126話 狂う程に愛して
ワシは世界が嫌いじゃ。ワシから友を奪った世界が憎たらしくて許せないのじゃ。でも……それでもその友は世界を愛しておった。死ぬ直前ですらも世界を愛しておった。最も世界を憎んで良いはずの友が世界を愛しておったのじゃ。それなのにワシが世界を憎む権利がどこにあるというのじゃ。1番辛いあやつが耐えていたのに……ワシが耐えられぬと言える訳がなかろうて!
あやつの愛した世界が好きじゃ。あやつが守った世界が好きじゃ。そう言い訳をしながら生きてきた。そしてワシは愛す者となったのじゃ。あやつが救おうとした世界を愛そうと思ったから。
じゃが……ノーチェという女が現れワシの考えは揺らいでしまった。最初はただの玩具、面白い女程度の認識であった。しかし似ておるのじゃ……ワシが狂うほどに愛したあやつに世界を救おうと、仲間を救おうとして全てを無くし裏切られ……ボロ雑巾のように酷い有様で死んでいったあやつに。
もうそんな悲劇は見とうない。もうそんな被害者は出しとうない。そう……そう考えると行動せずにはおられんかった。ノーチェを救うためには仲間を捨てて管理者を捨てて何もない状態にせねばならん。最初は辛いじゃろうがそこはワシが癒してみせよう。そうじゃ! ワシがお主を愛して、愛して、愛して、愛して、愛して、愛して、愛して、愛して、愛し続ければいずれわかってくれるはず!
ワシと一緒にどこまでもどこまでも堕落していこう。
ガチャン!! カチャ! バシュ!
「もういいんじゃ! 頑張らなくて良い! 無理することは無い! ワシはお主を傷付けたい訳じゃない! 今でも間に合う……ワシと共に愛し合おう、ノーチェ!」
「悪いけど! ……お断りさせて頂く!」
狂い咲きって2つ名付いてる理由がなんとなくわかった。 狂ってるんだ愛という毒に。
「ウィンド・バースト!」
「フローズン・スター!」
風斬魔法まで使えるのか。
「はぁ……はぁ」
「さすがに…その傷ではそろそろキツかろうて」
キツいのは最初からだわ! ってツッコミ入れる余裕もねぇ。
国の状況も気になってきた……クイック達がいるし防御は固めたからある程度は持ちこたえると思うけど、早く帰るに越したことはない。
「アイス・ロック!」
飛んできた氷の塊を刀で一刀両断する。砕いた氷の中からリーベが現れ俺に攻撃を仕掛けた。
「エアロ・ショット!」
「牙石乱!」
石と風がぶつかり合い土煙が舞う。
今ここで不意を打つ!
「匂いでわかると言っておるじゃろ!」
シュッ!
「ここだぁ!」
「なっ!?」
リーベが蹴りで切り裂いたのは俺のコートだ!
当たる! 避けられるタイミングじゃない!
パシッ!
「ッ!?」
「何故位置が分かるのか? そう言いたいのじゃろ」
その通りだ……匂いでバレないようにコートを投げただけじゃなく俺自体の匂いも限りなく薄くしたはず。なのになんで。
「簡単じゃ……目にかけた技を解いたと言うだけじゃ」
「そうかい!」
こんなに早く解かれるとは思ってなかった。
「もう諦めるんじゃ! ノーチェ!!」
刃にも匹敵する強さの手刀、刀を握られた状態じゃ避けられない。
グシャッ!!
「ほれ……このままゆっくり休むといい。起きた頃には全てが終わって――」
? 抜けぬ、なんじゃこの力は。
それにこやつ……笑って。
「がっ!?」
一体どこから攻撃が!
「アイス・リフレクション」
何かが氷の塊を弾いておる。弾かれた氷がさらに別のものに弾かれ加速して!
ドゴッ!
「ぐっ! ……ノーチェ! お主一体何を!?」
「ナイフさ。あんたは適当に投げたと思ってたろ。あれには目に見えないサイズの糸を付けてたのさ。まぁここまで誘導するのも大変だったけどな」
全て計算して。腕が抜けないのもこの糸が原因か!
「くっ……うぅ、あぁ!」
無理やり体を後ろに下げてワシの腕を引き抜きおった。
「はぁ、はぁ……結構きつい賭けだったけどここまでしないと魔王は倒せないからな」
体が動かない……結構な量魔力を入れておるなこれは。
刀も取り返されてしもうたし。
「さぁ、狂い咲き。これで終わりにしよう」
刀を振り下ろす……複雑な感情を押し殺して狂った獣を殺す為に。
「好感度変換!」
ブチブチブチブチ!
糸を!?
