121話 気持ちの悪い終着点
ガチャッ
「……ノーチェ様」
俺を見ても焦るでもなく慌てるでもない……。落ち着いた様子だ。
「今回の事件の犯人……わかったぜ」
それを聞いたハウルがニヤリと笑う。
「それはそれは……協力してくださったノーチェ様には感謝を」
「下手な芝居はいい」
メガネの奥から見える冷酷な視線……間違いない。こいつが……。
「もう少し時間が稼げると思ったのですが……」
「時間?」
「えぇ」
椅子から立ち上がり俺の前に立つハウル。
「目的はなんだ?」
「……本当の目的はフィデース信栄帝国の者を洗脳し、情報を抜き取ること……そしてそのまま防衛情報などを確認。1度帰還させそいつから洗脳状態を広げていくのが作戦でした」
……なるほど。そういう目的だったのか……これで俺の疑問は全て解決……か。
「しかしここに来たのは……ノーチェ様だった。ですから慌てて計画を変更し私の部下をフィデース信栄帝国に送り込み洗脳を拡大させようとしたんですが……」
大きなため息を吐き顔を下げる。
「途中の誘導は完璧だったのに……まさか5日程であのトラップから出てくるとは思いませんでした」
「俺の国に手を出そうとした罪は重いぞ」
「でしょうね」
メガネを上げて俺を見つめるハウル。人の王と言え高々人……まず俺に洗脳をしなかった時点で通じないのはわかっている。後ろの3人もしっかり確認している。
「……ここまでバレた今、私に出来ることはありません」
「反省してるならそれでいい。お前を裁く権利は持ってない。しっかりと罪を自白して人の国で裁きを受けることだ」
まだ被害が出てないなら殺すつもりもないし……このままハウルを警備隊にでも。そんなことを考えハウルに近付いた時だった。
「地獄で……お待ちしています」
「なっ!? 馬鹿お前!」
バンッ!
「きゃあ!」
……自ら頭を。
音を聞き付けて王城も騒ぎ出してきたな。
「仕方ない! 1度転移するぞ!」
俺は有無を言わさず3人を掴み聖王国外れに転移した。
転移先で無言のまま固まる4人。
最初に口を開いたのはトレイシーだった。
「今回の事件は人の国で起きたこと……3人は気にしないでください」
「……あぁ」
納得いかない……とは少し違う。なんかモヤモヤするんだ、これが動物の勘なのかどうかは知らないけど何か……引っかかる。あのハウルって人がこんなことをするなんて考えられない。それも勝手な考えなのかもしれないけどそれでも。
「とりあえず……聖王国のことは私が何とかします。これでも有名パーティーの1人ですので発言力と信頼はあります」
「……ありがとうトレイシー。もし何かあれば遠慮せずに言ってくれ」
トレイシーは頭を下げると聖王国に帰って行った。
「主お疲れ様でした」
ドールとサクも疲れてるみたいだし……人の国でやれることももうない。
「国に戻ろうか」
「「はい」」
さすがに俺も体力の限界だったので車も含め転移しそのまま解散になった。
家に帰ると2日間連絡をしなかったことに対してケルロスとクイックにめちゃくちゃ怒られた。
2日間じゃなくて5日間とか思ったけどそんなこと言ったらもっと怒られると思ったんで黙ってました。
後俺がいない間にリーベさんが来たらしい3日間適当に泊まってたらしいけど俺が帰って来ないのでまた今度来るとのことらしい。
人の国の情報を集めるようにだけ伝え俺は妙に重たい体をベッドの中に沈みこませた。
「ねぇ……貴方はどう思う?」
夕日の中2人の少女が崖で座り込んで話をしている。
「何が?」
「……この景色……この世界」
「とっても綺麗で素敵だと思うよ」
普通の回答……何の変哲もないつまらない答え。でもその答えに隣の少女は大変満足してくれたみたいだ。
「私も好きよ……この世界。だからねこんな綺麗な世界がずっと続くように……」
場面は切り替わる……辺りは炎に包まれて俺の手は赤く染まってる。
「なんで! どうして!」
落ち着いて周りを見ると大量の死体……誰がこんなこと? 俺? 俺がこれを?
「私達の願いは! ……私達の夢は! 私達の目指すものは同じだったんじゃないの!?」
「違う……違う……違! 私は貴方と!」
口が勝手に動く……でもこの心にある感情は。
「何が違うの! 世界を壊して! 全部壊して! 貴方は……この世界が好きじゃなかったの!?」
泣きながら俺に斬りかかる少女……喰らったらまずいと思い俺も剣を抜く。
「落ち着いて--!」
「うるさい! もう貴方は……私の知ってる---じゃない!」
戦いの最中……俺の心にはただただ深い悲しみだけが刻まれていた。
バサッ!
