドルって子が本気でノーチェを殺そうとしたらどうするつもりだったのよ?」
エレナが真剣な眼差しで聞いてくる。
「えっ……いやそれは剣を掴んで避けようと」
「ノーチェ!!」
ケルロスが叫ぶ。
「はい! そのまま受けようとしてました!」
あっ……怖くてつい
それを聞いたみんなが心底呆れた顔で俺を見る。
「本当に殺されてたらどうするつもりだったの?」
「……どうするつもりもなかったよ。ただ俺はリーベさんが守ろうとしていたものを傷付けてまで生きていたいと思えなかっただけさ」
「まぁいいでしょ、今は生きてるんだから。でもねノーチェ、自分が1国の王であることを忘れないで」
エリーナの言っていることは最もだ。今回は俺の命だけでなくフィデース信栄帝国という国自体も危険に晒している。国の長と言うなら俺は3流以下だろう、けど……そうだとしても友が守っていた民達が苦しみ続けるのは見たくなかったんだ。
「……次あんな危険なことして死んだら俺達も死ぬから」
クイックが笑えない冗談をかますので俺は苦笑いする。しかし2人の目は本気だ。
「いやいやそんなことで命を無駄に――」
「無駄? 今無駄って言ったの?」
クイックがゆっくりと俺の方に近付いてくる。俺は恐怖を感じて逃げようとするが今のこの体じゃ動くことも。
ガバッ!
「クイック!?」
エレナが驚いて立ち上がるがケルロスがそれを止めた。
俺は今日何回胸ぐら掴まれるんだろう。
「もっと自分を大切にしろよ! ノーチェだって仲間が傷付いて悲しむ気持ちはわかるはずだ! なら! 俺たちが傷付くノーチェを見てどんな思いになるかもわかるだろ! それで傷付いて欲しくない相手が死を受け入れようとしていたなんて話聞かされて納得出来るわけないだろ!」
クイックが乱れた息を整えて手を離す。俺は車椅子にゆっくりと戻された。
「……ごめん」
俺は改めて自分のやった行為を反省してみんなに頭を下げた。
パンッ!
「とにかく、ノーチェの傷は治したし話もここまで! 今からは自動式守備隊の被害について……」
こういう時しっかりしてるエリーナは頼りになる。
自動式守備隊の被害状況を話してる時でもちまちま俺は怒られていて結局後半の方は俺の悪い癖の言い合いみたいな感じになってました。
「みんなが俺のこといじめたぁ〜」
「いやノーチェはみんなの意見を聞いて反省した方がいい」
「全くだな」
ケルロスとクイックも俺のこといじめるぅ〜。
コトッ
「まぁ今はご飯食べなよ」
ケルロスが俺の前に温かいスープを差し出した。
「ありがとう……ケルロス」
なんだか、久しぶりに食べた気がする。とっても落ち着く味だ。
「美味しい?」
「あぁ、美味しいよ」
そうだ……俺は落ち着いてるはずなんだ。ただ普通に生活をしているはずなんだ。いつもと変わらない何の変哲もない幸せで楽しい日々の1ページを過ごしている……はずなのに。
「あれ、なんで」
なんで涙が止まらないんだろう。
「おかしいな、俺……なんで泣いて」
止まらない……どうして泣いてるんだろう。なんでこんなに感情が溢れてくるんだろう。
「ごめん、ご飯中なのに……ごめん、今泣き止むから……少し、少しだけ」
2人に迷惑を掛けないように一生懸命涙を拭き取る。それでもどんどん溢れてくる。もう止められない……訳が分からず溢れる涙が止まらなくて。
「ごめん……本当に、ごめんなさい」
俺がそう言うと2人が俺の手を強く握ってくれた。
「いいよ、だから我慢するな」
「止めようとしなくていい。無理をしなくていい。俺達に申し訳ないとかそんなこと考えなくていい」
「 うっ……うぅ。あぁぁぁ、友達になれると思ったんだ。ようやく本当の意味でリーベさんと一緒に前に進めるって。思ったのに……俺はまたなんにもできなくて。俺はまた友を助けられなくて」
分からない。でも助けられなかった無念が俺の心を締め上げる。止められなかった悔しさが俺の心を埋め尽くす。
「私はまた! なんにも守れずに! 世界を……未来を焼き尽くして! 独りよがりでくだらない理想をみんなに押付けて! 馬鹿みたいに突き進んで!」
俺は何を言ってるんだろう。でも心の奥から言葉が溢れるんだ。
「私は仲間を救えない! 友と約束した全てをぶち壊して!