「フローズン・キャット!」
「ファイア・バード!」
火流魔法が間に合った。しかし……あれだけ魔力を練りこんだ糸を引きちぎられるとは思ってなかったな。
「危ない所じゃったわ、正直この技を使うかどうかは悩んだのじゃが。お主をワシのモノにするための仕方ない犠牲じゃな」
さっきよりも魔力が上がってる。それに魔力の平等化も解除されてるみたいだ。
「最終ラウンドと洒落こもうではないか、ノーチェよ」
「そうだな。これでもう終わりにしよう」
もう策はない。血も流れて意識が飛びそうだ。まぁそれに今の魔力量じゃ傷を完璧に回復することは叶わない。
はぁ……全くいつもいつも分の悪い戦いばっかりだな。
ガシャン!
「どうするのじゃ! ノーチェ!!」
「……」
拮抗してる、と言っても雪の力である程度弱体化したリーベでようやく俺が対応出来てる感じだ。でも……。
シュッ! ガチャ! ギリギリ! カチャッ! ガチャン!
「ほれほれ!」
ここで押し負けたらもう! 勝てない!!
「スロウ・シャーベット!」
刀に氷を纏い攻撃力をあげる。さらに!
ピキッ!
「ほほぅ。切られた場所が凍っておる」
斬った場所を凍らせ崩し壊す。
「時間は掛けてられないんだ!」
「不達領域!!」
「何度も同じ技にかかると思うたか!」
思ってないから使ったんだよ!
「爆迅落!」
「上じゃと!?」
これだけ使えば不達領域が通じなくなることなんてわかってた。故にそれを利用させてもらったんだ。
俺は爆迅落に合わせてリーベに突っ込んでいく。さらに逃げ場を無くすため持っているナイフを全てリーベに向かいぶんなげた。
「こんなもの!」
リーベが俺に攻撃を仕掛ける。ナイフはともかく俺を攻撃すれば爆迅落は無くなるからな。
「完全反転!!」
俺と爆迅落の位置を切り替える。
「場所を!?」
「終わりだ! リーベ!!」
スッ!
上から放たれる俺の攻撃と爆迅落を避けやがった!
グシャッ!!
「ごふっ!ナイフは避けきれなかったか……じゃが! この程度の痛みなんて事は!」
スチャ……
「言ったろ……もう、終わりなんだ」
バンッ! バンッ、バンッ!
「それ……は」
「仲間に貰った……プレゼントだよ」
リーベが体制を崩し地面に落下していく。俺は銃口から出る煙を眺めながら刀をしまった。
「こんなもので、動けなくなるとはのぉ。何か細工をしたじゃろ」
地面に倒れ込み空を見上げて俺に質問をする。
「えぇ。あの弾丸には魔力を吸い取る効果があります」
俺は穏やかな声で答えた。
「そんな程度の技でワシが負けるはずが」
「その通りです。あんな弾丸3つ程度でリーベさんを抑えられるなんて思っちゃいない。通常時のリーベさんならね」
「……ははは、あの雪か」
笑いながら答えるリーベ。
「それだけじゃないです。途中俺の腹に腕を差し込んだ瞬間研究部屋でリーベさんの魔力系の流れを狂わせました」
リーベさんの近くに座り込み顔に付いた血を優しく拭き取る。
「全く、お主は何手先を見ておるのじゃ」
「そんな大層なもの見えてませんよ。ただ仲間を助ける為に必死だっただけです」
周りに貼られていた結界が崩れていく。それは戦いの終わりを表していた。
「仲間か……結局ワシは大切なモノを守る為にその大切なモノを蔑ろにしてしまったのじゃろうなぁ」
「安心してください。致命傷は避けてます。今からしっかりと治療すれば命は助かります」
俺はリーベの手を握り体を起こそうとする。
「ワシは……お主の仲間を傷付けようとしたのじゃぞ」
「確かにその通りです。だからそれはそれで償ってもらいますよ」
それを聞いたリーベの手に力が入ったのを感じる。
「じゃが……ワシは」
ワシは、お主の大切なものを利用し……独占的で自己中心的な愛でお主を傷付けた。そんなワシをなぜ、どうして。
「……友達を助けるのに理由はいらない。喧嘩はこのくらいにしましょう。また俺の国で温泉入って楽しいお話聞かせてください」
あぁ。もう既に……ワシの欲しいものはここに――
グシャッ!
