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転生先は蛇さんでした。  作者: 時雨並木
狂愛編
126/261

125話 愛に囚われた獣

怒りか焦りか……扇子で顔を隠しているから分からない。

「くっ……くく……あははははは!」

何が面白いのかわからないが、俺も結構キツイので倒させてもらうぞ!

「ダークネス・ハリケーン!」

「エアロ・スラッシュ」

風斬魔法か。

「ノーチェ……ノーチェよ、お主そこの狼をワシの支配下から取り返し勝ちだと思っておるのか?」

ゆっくりとリーベが降りてくる。

「ワシは直接攻撃をあまりしておらんかったからのぉ。弱いと思われても仕方あるまいて」

地面に降り立ち扇子を懐にしまい込む。

「じゃが……ワシはお主と同じ、獣人じゃぞ」

リーベのしっぽが逆立つ口元からヨダレが垂れて目は……完全に獲物を捉えた捕食者のものだ。

来る! そう確信した……だが。

ブシュ!

「かっ……」

肩に斬撃!? 一体何で。

慌てて振り返りリーベを目視する……リーベの武器は、素手だ。

「おやおや……美味しそうな血じゃのぉ」

手に付いた血をいやらしく舐め取り微笑むリーベ……気味が悪い。

「お前……」

「ほれ、次行くぞ」

ガシャン!

刀でどうにか防いだが頬にかすり傷……しかも行くぞと宣言されてこの有様。確実に速度はあっちの方が上だ。

「どうしたのじゃ……反応できておらんぞ」

「うっさい!」

見くびってた訳じゃない……油断だってしてなかった。それでこれかよ。

「次じゃ!」

不達領域(リーチキャンセル)!」

このまま!

「スノウ・フォール!」

舞い散る雪は相手の体温をゆっくりと奪う……これで運動能力に制限が掛かれば。

「なるほど……考えたのぉ。ジワジワと相手の力を奪う技か。しかしそんなもの奪われる前に倒せば良いだけじゃ!」

ガシャン! カチャ! ギリギリギリギリ!!

視覚強化と筋力強化の同時並行してギリギリ防げる速度とかふざけんてのか!

「ほれほれ! 他の手はないのかのぉ」

嘘だろ……体力は確実に奪ってるはずなのに速度があがりやがる。

「ダーク・アイ!」

刀でリーベの手を弾き宙を飛び魔法をかける。

視覚を奪った! これで。

「そこ!」

着地を!?

俺は刀を地面に刺して再度宙を舞った。

「嗅覚を使えば視覚などなくても戦えるのじゃ」

リーベの言ってることは嘘じゃない。だって動きがさっきと変わってない。

このままじゃ埒が明かない!

人化を解除し口で刀を咥える……そのままリーベを締め上げて。

「これはこれは……随分と激しい抱擁じゃな」

余裕そうな態度……そして俺は締め上げているリーベに違和感を感じ始めた。

大きさが変わって……。

「人化……解除」

あんたもか!

慌てて締めつけを緩めてその場から離れる。

「遅い!」

リーベのしっぽに胴体を絡まされて地面に叩きつけられる。

「ぐっ……!!」

「どうするのじゃ? もうギブアップかのぉ」

刀は……吹き飛んだのか? まずいな直接戦闘能力で敵わない今……手数の多い人間の姿で戦った方がいいのかもしれない。しかし人の姿ではリーベに押さえつけられた時一切の抵抗が出来なくなってしまう。そこから蛇に戻っても後手に回ることになるし。

「動かぬならこっちから行くぞ〜」

まだまだ体力に余裕のあるリーベは狐の姿のまま俺に突っ込んでくる。

バシュン!

地面を這ってリーベの下をくぐったが直ぐに方向を変えて這い蹲る俺に攻撃を加える。

「器用じゃなぁ」

「蛇だからな!」

体をくねらせて攻撃を避けてるが……それも限界だ。雪の効果は本当にあるのか疑ってきたぞ。

極限漲溢(ルプトゥラ)で雪の効果速度をあげるか? いや……筋力強化や視覚強化に使ってる魔力が無くなればリーベの動きを見極められなくなる。

不達領域(リーチキャンセル)!」

今欲しいのは距離だ……時間稼ぎすればいい。無理に応戦することは無い。

「無駄じゃ!」

氷の剣!!