仲間だった者に手をかけて! こんな愚かな私が……生きてていいはずないんだ!」
焼けた街……転がる遺体、俺は……私は世界を焼き尽くして仲間を殺して。あぁなんて愚かな『 』なんだろう。
「ノーチェは生きてていいんだ!」
ケルロスが俺の背中を強く叩く。苦しかった思いや辛かった過去が一気に晴れていく。
「ノーチェに何があったかなんて知らない! でも、今ここで! ノーチェは生きてていいんだ! 誰が認めなくても俺が……俺達が認める! ノーチェはここに居てもいいんだと!」
「ケルロス……クイック」
「ノーチェがなんだろうと俺達はノーチェの味方だよ」
2人の声が俺の心にある闇を取ってくれる。俺にあった過去……俺がやった罪。多分これからその全てを受け入れる時が来る……それでも2人は俺と一緒に居てくれるのかな。
「うん……うん!」
俺はぐちゃぐちゃになった顔を拭いて2人の手を握り返した。
「多分俺は化け物だ。それでも2人は俺と一緒にいてくれるの?」
「「当たり前だろ」」
迷いなく……なんの躊躇いもなく返事をする2人。俺はそれを聞いて心の底から嬉しいと感じた。
翌日
「銀月帝国から来た獣人達の住処は確保しました」
テグが着替えている俺に報告する。
「わかった、それでみんなは集まってるかな?」
「はい、ほとんどの方が集まっております」
テグもいつものメイド服ではなく女性用の黒いスーツに身を包んでいる。
「俺ももう終わった、それじゃあ行こうか」
俺も普段は着ない黒いスーツを着てある場所へ向かう。
ある場所に着くと銀月帝国の住民とプリオル連隊の隊長、副隊長が集まっていた。
「遅かったね」
「少し……な」
俺はケルロスとクイックの間に立ち目の前の箱を見つめる。
……リーベさん。
「それでは、始めます」
ドロブの声が聞こえると銀月帝国の住民が重ねあげた木の下に火を置いた。
炎は直ぐに大きくなり上にある箱を火の中に包み込んだ。
後ろからは子供達の泣く声が聞こえる。中には膝から泣き崩れる大人達もいる。
ケルロスもクイックも目を逸らすことなく燃える火を見つめている。
プリオル連隊のみんなは何も言わずにそっと目を閉じて今は亡き友人に祈りを捧げていた。
「さようなら、リーベさん。ゆっくりとお眠り下さい」
俺はそう言ってリーベさんから貰った仮面を顔に被せた。
「これでお主ももう寂しくないじゃろうて!」
「悪趣味!」
「なんでじゃ!」
「寂しくないなんて嘘じゃないですか、リーベさん」
木の燃える音に俺の声はかき消された。
空高く昇る煙の先には雲の隙間から黄金の太陽が光を覗かせていた。それはまるでいつも笑顔で明るかったリーベさんを表しているかのようだった。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ【反逆の刃】
天帝月夜蟒蛇Lv8
所持アイテム星紅刀、楼墨扇子
《耐性》
痛覚耐性Lv6、物理攻撃耐性Lv10、精神異常無効Lv8、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv8
《スキル》
支配者、知り尽くす者、信頼する者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、不達領域、完全反転、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv6、水泡魔法Lv10、水斬魔法Lv9、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、風新魔法Lv7、風斬魔法Lv1、土石魔法Lv10、土斬魔法Lv8、土流魔法Lv9、回復魔法Lv10、破壊魔法Lv8、幻影魔法Lv10、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《七獄》
強欲、嫉妬、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者
ケルロス・ミルキーウェイ
赫々白狼Lv9
《耐性》
痛覚無効Lv6、物理攻撃無効Lv3、精神異常耐性Lv2、状態異常無効Lv1、魔法攻撃無効Lv9
《スキル》
信頼する者、不達領域、完全反転
《魔法》
水泡魔法Lv5、水斬魔法Lv1、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv8、稲妻魔法Lv9、創造魔法Lv6、光魔法Lv10、神聖魔法Lv8
《七獄》
嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥紅土竜Lv9
《耐性》
物理攻撃無効Lv5、精神異常無効Lv4、状態異常耐性Lv1、魔法攻撃無効Lv2
《スキル》
貪る者、永久保存、欲望破綻
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv8、火流魔法Lv3、風斬魔法Lv8、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv10、闇魔法Lv3
《七獄》
暴食