「あっ……」
「ッ!!?? リーベさん!?」
「戦いは終わったな」
結界の外で様子を見ていたゼロがいつの間にか中に入っている。
「ゼロ!! どういうつもりだ!」
「これは魔王の名を賭けた決闘だ。負けたヤツは魔王としての、管理者としての権限を全て失う」
「だからって! 命まで奪う必要があるのか!」
「大いにある。まず管理者という名を知っているのは限られた者だけだ。魔王の名を捨てたリーベがこの先誰にバラすともわからない」
ワシのために怒ってくれるのか……本当にお主は優しくて欲深い奴じゃ。
「リーベさんが勝った時は俺の命だったって訳か」
「いや、リーベが勝った際はお前の命は奪わないことになっていた」
もう良いのじゃノーチェ。あぁ力が入らぬ。止めたくても止めることが……。
「どういう意味だ!」
「今回リーベが望んだのはノーチェ・ミルキーウェイの全て。そこで俺たちはノーチェをリーベのモノにするにあたりいくつかの契約を作った。その中にはノーチェを外に出さないことなども含まれていた」
「……なるほどねぇ。随分と悪趣味なこった」
ノーチェがワシの前に立ってワシを守ってくれておる。
「リーベさんは賢い人だ。管理者のことをバラすとは思えない」
「それでもだ。俺は魔王……いや、管理者裁く者としてリーベを裁かなければならない」
ノーチェが刀を抜きゼロに切っ先を向ける。
「やってみろ! 俺は絶対に仲間を見捨てない!」
「……そうか残念だよ」
ゼロがそういうとノーチェに剣を突き刺し――
グチャッ!!
「なんじゃ……ぐふっ、はぁ……あぁ、ははは。友の為なんて言葉……馬鹿にしておったが、割と……体が動くもんじゃのぉ」
「リーベ!!」
意識が遠のく……本当に終わりじゃのぉ。でもノーチェを守ることができた。最後に友を救うことができた。
「なんで! リーベ! まだなんも……なんにも償ってもらってないじゃないか! 厄介事ばっかり起こしといて先に眠ろうなんて許さないぞ!」
あぁ、泣かんでくれノーチェ。ワシはお主の泣き顔なんて見とうないぞ。
「目を開け! 何してんだよ! いつもみたいに笑って見せろよ! いつもみたいに冗談言って! 何考えてるかわかんない顔で微笑んでみろよ!」
ピタッ……
暖かい頬じゃ。
「リー……べ?」
「泣くな……ワシは満足じゃ。こんな世界で、ノーチェと出会えてすごく嬉しかったのじゃ。ワシのやったことは間違ってばかりじゃったが……最後の最後にやるべき事、いや……本当の意味で友を救うことが出来た。だから泣かないでくれ。私を笑顔で見送ってくれ……ノーチェ」
はははっ……下手な笑顔だなぁ、全く。でもワシ……私はあやつと同じ事ができたとそう信じているんだ。
…………。
「ここは?」
暖かくて優しい空間。辺りの花達をワシはどこかで見たことがある。
「リーベ」
懐かしい声に驚きワシは後ろを振り返る。
「お疲れ様リーベ。こっちで……私たちが愛した世界のお話をしよう」
お主は……お主は!
「そうだね、沢山……沢山お話しよう」
リーベは友に向かって走り出す……涙でくしゃくしゃになった顔を隠しながら満開の笑顔を浮かべて2人が愛した世界について誰も邪魔しない幸せな空間で永遠と話し続けるのだ。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ【反逆の刃】
天帝月夜蟒蛇Lv8
所持アイテム星紅刀
《耐性》
痛覚耐性Lv6、物理攻撃耐性Lv10、精神異常無効Lv8、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv8
《スキル》
支配者、知り尽くす者、信頼する者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、不達領域、完全反転、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv6、水泡魔法Lv10、水斬魔法Lv9、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、風新魔法Lv7、風斬魔法Lv1、土石魔法Lv10、土斬魔法Lv8、土流魔法Lv9、回復魔法Lv10、破壊魔法Lv8、幻影魔法Lv10、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《七獄》
強欲、嫉妬、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者
ケルロス・ミルキーウェイ
赫々白狼Lv9
《耐性》
痛覚無効Lv6、物理攻撃無効Lv3、精神異常耐性Lv2、状態異常無効Lv1、魔法攻撃無効Lv9
《スキル》
信頼する者、不達領域、完全反転
《魔法》
水泡魔法Lv5、水斬魔法Lv1、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv8、稲妻魔法Lv9、創造魔法Lv6、光魔法Lv10、神聖魔法Lv8
《七獄》
嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥紅土竜Lv9
《耐性》
物理攻撃無効Lv5、精神異常無効Lv4、状態異常耐性Lv1、魔法攻撃無効Lv2
《スキル》
貪る者、永久保存、欲望破綻
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv8、火流魔法Lv3、風斬魔法Lv8、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv10、闇魔法Lv3
《七獄》
暴食