「ブロック・セメント!」

ちっ! 土石魔法じゃ防ぎきれない! 魔力消費は激しいけどこれしか。

「ブレイク!!」

リーベの放った氷の件が全て粉々に崩れていく。

「ほう……破壊魔法か」

「ご明察だよ」

完全反転(フルフリップ)で傷を移したいが……あの強さじゃ抵抗力も相当なもんだろうし何より平等化された魔力じゃ上手くいくかも分からない。

「良いのかのぅ……そんなのんびりことを構えて、今頃ワシの部下がお主の国を蹂躙しておる頃だと思うが」

「蹂躙? ……ははっ笑わせる。俺の頼れる部下は今頃そっちの兵士皆殺しにして優雅にお茶でも飲んでるさ!」

獣の姿をやめて人に戻る、それと同時に隠し持っていたナイフを投げた。

「こんなもの!」

リーベがナイフを弾いた瞬間飛ばされた刀を回収し追撃を行う。

でかい図体のせいで的も大きいぜ。

スキルで速度をあげたタイミングも完璧だ。

しかし……俺の刀はリーベに刺さることはなかった。

「なっ!?」

人の姿に!?

「ほれ!」

かかと落とし!!??

「あぁ!」

腰に強烈な一撃をくらいながらも刀を振り足を狙う。それと同時にリーベはジャンプして俺の刀を避けた。

「ぐっ……うぅ」

腰の一撃が思ったより重い……手と足が痙攣してきて言うことを聞かない。

「……何故じゃと思う?」

リーベは俺に攻撃をするのでなく話しかけてきた。

「何が……」

「何故……ワシとお主でここまで差があると思う?」

「しら……ねぇよ」

今のうちに呼吸を。

「いいことを教えてやろう。お主はワシよりも強いぞ」

「……何を言ってるんだ」

俺の方が強い? ……それじゃあ何だこの体たらくは……何だこの無様な姿は。

「まぁ……お主は魔力の流れに鍵がかかっておるのじゃ」

「鍵?」

「要するにじゃ……欲しい時に貰える魔力が一定の量だけって訳じゃ」

元の魔力量はあっても使う時にセーブしてるから本来の力が出せないってことか。これじゃあ平等化されてても俺の方が弱い訳だ。

「で? それを俺な教えてなんになるんだ?」

それを聞いたリーベがニヤリと笑う。

「なんともならんのぉ……ただそうじゃの、これで負けて良い言い訳はできたじゃろ?」

悪意のない笑みを浮かべて俺に手を差し出す。

シュッ!

「おっと……危ないのぉ」

俺はその手に容赦なく刀を振るった。

「俺は諦めない。仲間がいる限り……絶対に諦めない!」

「……無駄じゃ、諦めい。仲間のために自分かそこまで傷付いてどうするのじゃ?」

リーベの雰囲気が変わる。

「死ぬのか? ……仲間の為に命を捨てて。そんなものにどんな価値がある。世界の為に礎となり未来を作る? ……そんなモノのどこに価値があると言うのじゃ!!」

これは俺に向けての怒りじゃない。恐らくはリーベしか知りえない過去の話、そして世界に向けての怒り。

「諦めて何が悪い! もう既に沢山救ったであろう! なのになんでまだ救おうとするのじゃ! 何故そんなに苦しい道を歩めるのじゃ!?」

魔力が乱れている……リーベの放つ攻撃もその乱れに影響されて精度が落ちている。

「答えろ! ノーチェ・ミルキーウェイ!!」

俺はリーベが放った攻撃を弾き……真っ直ぐ目を見て強く答える。

「仲間を助けるのに理由なんてない! そしてリーベに前も言ったな! 俺は世界も仲間も諦めない。自分の全てを投げ捨ててでもそれ以外の全部を拾い上げる!」

うっ……腹に空いた穴のせいで大声出すと鈍痛が響くな。

「……」

リーベは、俯いてるな。今のうちに回復を。

「ふざけるな、全てを拾い上げるなぞ不可能じゃ! そんなことができるなら……そんなことができるならあやつは死なずに済んだんじゃ!」

勢いよく顔を上げ攻撃を仕掛けるリーベ……その目には涙が溜まっていた。

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