「はぁ……あぁ……はぁ」
酷い汗……息も上がってる。
俺は状況を確認するため部屋の明かりをつけた。
布団は汗で濡れてるし服もぐしょぐしょだ。
「お風呂……入ろ」
夜遅いし誰もいないでしょ。
俺は着替え用の服を持ち家の風呂場に向かった。
「はぁ……」
詳しい内容は思い出せないけどとにかく酷い夢だった……と思う。
適当に服を脱ぎながら謎の疲労に襲われている体を風呂場に持っていく。
ガラガラ。
扉を開けると中から小さく悲鳴が聞こえた。
「わっ!」
「ん?」
中では顔を隠しながらお風呂に浸かるケルロスが居た。
「ちょっ! なんで入ってきてるの!? 外に俺の服あったよね!」
慌てているケルロスに俺は落ち着いた口調で話す。
「ケルロスか……邪魔するよ」
俺は汗で濡れたからだをお湯で流す。
動じていない俺を見てケルロスが後ろからそっと居なくなろうとしている。
「……なぁケルロス」
俺の声を聞いたケルロスがビクリと跳ねる。
「もう少し入っててくれないか?」
普段であれば絶対にしないお願い、こんな事言ったらケルロスが困っちゃうなんて1番わかってるから。
そしてケルロスもいつもなら断るだろうけどあまりにも力なく言ったので違和感を覚えたのか黙ったままお風呂に戻ってくれた。
あまり待たせるのもいけないと思い急いで体を洗ってお風呂の中に入った。
しばしの沈黙……最初に話し出したのはケルロスだった。
「何かあったの?」
「……分からない、でも」
言っちゃいけない。こんなこと絶対言っちゃダメなのに。
「ケルロスは……俺の事裏切らないよね」
なんでか聞きたくなってしまう……裏切られたことなんて1度もないのに……何故か聞かずにはいけないんだ。
「裏切らない」
暗くてよく見えないけどケルロスの強い意志だけはよく伝わった。
そんな強くて暖かい言葉に俺の心は少しだけ落ち着いていった。
「ありがとうケルロス」
さっきまでの疲労が出てきたのかなんだか眠くなってきた。
「ケルロス……」
「何?」
ケルロスの優しい声で眠気が一気に増していく。
「こんな俺と一緒に……居てくれて……あり……」
俺はそのままケルロスの肩にもたれかかり眠ってしまった。
「んっ」
朝……昨日の夜はケルロスと一緒にお風呂入って。
……って俺とんでもないことしてるな昨日。
後でケルロスに謝っとかないと。
スッキリした体を起こしてリビングに向かう。
「あっ……ノーチェ、おはよう」
「おはよー」
ケルロスが顔を合わせてくれない。
「クイックは料理中か」
「うん」
……俺が悪いのはわかってるんだけどさ。こう目を合わせてくれないと悲しい。
「ほらケルロス。寂しがり屋で我儘な俺と目を合わせろ〜」
後ろから抱きつきケルロスのことを左右に揺らす。
「何してるのノーチェ……」
「ケルロスが目を合わせてくれないの〜」
皿を置きながらクイックが質問した。
「またなんかしたの?」
「……まぁね。でも……いいや。こうやって3人で居られるのが1番好きだから」
ケルロスから離れて自分の席に着いた。
「……ありがとね」
「? なんか言った?」
2人とも俺の声が聞こえなかったのか不思議そうな顔をしている。
「……なんでもない。さぁ冷めないうちに食べよ!」
誤魔化したんじゃない。ただ……こうやって3人で居られることに感謝をしたくて。つい溢れた言葉だから。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ【反逆の刃】
天帝月夜蟒蛇Lv5
所持アイテム星紅刀
《耐性》
痛覚耐性Lv6、物理攻撃耐性Lv9、精神異常無効Lv8、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv8
《スキル》
支配者、知り尽くす者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv8、水泡魔法Lv10、水斬魔法Lv9、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、風新魔法Lv5、土石魔法Lv10、土斬魔法Lv8、土流魔法Lv9、回復魔法Lv10、破壊魔法Lv8、幻影魔法Lv10、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《???》
強欲、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者
ケルロス・ミルキーウェイ
赫々白狼Lv9
《耐性》
痛覚無効Lv6、状態異常耐性Lv9、物理攻撃無効Lv3、魔法攻撃無効Lv9
《スキル》
信頼する者、不達領域、完全反転
《魔法》
水泡魔法Lv5、水斬魔法Lv1、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv8、稲妻魔法Lv9、創造魔法Lv6、光魔法Lv10、神聖魔法Lv8
《???》
嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥紅土竜Lv9
《耐性》
物理攻撃無効Lv5、精神異常無効Lv4、状態異常耐性Lv1、魔法攻撃無効Lv2
《スキル》
貪る者、永久保存、欲望破綻
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv3、風斬魔法Lv8、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv10
《???》
暴食